a0960_008525_m
   


米国で、生きた金融政策はかくあるべしという見本が展開されている。国債の長短利回りの逆転する「逆イールド」が、3月22日に起って以来、米国金融市場では活発な議論が始まっている。

 

米ホワイトハウスのクドロー国家経済会議(NEC)委員長は、FRB(連邦準備理事会)が政策金利を「直ちに」0.5ポイント引き下げることが望ましいとの考えを示した。クドロー氏は、経済専門局CNBCで、利下げにより海外の低調さから米経済の力強さを守ることができると説明。ただ利下げは直ちに必要なわけではなく、「基調的な経済」は減速していないと述べた。以上は、『ブルームバーグ』(3月30日付け)が報じたものだ。

 

現在の米国経済には、何らの変調も見られない。だが、クドローNEC委員長が発言するように、海外経済は中国の失速に表れているように予断を許さない状況もみられる。それだけに早めに手を打って、被害を最小限に食い止めるべし、という予防策でもある。

 



『ロイター』(3月25日付け)は、「米国債利回り曲線の姿、過去の利下げ局面に接近」と題する記事を掲載した。

 

米連邦準備理事会(FRB)の驚くようなハト派転換ぶりに低調な経済指標の発表が重なり、米国債のイールドカーブ(利回り曲線)の主要部分は、過去にFRBが利下げに動いた局面に見られた姿に近づいている。

 

(1)「FRBは20日までの連邦公開市場委員会(FOMC)で、年内の想定利上げ回数を従来の2回からゼロに変更し、3年続けてきた利上げサイクルに突如終止符を打っただけでなく、9月にはバランスシート縮小も停止すると表明した。こうした姿勢は投資家の先行きに対する自信を強めるどころか、むしろ市場にこれまでにないほど悲観的な米経済の見通しを広めてしまった、と語るのはブラウン・ブラザーズ・ハリマンの通貨戦略グローバル責任者ウィン・シン氏だ」

 

FRBが、これまでの利上げ先行のタカ派から一転、3年続けてきた利上げサイクルに突如終止符を打っただけでなく、9月にはバランスシート縮小も停止すると表明。ハト派に転じたのだ。この裏に何が起ったのか。私は、前記のクドローNEC委員長発言のように海外要因と見る。具体的には、中国経済の信用破綻の現実性が迫っていると警戒し始めたとみる。

 

(2)「そのため米国債の2年5年利回りスプレッドはマイナス幅が拡大し、以前にFRBの利下げがあった水準に迫りつつある。3カ月物財務省短期証券(Tビル)と10年債の利回りも22日に10年余りぶりに逆転し、このままの流れなら12年以内に米国が景気後退(リセッション)に陥る恐れがあると警鐘を鳴らしている。

 

FRBのハト派転換に伴い、3ヶ月(Tビル)と10年債の利回りが3月22日に逆転した。こうなると、過去の例では1年以上、後になって米国がリセッションに陥る危険性が高まる。これは、次期の米国大統領選の時期にかかってくるだけに、現政権にとっては重大問題になる。

 

(3)「シティグループのチーフ・テクニカル・ストラテジスト、トム・フィッツパトリック氏によると、2~5年利回りスプレッドのマイナス、つまり逆イールドの幅が12ベーシスポイント(bp)より大きくなると、これまでは利下げが実施されてきた。足元のマイナス幅は6bpだが、22日には9bpまで広がっていた。例外的なケースだったのは2006年で、マイナス幅が19bpに達しながら、利下げまでさらに10カ月を要した。そしてやってきたのが07~09年の金融危機で、結局政策金利はゼロとなり、量的金融緩和が何年も継続した」

 

2~5年債の利回り差のマイナス、つまり逆イールドの幅が12ベーシスポイント(bp)より大きくなると、これまでは利下げが実施されてきたという。足元のマイナス幅は6bpだが、22日には9bpまで広がっていた。1bpとは、0.01%の意味。12bp=0.12%である。

 

注目点は、このマイナス幅の広がりを放置しておくと、08年のリーマンショックという重大問題に陥る危険性が高まる。よって、12bpを限界に利下げが望ましいと指摘している。現状は、その方向に向かっているようだ。

 

(4)「過去の逆イールド化とそれに続く利下げは、いずれも非常に大きなショックを背景に起きた現象だ。1989年は貯蓄貸付組合(S&L)危機、2000年はナスダック総合指数の急落、06年は住宅バブル崩壊だった。それと比べると今回は、米中貿易摩擦や英国の欧州連合(EU)離脱問題が米経済を脅かす要因になっているものの、かつてのようなはっきりしたショックは見当たらない。ただフィッツパトリック氏は、もし2~5年利回りスプレッドのマイナス幅が12bpを超えるようなことがあれば、市場の不安が相当なレベルに達しているからで、そうなった原因のイベントが発生していると思うと話す

 

中国経済の問題が、米国金融市場の不安要因として示唆しているように見られる。私の懸念するのは、中国の経常赤字が現実化してきたことだ。これが、人民元売りを誘発し、中国の外貨準備高の急減をもたらす形で、世界経済に波及する問題である。これが起っても、米国経済の防波堤を高くしておけば被害を防げる。それには、事前の利下げが必要なのだろう。