習近平氏が、旗を振ってきた「一帯一路」プロジェクトは、壮大な計画でなく汚職まみれの性格を浮き彫りにしている。この計画を始めた理由は、国内の過剰生産に陥っていた鉄鋼やセメントの販売先確保と、当時の外貨準備高が4兆ドル接近という高水準にあったことにある。
中国は、「第二のマーシャルプラン」という触れ込みであった。米国が、第二次世界大戦で荒廃した欧州の復興を支援すべく始めた「マーシャルプラン」になぞらえたもの。だが、実態はマーシャルプランとはほど遠く、中国の利益確保を最優先する「まやかしもの」であった。前述のような汚職や、相手国を債務漬けにして担保を取り上げるという「国際高利貸し」とでも言うべき事実が暴露されている。
「一帯一路」は不採算工事が圧倒的である。中国が貸し付けた資金が返済されないために、中国の外貨資金繰りが悪化している。相手国を籠絡するために始めた「一帯一路」が、皮肉にも中国を苦しめる事態を招いている。こうした資金的な行き詰まりによって、日本へ「一帯一路」参加を求めてきた。日本は、「一帯一路」の杜撰な内容を熟知しているので、この名称を使わず「第三国市場協力」という曖昧なものにした。しかも、日本独自の基準で融資すると宣言。「一帯一路」と切り離した。
『ブルームバーグ』(1月12日付)は、「深謀遠謀というより大混乱の一帯一路」と題する記コラムを掲載した。
(1)「壮大なインフラ整備のビジョンか、それとも不正資金の温床か。中国が進める広域経済圏構想『一帯一路』の実像は何なのだろうか。マレーシア政界を巻き込む汚職事件の舞台となった政府系投資会社1マレーシア・デベロップメント(1MDB)を巡り、中国高官が救済に手を貸すとマレーシア側に2016年に申し出ていたと米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)が報じた。マレーシア側は見返りとして一帯一路に絡んで中国に鉄道・パイプライン事業の権益をオファーしたという」
マレーシアの「1MDB」は、国際的な汚職事件として米国司法も捜査対象にするほどの規模になっている。中国が、この「1MDB」救済名目で「一帯一路」計画を持ちかけたと報道された。この一件こそ、「一帯一路」の政治的な策略を鮮明にしている。
(2)「これが本当なら、一帯一路と1MDBスキャンダルとのつながりをこれまでで最も明確に示すことになる。習近平国家主席肝いりの外交政策である一帯一路は、欧米の投資家が二の足を踏む新興アジアおよびアフリカでのインフラ事業に巨額の資金を投じるという野心的な計画だというのが一般的な認識だ。アングルを変えれば、マキャベリズム的な世界戦略とも考えられる。スリランカのハンバントタ港湾事業のケースに見られるように新興国の政府を『債務のわな』に陥れ、対中債務を抱えた国を網羅し、海外で軍事的野心を推し進めるとの見方も可能だ」
中国が、相手国を「融資の罠」に陥れて、目的の担保を手に入れる手法は、マキャベリズム的な世界戦略と指摘している。マキャベリズムとは、政治目的を達成するために、反道徳的な行為も浄化されるという思想だ。そう言えば、中国の行なっている技術窃取、産業スパイ、サイバー攻撃などすべてが反道徳的行為である。中国は、世界覇権を達成する目的の前に、許されると考えているに違いない。
(3)「世界での中国の影響力を高めるための首尾一貫したマスタープラン(基本計画)というより、幾分混乱したブランド戦略あるいはフランチャイズづくりだとの見立てがより正確なようだ。数限りない地方当局者や国有企業がどんなプロジェクトであろうと国家主席からのお墨付きがあると名乗る上で格好の手段になるというわけだ。米戦略国際問題研究所(CSIS)のジョナサン・ヒルマン上級研究員は、昨年の分析報告で『中国政府のグランドデザインに沿ったものとは程遠く、一帯一路のこれまでの活動はばらばらで場当たり的だ』と指摘している」
「一帯一路」の中身を見ると、グランドデザインに沿ったものでなく、場当たり的であると指摘している。となると、マキャベリズムというほどの緻密な計画に基づくものでないことが分る。手法だけが、マキャベリズムということかもしれない。中国は、紛れもなく反道徳国家の烙印が押される。人権弾圧や少数民族浄化がそれだ。
(4)「中国雲南省とミャンマーの港湾を結ぶ石油・ガスパイプラインは稼働後5年してもほとんど使われず、インドネシアではジャカルタとバンドンを結ぶ高速鉄道建設のスケジュールが少なくとも2年遅れており、やっと着工したばかりだ。本来は想定されていなかったナイジェリアやアルゼンチンなどが一帯一路の対象とされる一方で、マレーシアやスリランカに加え、モルディブでも中国に疑念を抱く政権が誕生した。バングラデシュでのダッカとチッタゴンを結ぶ高速鉄道計画のように大風呂敷を広げても、全く掛け声倒れになりそうなプロジェクトの代名詞が一帯一路だということにもなりかねない」
中国雲南省とミャンマーの港湾を結ぶ石油・ガスパイプラインが、完成後5年してもほとんど使われないのはなぜか。超長距離のパイプラインは、その間で膨大な量の石油やガスが未使用の在庫となるので、非経済的であると指摘されている。中国政府の粗略な計画の破綻である。「一帯一路」の本質的な欠陥を象徴しているプロジェクトだ。
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