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米中貿易戦争の余波は、心理面で米国経済の先行きを不安にさせている。具体的に、景気が不況入りというシグナルがあるわけでない。ただ、「10年も好況が続けば、そろそろ腰折れもあるのでは?」という警戒感が出ている。

 

FRB(連邦準備制度理事会)は昨年12月、予定通り政策金利を引き上げた。これが、市場ムードを警戒的にさせた要因の一つとなった。その後の株価急落に驚いたFRBは、今後は慎重に対応すると発言するなど、市場の警戒感を解く努力を始めている。

 

トランプ氏は、市場の安定化を狙って、意識的に閣僚の罷免などをツイッターで流すことを自重している。その意味で、昨年12月は悪材料が重なりすぎた。今後、株式市場の動揺が収まり、そこへ米中合意という材料が飛び出せば、市場を覆う不安心理は一挙に覆されるだろう。今は、その端境期という感じもする

 


『ブルームバーグ』(1月11日付)は、「米国、景気後退リスクは6年ぶり高水準、貿易戦争など影響」と題する記事を掲載した。

 

(1)「米国がリセッション(景気後退)に突入するリスクは、エコノミストらによればこの6年余りで最も高い。金融市場の不安定な動きや米中貿易戦争、一部の政府機関閉鎖がその背景にある。ブルームバーグが過去1週間に実施した調査によれば、今後12カ月間に米国がリセッションに陥る確率(中央値)は25%と、12月に調査した際の20%から上昇した。エコノミストは、米金融当局が1~3月(第1四半期)中は政策金利を据え置くとみている。昨年は計4度の利上げがあった」

 

昨年、4回あった利上げが、今年は2回と見られている。ただ、FRB議長は慎重な姿勢を見せている。スケジュールによる利上げはしない、とトーンダウンしているのだ。各地の連銀議長も、利上げ限界論を発表する向きが出てきたほど。景気をスローダウンさせてまで、利上げをするはずがない。市場は、その確信が持てないので右往左往しているのだ。となれば、FRBが市場と対話することで、不安心理を取り除くことが可能になろう。

 

リセッションの可能性は、昨年12月は20%。今年は25%に若干の上昇である。景気の先行指数として注目される、米供給管理協会(ISM)が発表した、製造業総合景況指数は54.1と、2年ぶりの水準に低下した。ただ、依然として50を上回って拡大局面にある。米製造業活動を示す指数は、2008年10月以来の大幅な低下である。世界的に製造業が低迷する中、米経済に成長減速の新たな兆候が示されたとも言える。

 

(2)「2019年の米経済成長率予想は2.5%。昨年は2.9%になったとの見方が示された。財政刺激による押し上げ効果は薄れるものの、力強い労働市場や賃金上昇などに支えられるとみる。7月まで成長が続いた場合、今回の拡大局面は10年間と、米国史上で最長記録となる。ドイツ銀行の米国担当エコノミスト、ブレット・ライアン氏は、『リセッションが迫っているとは考えていないが、金融環境はこの2カ月間で著しくタイトになっている。世界の成長を抑制する通商問題も続いており、企業の景況感が若干弱まっている』と述べた。『政府機関の閉鎖が企業の景況感にとって重石となっているだけでなく、消費者信頼感も引き下げる恐れがある』と指摘した」

 

米国の今年のGDP成長率は2.5%の予測だ。昨年は2.9%と見られるので、今年は減速不可避である。労働市場が逼迫化していることと、賃上げが進んでいるので個人消費に陰りはみられない。一つだけ懸念されるのは、完全失業率が最低値まで改善された1年以上後に、景気がピークを付けるケースが多いことだ。ともかく、景気上昇が、この7月で10年になることは、「好況疲れ」現象が起っても当然であろう。