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韓国で高齢者が、静かな老後生活を送るのは経済的にむずかしくなっている。定年制が引上げられてはいるが、まだ60歳である。日本では65歳になっており、75歳説も出るほど。健康であれば「生涯現役」も可能になってきた時代だ。韓国大法院(最高裁判所)が、定年65歳制の必要性を認める判決を下した。

 

韓国大法院は21日の判決で、人が肉体労働で働ける最高年齢(稼動年限)を、現行の満60歳から満65歳に上方修正した。30年ぶりの変更である。判決理由は、「韓国の社会的・経済的構造と生活条件が急速に向上・発展し、法の制度が整備・改善されたため」としている。韓国国民の平均寿命が、89年は男性67歳、女性75.3歳であった。それが、2017年には男性79.7歳、女性85.7歳に伸びている。

 

韓国の60歳定年であることが、老後の生活不安を呼んでいる。

 

先に発表された昨年10~12月期の所得調査では、所得下位20%の人々の所得が、前年同期比で17.7%も減少して大きな社会的な問題になっている。低所得世帯主の42%が70歳以上だということが、高齢者世帯の貧困を浮き彫りにしている。仮に、高齢者の定年が60歳でなく65歳になっていれば、その間の勤労人生によって老後資金を貯めることもできたであろう。

 

韓国の世論調査によれば、退職前の人は65歳で退職することを予想しているが、実際の退職年齢はこれより8年早い57歳であることが分かった。また、退職した10人に4人は老後の備えがなく、退職後の月の所得が半分に激減している。こういう調査結果が、サムスン生命研究所の「韓国人の退職準備2018」によって明らかにされている。『東亜日報』(2018年10月4日付)が伝えた。

 

この調査で明らかになっている点は、65歳まで健康で働けると考えている本人が、なぜ57歳で退職したのかである。これは、希望退職募集に応じたのか、自主退職したかである。韓国では、将来の自分の昇進について見切りを付け、自営業を始める人がきわめて多いのだ。自営業は家族を含めると、全人口の25%にも達している。自営業は経営基盤が脆弱で、もっとも倒産しやすいリスキーものに分類されている。そういう危険を冒してまで、退職金をつぎ込んで失敗するケースが跡を絶たない。

 

文政権の最賃大幅引上げは、このリスキーな自営業を直撃した。退職金をはたいて始めた人生最後の挑戦が、虚しく挫折している。去年と今年の2年で約30%もの最賃の大幅引上げが理由である。従業員の人件費が払えない。家族だけでは店を維持できない。こうして、店の維持を諦め、退職金と仕事を同時に失う「人生晩年の悲劇」に沈んだ人々が、去年は100万件も出ている。

 

文政権が、最低賃金の大幅引上げに当って、経済合理性に基づいて冷静な計算をしたわけでない。文氏は、自ら支持基盤である労組と市民団体への「論功行賞」的な目的で、最賃引き上げを行なったのだ。文氏の人事は、お仲間を登用する例がきわめて多い。最賃引き上げも、その一環であることを浮き彫りにしている。所得上位20%の所得は10%増加した。この所得上位20%には、労組組合員が入っている。韓国の大企業労組の組合員は、「富裕階級」である。

 

韓国の高齢者にとって、「生きづらい時代」であることは間違いない。それは、韓国の自殺率(人口10万人当たり)が、OECD(経済協力開発機構)で2009年の33.8人以降、不名誉にも1位になっていることで明らかだ。この2009年に注意していただきたい。韓国の経済危機が起こった年である。2015年は25.8人まで減少しているが、OECD1位であることに変わりない。

 

韓国に続いて自殺率が高い国は2015年で、ラトビア(18.1人)、スロベニア(18.1人)、日本(16.6人)、ハンガリー(16.2人)、ベルギー(15.8人)などの順となっている。こうした不幸な記録は、各国ともに一日も早く減らさなければならない。