勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2018年11月


    香港は、世界で最も高価格な不動産市場である。中国本土と直結しているが、ついに弱気相場に向かい始めた。中国の弱気不動産相場を反映している。香港の最も高級な地域では、駐車スペースよりも少し広いアパートに、100万ドルの値が付くこともあるという。その超高級マンション価格が下落に転じている。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(11月27日付)は、「香港の不動産価格、下落を開始か」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「上昇する一方かと思われたその市場が最近、下落し始めた。香港不動産仲介大手の中原地産(センタライン・プロパティー・エージェンシー)がまとめた中古住宅の価格指数は8月のピークから5%下落している。しかし、その集計値は市場の暗いセンチメントを正確には反映していないだろう。一部の住宅不動産の価格はこの1カ月間だけで10%以上も下げてきた。最近の取引高の急減からは、買い手がさらなる値下がりを待っていることがうかがえる」

     

    調査会社デモグラフィアは、世界で最も住宅に手が届かない都市の第1位に8年連続で香港を選んできた。その香港不動産市場が下落に転じたことは、それだけでも「大ニュース」であろう。私が注目するのは、香港不動産市場の裏に控えている「チャイナマネー」の存在だ。中国資金が手を引き始めている点に、中国経済の斜陽を実感できる

     

    (2)「香港の不動産市場にとって重要なのは香港と中国本土における経済見通しと金融環境だが、その両方が悪化してきている。香港の主要株式指数は1月半ば以来で20%前後も下げている。ドイツ銀行のリサーチによると、1990年代終わりからのいくつかの景気サイクルでは、香港の不動産の弱気相場は通常、株式のそれに続いて起きてきたという」

     

    香港不動産市場にとって重要なのは、香港と中国本土における経済見通しと金融環境である。中国経済とその金融環境は、明らかに米中貿易戦争が加わって悪化している。それが、香港不動産市場にはね返っている。ということは、中国本土の不動産市場がこれから崩れることを推測させるのだ。

     

    (3)「センタラインによると、昨年には香港の高級アパート購入の4分の1前後を占めたという中国本土の買い手も、中国経済の減速を受けて財布のひもを締めているのかもしれない。中国の富裕層が消費を手控えているということは、ギャンブルの中心地マカオでのカジノ収入やスイスの高級ブランド大手リシュモングループの売上高が減少しているという事例からもよく分かる。人民元の下落もマイナス要因となっている。人民元は3月以来、米ドルと連動(ペッグ)している対香港ドルで10%前後も下げてきた。中国の住宅購入者に人気のある他の不動産市場も最近、下落してきた。不動産情報会社コアロジックによると、例えばシドニーの住宅価格は1年前と比べて7%下落しているという」

     

    昨年、香港の高級アパートの4分の1前後は、中国本土の買い手であった。その中国経済は、米中貿易戦争のほかに過剰債務の重圧で「貸し渋り」が起っている。資金調達に難儀を来すような金融環境では、富豪といえども簡単に資金を動かせなくなってきた。中国発の「資金不足」は、香港だけでなく豪州のシドニー住宅価格まで引下げている。この点に、中国経済の急減速が窺えるはずだ。

     

    (4)「香港の不動産価格はどこまで下がるのだろうか。人民元の突然の切り下げと中国株の大暴落によって引き起こされた前回の弱気相場(2015〜16年)では13%前後の下落となった。ところが今回の弱気相場では、特に米国の金利が上昇していることもあり、さらに大幅な下落となる可能性がある」

     

    香港の不動産価格が、2015〜16年の中国経済混乱時を上回る下落(13%以上)を予想している。米国の金利上昇が続いているからだ。来年の中国経済が、一段の苦境に立たされると見られる要因には、この米国の利上げがある。中国経済は追い込まれる。



    中国共産党機関紙の人民日報は26日、中国経済の近代化に貢献したとする表彰者の一覧を掲載。その中で、電子商取引大手アリババ集団の創業者、馬雲(ジャック・マー)氏を共産党員と紹介した。マー氏が共産党員であるとのニュースは、同氏やアリババに関する書籍の執筆者を含め、多くの人に驚きを持って受け止められている。『ウォール・ストリート・ジャーナル 電子版』(11月27日付)は、「中国で最も有名な資本主義者は共産党員だった」という書き出しで、こう伝えた。

     

    馬氏は、これまで政治的な発言をせず、共産党から最も離れた場所にいるように行動してきた。その馬氏が共産党員であったとは、信じがたい話である。多くの人々が一様に驚きの声を上げている。

     

    中国共産党には、場氏を入党させなければならない切実な事情があった。馬氏の起業した金融事業の「アントン」系列の「アリペイ」が、肥大化して中国金融システムに重大な影響を与えるまでになっていたことだ。馬氏は9月10日、1年後にアリババ会長を引退すると発表した。共産党の圧力を裏付ける点である。

     

    実は、その日にアリペイは、中国人民銀行系列の銀聯へ吸収合併されたのだ。かねがね、馬氏はアリペイを国家に差し出すと発言してきた。その裏には、アリペイが重大な違反問題を引き起こしていたのか。中国当局は、それを見逃す代わりに、アリペイを「国家へ差し出せ」と条件を付けたのかもしれない。中国共産党がやりそうなことなのだ。

     

    こういう一連の流れを見ると、中国共産党は馬氏が「共産党員」であると衝撃的な発表によって、「銀聯によるアリペイ吸収合併」の黒い霧を隠したかったと見られる。「馬氏は忠実な共産党員として国家に貢献した」という後付け理由になるからだ。その疑いが極めて濃いように思われる。

     

    こういう突飛な形で、馬氏の名声を利用せざるを得ないほど、中国の政治や経済が行き詰まりつつある点を認識すべきであろう。中国共産党といえば、「宣伝の名手」である。あらゆるものを利用すること術に長けているのだ。

     

    前記の『ウォール・ストリート・ジャーナル』は、「アリババ馬氏は共産党員、衝撃的な公表なぜ?」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「ビジネスコンサルタントで、マー氏のアリババ創業に関する著作もあるダンカン・クラーク氏は『これまでにもそういった臆測はあったが、何も公にされていなかった』と話す。『マー氏が共産党員であることに触れたことはなかった。彼の野心や海外向けの顔といった面を踏まえると、それを曖昧にしておくことが最善だという感触があった』。実際、マー氏は当局としばしば距離を置いてきた。2015年のダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)の合間に行ったインタビューで、中国政府との対応に関して、社員にこうアドバイスしている。『愛せよ、だが結婚はするな』と。」

     

    馬氏は、共産党と一定の距離を置いてきた人物である。熱烈な愛国主義者ではない。その馬氏が、「私は党員でした」というのは信じがたい。

     

    (2)「アナリストの間では、共産党の信頼を高めることを狙った宣伝活動の一環として、マー氏が党員だと明らかにされたとの見方も出ている。中国当局はアリババのような民間企業よりも、国有企業を優遇するとかねてから考えられているためだ。マーブリッジ・コンサルティング(北京)のマネジングディレクター、マーク・ナトキン氏は、共産党は影響力拡大を狙った取り組みを強化しており、マー氏が共産党員とのニュースも、こうしたタイミングに重なると指摘する。ナトキン氏は『共産党は経済界のあらゆるところで、支配と影響力を強めようとしている』とし、『市場での円滑な事業運営を継続するのと引き替えに、政府から共産党バッジを身につけるよう圧力が強まるだろう』と述べる」

     

    中国共産党は、民間経営者に対して「市場での円滑な事業運営を継続するのと引き替えに、政府から共産党バッジを身につけるよう圧力が強まるだろう」と推測している。共産党の人気挽回策として、民間企業経営者を党員に取り込む戦術と見える。いずれにしても、中国共産党凋落の一現象であることは間違いなさそうだ。



    米トランプ大統領は、米中首脳会談を目前に、対中関税第3弾2000億ドル分について、来年から25%(現在10%)へ引き上げると語った。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルのインタビューに答えたもの。

     

    この発言は、中国からの譲歩を引き出すための「けん制」とも取れるが、中国がハイテク製品問題で妥協する可能性は低い。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル 電子版』(11月27日付)は、「トランプ氏、対中関税を予定通り25%に引き上げへ」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「ドナルド・トランプ米大統領は、2000億ドル相当の中国輸入品に対する関税率を予定通り25%に引き上げる考えを示した。今週末に中国の習近平国家主席との首脳会談を控えているが、税率引き上げの凍結を求める中国側の要求に応じる可能性は『極めて低い』とした」

     

    中国は、2000億ドルの関税25%引き上げを回避すべく交渉に当ってきたが、米国の固い姿勢ではね返されている。

     

    (2)「トランプ氏はウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)とのインタビューで、中国との協議が物別れに終わった場合には、これまで関税対象に上がっていない残りの中国輸入品全てに関税を発動すると表明。『交渉が上手く行かなければ、2670億ドル(の輸入品)に対しても関税を発動する』とし、税率は10%か25%と述べた。米国は2000億ドルの中国製品に対する関税を来年11日から、現行の10%から25%に引き上げる予定」

     

    注目すべきは、米国はさらに第4弾として2670億ドルの関税も引き上げる。これによって、中国の全輸入品に特別関税がかけられるという異例の事態に陥る。そうなれば、中国経済は輸出に甚大な影響が出るので、人民元相場が下落し外貨準備高も3兆ドル台を大きく割り込むこととなろう。

     

    (3)「中国当局者はこれまで、米中首脳会談の最優先課題は、米国を説得して税率引き上げを阻止することだと述べている。だがトランプ大統領は『中国が米国に対し国内市場を開放しなければ、中国との合意はないだろう』とし、中国側が求めている引き上げ凍結に応じる可能性は低いとの考えを示した」

     

    中国は、習氏の独裁体制を築いているので、米国と妥協できない側面がある。習氏の権威に傷がつくからだ。中国経済が大きな深傷を負っても、習氏の傷の浅さを選ぶであろう。


    月末の米中首脳会談の行方が注目されている。貿易戦争は「一時休戦」して交渉を続けるのかどうか。政府系シンクタンクの中国社会科学院のニュースサービスが24日、人民大学がまとめた経済報告書を公表した。それによると、仮に米国との貿易摩擦が解消されたとしても、中国は依然として世界的な貿易環境の悪化や輸出の伸びの鈍化、人民元の下落などの課題に直面すると警鐘を鳴らした。

     

    中国社会科学院という権威ある機関が、中国人民大学エコノミストの経済報告書を公表した意味を考える必要がある。中国社会科学院に代わって、中国人民大学が間接的に発表したとも受け取れるのだ。そういう前提で、これを読むといくつかの謎が解ける。

     

    『ロイター』(11月25日付)は、「中国成長率、19年は6.3%に減速ー人民大学エコノミスト」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「中国人民大学のエコノミストは、2018年の中国の経済成長率が6.6%となり、19年は6.3%に減速するとの見通しを示した。貿易や構造改革に絡む課題が重石となる。ただ、人民大学のエコノミストは、仮に米国との貿易摩擦が解消されたとしても、中国は依然として世界的な貿易環境の悪化や輸出の伸びの鈍化、人民元の下落などの課題に直面すると警鐘を鳴らした」

     

    今年の経済成長率は6.6%、来年は6.3%と予測しているが、貿易戦争の影響は計算に入っていないようだ。米中対立を除いても、かなり悲観的に見ている点が特色である。「輸出の伸びの鈍化、人民元の下落などの課題に直面する」としている。貿易収支の悪化による人民元下落を想定していることに注目すべきである。実は、来年の経常収支赤字転落は決定的である。多くの人は、これに気付いていないが要注意である

     

    (2)「現在、中国で高まっている景気の下押し圧力を短期的な措置で軽減することは難しいと指摘し、当局が最近発表した政策によって来年の深刻な成長鈍化は回避されるものの、供給サイドの新たな構造改革が必要だとの見方を示した。報告書では、中国経済の再編や、より緩やかで質の高い成長に向けた長期的な転換にとって、2019年が重要な年になると指摘。19年には貿易の不均衡も是正される見通しで、輸入の伸びは18年の6.1%に対し、19年は16.1%に加速するとの見方を示した。執筆者の1人は、今後は投資よりも国民の貯蓄率低下と国内消費の促進が経済発展の重要な要素になると指摘した」

     

    「景気の下押し圧力を短期的な措置で軽減することは難しい」とも指摘している。これは、不動産バブル崩壊の後遺症を指している。現在の市中金利の高騰は、信用崩壊の結果である。「輸入の伸びは18年の6.1%に対し、19年は16.1%に加速する」としている。輸入が3倍近い伸び率になることは、前のパラグラフで輸出延び悩みという指摘と合わせれば、来年は大幅な貿易赤字になると予告するもの。「2019年が重要な年になる」と言うのは、中国経済の転機を意味する。要するに、人民元相場が1ドル=7元を大きく割り込むという想定が隠されている。中国経済の輝きが、完全に消えるのだ。そのシグナルを発しているように思える。



    中国でアフリカ豚コレラ(ASF)の感染が深刻化している。81日、中国遼寧省瀋陽の養豚場で1例目が確認された後、感染地域が拡大している。その後、北京市でもASFに感染していることが分った。中国農業農村部は11月23日、北京市にある2カ所の養豚場でASFの発生を確認したと発表した。中国では現在、20の省にASFの感染が広がっている。

     

    ASFは、人間への感染はないとされているが、イノシシや豚に感染し致死率がきわめて高い。中国は世界最大の豚肉生産国であるため、ASFの感染拡大は中国経済に「大きな打撃を与えかねない」との懸念が持たれている。

     

    大紀元』(11月26日付)は、「アフリカ豚コレラ、北京まで拡大、当局者『食べ残しの餌利用が原因の一つ』」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「中国の養豚場ではレストラン、学校、企業などの食堂から出る食べ残しを豚の餌として利用していることが、ASFの感染源の一つだと指摘した。当局は、人間の食べ物や食品にASFのウイルスが潜んでいると示唆した。しかし、食べ物がどのようにASFウイルスに汚染されたのかは言及しなかった。中国当局の公表によると、22日までにASFが中国20の省、47の市に広がり、73例が報告された。60万頭以上の豚が殺処分された」

     

    防疫体制は極めて貧弱である。「このほど、ASFで死んだとされた豚の死骸が路上に放置されている様子を映した動画が投稿された。映像では、血が流れている死骸が映っている。周辺には住宅が集中し、住民が往来しているが、防疫措置が施されている様子はない。動画の撮影日時や場所は示されなかった。上海近郊と証言するネットユーザーがいた」(『大紀元』11月10日付)

     

    こんな状態では、中国全土に感染が拡大することは避けられないであろう。その時、中国経済はどうなるか。国内の豚肉生産ができず、大量の輸入に依存するという最悪事態に陥る懸念が払拭できないのだ。

     

    (2)「記者会見に出席した中国動物衛生および流行病学センターの黄保続・副主任は、国内ASFの感染拡大の主要ルートが3つあると指摘した。食べ残しによる感染は、全体の34%を占める。また、地域間の豚、豚肉の輸送による感染は19%、人間および運送車両によるウイルスの伝播は46%を占めるという。航空会社「厦門航空」は、24日から全便の機内食に、豚肉、豚肉加工品を使わないと決定した。ASFが発生以来、初めて豚肉料理を禁止した国内航空会社となった。中国メディアは、国内のASF感染の深刻化を浮き彫りにしたと指摘した」

     

    ASFの感染拡大の主要ルートが3つあると指摘した。

        食べ残しによる感染は、全体の34%

        地域間の豚、豚肉の輸送による感染は19%

        人間および運送車両によるウイルスの伝播は46%

     

    上記3つの感染ルートのうち、③のルートが半分近いとなれば、これは防ぎようがなくなる。中国全土へのASF拡大は時間の問題という感じだ。中国経済がASFに「感染」して動きがとれなくなる日が近い。


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