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世界第2位の経済大国・中国は多額の債務、急速な高齢化、最大の貿易相手国である米国との貿易摩擦激化など、多くの問題を抱えている。それでも楽観できるのは、国に活力があり、起業家精神にあふれるIT部門を擁しているからだ。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月24日付)は、「中国の死活問題、『鍵はデジタル経済』」と題する記事で、こういう書き出しで、中国IT部門にフットライトを当てている。

 

中国のあらゆる部門が、行き詰まりの姿を見せている中で、唯一IT部門だけが光彩を放っている。そのIT部門へ、地方政府の代表を送り込むと発表された。国有企業でない民間企業へも政府代表を送り込む目的は何か。

 

大体の察しはつく。中国経済の行き詰まりによって、社会不安に端を発する政治運動がIT部門から起こることへの警戒心であろう。中国は歴史的に、全土で地下組織による「蜂起」が発生してきた。かつては、暴力団がその伝令役を務めた。現在は、ITがそれを果たすと政府が警戒しているのであろう。

 

10月1日の国慶節の軍事パレードでは、30万人の兵士が動員される。すでに3回もの入念なリハーサルが行われた。会場は天安門広場だ。ここから7キロも先にあるオフィスでは、窓にカーテンが降ろされて見えないようにする警戒体制が取られているという。習国家主席への狙撃を防ぐ目的と見られる。軍事パレードの目的は、国内反対勢力への牽制だ。中国は、一皮剥けば複雑怪奇な状態に置かれている。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月24日付)は、「中国、アリババなどに政府代表を派遣、IT業界の監視強化」と題する記事を掲載した。

 

(1)「中国のハイテク産業集積地である浙江省杭州が、電子商取引最大手アリババグループを含む地元100社に政府の代表者を送り込む。浙江省が公式サイトに掲載した20日付のリポートで明らかにした。それによると、政府代表者の主な派遣先はハイテク企業とメーカー。例えば、傘下にスウェーデンのボルボ・カーを擁する浙江吉利控股集団に送り込む当局者は政府渉外や情報交換を支援するとしている」

 

中国政府が、民間企業であってもITと位置づけられれば、直接の支配下に置こうとしている。反政府運動の「拠点」にでもなることを恐れているからだ。他に、理由はなさそう。

 

(2)「この発表文の内容はあいまいで、浙江省当局もコメントに応じなかった。吉利集団の広報担当者は自社に当局者が派遣されることを確認したが、それ以上のコメントを控えた。政府の存在が企業の日常業務にどの程度の影響を及ぼすかは不明だが、浙江省政府系メディアが22日出した論説は、政府が企業活動に著しく干渉しかねないとの警戒感をなだめる狙いがあるようだ。政府の代表者は試験的に行うプログラムの一環として企業に1年駐在するという」

 

浙江省政府は1年間、試験的に駐在するとしているが、なし崩し的に「永久化」されるに決まっている。企業の抵抗を排除する口実であろう。

 

(3)「杭州に本社を置くアリババの広報担当者は23日、政府のプログラムは「事業環境の改善を促す」のが目的だと理解しているとした上で「政府の代表者は民間部門との架け橋の役割を果たす。当社の業務には干渉しない」と述べた。それでもこうした動きは、国有企業であれ民間企業であれ、中国企業は事実上、中国政府の手先だとする欧米政治家の見方を強めそうだ」

 

大企業では既に、共産党地方委が入り込んでいる。その上、政府代表が企業へ乗り込んでくる理由は、経営面でチェックする目的であろう。かくして、党の地方委と政府代表が経営面へと乗り出す。こうなると、世も末である。企業までが共産党に染め上げられるのだ。党員からの賄賂要求など、腐敗の温床になろう。