勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2018年11月


    米中貿易戦争は、中国経済にどの程度の影響を与えているのか、米中は9月24日、互いに追加関税を発動しており、10月はちょうど1カ月経過したところだ。10月の製造業PMI(購買担当者景気指数)は、予想以上の悪化となって中国経済に襲いかかっている。

     

    『ロイター』(10月31日付)は、「中国製造業PMI、約2年ぶり低水準で予想下回る、輸出受注低迷」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「中国国家統計局が31日に発表した10月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は50.2と前月の50.8から低下し、市場予想を下回った。国内外の需要が減退し、米国との貿易戦争激化による経済への影響が強まっている可能性が示された。製造業PMIは2016年7月以来の低水準。業況改善・悪化の節目となる50は27カ月連続で上回った。ロイターがまとめたアナリストの予想は50.6への小幅な低下だった。今回のデータは中国経済の一段の減速を示唆しており、当局は景気支援に向けさらなる措置を講じる可能性がある」

     

    10月の製造業PMIは、50.2と9月の50.8から大幅に低下した。市場の事前予想では50.6と小幅な低下。予想をかなり下回る低下は、中国経済の末端が相当な冷え込みとなっている結果だ。マネーサプライ(M2)が、名目GDP成長率を下回る異常状態を反映したものであろう。「信用収縮」が、確実に起っているはずだ。

     

    (2)「ANZの中国担当チーフエコノミスト、レイモンド・ユング氏は『きょうのPMI統計の数字は全て、経済活動の全般的な鈍化を裏付けるものだった』とし、民間セクターの状況は統計が示しているより『はるかに悪い』と指摘した。ただ『1月に見込まれる預金準備率引き下げ以外では、一段の景気支援策は控えめになると予想している。政府の優先課題は金融市場の混乱を回避することだ』との見方を示した。生産に関するサブ指数は52と9月の53.0から低下。新規受注を示すサブ指数は52.0から50.8に低下した。新規輸出受注を示すサブ指数は46.9と9月の48.0から低下、5カ月連続で50を下回った」

     

    民間セクターの状況は、統計が示しているより「はるかに悪い」という指摘は正しい。不思議に思うのは、前記のマネーサプライ(M2)が、名目GDP成長率を下回るという異常さに、誰も言及していないことだ。私は、この点にこそ中国経済の抱える問題点があると固く信じている。「同好の士」はいないのだろうか。

     

    10月の新規輸出受注を示すサブ指数は、46.9と9月の48.0から低下した。5カ月連続で50を下回ったことは、中国の輸出が停滞するシグナルである。当然、貿易収支は悪化するので、来年の経常収支は赤字に転落する公算が大きい。その時に何が起るか。人民元相場投機と外貨準備高の3兆ドル台割れ。中国経済の脆弱性が、一挙に明らかとなろう。

     

     

     



    先に韓国大法院(最高裁)は、戦時中の徴用工裁判で原告の訴えを全面的に認める判決を下した。判決内容は、韓国市民から見れば破格の高額である。

     

    原告が請求した1億ウォン(約1000万円)は満額認められた。このほか、控訴審弁論終結日の2013年6月19日から計算して、年20%の利率に相当する金額を追加で支払うべきという決定も付いている。原告は、結果的に新日鉄住金(現・日本製鉄)に対して2億ウォン(約2000万円)ほどの賠償金の債権を持つことになった。新日鉄住金が賠償に応じなければ利子はさらに増えるという。

     

    この判決は、日本の最高裁判所が控訴を棄却しているので、日本国内では請求不可能である。そこで、新日鉄住金が韓国で保有する資産を差し押さえる道しかない。だが、新日鉄住金が保有するポスコ(製鉄会社)株(3.32%保有)はADR(米国預託証券)になっている。となると、差し押さえには米国裁判所の許可が必要になる。米国は、日本と韓国で判決が異なる以上、日韓どちらの判決に従うかという難問が控えている。こうなると、韓国の原告は、実際に現金を手にするまで気の遠くなるような時間がかかる。

     

    だが、新聞報道で「一人1000万円、金利20%が加算されると2000万円」になると聞けば、誰でも宝くじに当った気持ちになるのは当然だ。韓国政府への問合せが殺到しているという。

     

    『中央日報』(11月1日付)は、「『うちの祖父も徴用、訴訟を起こせばよいのか』韓国政府に問い合わせ殺到」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「この日、強制徴用被害者を支援する行政安全部過去関連業務支援団には問い合わせの電話が続いた。「うちの祖父も被害者だが、いま訴訟を起こせば勝てるのか」というような問い合わせが多かった。裁判所の判決とは別に政府も強制徴用者を把握し、慰労金として遺族に2000万ウォン(約200万円)、負傷者には300万-2000万ウォンを支払った。現在まで政府慰労金の支払いが決定した事例は7万2000件」

    韓国政府は、1965年の日韓協定で徴用工への慰労金を支払っている。日本が、個人へ支払うべきものを韓国政府は一括受領した形になっているからだ。韓国は、個人に渡さずインフラ投資に使ってしまった。それだけに、個人が請求すれば払わざるを得ない立場である。

     

    今回の韓国大法院は、日本の対朝鮮植民地政策自体が違法という判決である。よって、時効(10年)は存在せず、遺族は永久に日本へ請求できる権利を持つとしている。この植民地は違法という司法判断は、世界的にも珍しいものとされている。時空を超えた司法判断の是非が問われるからだ。問題は、司法が国家の外交政策について、その是非について最終判断を下せる立場なのか、が新たに問われる。そうであれば、韓国大法院が外交を担当するという矛楯したことまで許されることになる。こういう空想論は、韓国国内で存分にやっていただき、外国に迷惑をかけないことだ。

     

    今回の判決は、日本企業の韓国進出にブレーキをかける。日本の著名企業は、戦時中に朝鮮半島から徴用工を採用してきた。その結果、1人2000万円も請求が出てきたら経営は不可能になろう。よって、韓国進出は回避するにちがいない。こんな韓国が、TPP11に参加したいと意志表示してきたら日本はどう対応するのか。当面は、韓国得意の口調を借りて、「国民感情からみて検討する雰囲気でない」とでも言っておくべきだ。



    TPP(環太平洋経済連携協定)は、米国抜きの11ヶ国によって12月30日に発効するという。これほど、紆余曲折をへた協定も珍しいだろう。先ず日本国内でのねつ造情報による「TPP亡国論」。米国の脱退。最近では、中国がTPPに参加するという「フェイクニュース」である。大メディアに検証されることなく登場するニュースである。

     

    日本にとってTPP参加問題ほど、議論を呼んだテーマはなかった。ともかく、誤解、ねつ造、中傷というあらゆる種類の偽情報が飛び交った。日本の健康保険制度がなくなる。狂牛病の肉も輸入させられる。子ども騙しのような話が「創作」されたのだ。このフェイクニュースをばらまいたのが革新政党である。今になって、自らの不明を恥じているにちがいない。

     

    『ロイター』(10月31日付)は、「TPPが1230日発足、茂木再生相、日本のGDP8兆円増加」と題する記事を掲載した。

     

    (1))「茂木敏充経済再生相は31日、米国を除く11カ国による環太平洋連携協定(TPP)が12月30日発効することが決まったと発表した。TPPは6カ国以上の国内手続きが終了してから60日後に発効することが決まっており、すでに日本、メキシコ、シンガポール、ニュージーランド、カナダが国内手続きを終えていたが、このほどオーストラリアが国内手続きを完了させた。年明け以降に日本が議長国として閣僚級のTPP委員会を開催し、新規加盟国などを議論する」

     

    年末ギリギリの12月30日、TPP11が発効する。粘りに粘って、成功へこぎ着けた象徴のような感じである。来年1月には、日本が議長国でTPP委員会が開催される。そこで、新加盟国問題が取り上げられる。これまでの報道では、タイ、台湾などが取り沙汰されている。新加盟国は、現条件をすべて受入が前提である。交渉の余地はない。

     

    中国の加盟問題が、噂にあがっている。あり得ないことだ。TPPは、米国が中国を加盟させないように高い壁をつくり、参入不可能な形で制度設計したものだ。国有企業のウエイト引き下げ、データの公開などは、中国の生命線を脅かすものである。こういう実態を調べることなく、「中国参加も」という不確かな情報が流れるのは無責任そのものだ。

     

    (2)「茂木敏充経済再生相は、11カ国が参加すれば「域内人口5億人、GDP(国内総生産)10兆ドルと極めて大きな一つの市場が誕生し、日本の経済成長、アジア太平洋地域の発展にも大きな意義を持つ」と強調。「TPPにより、日本のGDPは8兆円近く増加する」との見通しを示した。TPPは、自動車などの輸出には恩恵が大きいが、国内の農業・水産業には不安材料とされている。これについては「各種政策を確実に実施するとともに、関係者への丁寧な説明を行なっていく」とした」

     

    日本のGDPは、TPPによって年間8兆円の増加が見込めるという。加盟国の中では、ベトナムが最大の受益国になる試算がある。日本も高い受益国に分類されている。国内の農業・水産業には不安の種になっているが、現状でも生き延びられる保証はない。高齢化が壁である。そこで、協業化が不可欠だ。個人業から協業による「ビジネス化」する。大型投資を行なって、人件費の安い加盟国と対抗できる体制を整えることだ。

     

    TPP加盟反対論は、すべて現状を変えることを忌避する議論であった。真面目に考えれば、あり得ない荒唐無稽の話が、さも現実化するという恐怖感を煽っていた。選挙で当選したいという思惑だけで動いていたのだろう。政党人として深い反省が必要である。


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    韓国の文大統領は罪作りである。最低賃金の大幅引上げが、景気を失速させたからだ。韓国では、景気循環の好不況判断において「一致指数」(生産・出荷・小売など)が6ヶ月連続して下落すれば「不況期入り」と判断するルールである。4月から連続6ヶ月(9月まで)減少したことから不況期入りを近く正式決定する。

    不況原因になった最低賃金引き上げは、すでに来年の引上げ幅まで決定済みである。今年の16.4%引上げに加えて、来年の10.9%アップが決定されている。普通の政権ならば、不況入りすれば、最賃の大幅引上げ幅を圧縮するなどが行なわれる。文政権には、そういう弾力的な軌道修正が困難である。主義に殉ずる硬直的な政権であるのだ。

     

    『韓国経済新聞』(10月30日付)は、「韓国社会が企業家を罪人扱い、これでは経済はまともに動けない」と題する記事を掲載した。

     

    この記事を読むと、韓国経済が不況期入りした背景がよく分かる。政府の強引な実態無視の政策が、企業の弾力性を奪っているからだ。矢継ぎ早に打ち出す文政権の「規制強化」が企業を萎縮化させている。

     

    (1)「『最低賃金が恐ろしい勢いで上がり会社を経営するのが怖くなるほどです』『韓国社会が企業家を罪人扱いしています。これでは経済がまともに動きません。企業家が哀訴を浴びせた。29日にソウルの首相公館で開かれた李洛淵(イ・ナギョン)首相と韓国経営者総協会(経総)会長団の夕食会でのことだ。経総会長団としてこの席に参加した企業家は2時間30分にわたり経営上で感じた困難をあますことなく吐露した。李首相は彼らの訴えを聞き、共感する部分がある。企業家の士気向上に向け努力したいと答えた

     

    韓国社会にはびこる企業家を排斥する風潮は、中国独特の「商工業排斥」に原因がある。農本主義と関わるが、始皇帝は農業を奨励する一方で商工業を排除した。これは、商工業が短期間に富を蓄積して、謀反を引き起こすという誤解に基づいたもの。この誤った考え方が、韓国で定着した。2200年前のこういった思考方式が、現代の韓国に引き継がれている。

     

    (2)「これに対し李首相は「すでに文在寅(ムン・ジェイン)大統領が『2020年に最低賃金1万ウォンの公約を守れなさそうだ』と明らかにするなど速度調節をする方向に進んでいる。来年の最低賃金はすでに決まっておりどうにもできないが、その後は企業の受け入れ余力などが最低賃金引き上げ幅に十分に反映されるだろう」と答えた。労働時間短縮制度(週52時間労働制)を弾力的に適用してほしいという要請も続いた。李首相は「経済活性化のために企業の役割が重要であり企業の意見を十分に傾聴し検討する」とした。また「新政権が意欲を持って推進した政策が市場に受容される過程でさまざまな痛みがあるという点をわかっている」と話し一部政策を修正する可能性も示した」

    李首相は、企業家の悩みを聞き同情しているが、「来年の最低賃金はすでに決まっておりどうにもできない」と言っている。これは、来年の景気がさらに悪化することを認めたも同然の発言である。景気の実勢が悪化しようとも、最低賃金の大幅引き上げは労組との約束だから撤回しない。文政権が、どこを向いて政治をしているのか、それを明瞭に伝える話であろう。



    人民元の対ドル相場の下落が加速化している。中国当局は、為替相場を対米貿易摩擦の切り札に使わないと繰り返すが、じりじりと1ドル=7元に向かっている。10月31日23時10分の相場は1ドル=6.9761元である。中国人民銀行は31日、元の対ドルでの基準値を1ドル=6.9646元に設定した。基準値としては、2008年5月以降の安値水準である。朝の基準値は、23時ではさらに売られている。

     

    10月の製造業PMI(購買担当者景気指数)が発表された。9月よりも.さらに悪化して50.2となった。2016年7月以来の低水準で、9月の50.8から急激な落込みである。PMIは、50以上は好況、50以下は不況という判断基準である。10月の50.2は、50スレスレの数値で、11月のPMIは50を割り込むであろう。そうなれば、「中国不況入り」とう認識が一気に高まる。

     

    注目に新規輸出受注を示すサブ指数は46.9である。9月の48.0から低下し、5カ月連続で50を下回ったまま。中国の輸出はこれまで、米国の関税引き上げを回避するため企業が出荷を前倒ししたので、堅調さを維持してきた。だが、前記の新規輸出受注を示すサブ指数46.9が示す通り、今後数カ月間に輸出額は、輸出受注サブ指数の低下のように急減する懸念が強い。人民元相場は、製造業PMIの悪化を反映したものだ。

     

    『大紀元』(10月31日付)は、「人民元1ドル=7元大台が目前に、急落阻止に外貨準備を活用か」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「スイス銀行(UBS)はこのほど、元相場について短期的に1ドル=7元台で、2019年末の人民元は1ドル=7.3元の水準まで下落すると予測した。主因は、米中貿易戦、中国の景気鈍化、緩和的な金融・財政政策と、経常収支の悪化があげられる。UBSは、中国経済減速で19年の国内総生産(GDP)成長率は今年の6.5%前後から6%に低下すれば、1ドル=7.5元台まで元安は一気に進むとして、元安阻止で外貨準備の活用は無意義だと示唆した」。

     

    UBSは人民元相場の低落を予想している。理由は、次の4点である。

        米中貿易戦=来年から本格的な影響が出る。

        中国の景気鈍化=来年のGDPは6.2%程度まで低下する。

        緩和的な金融・財政政策=預金準備率引き下げや減税実施。

        経常収支の悪化=来年の経常収支赤字は輸出減から当然起る。外貨準備高の取り崩し始る。中国政府が「一帯一路」に及び腰になっている最大の要因は、経常収支赤字を恐れていることだ。

     

    GDPは、今年の6.5%前後から来年6%に低下すれば、1ドル=7.5元台まで元安が一気に進むと見ている。この予測の的中率はかなり高いであろう。中国経済はこれまで、無駄なインフラ投資に支えられて実勢悪を糊塗してきた。だが、米中貿易戦争でダメ押しを受ける。年貢の納め時を迎えるのだ。


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