中国政府は背に腹を変えられず、再び住宅販売に景気回復を委ねることになった。危険な道を選択したと言うほかない。住宅販売は、個人の住宅ローンを増やすので、中長期的には中国のGDPの頭を抑える逆効果になるからだ。この分りきった事実を知りながら、「景気の麻薬」に手を出している。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月12日付け)は、「中国の不動産市場回復、 日本とドイツに恩恵」と題する記事を掲載した。
(1)「中国の不動産市場に活気が戻っているようだ。野村証券がまとめた不動産開発業者23社のデータによると、中国の大都市では3月の新築住宅販売件数が前年同月比26%増となった。公式統計で縮小が示されていた1月と2月のトレンドからは急反転となる。景気刺激策が効き始めているようだ。昨年末には不動産開発業者に対する社債発行規制が緩和され、地方自治体も一連の不動産関連政策を推進している」
北京や上海など一線都市では、住宅価格抑制を図っているが、地方では住宅開発が唯一の産業という地域も少なくない。こういう地方政府は、住宅開発に積極的であり、本欄もその実態を取り上げてきた。この流れが現在、中国全土で起っているという。
住宅依存経済は、現代の「アヘン」である。繰り返し、この麻薬に手を出した中国政府は、住宅価格抑制と言っても「禁断症状」に耐えられないのだ。こっそりとまた、住宅販売に依存せざるを得なくなっている。この「住宅アヘン」が、これから中国経済をどれだけ蝕むか、次のパラグラフが示唆している。
(2)「米カンザスシティー地区連銀によると、中国の不動産と住宅建設の需要の10%減少は中国の経済成長率の2.2%低下につながる。その影響力は10年前と比べ2倍に拡大している。当時はまだ、中国人の貯蓄や投資に占める不動産の役割が今より小さかった。中国経済にとって住宅部門の重要度が増していくと同時に、世界にとっての中国経済の重要度も増していった。英調査会社オックスフォード・エコノミクスによると、中国の2018年と19年の経済成長率が2%ポイント低下すると、世界の経済成長率は2020年までに0.5%ポイント低下する」
中国の不動産と住宅建設の需要の10%減少は中国の経済成長率の2.2%(ポイント)低下につながる。その影響力は10年前と比べ2倍に拡大している。これは、米カンザスシティー地区連銀の分析だ。この相関関係の高さには驚くほどである。中国経済は、完全な「住宅アヘン」に取り憑かれしまった。現在の中国では、投機用住宅として5000万戸が値上がりを待っている。その上に、さらに住宅を庶民に売らなければ、中国経済が保たないという「重症」である。
中国が、さらに住宅販売に力を入れることは、当面のGDP成長率を押し上げる効果をもつ。世間一般では、「中国経済が回復過程で万歳」という受け止め方をしている。それは、麻薬の興奮状態と変らない危険な現象である。中国の家計は、すでに住宅ローンの重圧で消費を切り詰める状態に追い込まれている。この上、住宅販売が増えれば、中長期的に消費とGDPの伸び率を押し下げる負の効果に陥るだけである。アヘンの常用が、身体を蝕んで「廃人」にさせるのと同じである。
家計の債務残高は、可処分所得比で見るべきだ。中国は、2017年で107.2%である。米国のサブプラムローン発生時の124%(2007年)に接近する勢いである。中国は、「住宅アヘン」に依存した経済運営を続けていくと、間もなく「魔の124%」へ接近する。中国では、住宅ローンに苦しむ人を「房奴」と呼ぶそうだ。この言葉が出現していること自体、警戒信号を発している証拠であろう。
GDP比で見た家計債務残高が30%を超えると、債務増加がもたらす景気刺激効果よりも、逆にGDPや消費を押し下げるマイナス効果へと逆転する。これは、IMF(国際通貨基金)が123ヶ国(1983~2013年)の実証研究で得た結論である。中国のGDP比の家計債務残高は、49.3%(2018年3月時点)である。私が、中国経済危機論に立つのは当然であろう。
もう一つ、IMFの研究で重要な点を指摘したい。GDP比の家計債務残高が5%ポイント増加すると、3年後の実質GDP成長率は1.25%ポイントの下落になる点だ。中国が、不動産バブルで潤っていた時代は、とうの昔に終わっている。これからは、その副作用が全身に表れる時期である。習近平氏に残された時間は少ない。


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