米大統領トランプ氏が、得意の「ディール作戦」に打って出てきた。中国経済が米中貿易戦争で大きく傾きかけている事実を把握して、中国へ「誘い水」を撒いた感じだ。米中首脳は、11月30日からのG20サミットで会談する。その席で、中国に具体案を出すように求めた。
『ブルームバーグ』(11月2日付)は、「トランプ大統領が中国との貿易合意の草案作成を要請」と題する記事を掲載した。
(1)「トランプ米大統領はアルゼンチンで今月行われる20カ国・地域(G20)首脳会議で貿易について中国の習近平国家主席と合意に達したい考えで、想定される条件の草稿の作成を開始するよう重要閣僚に求めた。事情に詳しい関係者4人が明らかにした。中国との合意をにらんだ動きは、大統領が習主席と1日に電話で話したことから始まったと関係者らが述べた。内部協議だとして匿名を条件に語った。トランプ大統領は電話会談後に、「時間をかけた非常に良い」対話だったとし、貿易を巡る協議は「うまく進展している」とツイートしていた」
(2)「トランプ大統領は重要閣僚らに、エスカレートする貿易摩擦の休戦を示唆するような合意の文書を策定するようスタッフに指示することを求めたという。草案作成には複数の省庁が関わっていると関係者らは付け加えた。トランプ大統領と習主席の間の電話会談が明らかにされたのは6カ月ぶりだった。双方とも、北朝鮮や貿易について建設的な話し合いを持ったとしている。中国が抵抗していた米側の要求をトランプ氏が緩めているのかどうかは不明」
日米欧は、WTO(世界貿易機関)の規則改定に動き出している。11月中に共同提案する改革案によると、WTOに報告せずに自国産業の優遇策を続けた国を対象に新たな罰則を設ける。長期間改善がなければ「活動停止国」と認定。発言権を剥奪するなど活動資格を大幅に制限するという。中国を念頭に置いた措置であることは明らかだ。
中国は、こういう日米欧の動きを知っているはず。我を張っていると、包囲網をかけられる恐れが出てきた。となれば、ここらで妥協する可能性もゼロではない。米国は、こういうWTO改革の動きと連動させながら、米中首脳会談を行なう意図であろう。
(3)「1人の関係者によると、合意の妨げとなり得るのは知的財産を中国が盗んでいると米政権が主張している問題だという。政権はこれについて強い姿勢を取ろうとしている。クドロー米国家経済会議(NEC)委員長は、トランプ氏と習氏がG20会議に合わせて計画されている会談で、両国間の問題を巡る行き詰まりを打開できる可能性があると述べながらも、知的財産侵害やサイバーセキュリティー、関税などの問題で合意できない場合、トランプ氏は中国に対して「思い切った」行動に出るとも話した」
トランプ側近とされる、クドロー米国家経済会議(NEC)委員長は、米中首脳会談に当って次の点は絶対に譲歩しないと指摘している。「知的財産侵害やサイバーセキュリティー、関税などの問題で合意できない場合、中国に対して『思い切った』行動に出る」と。この場合、中国からの全輸入品に高い関税をかけことが念頭にある。そうなると、世界経済にとっても深刻な打撃になるし、当の中国経済がひっくり返るリスクを帯びている。大きなヤマ場を迎えた。