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日産・ルノー連合は3月27日、誕生から20年を迎えた。この間、経営危機に見舞われた三菱自動車も連合に加わって3社連合へと発展した。だが、3社が連合を組んだだけであり、これまでは統合の準備段階と言える。いよいよ「統合」という段階で、「ゴーン事件」が持ち上がった。

 

米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』は、3月29日付け「ゴーン失墜の内幕、日産幹部が恐れた仏支配」、3月30日付け「日産・ルノー・三菱連合、統合か資本関係見直しを」を報じた。ゴーン氏の「犯罪」という視点を超えて、「3社連合」がどこへ向かうのか。WSJの取材陣が捉える視点を紹介したい。

 

(1)「ルノーと日産自動車のトップは131日、アムステルダムで会談した。定例の取締役会の後に行われた夕食会は、2人がお互いをよりよく知るための機会となった。日産自動車のCEO西川広人は、まるで余談のように「爆弾」を投下した。西川は次のように語った。日産幹部の一部が、ある目的を持ってゴーンに不利な証拠を集め、日本の当局に提供したと自分は認識している。彼らは日産とルノーの全面的な経営統合をゴーンが推進しているのではないかと恐れ、その可能性をつぶしたいと考えていた。日産内部の反乱者たちは、自分たちの日本企業がフランスの支配下に入ることを恐れた――

 

日産は、フランスの支配下に入ることを最も恐れた。これが、今回の事件の発端である。

 

(2)「日産の内部調査に詳しい人々や各種資料によれば、経営統合のこれ以上の進展を阻止しようと決意した日産の幹部2人が調査を主導、以前からうわさされていたゴーンの不正行為を調べ、検察当局に提出できる金融犯罪の証拠を見つけたという。2人の考えをよく知る人々によると、主要な動機は日産を守ることだった。それは世界の国々が依然、国を代表する企業を保護している現実を反映しているかのようだった。資料によれば、2人が調査を始めたのは2018年4月。同じ月には、ルノー株の15%を握る仏政府がルノーと日産の統合を望む理由を説明している」

 

仏政府が、ルノーと日産統合を望む理由を説明したのは昨年4月。日産側がゴーン氏の不正調査を始めたのも昨年4月である。

 

(3)「ゴーンの追い落としを計画した日産幹部らが期待していた通りに、経営統合の協議は振り出しに戻った。ゴーンの弁護士である弘中惇一郎は、こうした日産側の動機を弁護の材料にしたいと考えている。日産幹部は経営戦略上の問題を理由に行動したのであり、それは刑事事件にふさわしくないと弘中は指摘する。日産側は、内部告発者の意図は関係ないと考えている。同社の広報担当者ニコラス・マックスフィールドは、社内調査で『明らかに倫理にもとる行為の十分な証拠』が明らかになったと述べた」

 

ゴーン裁判では、不正調査の動機が検察と弁護側で争われるだろう。

 

(4)「仏政府は、ルノーに取締役として送り込んだマルタン・ビアルを通じ、より直接的に関与するようになった。マレーシア出身で日産に長く勤めるCEOオフィス担当の専務執行役員ハリ・ナダは、423日にビアルと面会し、自身としてはありがたくない統合への圧力を受けた。これはナダがゴーンに出した会合の報告書によって明らかになった。この報告書によると、ビアルは統合の利点についての書簡を送ってきていたが、それは『日産の株主の主張や視点に対応したものではなかった』と。

 

仏政府側の統合案は、日産株主の利益を害するものだった。

 

(5)「ナダはビアルに日産の要求を伝えた。それは、ルノーが日産への出資比率を引き下げるとともに日産の支配権を求めないことを約束すること、そして仏政府が撤退することだった。ビアルは『犠牲が多すぎる』として、この要求を却下したと報告書には記されている。この争いに、日産の渉外担当責任者を務める川口均が加わった。報告書によると、川口は経済産業省の関係者と頻繁に連絡を取り、『日産の後ろ盾となる』よう要請した。経産省は仏政府宛ての覚書の草案を作成し、ナダの要求を事実上盛り込んだ。それは基本的に、フランスが日産の独立性を尊重すると約束すること、いかなるやりとりも日本政府を通じて行うことを求めるものだった

 

日産は、ルノーへ逆提案し仏政府の撤退を求める大胆なものだった。同時に経産省へも連絡を取り始めた。経産省は、早手回しに覚書の草案をつくるまでになった。

 


(6)「日産とルノーは3月27日、それぞれ異なるメッセージで20周年を迎えた。日本からは、日産がカルロス・ゴーン被告指揮下の権力集中を痛烈に批判するガバナンス(企業統治)報告書を公表。欧州からは、英紙『フィナンシャル・タイムズ』(FT)が、ルノーは向こう1年に日産との経営統合交渉再開を望んでいると報じた。仮にフランスの意向が通れば、ルノーと日産は株式資本をアライアンス経営陣が拠点を置くオランダに集約することになる。それぞれが独立して事業運営を行う自動車メーカーとして残るが、単一の財務、株価となることで、一段のコスト削減が可能になる。ルノーは議決権を有する日産の株式43%を保有する一方、日産が保有するルノー株15%には議決権がない」

 

ルノーは統合を諦めていない。日産は出資比率の不平等是正を求めている。統合すれば、日産の名前は残っても、実態が外資系企業になる。日本政府と日本人がどう反応するか。

 

(7)「主要パートナーの思惑が食い違う中、近い将来に事態が進展する見込みは薄い。日産が重要問題を検討するため、新たな取締役を指名するのにさえ、さらに3カ月はかかるだろう。投資家は秋に、変更に関する一段と信頼できる兆候が必要になる。現在のアライアンス形態は、資本を縛る一方で、高い利益率を実現できるほど踏み込んでおらず、双方にとってほぼ間違いなく最悪と言えるだろう

 

日産が、グローバル企業として発展するにはどうするか。この回答が、日産独自で用意できれば、その道を進めば良いだろう。