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韓国の現代自動車は、先に10~12月期に業績を発表した。それによると、売上高営業利益率は、わずか1.95%に過ぎない。最低、5%以上でなければ、研究開発費も出せない、その日暮らしの経営を余儀なくされる。現代自は、わずかの2%弱である。どう見ても、ゾンビ企業寸前というところだ。

 

こういう不甲斐ない経営を余儀なくされている裏には、人件費の高騰が上げられる。「貴族労組」と呼ばれる世界最強の労組が頑張っているのだ。これをさらに後方支援するのが、昨年からの最低賃金の大幅引上げである。

 

日本で最賃引上といえば、弱小企業で働く恵まれない労働者の労働条件改善という意味が強い。韓国では、財閥企業まで最低賃金が適用されるというから驚きである。文政権の支持層は、労組と市民団体である。最低賃金の大幅引上げが、景気実勢を悪化させているとの批判が絶えない。それでもあえて強行している理由は、巨大労組を支援するための便法になっているからだ。

 

『朝鮮日報』(1月21日付)は、「年俸1000万円でも最低賃金基準に満たない現代自動車社員」と題する社説を掲載した。

 

(1)「社員の平均年収が1億ウォン(約1000万円)近いと言われる現代自動車が、最低賃金を満たしていないとの理由でさまざまな手当の基準となる『通常の賃金』を大幅に引き上げる必要が出てきた。現代自は毎年基本給の750%に相当する賞与を隔月で支給している。ところが隔月賞与は最低賃金算入の範囲には含まれないため、6万人以上いる全社員のおよそ10%(6800人以上)が最低賃金を満たさなくなった。今年の最低賃金上昇率は10.9%に達している上に、有給休暇まで最低賃金算定の対象に含まれたため、最低賃金がなんと33%も一気に上昇し今回の問題が起こった」

 

年収1000万円クラスの労働者が、最低賃金の大幅引上げの対象になると聞けば、誰でも驚くはずだ。韓国の最低賃金の計算法によれば、年収1000万円クラスも最賃引上対象に組入れられている。これは、文政権と労組が仕組んだ罠に違いない。形式論で引っかけてくるところが、「反日戦法」とよく似ている。

 

現代自は、毎年基本給の750%に相当する賞与を隔月で支給している。この「隔月賞与」が、最低賃金算入の範囲には含まれないことが分った。単なる形式的な問題で、実質的には給与として支給されているもの。この形式論で会社側は労組に負けたのであろう。

 

労組はよく、賞与の性格をめぐって会社側と論争するものだ。組合は生活給であると言い、会社側は業績給とする。現代自が、1000万円クラスの労働者の最賃引上を迫られたのは、「隔月賞与」が生活給と判断されたにちがいない。その算定基準が、最低賃金に見合わなかったというのであろう。こうして、6万人以上いる全社員のおよそ10%(6800人以上)が最低賃金を満たさなくなったという形式論である。

 

(2)「対象となる6800人の中には年収が6000万ウォン(約600万円)以上の社員も含まれている。会社側は最低賃金をクリアするため、これまで隔月支給だった賞与を毎月に分けて支払うことを組合側に提案した。これに対して組合側は「賞与を毎月支払う形にするのであれば、通常の賃金に含めるべきだ」と要求している。組合の要求通り賞与が通常の賃金に含まれれば、通常の賃金を基準に計算される残業手当、深夜残業手当、休日手当などが連動して上昇することになる。最低賃金法に違反した場合、現代自は3年以下の懲役あるいは2000万ウォン(約200万円)未満の罰金という刑事罰を受けるか、あるいは組合側の要求を受け入れねばならない。そうなれば年間で少なくとも数千億ウォン(数百億円)の人件費を追加で負担する必要がでてくる。同じような状況の企業は他にも数多くあるはずだ」。

 

「隔月賞与」が「毎月賞与」になれば、賞与は生活給と見なされる。そうなると、通常の賃金を基準に計算される残業手当、深夜残業手当、休日手当などが連動して上昇することになるはずだ。こうして、年間で数百億円の人件費を追加負担する必要が出てくるという。

 

冒頭で指摘した、昨年10~12月期の連結決算では、営業利益が前年同期比35%減の5010億ウォン(約485億円)である。「隔月賞与」が「毎月賞与」になれば、年間で数百億円の人件費増である。3ヶ月分の営業利益は完全に吹き飛び、営業利益率は1%前後に落込む。こうなれば、現代自は人件費倒産の危険性が高まる。最低賃金の大幅引上げがもたらす珍事である。