香港は、世界で最も高価格な不動産市場である。中国本土と直結しているが、ついに弱気相場に向かい始めた。中国の弱気不動産相場を反映している。香港の最も高級な地域では、駐車スペースよりも少し広いアパートに、100万ドルの値が付くこともあるという。その超高級マンション価格が下落に転じている。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(11月27日付)は、「香港の不動産価格、下落を開始か」と題する記事を掲載した。
(1)「上昇する一方かと思われたその市場が最近、下落し始めた。香港不動産仲介大手の中原地産(センタライン・プロパティー・エージェンシー)がまとめた中古住宅の価格指数は8月のピークから5%下落している。しかし、その集計値は市場の暗いセンチメントを正確には反映していないだろう。一部の住宅不動産の価格はこの1カ月間だけで10%以上も下げてきた。最近の取引高の急減からは、買い手がさらなる値下がりを待っていることがうかがえる」
調査会社デモグラフィアは、世界で最も住宅に手が届かない都市の第1位に8年連続で香港を選んできた。その香港不動産市場が下落に転じたことは、それだけでも「大ニュース」であろう。私が注目するのは、香港不動産市場の裏に控えている「チャイナマネー」の存在だ。中国資金が手を引き始めている点に、中国経済の斜陽を実感できる。
(2)「香港の不動産市場にとって重要なのは香港と中国本土における経済見通しと金融環境だが、その両方が悪化してきている。香港の主要株式指数は1月半ば以来で20%前後も下げている。ドイツ銀行のリサーチによると、1990年代終わりからのいくつかの景気サイクルでは、香港の不動産の弱気相場は通常、株式のそれに続いて起きてきたという」
香港不動産市場にとって重要なのは、香港と中国本土における経済見通しと金融環境である。中国経済とその金融環境は、明らかに米中貿易戦争が加わって悪化している。それが、香港不動産市場にはね返っている。ということは、中国本土の不動産市場がこれから崩れることを推測させるのだ。
(3)「センタラインによると、昨年には香港の高級アパート購入の4分の1前後を占めたという中国本土の買い手も、中国経済の減速を受けて財布のひもを締めているのかもしれない。中国の富裕層が消費を手控えているということは、ギャンブルの中心地マカオでのカジノ収入やスイスの高級ブランド大手リシュモングループの売上高が減少しているという事例からもよく分かる。人民元の下落もマイナス要因となっている。人民元は3月以来、米ドルと連動(ペッグ)している対香港ドルで10%前後も下げてきた。中国の住宅購入者に人気のある他の不動産市場も最近、下落してきた。不動産情報会社コアロジックによると、例えばシドニーの住宅価格は1年前と比べて7%下落しているという」
昨年、香港の高級アパートの4分の1前後は、中国本土の買い手であった。その中国経済は、米中貿易戦争のほかに過剰債務の重圧で「貸し渋り」が起っている。資金調達に難儀を来すような金融環境では、富豪といえども簡単に資金を動かせなくなってきた。中国発の「資金不足」は、香港だけでなく豪州のシドニー住宅価格まで引下げている。この点に、中国経済の急減速が窺えるはずだ。
(4)「香港の不動産価格はどこまで下がるのだろうか。人民元の突然の切り下げと中国株の大暴落によって引き起こされた前回の弱気相場(2015〜16年)では13%前後の下落となった。ところが今回の弱気相場では、特に米国の金利が上昇していることもあり、さらに大幅な下落となる可能性がある」
香港の不動産価格が、2015〜16年の中国経済混乱時を上回る下落(13%以上)を予想している。米国の金利上昇が続いているからだ。来年の中国経済が、一段の苦境に立たされると見られる要因には、この米国の利上げがある。中国経済は追い込まれる。