勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2018年10月


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    米経済通信社「ブルームバーグ」の景況調査によれば、10月の先行指数は再び悪化の見通しが強まった。月末には、中国国家統計局からPMI(製造業購買担当者景気指数)が発表されるが、悪い結果を予想させる。

     

    9月のPMIは前月より0.5ポイント低い50.8だった。好不調の節目となる50は26カ月連続で上回ったものの、春節(旧正月)休暇の影響で統計がふれやすい13月を除くと16年9月以来2年ぶりの低水準だった。10のPMIがさらに悪化するとなれば50へ接近する事態も想像される。その場合、株価の受けるショックは大きいだろう。

     

    『ブルームバーグ』(10月29日付)は、「中国経済の減速、10月に再び悪化ー先行指標が示唆」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「米国との貿易摩擦が激化し中国の政策当局が企業支援策を強化した10月に、中国の経済成長は引き続き減速したことがブルームバーグ・エコノミクスの集計した業況と市場心理に関する先行指標に示されている。今年1012月(第4四半期)の中国経済の動向は注目を集める見通しで、政府が債務をさらに急増させることなく安定した成長ペースを維持できるかどうかが焦点となりそうだ。7-9月(第3四半期)の中国経済は減速したものの、貿易戦争の影響の多くはまだ指標に反映されていない」

     

    10月から、米中貿易戦争の影響が本格的に出てくる段階だ。それだけに、低調なPMIが発表されるとショックが大きく、10~12月のGDP成長率予想の引下げに拍車をかけるかも知れない。

     

    (2)「ブルームバーグのアジア担当チーフエコノミスト、舒暢氏は「経済状況は国内・国外の両面で軟化し続けていることが先行指標に示されている」と指摘。「景況感は極めて低調で、小規模の民間企業の間では特にそうだ。景気支援策は輸出や消費、投資という成長のあらゆる側面に拡大し続けると予想される」と述べた。

     

    中国企業の景況感は悪く、小規模の民間企業で顕著であるという。政府の景気支援策は、輸出・消費・投資などGDPを支える全項目に拡大するほど、緊急事態を迎えている。はっきり言えば、SOSの状態になっているようだ、

     

    (3)「10月の中国経済に関する最初の公式統計は31日午前に公表予定の製造業とサービス業の購買部担当者指数(PMI)だ。ブルームバーグの集計データによると、製造業PMIは若干低下すると見込まれているが、建設やサービス業を含む非製造業PMIは前月比横ばいが予想されている。国家統計局の製造業PMIは9月に7カ月ぶりの低水準を付けていた」

     

    中国政府は、こういう緊急事態の中で安倍訪中を迎えたわけで、日本経済への期待は一段と高まっているものと思われる。それゆえ、「安倍歓待」となったのであろう。





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    安倍首相は28日、中国から帰国後に印度のモディ首相を山梨県鳴沢村の自身の別荘に招き、夕食をともにしながら会談した。八面六臂の大活躍である。日本の首相が、世界の要人と会談を重ねることは、国益増進という意味でも歓迎すべきことだ。

     

    今回の印度首相の会談が注目されるのは、中国訪問の直後に会談している点だ。しかも、安倍首相の別荘という私的場所での会談は、日印が親密な関係であることを世界に示した。とりわけ、印度は中国と国境を接しており、たびたび国境紛争を起こしている。安倍首相が、そういう地政学的に緊張関係にある中印首脳と相次ぎ会談することは、日本のバランス外交の面でも高い評価が得られるものだ。

     

    『日本経済新聞』(10月29日付)は、「インド太平洋での連携を確認首相 モディ氏を別荘で歓待」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「安倍晋三首相は28日、来日しているインドのモディ首相を山梨県鳴沢村の自身の別荘に招き、夕食をともにしながら会談した。モディ氏の来日は2729日の日程で、20149月と1611月に続いて3回目。安倍首相との首脳会談は12回目となる。日本側の説明によると、自由で開かれたインド太平洋の実現に向け、地域情勢や日印間の協力について話し合った。北朝鮮問題を巡っては、朝鮮半島の非核化に向けた連携で一致した。安倍首相は27日までの訪中の結果について説明した」

     

    日本と印度は、対中国関係では全く同じ立場にある。安全保障面で、中国とは緊張関係にあるからだ。中国は「一帯一路」で、印度周辺国に港湾を建設している。これは将来、中印が軍事的に緊張関係にならぬように、中国が事前に圧力をかけているもの。印度が、「一帯一路」への参加を頑なに拒んだ理由はこれだ。率直に言って、悪いのは中国である。

     

    印度は、歴史的に中立を標榜してきたが、モディ首相になってから、米国や日本と安保関係を深める体制を整えている。日本が仲立ちして、米印も安保面で接近しつつある。こうして、「インド・アジア戦略」が中国を対象にしてできあがってきた。日本が、米国へ強力に働きかけた結果だ。日本はまた、豪州とも密接な関係を構築し、将来は日米豪印の4ヶ国が中国と軍事的に対峙する公算が大きい。

     

    日本外交が、アジアで自由主義国家群をつなぐ接着剤という役割を果たしているのだ。モディ首相が、訪中を終えて帰国した安倍首相と翌日、会談する意図は明白である。中国

    最高指導部の腹の内を知るためである。日本外交の位置も高くなった。



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    歴代の中国国家主席は、経済運営は首相に任せてきた。習氏は、この慣例を破って李首相から経済政策決定権を奪った。この結果、経済的な混乱の責任は、すべて習氏が負う羽目になっている。今回の米中貿易戦争は、もし李首相の指揮下で取り組んだとすれば、違う形になったであろう。習氏は、成功も失敗もすべて一人で背負い込む形になっている。

     

    『朝鮮日報』(10月28日付)は、「無能な国有企業を支援する中国」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙の崔有植(チェ・ユシク)中国専門記者である。

     

    (1)「2012年12月初め、中国共産党総書記に選出された習近平国家主席は、最初の視察先として、改革開放発祥の地である広東省深セン市を選んだ。深圳市の蓮華山公園にある鄧小平の銅像の献花し、「改革開放の道は正確だった」と宣言した。総書記選出直前には、代表的な政治改革派である胡耀邦元総書記の息子、胡徳平氏と会った。徹底した政治・経済改革を予告したかに見えた」

     

    習氏は、国家主席への就任前後は、鄧小平の経済改革、市場主義などを高らかに宣言していた。その後、これを引っ込めて毛沢東路線へ切り替わった。主席に就任後、複雑な権力闘争を生き抜くには、「きれいごと」を言っていては駄目だという認識に変わったのだろう。権力保持が最大の目標になった。経済成長が、自らの権力保持の道具になった。過剰債務の累積は、この結果であろう。不動産バブルを利用したのだ。

     

    (2)「その期待は長続きしなかった。「中華民族の偉大な復興」をモットーに掲げたと思えば、インターネット検閲を含む徹底した思想統制で改革派の口を封じた。毛沢東に対する「領袖」「核心」といった称号に執着し、独裁権力の強化に走った。経済分野でも同様だった。任期中の経済ビジョンを示した2013年の第18期中央委員会第3回全体会議(三中全会)の決議には「市場が資源配分で決定的な役割を果たす」との文言が盛り込まれた。国有企業改革を加速し、民間企業の活力を高める意図と受け止められた。これもまた口先だけだった。国有企業の規模がさらに巨大化し、民間企業の資金で国有企業を支援する制度まで登場した」

     

    習氏が突然に、「中華民族の偉大な復興」を持出した理由は何か。誰も反対できないアドバルーンを上げて、権力保持に利用したはずである。一方、これを最大限に活用しているのが人民解放軍である。習氏は、軍隊を足下に引き寄せて権力基盤を固めたものの、これが新たな危機を招く要因になった。米国との対立激化である。軍隊という存在は、自律的に増殖するメカニズムを持っている。

     

    戦前の日本を見れば自明である。昭和に入ってからは軍部が独走し、満州を橋頭堡にした。これを足がかりに、中国全土へ戦線を拡大。最後は、太平洋戦争へと突入して自滅した。この日本の失敗の歴史を見れば、習氏は天皇の位置に立っている。人民解放軍を直属の軍隊である。だが、自らの権力基盤の軍隊は、習氏の指揮を離れて動き出す危険性と裏腹の関係になっている。日本の天皇に名を借りた軍隊が暴走を始めた経緯は、習氏のケースにも当てはまる。日本と同じリスクを抱えているのだ。

     

    (3)「習主席は絶対権力の確保に成功したが、中国はその代償を払っている。米中貿易戦争がその代表例だ。スターリン式独裁体制と強力な国家資本主義で米国を追い抜き、世界最大の経済大国になるという習主席のロードマップに米国がブレーキをかけたのだ。上海株式市場は年初来25%も下落。人民元も対ドルで8%以上下落した。中国経済を支える民間企業も揺らいでいる。習主席が就任して以降、中国の民間企業は、経済成長率が低下する一方で、賃金が年10%以上上昇するという二重苦に苦しんできた。

     

    習氏は、国家主席の任期を廃止して無期限にした。まさに、戦前の天皇の位置を手に入れている。これが、新たな危機を招くのだ。絶対権力と人民解放軍が一体化している現在、習氏は国民の手前、米国と妥協できないという「危機」である。現状の中国が、米国と五分に戦えるはずがない。中国に犠牲を強いるばかりであろう。日本が米国と開戦し、終戦の決断がなかなか付かず犠牲を大きくした原因は、絶対権力(天皇と軍部の一体化)の存在がしからしめたものだ。中国が、これから直面する危機は日本と同じ構図と見る。

     

    こうした背景において、中国の民営企業は国有企業の犠牲になっている。正規金融は、国有企業中心に行なわれ、民営企業は正規金融から閉出されている。やむなく非正規金融のシャドーバンキングに頼るという状態だ。これも、習氏の描く国有企業中心の産業構造がもたらした歪みである。戦時中の日本が、企業の統廃合を行なった背景が、現在の中国に当てはまるのだ。

     

    (4)「中国の79月期の経済成長率が6.5%まで低下し、中国危機論が再燃している。しかし、中国国内の専門家は、成長率低下よりも習近平政権の改革が後退していることを懸念する。革新能力も収益能力もない国有企業を代表選手としたところで、「中進国のわな」を乗り越えられるのかという指摘だ」

     

    「中進国の罠」とは、一人当たり名目GDPが1万~1万3000ドル程度に留まり、それ以上に成長できない現象を指す。米中貿易戦争が、中国をして「中進国の罠」に陥れるのでないか。現在、そういう懸念が国内で生まれているという。過剰債務という大きな罠に加えて米中貿易戦争が控えている。中国経済が、容易ならざる事態へ突入したことは疑いない。


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    10月中旬、韓国の文大統領と日本の安倍首相が、前後して欧州外交で火花を散らした。文氏は、朝鮮半島の非核化には制裁緩和が有効と主張して歩いた。この後、訪欧した安倍首相は制裁緩和が非核化に逆行すると、真逆の主張を展開した。

     

    この日韓首脳の対照的な主張に対して、欧州首脳はどう答えたのか。

     

    『朝鮮日報』(10月26日付)は、「韓日首脳の欧州外交戦」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙の孫振碩(ソン・ジンソク)パリ特派員である。

     

    (1)「アジア欧州会議(ASEM)首脳会議を控え、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と日本の安倍晋三首相は欧州を相手に「外交戦」を繰り広げた。文大統領は金正恩(キム・ジョンウン)を信じ、「まず北朝鮮への制裁を緩和しよう」と強調し、安倍首相は「国連の対北朝鮮制裁決議の完全な履行が重要だ」と述べた。ところが、文大統領が15を日のマクロン大統領との首脳会談で制裁緩和に触れても、マクロン大統領は首を縦には振らなかった。2日後にエリゼ宮を尋ねた安倍首相に対し、マクロン大統領は「対北朝鮮制裁決議の履行が重要だ」と支持を表明した。両首脳は破顔大笑して、親密さをアピールした」

     

    韓国では、文大統領だけが「親北朝鮮」ではない。大統領府と与党が一丸となって「親北・反米」路線を突っ走っている。これは。「86世代」という韓国独特の政治意識でつながった集団の存在がある。1960年代生まれ、1980年代に学生時代を送り、「光州事件」で反米闘争を戦った学生運動家上がりの連中に共通の認識である。未だに、学生運動時代の連帯意識に燃えており、彼らの「聖なる地」は北朝鮮であることは紛れもない事実である。学生時代に「金日成思想」に共鳴していたので、北朝鮮へは「打てば響く」大きな共鳴板を背負っているようなものだ。

     

    (2)「安倍首相は前日、マドリードでスペインのサンチェス首相と会談し、北朝鮮の核問題について、全面的な支持を取り付けていた。ドイツのメルケル首相、英国のメイ首相の反応も同様だった。結局19日のASEM首脳会議で51カ国の首脳は完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)で北朝鮮の核を取り除かなければならないとする声明を出し、文大統領はコーナーに追い詰められた格好となった」

     

    文氏が、今回の欧州行脚で見せた一連の「北擁護」は、米国からも警戒の目で見られている。すでに、南北による独自の取り決めには、ことごとく横槍が入っている。北の核放棄にとって、マイナスになるという判断があるからだ。米国による核放棄最優先政策は、欧州でも同じ感覚で受け止められている。韓国による制裁緩和論は、過去と同じ誤りを冒すという意味で拒否されているのだ。

     

    (3)「トランプ大統領は北朝鮮の核問題の解決を自身の成果にしようとしたが、欧州は一歩引いて、より冷徹に見据えている。力が支配する国際社会で北朝鮮問題について、米国よりも前面に出ようという国があるはずもない。結局、北朝鮮を信頼するに足りる根拠が持てない欧州首脳の前で、文大統領の努力は無駄骨だった。韓国の大統領が欧州の行く先々で日本の首相にしてやられるようで気分が重かった」

     

    欧州各国は、北朝鮮は信頼できない国であると見ている。そこへ登場したのが、文大統領の異質の北擁護論であった。安倍首相の制裁優先論が受入れられたのは当然であろう。文氏がなぜ、米国へ楯突く形で北擁護論に立ったのか。「86世代」という存在を抜きには考えられない。


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