昨年秋、米国のIT大手企業は訪中し、生産基地の脱中国計画を示唆した。米中貿易戦争の妥結を中国側に促したものだ。この話は、どうやら本気で進みそうである。台湾企業の鴻海は、候補地としてインドとベトナムを上げているが、消費市場としての魅力を考えると、インド進出が有望という。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月23日付)は、「鴻海がインドでiPhone生産検討、アップルの脱中国支援か」と題する記事を掲載した。
(1)「アップルの「iPhone(アイフォーン)」の主要サプライヤーである台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が、インドでのiPhone生産を検討していることが分かった。実現すれば、アップルは生産・販売の両面で中国への依存を軽減できる可能性がある。関係筋が明らかにした。鴻海は現在、アップルの委託を受けてiPhoneの大部分を中国で生産している」
アップルは、生産と販売の両面で中国に依存している。この一方的な関係を改めるには、生産基地を他国へ移すことだ。これが、中国への交渉力を高めることになろう。
(2)「関係筋によると、鴻海幹部はインドでの生産計画を予算案に盛り込むかどうか検討しており、郭台銘(テリー・ゴウ)董事長らを含む経営幹部が来月の旧正月(春節)後にインドを訪問する予定だという。米中通商紛争の長期化を受けて、多くのテクノロジー企業は中国に集中するサプライチェーン(供給網)の見直しを迫られており、鴻海が生産拠点としてインドに目を向けるのもこうした事情からだ」
米中は、覇権争いの関係である。短期的に、問題が収束するはずがない。長期的な展望に立てば、脱中国が最も賢明な策になろう。
(3)「中国市場が厳しさを増す一方で、インドは世界のハイテク企業を引きつけている。インドは生産拠点としてだけでなく、13億人の消費者を抱える巨大市場としても魅力的だ。調査会社イーマケターによると、インドのスマートフォン普及率はまだ25%程度にとどまる。アップルはインド市場の攻略に苦戦しており、昨年の市場シェアは2017年の約2%からさらに約1%に落ち込んだ」
インドは、いずれ世界一の人口になる。経済成長率では、インドが中国を抜いている。市場としての有望性のほかに、民主主義国であるから米国と政治的対立のリスクはない。インドが、サプライチェーンとして多少の問題点を抱えていても、それを克服して行かなければならない。
(4)「アップルがインドで苦戦している理由の1つには、iPhoneが他のブランドに比べて相対的に値段が高いことがあるとされる。高額スマホをインドで生産できれば、アップルは中国からの輸入品に対して課されている20%の関税を回避することで、インドでの販売価格を引き下げることができるかもしれない。関係筋によると、鴻海は中国に代わる生産拠点として、ベトナムとインドを候補地として検討していたが、市場の潜在成長力の高さからインドへと傾いているという。ただ、インドで生産を行う上で、労働者の精密な製造技術能力やインフラ、サプライチェーンの厚みが中国に比べて劣る点などがネックとして指摘されているようだ。
アップル・鴻海は、次の生産基地としてインドを選ぶとすれば、中国には衝撃であろう。中国が、「世界の工場」から滑り落ちる前兆になるからだ。
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