勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2018年08月

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    韓国では、健康な男子は30歳前に21カ月間兵役を務めることが、法律で定められている。だが、国際舞台でトップの成績を収めた選手に対して、兵役義務の軽減を認めている。サッカー選手に関しては、オリンピックでの金銀銅いずれかのメダル、アジア大会での金メダルを獲得することが、兵役免除の条件という。

     

    韓国サッカーのスター選手である孫興民(ソン・フンミン)は、あす91日に行われるアジア大会での日本との決勝戦で、兵役免除がかかる「世紀の一戦」になる。そうでなくとも、韓国にとって日韓サッカー試合は格別の意味を持つ。仇敵・日本へ絶対に勝たねばならない宿命を負っている。日本に併合された恨みからだ。

     

    『ウォールストリートジャーナル』(8月31日付)は、「韓国サッカースター選手、兵役免除はアジア大会次第」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「もし韓国が敗れれば、イングランド・プレミアリーグのトッテナム・ホットスパーのフォワードであるソン選手(26)は、スパイクシューズをしまって、銃の扱いに慣れなければならい。つまり、韓国軍でのほぼ2年間に及ぶ兵役義務を果たすことを求められるのだ。韓国が勝てば、ソン選手は金メダルと宿敵を打ち負かした満足感だけでなく、兵役義務の大半の免除をも手にして、アスリートとしての絶頂期を謳歌することができる。トッテナムの事情に詳しい関係者によれば、同チームは、兵役義務軽減の可能性を念頭に喜んでソン選手にアジア大会でプレーする機会を与えたという」

     

    日本では戦後、徴兵制がなくなったので、ソン選手のような切羽詰まった気持ちがわからないだろうが、韓国の軍隊生活は「虐め」の連続で大変だと聞いたことがある。戦前の日本軍の「しごき」の伝統がそっくりそのまま残っているからだ。「柱に掴まらせて、蝉の真似をして声を出すよう」命じられたこともあるという。文大統領流に言えば、「積弊一掃」の対象だ。

     

    (2)「韓国国内外のサッカーファンは、ソン選手の徴兵条件の行方を、固唾をのんで見守っている。韓国大統領府のホームページには、この件で国民から800件を超える請願が寄せられている。その大半は、兵役免除を求めるものであり、ソン選手の代わりに兵役義務を果たしたいとの申し出も何件かあった。『ソン・フンミン選手の代わりに、私が4年間兵役を務める』という請願もあった。ソン選手は、12年と14年にスポーツ選手として兵役免除の資格を得るチャンスを逃している。韓国代表に選出されなかったからだ」

     

    韓国大統領府への「請願」では、ソン選手について800件もの兵役免除が出ているという。過去2回、兵役免除に該当する試合があったものの、ソン選手には代表選手になるチャンスがなかった。それだけに、年齢的にも今回の日韓試合が最後の舞台になるという。日本としても、韓国の「家庭の事情」を忖度するわけにはいかない。正々堂々と戦って、「日本勝利」をもぎ取って貰いたい。

     


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    トランプ米大統領は中国からの輸入品2000億ドル(約222200億円)相当への関税を、来週に公聴会が終了し次第発動したい考えだと、『ブルームバーグ』(8月31日付)が伝えた。

     

    公聴会では、関税引き上げ反対が圧倒的であったが、不公正貿易慣行是正目的で予定通り実行するもの。米国の国内景気は絶好調であるから、マクロ的な影響はほとんどない見込みだ。逆に、中国経済の打撃が大きく、輸出産業では解雇問題が発生し、財政省は予算措置を講じると発表。株価や人民元への影響は避けられない。

     

    『ブルームバーグ』(8月31日付)は、「2000億ドルの対中関税、トランプ大統領が来週発動を支持」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「トランプ大統領は30日に大統領執務室でブルームバーグ・ニュースとのインタビューに応じ、関税発動計画を確認する質問に対し、「間違いとは言えない」と笑みを浮かべて答えた。半導体製品から自撮り棒まで幅広い品目を対象とした関税計画について、米政府は9月6日まで企業など公の意見を募っている。協議が非公開であるために匿名を条件に話した関係者によれば、大統領はこの期限が過ぎ次第、関税を発動する計画だ。報道を受けて米株式相場は下落し、S&P500種株価指数が節目の2900を試す展開となった。オフショア人民元はこの日の安値を付けた一方、質への逃避の動きが広がりドルと円は上昇した」

     

    8月30日、S&P500種は前日比0.4%下げて2901.13。ダウ工業株30種平均は137.65ドル0.5%)安の25986.92ドル、ナスダック総合指数は0.3%安の8088.36で終わった。上海総合指数は31日、前日比7.6235ポイント(0.27%)安の2730.1132で始まった。米国が中国への追加制裁関税の早期発動を検討していると伝わり、米中貿易摩擦の深刻化を警戒した売りが出ているという。

     

    (2)「関係者の中には、トランプ大統領はまだ最終決定を下しておらず、米政府としては段階的な関税発動を選択する可能性もあるとの見方もある。米国はこれまでのところ、500億ドル相当の中国産品に関税を賦課。中国も同様の報復に出ている。大統領が来週に関税を発表して後日発動する可能性もある。トランプ政権は6月半ばに中国製品340億ドル相当への関税賦課を発表してから実施までに約3週間待っており、その後さらに160億ドル相当に対する関税を8月に発動した」

     

    米国は、2000億ドル相当の関税引き上げを発表しても即日、実行するかどうかは不明である。時間を置いて実施の可能性もあるという。

     

    (3)「中国製品2000億ドル相当に対する関税発動の場合、これまでで最大級となり、米中両国の通商対立が大きくエスカレートすることになる。米中関係の緊張の高まりを懸念してきた金融市場を一段と動揺させる恐れがある。中国は米国製品600億ドル相当への関税賦課で報復する構えを示している。トランプ政権は対象とする中国製品と関税率のリストを取りまとめており、関税率は1025%のレンジとなる見込み」

     

    関税率は10~25%の範囲で決められる模様。


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    中国での「日本製」は、絶対的な強味を持つ。「安全・ニセ物なし」である。値段は高くても、日本製となれば飛ぶように売れるという。ありがたいことだ。戦後の日本が、「メードインU..A」に憧れた気持ちと同じだろう。余談だが、「U..A」信仰の強いことにつけ込んで、九州の宇佐でつくった製品を「メードインUSA」で売り出し騒ぎになった遠い昔の記憶が蘇った。日本人が、いかに米国製に憧れたかを伝える話だ

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月30日付)は、「中国『日本製』人気逃すな、中国企業も参入」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「アジア2大経済国の関係改善を追い風にしている消費財メーカーは、中国には太刀打ちできない優位性が日本の工場にあると気づいた。製品に『日本製』と表示できることだ。そのため上海慎興制刷有限公司の汪霖・執行董事は、大阪に工場を開設し、中国で販売する歯ブラシを生産すると決めた。『中国の生活のレベルは上がっている。みんな良いものが欲しい』からだ。『日本製のものはイメージが良い』という」

     

    上海の汪霖氏は、中国で販売する歯ブラシをわざわざ日本で生産する。メリットは、正直正銘の「日本製」であるからだ。この逆転の発想が大成功した。

     

    (2)「汪氏は初の自社ブランドの歯ブラシを作ると決め、日本人デザイナーらと5年かけて製品を開発した。同社は現在、毎月5万本の歯ブラシを生産し、その大半を中国に輸出している。中国のネットショップ「京東商城(JD.com)」では15ドルほどで売られている。その歯ブラシはヘッド部分が交換でき、竹炭成分を配合した毛を使用している。中国で売られている製品のパッケージには日本語が書かれ、裏側に中国語の翻訳がある。主に日本人が使っている製品を中国でも販売しているという印象を与えるためだ」

     

    5年の歳月をかけて開発した歯ブラシだ。月産5万本を中国へ輸出している。この歯ブラシはヘッド部分が交換でき、竹炭成分を配合した毛を使用しているという。1本5ドルというが、竹炭成分が虫歯予防になっているのだろう。一度、使って見たい商品だ。

     

    (3)「長らく日本から逃げていたメーカーは、中国をはじめとするアジア市場の消費需要で日本が改めて魅力的に映っていると話す。中間層の台頭がアジアの消費動向を変えつつある兆しだ。資生堂は1983年以来となる国内の新工場を2カ所で建設している。国内売上高の減少を受け、2004年には国内6カ所にあった工場が15年には3カ所に減っていたが、中国などでの旺盛な需要に加え、日本での売り上げ回復に対応するため再び生産を強化する予定だ。魚谷雅彦社長によると、日本を訪れる中国人観光客が化粧品を購入しており、中国国内で同じ日本製のクリームやローションを求める中国人消費者にリーチする必要がある。『こうした機会を大いに捉えるためにも今からさらに供給体制を強化していく』という」

     

    資生堂も国内に新工場を建設して増産体制だ。中国の資生堂製品販売の専門店でも、ニセ物を忍ばせているという。店とニセ物業者がグルになっている結果だ。こうなると、日本で買うことが最大のニセ物防御策になる。

     

     


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    中国では、人民解放軍の再編成を行なっている。これまでの主力部隊の陸軍を縮小し、海空両軍へシフトさせている。こうして、陸軍では若き兵士が解雇の憂き目に遭っている。だが、満足な年金が払われていないのだ。この退役兵士が、迷彩服に身を包んで突然、北京の国防省前をデモ行進する姿が珍しくなくなった。こういう苦しい財政状態にもかかわらず、海外に基地を持つなどチグハグな行動を取っている。

     

    率直に言って、中国は世界覇権を狙えるポジションにはない。不動産バブルの後遺症が、これから本格化する。経済的に最も厳しい坂道に差し掛かるときに、膨大な軍事費を賄いつつ福祉制度の拡充に回す予算は組めないだろう。「一帯一路」で貴重な資金を沿線国にばらまいてもリターンは得られまい。無駄なところに資金を使わずに、国民福祉に当てる方が共産主義の本領に合致しているはずだ。

     

    『ブルームバーグ』(8月30日付)は、「米国とは異なる『超大国』中国、次の覇権を握れるのか」と題する記事を掲載した。

     

    (2)「米国が超大国への道を歩み始めた時もまた、それまで列強が行ってきた帝国・植民地主義を繰り返さないとの決意があった。その米国は今、11の空母打撃群と世界中に展開する軍事基地を通じ自国の権益を守っている。中国も似たような道を行こうとしているのかもしれない。中国人民解放軍は昨年、アフリカのジブチに初の海外基地を置いた。外交予算も大きく増加。米国に代わる世界のテクノロジー大国となることを目指す、『中国製造2025』や人工知能(AI)の世界を30年までに牛耳ろうとする計画もある」

     

    米国が、11の空母打撃群と世界中に展開する軍事基地を通じ、自国の権益を守っていると指摘している。これは、同盟国の利益を守るという意味だ。米国が多数の同盟国を持つのは、自由と民主主義の防衛という意味がある。韓国に米軍が駐留している。韓国に米国企業が大きな工場を持っている訳でない。膨大な軍事費を使っても守るべき価値(自由と民主主義)が、そこにあるからだ。それ故、米軍が駐留している。

     

    中国は、海外へ軍隊を送り出したいと狙っている。「一帯一路」プロジェクトは、その一環だ。自らの権益拡大が目的である。その点、あくまでも中国の国益を守ることに力点が置かれている。弱小国に過剰な融資をして債務返済が不可能になれば、契約通りの担保権を行使する。港湾施設の長期借用に持ち込むのだ。相手国から利益をかすめ取っている。

     

    (3)「中国では人口高齢化がすでに始まっているが、平均的な国民はまだ平均的なメキシコ人よりも貧しい。共産党が自らの正統性を誇示するため進めてきた投資主導の成長に何十年も融資をしてきた国内大手銀行の健全性に疑問を抱く投資家もいる。オーストラリア国防省で情報収集を担当していたポール・ディブ氏は、中国政府は国防よりむしろ内政に資金を投じると指摘。『銃か老人介護かのどちらかを選択しなければならないだろう』と語る」

     

    中国が、真の共産主義国家であれば、「一帯一路」で資金をばらまいて権益拡大を図るより、地方の貧しい農村の救済や、老人対策に資金を充当すべきである。共産主義国家が、なぜ海外に基地を持つ必要があるのか。領土拡張を意図する帝国主義的な発想によるものだ。その点で、共産主義を隠れ蓑にし国民の人権を蹂躙している。AIを使って四六時中監視する。人民の利益を踏みにじる共産主義など、存在する意義がない。専制主義そのものだ。清や明の再来である。

     

    (4)「ベテランの中国専門家の1人である米ジョージ・ワシントン大学のデービッド・シャンボー教授によれば、超大国にとって必要なのは軍事力のみならず、テクノロジーと強い経済力、そして影響力を維持するためのソフトパワーで、『中国はそれを理解している』。中国が世界中に展開する中国語と中国の文化を教える『孔子学院』は500を超えた。だが同教授は、中国に真の同盟国はほとんどなく、依然としてせいぜい部分的な超大国にとどまっているとも指摘する」

     

    「孔子学院」は、中国文化や中国語の普及を図る学術機関とされる。実際は、スパイ活動を行なうほか、「シャープパワー」という新たな威力を用い、相手国の世論操作や有力者に接近して、中国に都合のいい情報を流させる地下工作に使っている。米国では、FBIがこの「孔子学院」を監視するほど危機感を強めている。中国の行動は、世界の普遍的価値観から、かけ離れた行動を取っている。こんな共産主義国が、同調者を得るのは困難であろう。

     

    (5)「南シナ海に軍事拠点を築く動きに加え、現代版シルクロードとされる広域経済圏構想『一帯一路』を通じた多額の海外向けインフラ融資が小国を従わせるための債務のわなでなはいかとの懸念が、こうししたソフトパワー強化の取り組みを損ねている。中国の文化は豊かで深みがあるものの、ハリウッドを擁し個人の自由を理想に掲げる米国の影響力には遠く及ばない。シャンボー教授は、『中国軍はまだ地域的』で外交力も同様だと分析。大きな国際合意の主導権を握ったことはなく、『非常に自己本位的な大国』で『世界的秩序を形成することに関心はない』と論じる。

     

    中国のやっていることは、全て「自己本位」である。どれだけ利益が得られるかに関心をもつだけだ。このような国が、世界覇権を目指すとは噴飯物。ただ、軍事費だけ増やす「ハードパワー」国家だ。肝心の世界の文化に影響を与えるソフト力が欠如している。このことにすら気付いていない「お山の大将」である。

     

    過去の世界覇権国の歴史は、次のようなものだった。

     

    18~19世紀は英国。挑戦国はフランス(18世紀)とドイツ(19世紀)であった。20世紀の覇権国は米国。挑戦国はソ連である。中国は、ソ連崩壊の後を受け、21世紀の挑戦国として米国と対峙したがっている。だが、その資格があるだろうか。先ず、資格審査が必要な段階だ。

     


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    中国という国家を長年にわたり観察してきて気付くことは、習近平が国家主席になるに及んで、その性格がすっかり変わったことだ。胡錦濤時代までは自重しており、先進国から学ぶ謙虚さがあった。2010年にGDPで世界2位になり、近い将来、米国を抜いて世界トップに立つという予測が出始めてからは、すっかり有頂天になってしまった。

     

    この中国GDP1位論の根拠は、現在の成長率を単純に引き延ばすというもの。人口構造という基本部分や、科学技術の発展という質的な側面を無視して、現在のバブル経済を延長するという箸にも棒にもかからない、お粗末なものだ。だが、一度そのようなデータが発表されると、途端に信憑性を持つから不思議である。

     

    その例を挙げると、IMF(国際通貨基金)の予測がある。それによると、2016年12月末に、米中のGDPは交錯し中国が抜き去り米国との差を広げてゆくことになっていた。現実は何も起こらず、米国は1位の座にある。また、中国が6.5%成長を、米国が2.5%成長を継続すれば、2026年に米中のGDPが交錯し中国が1位になる。こういう、予測とも言えない「当てずっぽう」で粗雑な議論が世の中に充満している。

     

    中国政府は、根拠の不確かな予想を常時、聞かされるに及んで、これを信じ込んでしまったと思われる。昨年暮れからの習近平の言動には、国粋主義そのものの視点が滲む発言が目立っていた。従来にはなかった現象である。「米国は衰退する運命である」という内部発言は、日本の東条英機が日米開戦に当たり、発言してもおかしくないほどの突飛な内容だ。

     

    中国は、昨年から今年にかけて、習氏を取り巻く一部の側近が、「米国衰退論」に凝り固まっていた。米中貿易戦争についても、なんら躊躇することなく「徹底抗戦」という綺麗事を並べて対峙することになった。米中貿易摩擦の原因が、中国の不公正貿易慣行にあることは疑いなく、それを棚上げして米国を批判する当たり、もはや「千両役者」の気分でいるのだろう。

     

    『ブルームバーグ』(8月30日付)は、米国とは異なる『超大国』中国、次の覇権を握れるのか」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「中国は今、長い歴史の中で初めて真にグローバルなビジョンを持つ指導者に率いられている。必然的にこれまで唯一の超大国とされていた米国と比較される。だが習近平総書記の共産党指導部は次の覇権国として見なされることには躊躇しており、覇権国が担うコストを引き受けることには慎重だ。『超大国』という言葉をあえて避け、米国のようなやり方で超大国として振る舞うことはイデオロギー的に受け入れられないとしている」

     

    習近平氏が、中国は世界覇権を目指すと昨秋の党大会で発表したことを見れば、これは疑う余地のないことだ。米国と違ったやり方で、超大国として振舞うというのだ。いかなる手法を用いるのか。

     

    覇権国の条件は、①軍事力、②経済的な要素としての経済力、③社会的な要素としての文化的な影響力という3つの側面において他国を圧倒するパワーを持つことが条件だ。軍事力については、資金と人的な資源を投入すれば、一応の形はつく。

     

    問題は、経済力である。GDPの規模が大きければそれですむものではない。国際金融(基軸通貨の供給、為替レートの管理)、貿易システムを管理する能力などが含まれる。中国は現在、極めて閉鎖的である。これが米国のような開放型に移れば、中国共産党のコントロールから外れる。つまり、中国共産党を前提にする限り、中国が米国に代って覇権国になれないのだ。

     

    そもそも、現代の共産主義という専制主義は、人権弾圧の下で成立する政治システムである。世界の普遍的概念から逸脱している政治システムなのだ。これが、③社会的な要素としての文化的な影響力を強めて、世界で受け入れられることは、天変地異が起こってもあり得ない。中国が、こういう特殊な価値観を捨てるだろうか。捨てるならば、共産主義国家でなくなる。既得権益にどっぷりと浸かっている共産党員が、共産党廃止に賛成するはずがない。革命でも起こらない限り、中国から共産党は消えないだろう。

     

    以上の点から判断して、②と③において、超すに超えられない大きなギャッがある。中国は、①の軍事力さえあれば、②と③は自然に達成できると見ている節がある。それは、極めて歴史観のない「物量量中心主義的」な発想法と思われる。「量は質に転化しない」のだ。

     

    中国政府が、このような現実認識を深めれば、世界覇権の妄想に酔って無関係な世界各地へ貴重な資金をばらまく愚を悟るだろう。中国の国際収支において経常収支黒字が今年以降、急減する見通しである。リターンを生まない投資を世界覇権構想の一環で行なっても無駄である。そのことに早く気付くことだ。

     

     

     


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