勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2018年10月

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    中国では、家計の節約がじわりじわりと進んでいる。可処分所得の伸びが鈍化していることが原因だ。スタバ・コーヒーも敬遠して安いコーヒーで我慢する。昼食は高いレストランを避けて、身近なコンビニで済ませる。消費への取り組みが、180度の変わりようである。

     

    ここまで節約生活が進んでくると、中国を代表する高級酒の貴州茅台酒の売上が落ちても当然であろう。かつての高度成長期、賄賂華やかりしころは、この貴州茅台酒が高級官僚の元に、山のように持ち込まれたものだ。それが一転、現在は売上不振で、10月29日の株価は、上場以来17年ぶりの「ストップ安」(株価が10%以上の値下がり)。取引を中止する事態になった。中国経済が、不動産バブル崩壊後の消費低迷期に突入している証拠である。

     

    『レコードチャイナ』(10月30日付)は、「貴州茅台、12385億円分が1日で蒸発ー株式上場して17年来初のストップ安」と題する記事を掲載した。

     

    中国を代表する酒として国際的にも有名な茅台酒(マオタイ酒)の製造販売元である貴州茅台酒の株価が週明けの29日、取引開始直後から大暴落し、同社が2001年8月に上海証取に上場してからの約17年間で初めてのストップ安となった。中国メディア『澎湃新聞』は時価総額の約766億4000万元分(約1兆2385億円分)が蒸発したと表現したという。

    (1)「茅台酒は中国の伝統酒でも最高の高級酒とされている。標準的な1500ミリリットルの「飛天茅台」ついて会社側が指定する上限価格は、1月に従来の1299元(約2万1000円)から1499元(約2万4000円)に引き上げられた。それでも人気がありすぎて「1本を手に入れるのも難しい」状況が続いている」

     

    茅台酒は、コーリャンやモロコシが原料の蒸留酒である。白酒である。強い芳香が特色とされている。「飛天茅台」は、日本の通販でも購入可能。価格は上記の会社指定価格よりも若干高い程度だ。


    (2)「貴州茅台酒の工場は貴州省・仁懐市茅台鎮の一角にあるが、生産には現地の極めてデリケートな微生物バランスが不可欠と分かっている。これまでに貴州省内の別の場所で同社工場と環境がよく似ている場所での生産が試みられたことがあったが、貴州茅台酒のトップ技術者や熟練職人、各種資材が投入されたにもかかわらず、同一の品質の酒を作ることはできなかった。そのため、貴州茅台酒は増産を断念。結果として「品薄であることが人気を呼び、さらに品薄になる」という状態が続いている。ブランド価値の高さと「作れば必ず売れる」という信用により、貴州茅台酒の株価も上昇し続けてきた」

     

    地理的な条件で、増産が不可能とされる「天下の銘酒」である。それだけに、株価は上場来17年間も上昇し続けてきた理由だ。それが昨日、大暴落となった。このインパクトは大きい。昨晩は、貴州茅台酒を飲んでも苦い酔いであったろう。

    (3)「29日の株価大暴落について澎湃新聞は、18年第3四半期(79月)の業績報告で、成長の鈍化が示されたことが株価下落の懸念材料になり売り注文が集中、売り注文の多さを見て、さらに多くの売り注文が殺到したとの分析を示した」

    この7~9月期の業績が伸び悩んだという。それが一挙に、市場の不安心理へ火を付けたにちがいない。中国株式市場が、いかに戦々恐々としているかを証明している。中国経済は、不動産バブル崩壊と貿易戦争に挟撃されている。「前門の虎後門の狼」という、絶体絶命のピンチを迎えている。


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    米国による対中貿易戦争の狙いは、できるだけ長期化させて、中国から生産拠点を移転させることにある。これによって、中国経済の担うサプライチェーンの役割を奪うという戦略である。米国が、ここまで露骨に「中国潰し」に動いている背景は、中国の際限ない技術窃取を防ぐ目的だ。米国の対中信頼度は、ゼロ同然に低下している。

     

    『ロイター』(10月29日付)は、「米中摩擦の影響に身構える企業、ゲームチェンジの兆し」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「米中貿易摩擦の決着が見えない中で、メーカー各社は米国向け輸出の生産拠点を中国から他地域に移し始めた。三菱電機が米国向けの放電加工機とレーザー加工機の生産を中国から名古屋に移管したほか、日本電産も一部生産を中国からメキシコに移管。パナソニックも車載関連機器の生産地を中国からタイやマレーシア、メキシコなどに移転することを検討している。三菱電機の皮籠石常務は移管の影響について「金額的な影響がまったくないわけではないが、全体としては吸収できるくらいの小さな金額だ」と述べ、影響は限られるとの認識を示した」

     

    中国にある生産拠点は、対米輸出で高い関税率をかけられる。これを回避するには、脱中国しかない。中国の世界におけるサプライチェーンのウエイトは大きい。米国は時間をかけてでも、そのウエイトを下げさせる強い意思を見せている。

     

    中国からの移管先では、「TPP11」(米国を除くTPP)の加盟国が多いことだ。TPP11は、来年1月中には発効の見通しが強くなった。意外にも、TPP11が脱中国の受け皿になっている。

     

    (2)「ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は11日の決算会見で「われわれは世界中で作って世界中で売る。当初は多少影響があるかもしれないが、他の国・地域で生産することも可能で十分対応できる」と先行きに自信を示した。米中貿易摩擦の影響を最小限に食い止めるべく、対応を進める日本企業。だが、日本電産の永守重信会長は、足もとの変化は米中貿易摩擦の影響だけではないと警鐘を鳴らしている。「世界全体のサプライチェーンが変わってきている。すべて米中貿易戦争のせいにしているが、私はそう思わない。まったく違う構造になっており、それを見誤るとチャンスを失う」」

     

    このパラグラフで注目すべきは、日本電産の永守重信会長発言である。「世界全体のサプライチェーンが変わってきている。すべて米中貿易戦争のせいにしているが、私はそう思わない。まったく違う構造になっており、それを見誤るとチャンスを失う」という点だ。日本電産の生産移管先は、メキシコである。メキシコは、米国・カナダとともにUSMCA(旧NAFTA)加盟国である。

     

    永守氏は、米国経済のさらなる発展を確信しているように見える。つまり、世界経済は先進国の発展と、新興国の停滞という構図になるにちがいない。その原動力は、第4次産業革命が先進国で発展して、新興国を置き去りにする。そういう見通しに立っているのだ。そうでなければ、中国からの生産拠点移転を決断するはずがない。日本電産の動きに注目する必要がある。


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    日中首脳会談が終わり、日中双方は「競争から協調へ」や「隣国同士として互いに脅威にならない」など三原則を確認し合った。ところが、これら三原則を脅かすような米中の軍事衝突が15年以内に太平洋で起こるとの発言が飛び出した。

     

    太平洋の軍事衝突といえば、舞台は台湾か尖閣諸島しかない。中国が、台湾を軍事解放するとなれば、おびただしい犠牲者が出る。中国は、世界的な批判を浴びるのは必至で、外交的に孤立する。こういうリスクに比べて、尖閣諸島であれば無人島である。中国はここを占領すれば、台湾を膝下に収めるほか艦船が直接、太平洋へ出られる。かねてからの宿願を達成し、米国を軍事的に威嚇可能になる。

     

    日中間で交わした「三原則」など、いざとなれば中国が言い放ったように「紙切れ」である。簡単に破られる。こういう不安定な中で、報じられた次の記事に注目したい。

     

    フランス『国際放送(RFI)』(10月25日付)は、「米中軍事衝突の可能性、非常に高い、元米軍司令官が発言」と題するニュースを報じた。『レコードチャイナ』(10月29日付)が、転載した。

     

    (1)「昨年まで米欧州陸軍の司令官を務めていたベン・ホッジス(BenHodges)氏は24日、太平洋地域で米国と中国の武力衝突が発生する可能性『非常に高い』と警鐘を鳴らした。記事によると、退役中将のホッジス氏は、ポーランドの首都ワルシャワで行われたワルシャワ安全保障フォーラムで、『避けられないわけではないが、今後15年の間に、太平洋地域においてわれわれと中国の間で軍事衝突が起きる可能性が非常に高い』と語った」

     

    米国が、中国と15年以内という時間の区切りを付けたのは、中国の軍拡速度に基づいている。米国と同等の軍備を揃えて、戦いを挑むという想定であろう。ここで、注目すべきは、次のパラグラフにあるように、欧州は米国を支持してくれと要望している点だ。つまり、欧州は米国とともに中国と戦う意志表示を求めている。

     

    (2)「また、「米国は欧州の強力な後ろ盾を必要としている」と発言し、欧州に米国を支持するよう呼び掛けた。記事はホッジス氏について、2017年まで米欧州陸軍司令官を務め、現在は米ワシントンの政策研究機関、欧州政策分析センターで戦略研究の専門家として勤務していることを紹介した」

    米国は、すでに15年以内に中国と開戦する準備に入っているのだろう。新興国の常として、かつての日本がそうであったように、覇権国と戦うことに一種の「ヒロイズム」という抑えがたい気持ちがある。中国に台頭する民族主義者は、習近平氏を先頭に「意欲満々」だ。不幸な話だが、中国は米国へ戦争を仕掛けて「中華の時代」をテストするに違いない。





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    安倍首相とインドのモディ首相は、肝胆相照らす仲のようである。訪日中のモディ首相は、10月29日、安倍首相と公式会談の後、安倍首相「一緒に素晴らしい時を過ごした」。モディ首相「深い話ができた。一生忘れない」と語ったという。日印両首脳が、ここまで胸襟を開いて話し合いができたことは双方の国益にとって最上である。

     

    今回の日印首脳会談では、多くの協定で調印されたが、中でも注目すべきは、物品役務相互提供協定(ACSA)の協議入りでも合意した点である。自衛隊とインド軍が物資や役務を融通し合い、共同訓練や災害支援で協力しやすくするというもの。日印両首脳は共同訓練の分野も拡充することにした。これは、日印が「準同盟国」としての位置を示す。日印の安全保障政策において大きく前進した。

     

    『日本経済新聞 電子版』(10月30日付)は、「日印、AIを共同開発、首脳会談、デジタル協定合意」と題する記事を掲載した。

     

    協定内容は多岐にわたるので箇条書きにする。

     

       デジタル分野で新しいパートナーシップ協力を推進することで一致した。人工知能(AI)技術の共同研究に乗り出すほか、スタートアップ企業や人材の相互進出を促す。人口13億人にのぼるインドの豊富なデータ資源を活用。日印双方でデジタル経済をけん引して国際競争力を高める狙いがある。

     

        デジタル技術の研究開発を柱にするため、国内最大級の公的研究機関である産業技術総合研究所と、インド工科大学ハイデラバード校がAI技術の共同開発に乗り出す。ロボティクス分野での共同研究を開始する。

     

        次世代無線通信規格「5G」の協業も視野に入れる。5Gは通信速度が現在の100倍になり、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」や自動運転の通信基盤になる。米国やオーストラリアで世界最大手の華為技術(ファーウェイ)など中国製品の調達を制限する動きが広がっている。日印で5G技術の研究開発をめざす。

     

       金融危機時に当局同士が750億ドルの資金を融通する通貨スワップ(交換)協定でも合意した。

     

        インフラ協力も進める。第三国市場となるスリランカやミャンマー、バングラデシュなどでの港湾・道路の整備に日印両国で乗り出す。日本政府はインド北東部の開発に協力する。インドへの円借款の累計額は今年度を含めると約6兆円で最大となる。

     

        物品役務相互提供協定(ACSA)の協議入りでも合意した。自衛隊とインド軍が物資や役務を融通し合い、共同訓練や災害支援で協力しやすくする。日印両首脳は共同訓練の分野も拡充することにした。「準同盟国」としての立ち位置を示す。

     

    前記6項目の合意内容を見ると、日印が理想的な形で「補完し合う」関係が見られる。

     

       では、インド13億人の人口データの活用ができることは、日本にとって極めて有益である。データは、ヒト・モノ・カネと同格の貴重な資源である。日本がこの面でのギャップをカバーできるのはおおきなメリットだ。AIというインドの得意分野と提携可能になった。

     

       日印はAIで最高の研究機関が提携する。

     

       日印で5G技術の研究開発をめざす。

     

       750億ドルの資金を融通する通貨スワップ協定。

     

       第三国市場となるスリランカやミャンマー、バングラデシュなどでの港湾・道路の整備に日印両国で乗り出す。インドへの円借款の累計額は今年度を含めると約6兆円で最大となる。借款の金利は、日本の長期金利がほぼゼロゆえ、インドには好都合であろう。中国の「借金漬け」とは好対照。

     

     





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    中国人は、海外の「爆買い」が代名詞だった。それも、今では昔話である。国内では、節約ムードが強まっている。バブル経済崩壊に加えて米中貿易戦争の影が、個人の財布の紐を締めさせている。散財から節約へ。消費パターンが大きく変わった。

     

    『人民網』(10月19日付)は、「安価な商品が人気、中国の消費ダウングレードは本当か」と題する記事を掲載した。記事では、なぜか節約ムードを否定している。

     

    ザーサイ、インスタントラーメン、白酒「二鍋頭」など安価な商品が人気を集め、最近は「消費ダウングレード」の声があちこちから聞こえ、消費が経済発展で果たす基本的役割に外部から疑いの目が向けられている。消費は本当にダウングレードしたのだろうか」と疑問を投げかけていたが、専門家の見方を紹介して否定して見せたのだ。

     

    (1)「中国国際貿易促進委員会研究院国際貿易研究部の趙萍(ジャオ・ピン)部長は、「人々の生活水準が絶えず向上するにつれ、消費が全体としてバージョンアップしている。これは大きな流れであるだけでなく、長期的な流れでもある。特に経済が安定成長を維持する発展段階、1人当たり平均可処分所得が持続的に増加する段階では、消費にダウングレードの動きが出る可能性はない。ダウングレードするという見方は実際には経済学の基本的法則に背いている。よって『消費ダウングレード』という説には理論的根拠も現実的な基盤もないため、こうした見方は成立しないだろう」と述べた」

     

    この記事では、中国経済が「上り坂」であると言い切っている。つまり、「1人当たり平均可処分所得が持続的に増加する段階では、消費にダウングレードの動きが出る可能性はない」と。だが、家計調査でみた18年19月の可処分所得は、前年同期比6.%増であり、前年同期の7.%と比べ鈍化している。節約志向が強まる客観的背景があるのだ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(10月29日付)は、「中国、節約志向じわり、コーヒー1杯にも」と題する記事を掲載した。

     

    (2)「上海市中心部にあるショッピングセンター(SC)の1階。高級ブランドショップが並んでいるが人影はまばらだ。平日ということもあるが、昼時で周囲は人であふれているのにSCの中は閑散としている。同じ階で唯一人が集まっている店舗が、驚くことにファミリーマートだ。飲食店が並ぶフロアの一角にある店舗では、8席のイートインコーナーが昼食を食べる人で埋まっており、レジの前には列もできている。イートインコーナーで食事をしていた会社員の向静さん(24)は「コンビニエンスストアの弁当は10元(約160円)くらいで食べられるからよく利用する」と話す」。

     

     コンビニのイートインコーナーで食事する人たちが増えているという。レストランに行かず、コンビニで済ますのは、明らかに節約志向の定着であろう。昼飯代が10元とは、これまでにない変化だ。

     

    (3)「1999年に進出した米スターバックスコーヒーは、中国人にとって憧れの外国ブランドとして象徴的な存在だ。その追い風もあり、現在は中国全土に約3400店を展開する。ただ最近はスタバの圧倒的なブランド力に陰りが見えるとともに、1杯のコーヒーに30元(約480円)払う「プチぜいたく」疲れも中国の消費者の間ではみられる。そんななか急速に店舗網を広げる地元チェーンがある。スタバに対して、コーヒー1杯20元前後と10元ほど安い。ただ、同チェーンの場合は同じ商品を2杯購入すれば、もう1杯が無料になるため、スタバよりも実際は1杯の価格が15元程度安くなる。上海市内で働く張春さん(26)は「同僚の分もまとめて注文すればスタバよりも安く、割引でお得感もある。味も十分満足している」という。張さんも以前は毎日のようにスタバを利用していたが、最近はコーヒー1杯に30元を払うのは高いと感じるようになったという」

     

    スタバで、コーヒー1杯30元払うよりも、地元のコーヒー・チエーン店で20元のコーヒーで我慢する。これまでの中国社会で見られなかった消費パターンである。これこそ、バブル経済崩壊後に見られる「節約ムード」だ。日本でも同じパターンを経験してきた。バブル経済崩壊後の津波が個人消費へ押し寄せていることを告げている。この上に、米中貿易戦争の重圧がのしかかってきた。中国経済に逃げ場はない。


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