勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2018年11月


    米大統領トランプ氏が、得意の「ディール作戦」に打って出てきた。中国経済が米中貿易戦争で大きく傾きかけている事実を把握して、中国へ「誘い水」を撒いた感じだ。米中首脳は、11月30日からのG20サミットで会談する。その席で、中国に具体案を出すように求めた。

     

    『ブルームバーグ』(11月2日付)は、「トランプ大統領が中国との貿易合意の草案作成を要請」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「トランプ米大統領はアルゼンチンで今月行われる20カ国・地域(G20)首脳会議で貿易について中国の習近平国家主席と合意に達したい考えで、想定される条件の草稿の作成を開始するよう重要閣僚に求めた。事情に詳しい関係者4人が明らかにした。中国との合意をにらんだ動きは、大統領が習主席と1日に電話で話したことから始まったと関係者らが述べた。内部協議だとして匿名を条件に語った。トランプ大統領は電話会談後に、「時間をかけた非常に良い」対話だったとし、貿易を巡る協議は「うまく進展している」とツイートしていた」

     

    (2)「トランプ大統領は重要閣僚らに、エスカレートする貿易摩擦の休戦を示唆するような合意の文書を策定するようスタッフに指示することを求めたという。草案作成には複数の省庁が関わっていると関係者らは付け加えた。トランプ大統領と習主席の間の電話会談が明らかにされたのは6カ月ぶりだった。双方とも、北朝鮮や貿易について建設的な話し合いを持ったとしている。中国が抵抗していた米側の要求をトランプ氏が緩めているのかどうかは不明」

     

    日米欧は、WTO(世界貿易機関)の規則改定に動き出している。11月中に共同提案する改革案によると、WTOに報告せずに自国産業の優遇策を続けた国を対象に新たな罰則を設ける。長期間改善がなければ「活動停止国」と認定。発言権を剥奪するなど活動資格を大幅に制限するという。中国を念頭に置いた措置であることは明らかだ。

     

    中国は、こういう日米欧の動きを知っているはず。我を張っていると、包囲網をかけられる恐れが出てきた。となれば、ここらで妥協する可能性もゼロではない。米国は、こういうWTO改革の動きと連動させながら、米中首脳会談を行なう意図であろう。

     

    (3)「1人の関係者によると、合意の妨げとなり得るのは知的財産を中国が盗んでいると米政権が主張している問題だという。政権はこれについて強い姿勢を取ろうとしている。クドロー米国家経済会議(NEC)委員長は、トランプ氏と習氏がG20会議に合わせて計画されている会談で、両国間の問題を巡る行き詰まりを打開できる可能性があると述べながらも、知的財産侵害やサイバーセキュリティー、関税などの問題で合意できない場合、トランプ氏は中国に対して「思い切った」行動に出るとも話した」

     

    トランプ側近とされる、クドロー米国家経済会議(NEC)委員長は、米中首脳会談に当って次の点は絶対に譲歩しないと指摘している。「知的財産侵害やサイバーセキュリティー、関税などの問題で合意できない場合、中国に対して『思い切った』行動に出る」と。この場合、中国からの全輸入品に高い関税をかけことが念頭にある。そうなると、世界経済にとっても深刻な打撃になるし、当の中国経済がひっくり返るリスクを帯びている。大きなヤマ場を迎えた。



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    2010年5月から毎日、中国や韓国をテーマにブログ(「勝又壽良の経済時評」)を書き続けています。これが、私の知的財産です。メルマガに移行しさらに磨きをかけ、ズバリと問題の核心に迫ります。週1回の配信が基本ですが、随時、「号外」を出します。30年間の経済ジャーナリストの経験。16年間の大学教員としての成果を織り交ぜ、特色あるメルマガを配信します。近く、このメルマガに私の使える時間のすべてを集約させます。ぜひ、ご予約をお願い申し上げます。

     

    1号は11月1日(毎週木曜日発行)を配信中です。目次は、次のようです。

    投資主導経済の落とし穴

    バブル崩壊後の金融危機

    米中貿易戦争重圧の中味

    今後、本格化する輸出不振

    消費は早くも生活防衛型

    茅台酒株価が急落の意味

    中国経済の成長は、2010年がピークでした。これは、総人口に占める生産年齢人口(15~64歳)がピークを迎えたからです。中国は1979年から「一人っ子」政策を行い、一夫婦に1人の子どもしか出産を認めなかった。これは、15歳以下の人口を減らして、出産・育児で家庭にとどまる女性の数を減らしたので、多くの主婦が外で働ける機会を得ました。これが、中国経済を歴史にないスピードで高成長を実現させた理由です。

     

    総人口に占める生産年齢人口比率のピークも2010年でした。これ以前は、生産年齢人口比率が上昇、つまり働き手が増え続けるという状況で、経済成長率を押上げたのです。だが、2011年以降は。生産年齢人口比率が低下に向かっています。働き手が減って、扶養人口は増加に転じました。これでは経済成長率が下がります。現在は、その下落過程にあるのです。

     

    実は、生産年齢人口比率が上昇に向かって行く過程で、住宅需要も急増することが分っています。これが、住宅バブルを生む背景になっています。日本の場合もそうでした。この点から言えば、中国の住宅バルは2010年前後をピークにして終わるべきもの。実際は2012年以降、バブルを積極的に利用する政策へ転換したのです。(以下、メルマガで

     

     



    文大統領は11月1日、来年度の予算案を説明する施政方針演説で、「所得主導成長」を初めとするこれまでの経済運営基調を維持していく方針を明確にした。文大統領は、「共に豊かに暮らそう」という表現を11回も繰り返したという。その通りである。人間は豊かな生活を送れる権利を持っている。問題は、政策がそれをいかに正しく実現するかだ。

     

    文大統領は、登山が趣味である。高山に登るには、登山道を歩くことである。文氏は、最短距離を理由に、登山道を外れた崖道をよじ登っていることに気付かないのだ。まさに「経済トンチンカン」である。こういうリーダーに率いられた韓国国民は、「共に豊かに暮らそう」という目標の達成は不可能。遭難は確実である。

     

    景気動向指数の「一致指数」は、4月から連続6ヶ月下降し続けている。韓国の景気判断では、この局面をもって「不況期入り」と公式判断している。これに従えば、韓国経済は10月から不況期に突入した。

     

    文氏は、弁護士出身である。今回の韓国大法院(最高裁判所)が、日本徴用工裁判に見せた「時空を超えた判決」は、浮き世離れした現実無視の最たるケースである。実は、文氏にもこういう思潮傾向が見られる。現実から逃避した空想に生きている。国民が豊かになるには、先ず生産性を上げ、その上で分配率を引上げることが「正規の登山法」なのだ。

     

    『朝鮮日報』(11月2日付)は、「不況の最中に分配訴えた文大統領施政方針演説」と題する社説を掲載した。

     

    (1)「文在寅(ムン・ジェイン)大統領は国会で来年度予算案を説明する施政方針演説を行い、「所得主導成長」をはじめとするこれまでの経済運営基調を維持していく方針を明確にした。文大統領を「共に豊かに暮らす包容国家」を国家目標とし、そのために「所得主導成長、革新成長、公正競争を中心とした政策基調が続けられなければならない」と述べた。文大統領は35分間の演説の相当部分を分配、二極化、不平等などいわゆる公正経済問題に割いた」

     

    「所得主導成長」には、甘い響きがある。高い所得を生むには、「分配が先か」「生産性を上げるが先か」という根本問題がある。文氏は、反企業主義者である。「生産性」を上げると、企業が悪巧みをして私服を肥やすに違いない。それを防ぐには、先に最低賃金を大幅に引き上げて労働者の権利を確保する。こういう発想法に従っているのであろう。この方法を採用して大失敗したのがフランスである。仏政府は、OECDから忠告を受け、すぐに最賃引上幅を圧縮した。生産性上昇に見合ったペースに戻し、「景気の乱調」は収まった。韓国は、すでにOECDとIMFから警告を受けている。だが、「崖道登山」を強行しているのだ。墜落死は確実であろう。

     

    (2)「文大統領は「共に豊かに暮らそう」という表現を11回繰り返した。共に豊かに暮らすことは全ての国々の目標だ。ところが、共に豊かに暮らす道を見つけた国は豊かになり、おかしな道を歩んだ国は豊かにはならない。現在の文大統領は韓国をどちらの道に導いているだろうか。豊かになる道に向かっていると自信を持って言えるか。文大統領の就任以降、所得分配はさらに悪化している」

     

    韓国国民は、こういう夢想を好む大統領を選んだのだ。反対ならば、もう一度「ロウソクデモ」をやって意思を示すほかない。



    中国政府は、不動産バブルの後遺症が何をもたらすか。それについて無視し続けてきた。統制経済手法を使えば、不良債権をもみ消す魔法の杖になる。そういう幻想に浸っていたことは間違いない。日本の社会主義者が、中国経済の過剰債務について楽観的な発言をしてきたことがそれを物語っている。現実は、そんな甘いものではなかった。資本主義経済の歴史について、真摯な研究を怠ってきた矛楯が今、中国経済の危機を招いている。経済の核心部分である金融は、資本主義経済と変わらないのだ。

     

    習近平氏は、米国留学の経験がない。市場経済の心髄に触れることなく、国有企業中心という逆立ち理論にはまり込んでしまった。市場経済のもたらす調整機能の精緻さを軽視してきた。その報いが、中国経済を身動き取れない窮地へ追い込んでいる。

     

    『日本経済新聞 電子版』(10月31日付)は、「経済の下押し圧力高まる、中国が政治局会議」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「中国共産党は10月31日、習近平(シー・ジンピン)国家主席が主宰する中央政治局会議を開き、中国経済の現状を分析した。会議は『経済運営は安定の中にも変化があり、経済の下押し圧力が高まっている』と決定した。さらに『一部企業の経営は困難が多く、長年積もったリスクや隠れた問題が噴出している』と指摘した。政治局会議がここまで明確に中国経済の厳しさを認めるのは異例だ」

     

    中国共産党中央政治局が会議を開いて、中国経済の現状が厳しいことを認識したという。「何を今さら」と思うほど、スローモーションである。官僚機構において末端の「バッドニュース」が途中でもみ消されて、最高指導部に上がらなかったにちがいない。こういう時こそ、市場機構が健全に機能していれば、「バッドニュース」は価格に反映されて、即座に最高指導部の目にとまるもの。そういう機構が存在しない中国共産党は、事態の認識ギャップに落込んでいるのであろう。

     

    今年は、リーマンショックから10年たつ。

     

    FRB(米連邦準備制度理事会)の議長を務めたボルカー氏はこのほど、回顧録をまとめたという。「Keeping At It」(「がんばり続ける」の意)と題した回顧録である。その中で次の点を強調しているという。

     

    (1)「この10年間、前例のない量的金融緩和策を実施してきたことで金融システムに生じている様々なリスクを懸念している。「借り入れが増え、負債が膨らんでいる……金利は極めて低い」ことから、51歳である筆者(この記事の)と同世代は、恐らく『少なくとも2回』、さらなる金融危機に出くわすと予想している」(『フィナンシャル・タイムズ』10月26日付「ボルカー氏が残す警鐘」)

     

    ボルカー氏は、この10年間で世界の債務が一段と増加していることに警告を発している。実は、中国がその筆頭であることだ。中国経済こそ警戒が必要になっている。以下のデータは、大和総研資料に基づく。

     

    (2)「BIS(国際決済銀行)統計によると、債務残高のGDP比は2008年末の141.3%から2017年末には255.7%に急上昇した。この水準や上昇ペースの速さは、かつて金融危機に陥ったり、バランスシート調整による景気急減速を余儀なくされた国々に匹敵している」

     

    中国の債務残高のGDP比は、2008年末の141.3%から2017年末には255.7%に急上昇した。短期間でこれだけ債務残高比率が急上昇した国は、その後に景気が急減速している。中国が、今になって危機感を持ったのは「遅すぎた」のだ。

     

    (3)「中国の債務問題をより詳しく見るために、主体別債務残高のGDP比の推移を確認すると、政府は2008年末の27.1%から2017年末には47.0%に、同様に家計は17.9%48.4%、非金融企業は96.3%160.3%となっており、特に非金融企業の債務が急膨張していることが分かる。非金融企業の債務残高の8割程度は国有企業によるものとされ、本来であれば政府が負うべき債務を国有企業が肩代わりしている可能性が高い」

     

    2008年末~2017年末の対GDP比の債務残高は、次のようになった。

       政府は27.1%⇒47.0%

       家計は17.9%48.4%、

       非金融企業は96.3%160.3%(非金融企業の債務残高の8割程度は国有企業による)。国有企業が過剰債務を負っているが、インフラ投資の資金的な負担を背負わされている。

     

    (4)「家計の債務残高について、IMF(国際通貨基金)は「家計債務残高の増大は、住宅価格の急速な下落のようなショックが起きた場合に、金融危機の下地となる」としている。かつて不動産バブルが発生し、それが崩壊した経験を持つ日本の場合、1990年~2000年にかけて家計債務残高のGDP比は70%を超える局面が多かったが、2017年末時点は57.4%となっている。中国の問題は、家計債務の増加ペースが速いことである。GDP比は2008年末(17.9%)から2017年末(48.4%)の9年間で30.5%ポイントの急上昇を見せた」

     

    IMFが懸念していることは、家計債務の増加速度が高いことである。ここで、住宅の値下がりが起れば、住宅ローン返済の延滞が起って金融危機の引き金になる。今まさに、それが始ってきた。10月に入って住宅価格の値下がりが起っているからだ。警戒すべき事態だ。



    文大統領の支持率は、9月中旬に50%を割り込んだが、南北首脳会談で回復した。それも一事的なもので、再び下落に転じている。最新データでは55.5%である。この調査は、10月29~31日に行なわれた。実は、この2ヶ月前(8月27~31日)の世論調査(調査会はリアルメーターで同一)でも、ほぼ同じデータが出ていた。この時の支持率は55.2%である。不支持率は、今回が40.0%。前回が39.0%である。

     

    このように、2ヶ月間で「行って来い」に終わった。株価では、一時的に高値をつけても再び元の状態に戻ることを指す。文大統領人気の底流は「冷めてきた」と言って良さそうだ。

     

    『聯合ニュース』(11月1日付)は、「文大統領の支持率55.5% 5週連続下落」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「韓国の世論調査会社、リアルメーターが1日に発表した文在寅(ムン・ジェイン)大統領の支持率は前週より3.2ポイント低い55.5%で、5週連続の下落となった。不支持率は3.4ポイント上昇の39.0%だった。調査は10月29~31日、全国の19歳以上の有権者1505人を対象に実施された。リアルメーターは支持率の下落について、株価の急落や長期失業者の増加、景気先行指数の下落など経済指標の悪化が主に影響したと分析した」

     

    リアルメーターは支持率の下落について、経済指標の悪化を掲げている。

        株価の急落

        長期失業者の増加

       景気先行指数の下落

     

    以下に解説を付ける。

     

        韓国の株価指数が10月に入って世界主要指数のうち最も大きく下落したことが分かった。韓国経済と株式市場の魅力が落ち、外国人の韓国市場離れ、すなわち「コリアパッシング」現象が発生したからだと指摘されている。

     

        韓国統計庁の経済活動人口調査によると、今年19月の失業者数は1117000人で、前年同期を51000人上回った。うち求職期間が6カ月以上の「長期失業者」は152000人で1万人増えた。統計の比較が可能な2000年以降で最悪だ。通貨危機の影響が残っていた2000年当時でさえ、失業者数は1006000人、長期失業者は142000人で今年よりも状況はましだった。世界的な金融危機による打撃を受けた09年も失業者数918000人、長期失業者83000人で今年より状況が良好だった。要するに、現状はリーマンショック時を上回る「高失業時代」へ転落した。

     

       9月の景気一致指数は、4月から6カ月連続で下降線をたどっている。専門的な判断では、一致指数が6カ月連続で下落すれば景気が下方転換したと判断する。つまり、現在は不況期入りである。

    国民生活に直結する前記の3指標が、いずれも不調である。国民が、「文大統領離れ」を起こすのは当然であろう。「北朝鮮ボケ」している間に、足下の景気が大きく揺らいでしまった。

     


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