a0960_008331_m
   

笛や太鼓で勢いをつけてきたEV(電気自動車)が、政府の補助金削減や打切りとともに失速が鮮明になってきた。それでも、中国は世界一のEV生産国である。EVの技術的未熟さが、中国政府の期待するような成績を上げられなかったのだ。  

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月27日付)は、中国のEV普及つまづきの原因は」と題する記事を掲載した。

 

(1)「世界で最も急成長している電気自動車(EV)市場が減速している。中国のEV販売台数は7月が前年同月比5%減、8月が同11%減となり、技術に飢えた中国でさえ向こう数年のEV販売は厳しそうだとの懸念が浮上している。重慶市のディーラーで働く北京汽車(BAICモーター)の営業担当者は最近、「新エネルギー車(NEV)の売れ行きは良くない」と述べた。「消費者が気にするのは、EVの航続距離、充電の便利さ、価格の下がりにくさだ」という 

 

新商品が爆発的に売れる条件は、技術的完成度の高さと販売価格の低下である。EVは、政治的商品の域を出ないので、補助金が減れば売上が落ちるという関係にある。EVが「自然成長」が可能になるには、バッテリーの性能向上とコストダウンを待つしかない。

 

(2)「中国は依然、群を抜いて最大のEV市場だ。昨年の販売台数は126万台と、世界全体の60%を占めた。大半のアナリストはなお、長期的に広範な普及が進むと予想している。しかし、自動車市場全般が大きく落ち込むなか、販売は息切れしている」。

 

中国政府は、EVで自国メーカーを世界一にする野望を持っていたが、見果てぬ夢に終わった。基幹技術のない中国自動車企業には過重な期待であり、ここでもトヨタの最先端技術が荒野を切開く。HV(ハイブリッド)技術を無料公開して、EVへつなげていく戦略が功を奏するようだ。今年の7~9月期のEV販売台数は、前年比マイナス11%が予想されている。補助金は、19年一杯で終わる見通しだ。

 

(3)「中国の昨年の自動車販売台数は3%減と、数十年ぶりの減少となった。今年18月は11%の減少となっている。EVは当初こそ堅調だったが、今ではやはり、中国経済を覆う弱い消費者信頼感に屈している。2020年のEV販売の公式目標200万台は、今では厳しそうに見える。販売台数ベースで中国最大手のEVメーカー、比亜迪(BYD)は、8月の同社EV販売台数が23%減少したことを明らかにした。7月は12%の減少だった。中国のEV新興企業群は黒字化に必要な販売の増加を実現できず、圧力にさらされている」

 

EV技術の完成度が上がって、「満足できる商品価値」を備えるまでは無理である。中国政府は、この技術面の発展速度を見誤り、多額の補助金がすべて無駄になった。

 

(4)「勢いは衰えているかもしれないが、中国政府はEVをあきらめないだろう。雇用をEVメーカーに頼っている中国全土の地方政府も同様だ。その多くは、生産を支えるためEV新興企業に巨額の資金を投資している。中国政府は今年も相変わらず、全自動車メーカーに対しEV生産を開始し、採算が悪いにもかかわらず大量生産を保証するよう迫っている。テスラは、12月までに上海の新工場で「モデル3EVの生産を開始し、中国国内でのEV供給をさらに強化するという」

 

中国政府は、世界の自動車メーカーに多額のEV補助金を出して、EV育成を図る「慈善事業」になっている。大気汚染に対処せざるを得ない面もあるが、これまで環境政策を怠ってきた「ペナルティー」と思えば良かろう。

 

(5)「EVは今年、自動車メーカーの中国生産の約34%を占めるはずだ。この水準は、数年で徐々に上昇する予定。EVは少なくとも当初については採算が見込めないリスクがあるが、ゼネラル・モーターズ(GM)やフォルクスワーゲンを含む多くの自動車メーカーは、壮大なEV展開計画を発表している」

 

GMやVWは、トヨタのHVに大きく遅れた面をEVで挽回しようとしている。ただ、HVはガソリンと電気の2通りの動力機構を備える「離れ業」を実現したもの。それ故、HVをEVに転換するのは容易とされている。一時期、マスコミは「トヨタHV戦略の失敗」などと囃子たてていたが、トヨタ戦略の勝ちに終わりそうだ。中国におけるトヨタ車の販売が、独走しているからだ。