勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2018年09月

    a0800_000110_m


    文在寅政権は、過去の保守党政権の問題点を、「積弊一掃」と銘打って大々的に行なっている。その舌の根も乾かないうちに、文政権の大統領府秘書官が、国家予算を不適正に使っていることが分った。権力の奢りと言えばそれまでだが、「積弊一掃」と過去の大掃除する気概は、自らの身を正すことにも示すべきだろう。

     

    『朝鮮日報』(9月29日付)は、「大統領府の不適切支出問題、告発者を告発した韓国政府」と題する社説を掲載した。

     

    (1)「保守系野党・自由韓国党の沈在哲(シム・ジェチョル)議員は28日「大統領府の秘書たちは、会議に出席する際に会議手当の名目で11025万ウォン(約1100026000円)を受け取っている」と公表した。沈議員は国家財政情報システムからダウンロードした政府予算の執行状況に関する資料を調べ、これら一連の事実を確認したという。これに対して企画財政部(省に相当)は沈議員を「予算に関する情報を違法に流出させた」として告発し、大統領府も法的対応を予告している」

     

    韓国大統領府の乱脈支出が告発された。大統領府の秘書官が、会議に出席するたびに手当が支給されているというのだ。公的会議で手当が支給されるのは、外部から呼ばれて出席した者にだけ支払われるのが普通である。それが、公務員として勤務する大統領府秘書官までが手当を支給される。これは「お手盛り」といわれる事態だ。公務員として、最も恥ずべき行為である。韓国の「お上」は、何をしても許されるというムードが漂っているのだろう。

     

    「お手盛り」という言葉も久しぶりに使った。かつての日本でも、これに類した行為があった。日本では、すぐに是正されたが、韓国では、この一件を調査して公表した議員を告発するというから、恥の上塗りである。反省がないのだ。韓国政治のおぞましさの一端を見せつけている。

     

    (2)「沈議員は、「大統領府は昨年5月以降、深夜や週末に業務推進費として24000万ウォン(約2500万円)以上をアルコールを提供する飲食店などで不適切な形で支出した疑いがある」と指摘し、関係する資料を公表した。政府の指針によると、夜11時以降の深夜や週末、法定休日には原則として業務推進費は使えない。この点について大統領府は「24時間365日にわたり常時勤務するのが大統領府」と言い訳している」

     

    お手盛りは、デタラメな飲食費にも支出されていた。深夜や週末に業務推進費として24000万ウォン(約2500万円)以上が支出されている。飲食を伴う時間と場所で「業務推進」とは驚く。政府の指針によると、夜11時以降の深夜や週末、法定休日には原則として業務推進費は使えないことになっている。それが、堂々と規則を破っているのだ。韓国自由党の金院内代表は、この日国会で開かれた院内対策会議で「家庭で夕方のある生活をしようと週5日勤務制をやれと言っている中で、夜12時に居酒屋で何の重要業務があってこのような釈明をするのか」と追求している。

     

    野党の追及が正しい。大統領府は詭弁を弄して弁解しているが、あっさりと間違いを認めることだ。そうなると、秘書官を首にすることになるのでそれを恐れて庇っているのだろう。文政権も一皮剥けばこの程度のレベルである。

     

     

     


    a0001_008399_m


    中国では、米国の怒りが本物であることを覚ったようである。単なる貿易赤字の問題でなく、米中の覇権問題が絡んでいるだけに、米国の怒りは簡単には解けないという見方だ。

     

    中国は、大言壮語の国である。物事をオーバーに言って、喜ぶ妙な癖がある民族である。自分はいかに金持ちであるか。それを他人に見せびらかす習慣がある。その一環が、派手な結婚式と葬儀である。共に、人生の二大イベントだ。これを飾り立てて優越感に浸るものである。

     

    こういう中国社会の風習に従えば、世界覇権論という法螺ばなしは愛嬌に聞えるが、米国はそうとは受け取らなかったのだ。技術窃取と軍備拡大を結びつけると、中国共産党指導部が良からぬ夢想を持ち始めたと見た。ならば、中国へ先制攻撃をかける。これが、米中関係悪化の真相であろう。

     

    『中央日報』(9月30日付)は、「覇権対決へと激化する米中貿易戦争」と題する社説を掲載した。

     

    (1)「日増しに激化する米中貿易戦争が長期戦の様相を見せている中、最悪の状況にまで備えようという姿までが表れている。中国側が米国内の不動産を売却している点がまず目につく。中国安邦保険が米国内のホテル16カ所をパッケージで売ろうとしているのが代表的な例だ。ニューヨーク・マンハッタンのビル市場には中国企業所有の売り物件が次々と出てきているという。中国が米国不動産投資を統制したという解釈もあるが、貿易戦争が激化して最悪の場合は米国内の中国資産が凍結される状況までも念頭に置いた措置という見方もある」

    ニューヨーク・マンハッタンのビル市場には中国企業所有の売り物件が次々と出てきているという。貿易戦争が激化して最悪の場合は、米国内の中国資産が凍結される状況までも念頭に置いた措置と見られるという。これは、大袈裟な話でなくその懸念はあるように思える。近々に予定されている、中国による米国への数々の介入実態が明らかになれば、米国内の世論が反中国で沸騰する事態もありうる。中国は、広範囲に米国内に浸透して情報戦を展開していると伝えられているからだ。私のブログでは、それを克明に追っている。

     

    (2)「米国の攻撃のポイントは、中国が米国の技術を盗み、政府の支援金を注ぎ込んで先端産業を育成しているという点に合わされている。中国の発展戦略「中国製造2025」を正面から狙っている。「中国製造2025」は人工知能など10の核心産業で世界最高の技術を確保し、2030年(注:正しくは2050年)に米国を追い抜くという野心に満ちた計画だ。先端産業の主導権争いは軍事覇権争いに直結する。先端技術が軍事力に連結されるからだ。従来の強大国の米国が新興国の中国の浮上を抑制するための戦争に入ったという声が出てくる背景だ。米国の中国叩きは与野党を問わない。中国が知識財産権侵害など不公正慣行で米国の利益を侵害したという共感が、トランプ大統領の強硬な態度を後押ししている」

     

    中国が、米国を追い抜くという中国の宣伝は、まさに「シャープパワー」そのものだ。中国は偉くなる国だから、今のうちに中国の味方になれという宣撫工作に使っているのだろう。常識のある者ならば「笑い飛ばす」話だが、現金を積んで味方に引入れる。その際に、「中国覇権論」は有効な武器になっているはずだ。誰だって、自分の座を脅かすと広言している相手に、好感を持つはずがない。米中関係の現状は、こういうものだろう。

     
    (3)「中国は貿易戦争に関する民間論争はトーンダウンさせている。「中国崛起」を叫んできた胡鞍鋼・精華大教授に対する中国知識人の激しい批判に見られるように、中国の態度、特に習近平主席の攻撃的な態度がトランプ大統領の反撃を招いたという自省論が出てきて習近平に責任が向かうのを防ぐための措置だ」

     

    胡鞍鋼・精華大教授と言えば、民族主義者である。「中国世界覇権」は、20年程前から言い続けている学者だ。その根拠は素朴で、量的な概念で米国を上回るという論法だ。質という面を完全に忘れた、ただの「法螺学者」と言っても言い存在である。その胡鞍鋼氏が、中国で知識人層から批判されているという。習氏を非難できないから「代理」として非難されているのだ。中国ではよく使われる手法である。中国国内でも、現在の米中対立を深刻に受け止めている証拠だ。戦前、日米開戦論を批判した日本の知識人が、軍部や東条英機を批判する代わりに、大川周明を批判したようなものである。


    a0008_001339_m


    文在寅氏の構想する韓国の政治体制は、北朝鮮との連携を基本にした「南北統一型」にシフトさせようとしている。すでに教科書も書換えさせた。韓国の国是の「自由と民主」から自由を除いて、「民主」だけにした。こうすれば、北も「人民民主主義」を掲げているので、「民主」で南と北が結びつける。こういう、子どもだましのようなことに夢中である。

     

    文氏の発想は、明らかに北朝鮮を主体に考えている。それに合わせて、韓国国内も同じ方向へ向けさせようとしているのだ。前記の教科書の書き換えはその第一歩である。次は、労組を持たない大企業に検察を向けさせて、強硬な労組組織を作らせようと画策している。

     

    労組の存在は、企業の発展に不可欠である。労使協調という言葉の通り、日常の意思疎通で果たす役割は極めておきい。だが、韓国ではその労組の活動が過激すぎて、無法な賃上げを迫って企業を破綻させる例がいくつかある。労働攻勢によって企業を倒産させれば、労働者は職場を失う。それでも「主義主張」に殉じて賃上げ闘争に突っ走る原動力は何か。資本主義社会を否定して、北朝鮮式の社会を目指す運動の一環であろう。

     

    韓国左派には、北朝鮮社会がモデルに見えるようだ。形式主義を重んじる韓国では、「人民民主主義」という言葉に限りない魅力を感じている。人民民主主義とは、労働者階級の指導の下に権力を掌握するという政治思想である。資本主義社会を否定するもの。韓国での意常軌を逸した「大企業批判」は、人民民主主義という考え方に基づけば当然、出てくるのであろう。大企業は、人民を搾取するという前提に立つからだ。人民民主主になれば、大企業は打倒の対象でしかない。強烈な賃金闘争を仕掛けて大企業を破綻に追い込む。労働組合にとって、それは勝利という感覚なのだろう。

     

    『朝鮮日報』(9月28日付は、「サムスンとポスコが『無労組』にこだわった理由を考えよ」と題する社説を掲載した。

     

    (1)「サムスン電子サービスの労組つぶし疑惑に関して、韓国検察はサムスン電子理事会(取締役会)議長を含む計32人を起訴すると発表した。検察は6カ月にわたってこの事件を捜査する間、実に9回の家宅捜索、16件の逮捕状請求を行った。捜査の規模や起訴の規模は全く類例がない。サムスンが数十年間守ってきた「無労組経営」に、検察が鉄槌を下したのだ。少し前には鉄鋼最大手ポスコにも、会社設立以来初めて、全国民主労働組合総連盟(民労総)の金属労組が傘下組合を組織した。親労働路線を取る現政権になって以降、民労総は、これまで進出していなかった大企業に次々と根を張っている」

     

    全国民主労働組合総連盟(民労総)は、労働貴族の「総本部」という位置づけである。労働貴族とは、労組員の所得が上位10%に入るほどの高所得を得ているからだ。この労組員の高所得が象徴するように、労組を持つ企業では、戦々恐々としている。連続ストライキはいうまでもなく、山猫ストも発生するなど、徹底的に企業へ損害を与えても賃上げを実現させるのだ。労働生産性にはお構いない賃上げである。「人民民主主義」の立場からいえば、企業は敵という位置付である。

     

    (2)「なぜサムスン電子やポスコのようなグローバル企業が「無労組」原則にこだわってきたのかも考えなければならない。民労総の強硬な闘争のせいで倒産した企業は一つや二つではない。民労総所属労組の占拠闘争で双竜自動車は廃虚と化し、韓進重工業は抜け殻になった。現代自動車は、年俸1億ウォン(約1000万円)に迫る貴族労組の専横のせいでグローバル競争に遅れを取っている。強硬な貴族労組は韓国経済の宿痾(しゅくあ)である、という事実を知らぬ者はいない」

     

    民労総の強硬な闘争での倒産企業はいくつかある。双竜自動車、韓進重工業、そして、現在起こっている被害会社は現代自動車である。このような実例を見れば、サムスン電子やポスコ(鉄鋼)が、「無労組」原則にこだわって、労組を持たなかった理由が分る。その代わり、最高の賃金を支払い、社員へ厚遇で報いてきた。長期のストライキを打たれる経済的な損失を考えれば、「無労組」は褒められることでないにしても、それなりの理由があった。

     

    (3)「サムスンやポスコは、労組はなかったが、従業員の待遇や福利厚生の面ではどの企業よりも優れている。両社はいずれも、求職者が入社したがる最高の職場だ。もしサムスン電子とポスコに民労総の強硬な労組が入り込み、闘争を繰り広げたら、今のようにナンバーワンの企業になれたかどうか、考えてみるべきだ。恒例行事のようにストライキを打ち、どうかすると経営を妨害するというのに、世界第1位の座を守って今のようなグローバル競争力を維持できただろうか。検察がサムスンに対し捜査に入った今年4月、民労総は「サムスン共和国を取り壊さなければならない」として「サムスンの全ての系列会社に労組が作られてこそ、真に世の中が変わっているという兆し」と主張した。実際、そうなりつつある」

     

    サムスンもポスコも、来年以降は強力なストライキに悩まされるだろう。業績は落ち込み、韓国経済はさらに泥沼へはまり込む。韓国労組はそれが狙いだ。韓国経済を混乱に陥れて、「人民民主主義」の旗の下で北朝鮮と連携する。こういう政治戦略に違いない。文政権が、大筋でそれを容認していると見るべきだ。そうでなければ、最低賃金の大幅引上げを行なって、韓国経済を混乱させるはずがないだろう。

     


    a0008_001336_m


    文在寅大統領は学生時代、権力と戦った元学生運動家を大統領府に集めている。「人民民主主義」の信奉者である。1980年の光州事件の「戦友」だ。あれから幾星霜を経て、今や大統領府で権力の頂点に立っている。感無量であろう。この理想の地へ辿り着いた以上、いかなる批判を浴びても学生時代に掲げた理想の実現に邁進する。有り体に言えば、こういう心境であろう。

     

    すでに、最低賃金の大幅引き上げも行なった。教科書も書換えさせた。南北首脳会談も3回開き、統一へのレールが出来はじめた。財閥企業にも労働組合を作らせた。文政権は就任1年半にもならないのにかくかくたる戦果を上げている。しかし、これが本当に韓国社会にとってプラスになるだろうか。

     

    経済がガタガタになっても文政権が支持され続ける保証はどこにもないのだ。韓国左派にとって、最大の弱点は経済政策の失敗にある。「人民民主主義」では、経済を混乱させることが目的である。だから想定の範囲内のこととしても、左派でない人々にとっては迷惑千万な経済政策である。韓国大統領府は、このように異常な雰囲気に飲み込まれている。

     

    『朝鮮日報』(8月8日付)は、「韓国大統領府の元活動家重用は度が過ぎる」と題する社説を掲げた。

     

    (4)「文在寅(ムン・ジェイン)大統領が8月6日に行った韓国大統領府秘書室、政策室の1級以上秘書官人事で、スタッフの6人中5人が運動圏と呼ばれる左翼系の元学生運動活動家で占められるようになった。今回の秘書官人事は、全国大学生代表者協議会(全大協)など運動圏や市民団体出身者が昨年末の17人から2人増えて19人となり、率にすると61%に達した」

     

    文氏は、自らの「イエスマン」を側近に集めている。韓国の政治システムでは、大統領府に権力が集中する。日本のように各省庁が責任を持って行政を司るシステムではない。絶大な権力を握る大統領府は、秘書官の6割が「元学生運動家上がり」が占領している。韓国をどこへ引っ張ってゆくのか。それは、北朝鮮社会と同じ「人民民主主義」であることは間違いないだろう。彼らが、学生時代に信じていた思想は「金日成主義」であったからだ。

     

    (5)「大統領府スタッフに、大統領と考え方が近い人物が就任するのはある意味自然なことだ。現政権ほど、大統領府スタッフに特定の集団出身者が多数を占めるようなケースはこれまでなかった。文大統領は先日行われた新任の大法官(最高裁判所裁判官に相当)任命状授与式で、『大法官の顔触れは多様性が確保されなければならない』と述べた。ところが大統領府のスタッフはもはや完全に左翼活動家ばかりとなりつつある。大統領の側近が運動圏出身者で占められ、彼らが大統領府を掌握すれば、国政におけるバランスは完全に失われてしまうだろう。バランスが崩壊すれば国政そのものが完全に暴走してしまうのではないか」

     

    大統領府の秘書官人事構成を見れば、文大統領が何を目指しているかは明らかだ。最低賃金の大幅引き上げは、韓国労組の強い突き上げによって実現したものだ。すでに、最低賃金引き上げは破綻しており、失業率は4%と金融危機時並みの悪化である。その対応策と言えば、財政資金の投入だけである。大本の最賃政策の手直しには一切、応じないという強硬姿勢である。切開手術(最賃政策の手直し)には手を付けず、対症療法(財政資金投入)策によって糊塗しているのだ。これは、政策発案者を擁護するカムフラージュである。身内を守るのが文式の人事であり、「信賞必罰」など薬にしたくてもない政権である。

     

    『中央日報』(8月23日付)は、「文在寅経済の残忍な逆説」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙のパク・ボギュン/コラムニスト/論説委員である。

     

    6)「文政権は、『ろうそく勢力(注:朴槿惠大統領弾劾請願デモ)・市民団体・労働組合』が現政権創出の大株主という意識を抱いている。文大統領がその勢力に借りがあるという意識から抜け出してこそ、実事求是の革新成長に進むことができる。似た性向で構成された集団は排他的だ。偏向と極端に向かう。大統領府の核心勢力は公務員を信じない。政策修正の拒否はそのような意識による。大統領府の肥大化はそのような軽蔑を反映する。大統領府の経済責任者は政策室長、経済補佐官、雇用首席秘書官、経済首席秘書官、社会首席秘書官だ。そのような膨張と布陣は集中と簡潔の原則から外れる。『経済担当首席秘書官がなぜこれほど多いのか。政策の核心は雇用だが、別々に分けるのは間違っている』と指摘する人は述べた」

     

    このパラグラフでは、大統領府の秘書官の6割が学生運動家上がりという同質性がもたらすリスクを指摘している。そのリスクは次のようなものだ。

       似た者同士の性向で構成された集団は排他的だ。偏向と極端に向かう。

       大統領府の核心勢力は公務員を信じない。政策修正の拒否はそのような意識による。

       大統領府の肥大化は公務員軽蔑を反映する。

     

    要するに、学生運動家上がりの大統領府集団は、偏向・孤立・軽蔑という最悪集団に化する危険性を秘めている。これは、韓国政治の危機である。


    a0008_001348_m


    中国の技術窃取は、世界的に知れ渡っている。傍若無人の振る舞いが、「天誅」を受けようとしているのだ。こういう言葉は使いたくないが、「成り上がり者」特有の傲慢さを見せつけ、「俺様気取り」をすることが、紳士の国ヨーロッパで嫌われている理由であろう。

     

    『日本経済新聞 電子版』(9月30日付)は、「独仏、出資規制強化へ、中国念頭、技術流出を警戒」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「ドイツやフランスが自国企業の買収や株式取得で外資規制を強める方針だ。中国企業によるM&A(合併・買収)を念頭に安全保障や国家戦略などに関わる技術の流出への警戒感を高めている。欧州連合(EU)共通のルールづくりも独仏が旗を振るが、中国マネーが経済を支えるギリシャなどは難色を示している。米法律事務所ベーカー&マッケンジーによると、1816月の中国の対欧直接投資は120億ドル(約1.3兆円)と約430億ドルの巨額買収だった農薬大手シンジェンタの数値を除くと前年同期比4%増えた。一方、貿易戦争に突入している米国に対しては同92%減の20億ドル。同事務所は「中国の投資は18年前半で米国から欧州に傾いた」と指摘する」

     

    欧州各国が、中国の傲慢さに気付いたのは昨年5月の「一帯一路」セミナーの共同発表をめぐる交渉からだ。中国が、欧州各国の要望を拒否してから、溝が生まれその後は不信に変わった。欧州が、中国警戒に変わった矢先に、中国資本による欧州企業へのM&Aが増えている。米国から閉出されて欧州企業に転じたという事情もある。このまま放置すると、欧州企業が餌食にされる危機感だ。これによって、中国企業へのM&A規制を強める方針である。

     

    (2)「アルトマイヤー独経済相は8月、独紙とのインタビューで経済省が取引を中止させられる外国企業による議決権取得の割合を25%から引き下げる方針を明らかにした。検討中の新しい割合は15%で、2019年にも実施する方向だ。ドイツでは16年、中国の家電大手、美的集団が独政府の製造業革新プロジェクトを主導した工作機械大手クーカを買収した。危機感を抱いた独政府は17年、経済省の審査が必要な分野を重要なインフラ産業などにも広げた。だが中国系企業のM&A意欲はその後も旺盛で、さらに規制を強める必要があると判断した」

     

    ドイツでは16年、中国の家電大手、美的集団に工作機械大手クーカを買収させた。これは、大失敗である。中国の技術窃取に関する認識欠如が招いたものだ。工作機械が、製造業の核であるという視点からすれば、絶対に許してはならないM&Aである。ドイツが中国市場へ傾斜し過ぎて、ことの本質が読めなかったのだろう。

     

    (3)「フランス議会も9月から新たな外資規制法案の審議を始めた。現在は防衛、エネルギー、運輸などで議決権の3分の1を超えて取得する時に、政府の認可が必要だ。仏政府は人工知能、データ保存、ロボットなども含めようとしている。ルメール経済・財務相は中国からの投資を「(技術を)盗む目的なら受け入れない」と語っている」

     

    フランスも、ドイツと同じ歩調で進む方針である。欧州で独仏が共同で対策に乗り出せば、多少の異論があってもまとまるであろう。中国は東欧の分断を策しており、欧州では中国警戒論が強まっている。このように、中国は政治的に小細工をするが、反感を買うだけである。身の程知らずという非難を浴びているのだ。


    このページのトップヘ