勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2018年10月

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    10月30日、韓国大法院(最高裁判所)の下した日韓徴用工判決は、パンドラの箱を開けることになった。1965年、日韓国交正常化の前提である日韓請求権協定が、個人請求権を認めたこと。請求権には時効(10年)を認めないなど、遺族は永久に請求権行使が可能になった。対象者は14万9000人。今回の判決で一人1000万円が認められた。

     

    韓国政府は、この判決で極めて困難な立場に追い込まれた。文大統領は、昨年8月に今回の大法院判決を導くような、「個人請求権容認説」を唱えていた。韓国司法は、時の大統領の意向を忖度する判決を下すことで知られている。文氏が、それを熟知して「誘導発言」したとすれば、なんと無知な発言をしたかと思われる。

     

    韓国政府は今回の判決で、日本企業に判決履行を迫れない立場にある。日韓請求権協定で、「個人の請求権は存在しない」と認め、韓国政府が一括して受領する立場を明らかにしているからだ。それに応じて、日本政府は「無償3億ドル+有償2億ドルの供与・貸付」で決着した。韓国大法院は、この日韓請求権協定自身を認めない判決を下したのだ。

     

    文氏が昨年8月、日本企業と日本政府を虐めてやれ、というレベルの認識に基づく発言であったならば、余りにも浅薄であったと言うほかない。1965年以降の日韓関係の土台になってきた政府間協定は、今になって無効という判決が出たのだ。その「導火線」が「文発言」にあった印象が強い。文氏の責任は極めて重い。

     

    『朝鮮日報』(10月31日付)は、「強制徴用、被害者14万人中962人が訴訟、今後続々勝訴の可能性も」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「強制徴用問題で訴訟を提起できる人は少なくとも14万人と推定される。国務総理室(首相室)の「対日抗争期強制動員被害調査および国外強制動員犠牲者支援委員会」が実態調査で把握した被害者は148961人だ。うち生存者は約5000人だが、損害賠償対象は本人に限られず、遺族も訴訟を起こすことができる」

     

    請求権に時効がなく、遺族が請求できる。だから「1000万円の判決」に勇気を得て、「100年裁判」が始る可能性も出てきた。

     

    (2)「韓国政府の調査によると、日帝強制占領期の強制徴用で動員された韓半島(朝鮮半島)の労働者を雇用した日本企業は299社ある。当時の三大財閥である三菱、三井、住友の系列企業をはじめ、日産など自動車メーカー、カネボウ化粧品(旧鐘紡)、キリンビール、パナソニック(旧松下電器産業)なども含まれる。韓国に事業体を持つ企業も多い。国税庁によると、韓国に進出している日本企業は395社で米国(420社)に次ぐ。投資総額は891億円だ。強制徴用に関連する299社と直接的、間接的に関係する企業が多数含まれており、大法院の判決による動揺は避けられない。損害賠償請求訴訟などの民事訴訟は原告の一方的な提訴で始まる」

     

    韓国に進出している日本企業は395社ある。徴用に関連する299社と直接的、間接的に関係する企業が多数含まれている。これら日本企業は、原告の一方的な提訴で被告の立場に身を置く。日本政府は国際司法裁判所へ提訴する方針である。その間の裁判は停止となろう。

     

    (3)「被害者は損害賠償を受ける権利を確保したが、実際に賠償を受ける道のりは遠い。新日鉄住金が自発的に賠償を行わない限り、裁判所を通じ、新日鉄住金の資産を差し押さえなければならない。しかし、日本国内の資産差し押さえは不可能だ。過去に日本の裁判所が「新日鉄住金は賠償責任がない」と判断しているからだ。結局、韓国国内にある資産が差し押さえ対象になる。新日鉄住金はポスコの株式3.32%(2894603株)を保有している。30日現在で時価7550億ウォン(約748億円)相当だ。ところが、米国の銀行が中間に介在する米国預託証券(ADR)であるため、差し押さえには米国の裁判所による承認が必要となる」

     

    (4)「ソウル大法学専門大学院の石光現(ソク・グァンヒョン)教授は、『米国の裁判所が『賠償責任あり』とする韓国の判決と『賠償責任なし』とする日本の判決のいずれを受け入れるかにかかっている』と指摘した。国民大日本学科の李元徳(イ・ウォンドク)教授は、『強制執行など極端な措置に出ることは、歴史戦争を布告するに等しい。政府も政治的合意で問題を解決するのではないか』と予想した」

     

    関連日本企業は、韓国に所有する資産が差し押さえされる対象になる。ただ、米国の法律の絡む場合は、米国裁判所が韓国大法院判決か日本の最高裁判決のいずれかの判決を採用する。すぐに、大法院判決が執行されるわけでない。

     

    (5)「大法院は損害賠償請求権の時効(最長10年)も認めなかった。大法院は「被害者はこれまで権利を行使できると考えられない状況だった」とした。韓国外国語大法学専門大学院の李長熙(イ・ジャンヒ)教授は「いくらでも過去にさかのぼり、賠償請求問題を争えるという趣旨だ」と述べた。時効を認めなかったことで、損害賠償は「強制徴用」にとどまらない可能性がある」

     

    今回の大法院判決が、時効を認めなかったので徴用工以外にも適用される道が開かれた。そうなると、日韓併合時代の全事件が提訴の対象になりうる。まさに、「パンドラの箱」である。日韓は、1910年の日韓併合以来の問題で対峙する立場に変わる。歴史の彼方に消えた問題が、現実問題として日韓で争われるのだ。文氏はそれが楽しみなのか。「未来志向」でなく「過去志向」である。

     

     



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    安倍首相の訪中の際、北京で「日中第三国市場協力フォーラム」が開かれた。日本から約500人の経営者が参加する大掛かりなものになった。目的は、日中が共同して第三国のインフラ投資を行なうというもの。

     

    中国による「一帯一路」は政治色が強すぎて失敗の烙印を押されている。財政的に困難な国へ過剰融資してインフラ投資を行なわせる。債務返済ができなければ、担保権を執行して中国に有利な解決法を有無なく押しつけてきた。この問題が、国際的な批判を浴びるとともに、もはや継続困難な状況だ。第一、中国の経常収支黒字が急速に減少する気配で、遠からず赤字に転落するリスクを抱えている。こんな状態で、「一帯一路」の資金供給は困難になるはずだ。

     

    そこで、日本へ協力を求めてきたものだ。日本が、そんな悪評さくさくの「一帯一路」を引き継ぐ義理はない。そこで、「第三国市場協力」という看板に変えて、中国の思惑封じの融資基準をつくった。中国の「政治基準」を捨てて、新たに次のような4基準が設けられる。

     

    (1)相手国の財政の健全性

    (2)開放性

    (3)透明性

    (4)経済合理性

     

    「一帯一路」には、こういう明確な基準があるわけでない。あるのは、「覇権狙い」への基盤づくりという政治目的だけである。前記4基準を当てはめれば「政治目的」は跳ねられてしまうはず。こうして、「一帯一路」は消え去り、「第三国市場協力」とい看板に代わった。事実上、政治的な目的のインフラ投資である「一帯一路」は店仕舞いになった。

     

    「第三国市場協力」は、中国と組むだけでない。インドとも共同事業を行なう。先に訪日したインドのモディ首相と合意した。第三国市場となるスリランカやミャンマー、バングラデシュなどでの港湾・道路の整備に日印両国で乗り出す。こうなると、第三国市場でのインフラ共同投資は、日本政府が新たにつくり出してモデルと言えよう。一国で他国のインフラ投資を担って、政治的に支配力を強化するという「新植民主義」阻止には、こうした「日本モデル」による共同投資が有益である。


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    文大統領は、北朝鮮政策をめぐって米国から厳しい批判にさらされている。北の金正恩氏の代理人のように振る舞っているからだ。ローマ法王と面会した際も、金氏の北朝鮮招待を受けてくれるかどうか打診するなど、涙ぐましいほど「北の代理人」として奔走している。

     

    人権弾圧で世界一の北朝鮮が、ローマ法王を招待したいとは驚くべき話だ。キリスト教精神に反することを数々やっている。そういう金ファミリーが神に祈る資格はない。自らの蛮行に目を瞑って、神のご加護を賜りたいとは余りにも図々しい振る舞いだ。文氏は、ローマ法王招待の話が出た段階で、金氏に人権弾圧を諫める忠告する立場である。ちなみに、文氏はクリスチャンである。それを止めもせず「北の代理人」を務めている。

     

    文氏は、韓国大統領としてどこまで「北の核放棄」に対して真剣だろうか。最近、憶測されていることは、北の核保有を黙認して南北統一を目指すという疑念である。韓国与党では、「北の核は朝鮮民族の資産」などという、とんでもない発言まで飛び出している。ともかく、韓国の政権・与党は、常識外れのことに夢中である。

     

    常識外れといえば昨日、韓国大法院による日本企業の戦時中の徴用工判決も同じ流れだ。文大統領が、昨年8月に「個人請求権は存在する」と発言し、判決を暗にリードする言動をしている。このように、文氏にはバランス感覚が欠如している。

     

    『朝鮮日報』(10月28日付)は、「米官僚ら表向きは文大統領支持でも内心は怒り」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「米国の韓半島(朝鮮半島)専門家らが、「対北朝鮮制裁の緩和と南北経済協力の推進」をめぐる韓米の考えの違いが深刻なレベルにあると繰り返し警告している。専門家らは米政権の官僚らの話を引用し、韓国の「前のめり」の姿勢に対する米政権内部の「反感」が、韓国が感じているレベルよりはるかに強いと指摘した」

     

    文大統領は、北の核放棄の促進で、米国と一体になって対応すべきなのに、「唯我独尊」である。国際社会が一丸になって取り組むべき課題を、南北の話し合いだけで実現可能なごとき錯覚をしている。米国が、文大統領に手を焼いているのは事実である。

     

    (2)「米国のシンクタンク、ヘリテージ財団のブルース・クリングナー上級研究員は最近、米国務省の招請でワシントンを訪れた韓国外交部(省に相当)の記者団に会った。クリングナー氏は、「米国が表向きは文在寅(ムン・ジェイン)大統領とその努力を支持する態度を見せている。だが、米政府関係者と話をすると、相当数が文大統領の対北政策について非常に懸念しており、一部は激しく怒っている」と話した。かつて米中央情報局(CIA)の韓国分析官を務めたクリングナー氏は「米政府は文大統領に対し、南北関係について何度も『もう少しゆっくり進めるように』とかなり強いメッセージを送った」と説明した」

     

    文氏は一度、思い込んでしまうと後から軌道修正することが難しいタイプである。政治家として必要な柔軟性に著しく欠けている。朴槿惠前大統領も相当に思い込みが激しかった。文大統領も負けず劣らずの思い込み型である。朴槿惠氏は大統領として失敗したが、文大統領も同じ轍を踏む懸念が強い。

     

    (3)「前記のクリングナー氏は、韓米政府の見解が一致していない代表的な事例として終戦宣言を挙げ「終戦宣言への署名は国連決議、在韓米軍駐屯をはじめ韓米相互防衛条約、米国の『核の傘政策』にまで影響を及ぼす可能性がある」と述べた。韓国政府は「韓米の協調は堅固だ」と主張しているが、米政権内部の本音は異なっているというわけだ」

     

    文大統領は、北朝鮮政策では「終戦宣言」を一貫し主張している。米国は、北が核リストも出さないうちに「終戦宣言」に合意すれば、これまでと同じで「食い逃げ」されると警戒する。文氏には、こういう外交の修羅場が分らない、元学生運動家の域を超えられない政治家なのだ。


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    79月までの中国自動車の生産台数と販売台数は、3カ月連続のマイナス成長に陥っている。この結果、自動車購入税(取得税)の10%を5%に引下げる案が報道された。

     

    19月の販売台数は前年比0.6%増にとどまった。だが、7月の同4%減、8月同3.8%減、9月の同11.6%減と最近の落込みが大きくなっている。このまま推移すれば、今年の前年比マイナスは決定的である。そこで、10%の取得税を半減するとの案が報じられたもの。だが、この程度のテコ入れで浮上するのか。悲観論が多い。

     

    工業情報化部の辛国斌次官は10月23日の記者会見で、「中国自動車産業の高成長時代がすでに終わった可能性があり、今後低成長が常態化するかもしれない」と述べた。また、「自動車販売はわが国の小売り・販売総額に占める割合が高いため、工業生産に与える影響が比較的大きい」との見方を示した(『大紀元』10月26日付)。

     

    中国の自動車普及率は20%を上回っており、すでに普及一巡段階を迎えている。後は、買い換え需要が期待される程度。ここまで普及すると、今後の成長率鈍化は必至である。

     

    『ロイター』(10月30日付)は、「中国の自動車購入税減税、焼け石に水か」と題するコラムを掲載した。

     

    (1)「新車購入税の税率引き下げは一時的には効果を発揮するだろう。エバーコア・ISIの試算によると、3年前にも同様の政策が導入され、2016年の販売台数は2500万台と、15年の年2100万台から持ち直した。エバーコアは今回の税率引き下げで来年の販売台数の伸びが3%ポイント押し上げられて5%になると見込んでいる」

     

    2年前も前年比マイナスとなって減税措置を行なって下支えしてきた。このところ、連続して減税という「カンフル剤」を打っているが、その効果が長続きしないのは、普及率の壁にぶつかっている証拠であろう。所得面の延び悩みも始っているので、自動車販売が再び盛り返す期待は難しいであろう。こうして、個人消費を下支える自動車販売が低空飛行をすれば、景気への影響が懸念される。


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    自由が当たり前の米国社会で生きてきた米企業が、貿易戦争をきっかけにして中国撤退を検討している。中国政府は、外資系企業にまで共産党支部をつくらせて監視しているからだ。企業の計画は、共産党に筒抜けという異常事態に音を上げている。

     

    『レコードチャイナ』(10月30日付)は、「米中貿易戦争、中国進出米国企業の7割超が中国からの撤退を計画」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「米『自由アジア放送(RFA)』(10月29日付)の中国語版サイトは、「米国と中国の貿易対立の激化に直面し、ますます多くの米国企業が中国での事業に困難を感じているようだ」と伝えた。その上で、ロイター通信の29日付の報道を引用し、中国の南部で事業を展開する米国企業の7割超が、米中貿易戦争で利益に悪影響を受けていることを理由に、今後の針路を検討している。①投資を延期または中止するか、②製造業務の全部または一部を他国に移すかを検討している」

     

    中国の南部で事業を展開する米国企業の7割超が、米中の貿易戦争の悪影響を受けている。その結果、①投資を延期または中止するか、②製造業務の全部または一部を他国に移すかを検討しているという。これは、米政権の狙いでもある。中国のサプライチェーンの位置低下を計っているのだ。

     

    (2)「上記の米企業動向は、在中国南部米国商工会議所の調査で分かった。219社(うち3分の1が製造業)を対象にした調査結果によると、調査対象企業のほぼ半数が、行政による監視の強化や通関の遅れを含む中国側の非関税障壁が日増しに広範化していると述べている。ロイター通信は、調査結果について「輸出に依存している中国の都市と省が米中貿易戦争の下で困難に直面しているという新たな証拠を提供している」と報じている」

     

    調査対象企業のほぼ半数が、地方政府による監視の強化、通関の遅れを含む中国側の非関税障壁が日増しに強まっていると感じている。中国が、米企業に「出ていけ」と言わんばかりの感情的な振る舞いを始めた。地方政府は、自分の首を自分で締めていることに気付かないのだろう。


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