勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2019年01月


    習国家主席が31日、新年に当たり恒例の演説をした。「自力更生」という毛沢東の使った言葉で、国民に団結を呼びかけた。米中貿易戦争がもたらした経済悪化と、技術窃取が不可能ゆえに、「真面目に頑張ろう」という意味であろう。100年に一度の変化は、中国が先進国から包囲されたという自覚の表明である。すべて、習氏の独断が招いた災難である。

     

    『ブルームバーグ』(1月1日付)は、「中国の習主席 自力更生を強調 100年に一度の大きな変化ー演説」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「中国の習近平国家主席は新年の演説で、『100年に一度の大きな変化』の中、中国には自力更生が必要だと強調した。中国は景気減速やトランプ米政権との対立激化に直面してきた。習主席は毎年大みそかに行う演説で、産業、技術面で2018年に達成した一連の功績を挙げ、中国には困難を乗り越えるだけの能力があると述べた」

     

    100年に一度の大きな変化を招いた責任は、習近平氏にある。狭い視野で、「米国への徹底抗戦」などと言い出した代価が、現在の窮状を招いた。問題は、この危機を乗り越えられるかである。内にはバブル経済の崩壊。外では先進国との安保をめぐる敵対関係の醸成もからみ、米中貿易戦争は最悪事態で起っている。

     

    100年に一度の危機論を言い出した背景には、米中貿易戦争を終了させるべく「全面降伏」を示唆しているのか。国内向けの言い訳として、「100年に一度」という言葉を利用する魂胆かもしれない。

     

    (2)「また、経済成長の急減速を回避し、『企業にかかる負担軽減」を目指した取り組みの一環として減税を実施すると表明した。習氏は「あらゆるリスクや課題が存在している中で、中国は質の高い発展を目指して経済を推進し、成長のけん引役の交代を加速させると同時に、主要な経済指標を合理的なレンジ内に維持してきた」と述べた」

     

    年末に発表された国家統計局による製造業PMI(購買担当者景気指数)は、12月が49.と、2016年初め以来の低水準を記録し50を割り込んだ。PMIは50を上回ると活動の拡大を表し、50を下回ると縮小を示す。中国経済が「真冬」に入っていることを示したもの。

     

    製造業PMIを構成する指数のうち、将来の需要動向を示唆する新規輸出受注も46.6と、11月の47から低下した。輸出は大きく落込む見込みで、新年の貿易収支の黒字は大幅に減り、経常収支は赤字に転落することは必至であろう。まさに、「100年に一度」の事態が襲ってくる。「一帯一路」で援助する資金的な余裕もなくなるはずだ。習氏は、自らの誤算による窮迫状況を他に転嫁もできず、自らを恨むほかない。

     

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    中国の政策は、場当たり的であることがますますはっきりしてきた。笛や太鼓で騒いだ「一帯一路」が、プロジェクト対象国を債務漬けにしたことで、中国の信用はガタ落ちである。中国が、長期的な戦略で世界的に中国の影響力を強めるものであったならば、あのような露骨な形で相手国を食いものにすることをしなかったと見られる。

     

    要するに、戦略もなければ戦術もなく、ただ財政的な弱小国へ過剰貸付をして、中国の意のままに動かすという意味でしかなかった。今、前記の債務漬けにされた諸国の国民が、一斉に「反中」色を強めて中国を攻め立てる方向に舵を切っている。中国は、思わぬ落し穴に落込んだ形だ。

     

    『ブルームバーグ』(12月31日付)は、「一帯一路追従に反発、貧困国で汚職疑惑、有権者に反中感情の火種」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「インド洋に浮かぶ島国モルディブ大統領選挙で、親中派のヤミーン大統領が敗北。政権交代を果たした新政権が目にしたのは借金の山だ。ニューデリーを最近訪れたモルディブ当局者が口にしたのは、GDPの20%近くに相当するあまりにも大きな対中債務と説明不可能な前政権の『一帯一路』偏重に対する不満だ。中国の習近平国家主席が肝煎りで進める巨大経済圏構想を重視するあまり、モルディブ前政権は5400万ドル(約59億6000万円)での病院建設応札を拒否し、1億4000万ドルという水増しされた中国案を選好していた。『われわれはやけどしたのだ』とモルディブのイスマイル経済開発相は嘆く」

     

    モルディブは、親中国派の大統領が中国の「債務漬け」にあい、GDPの20%近い対中債務を抱えている。後任の親インド派大統領は、頭を抱えている。1億4000万ドルもの水増しされた中国案の病院建設案を中国から飲まされ途方に暮れているという。

     

    インドが見かねて10億ドルの融資をするとも伝えられている。「モルディブの対中債務は30億ドル(約3400億円)とされるが、インドは最大10億ドルを低利融資する方向で、モルディブは対中債務の返済に充てる公算が大きい」(『日本経済新聞』11月29日付)

     

    (2)「一帯一路をめぐりトラブルに陥ったのはモルディブだけではない。気前の良い融資にアジアの貧しい国は飛び付いたが、汚職疑惑や不平等感の高まりが有権者の怒りを招き、当局による調査やプロジェクト中止に至った国も多い。ジャーマン・マーシャル財団アジアプログラムのアンドルー・スモール上級研究員は『一帯一路の第1段階は終わった。新たなモデルはまだ見えないが、スピードと規模にほぼ全面的に焦点を絞った古いモデルはもはや持続可能ではない』という。中国当局は不適切な事例があったことを認識しており、世界で展開するインフラ整備計画を微調整していると、中国政府高官は説明する。プロジェクト執行の不手際は中国の評判を傷つける恐れがあり、反中感情の広がりを招きかねないと認めている」

     

    悪評さくさくたる「一帯一路」計画は、見直し段階に入っている。中国の悪巧みが露見しており、後で取り上げるように、各国の大統領選挙でこの問題が取り上げられる見通しが濃くなっている。要するに、親中国派大統領が画策した「一帯一路」が選挙の争点になってきた。

     

    (3)「アジア各国での対中感情の変化は既に明白になりつつある。中国と強い同盟関係にあったパキスタンでは11月、中国の投資に怒った過激派がカラチにある中国総領事館を襲撃し7人が死亡した。スリランカでは主権を脅かすまでになった中国の経済的影響力への反発が拡大しつつある。ミャンマー政府の顧問は中国が支援する港湾開発で中国側がはじき出した75億ドルという全体費用を『ばかげている』と批判。この契約は前の軍事政権時代に結ばれていた」

     

    パキスタンでは、反中国の過激派が中国総領事館を襲う事件まで起こっている。7人が死亡している。ミャンマーでは、中国支援の港湾建設費が75億ドルにもなるとして疑問視され始めた。スリランカでも、中国の影響力への反発力が強まっている。

     

    (4)「ワシントンの世界開発センター(CGD)はリポートで、中国のファイナンスで重債務に苦しむリスクに直面している8カ国を特定。パキスタンやモルディブ、ラオス、モンゴルなどに加え、中国人民解放軍が唯一の海外基地を置くアフリカのジブチも挙げられた。南シナ海の一角をめぐり領有権で中国と対立するベトナムでは、安全保障絡みのリスクが投資プロジェクトに影を落としている」

     

    中国の融資で債務漬けになるリスクを抱える国が8ヶ国にものぼる。パキスタン・モルディブ・ラオス・モンゴル・ジブチなどである。中国が「国際高利貸し」として、弱小国を狙って、担保を取り立てる狙いであった。だが、ここまで国際的な問題になると担保奪取という強硬策はとれなくなった。結局は、中国の不良債権として外貨資金繰り圧迫するという、事態は思わぬ方向へ動き出している。

     

    (5)「ユーラシア・グループでアジアを担当しているケルシー・ブロデリック氏は、来年4月のインドネシア大統領選に向けた選挙戦では中国の投資プロジェクトに対する厳しい検証が争点に浮上する可能性があるとみている。『一帯一路にもろ手を挙げて賛同してきた現職候補に勝つため、世界中の候補者が中国への借金に対する国民の懸念を利用している』と分析。反中国を掲げ10月のブラジル大統領選で勝利したジャイル・ボルソナロ氏を例に挙げたブロデリック氏によれば、ケニアやザンビア、タイでも同じような論戦が展開される公算が大きい」

     

    インドネシア大統領選では、中国による投資プロジェクトの当否が争点になるという。例の高速鉄道建設が問題になっているのだろうか。建設が大幅に遅れているからだ。日本の新幹線採用計画を賄賂で横取りした報いだ。事前調査もせず、日本の作成した設計図を不法入手して、それで入札に参加したあくどい遣り方である。ケニアやザンビア、タイでも同じような論争が見込まれるという。一帯一路計画は総崩れだ。

     

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    韓国は、口では日本を小馬鹿にしているが、TPP(環太平洋経済連携協定)の発効で浮き足立っている。表面的にはTPP加盟国11ヶ国中、9ヶ国とFTA(自由貿易協定)を結んでいるので、慌てなくてもいいとしている。だが、ベトナムを例に挙げると、韓国とベトナム間のFTAよりも、TPPの関税率が低いのでベトナムでは日本が有利になるとヤキモキしているのだ。

     

    「韓国経済新聞」(12月31日付)は、「世界2位のFTA発効、韓国通商でひとりぼっちになるか」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「TPP11が12月30日に発効した。加盟国のGDPを合わせると世界のGDPの13%で、現在稼動中の多国間貿易協定のうち2番目に大きい規模だ。専門家らは、韓国がすでにCPTPP加盟国の相当数と自由貿易協定(FTA)を結んでおり、ただちに貿易に大きな影響はないとみている。だが時間が過ぎるほど世界の通商の流れに遅れを取り「ひとりぼっち」になるかもしれないという指摘も少なくない」

     

    TPP11は、FTAでは世界2位の規模である。日本は、米国を復帰させる狙いを捨ててはいない。韓国は、TPPの将来に大きな発展力があることを承知しているが、後で触れるように、韓国のTPP入りは日本とFTAを結ぶようなもので、圧倒的に不利であることが足を鈍らせている。韓国は、口で日本を「戦犯国」扱いして威張っているが、内心は怖くてしょうがない存在のようだ。

     

    (2)「だが時間が過ぎるほど有形無形の損失が大きくなるだろうという意見が多い。まず韓国が最近貿易を拡大しようとしている東南アジア市場で影響力が縮小する恐れがある。ベトナムとマレーシアは韓国と締結したFTAよりもTPPの市場開放水準が高い。日本やオーストラリアなど競合国が韓国より有利な条件で東南アジア市場を攻略できるようになったのだ」

     

    韓国は、TPPによってベトナムとマレーシアで不利を被るという。代わって、日本や豪州が関税で韓国よりも有利になると懸念している。

     

    (3)「世界の通商の流れに取り残される懸念も大きい。ソウル大学国際大学院のアン・ドックン教授は『TPPは国同士の自由な電子情報移動を保障し、金融サービス、外国資本投資規制を緩和するなど新たな通商規範が相当数盛り込まれた。こうした規定は第4次産業革命技術発展を促進させるが、韓国だけ疎外されるのは大きな問題だ』と指摘した」

    TPP加盟国は、第4次産業で有利になる。主としてデータが共同管理であるので、TPP加盟国には他国のデータを利用できるメリットがある。韓国は、その点で著しく不利となる。

     

    (4)「韓国政府もこうした点を認知しているが、すぐにTPPに加入するには検討すべき事項が少なくないという立場だ。韓日市場開放にともなう損失への懸念がそのうちのひとつだ。TPP加入は事実上、日本とFTAを締結する効果がある。ところが日本は相当数の工業製品の関税がすでに0%のためTPP加入時に韓国だけ一方的に市場を開放する結果がもたらされる。特に自動車産業は現在8%である関税を下げれば日本車の韓国市場でのシェアが拡大する可能性がある

    日本ではほとんどの工業製品が関税率0%である。韓国ではまだ関税を残している。特に自動車は8%である。韓国がTPPに参加すれば、前記の関税率を下げなければならず、韓国製造業への影響が大きく出る。自動車の場合、日本車に圧倒される懸念も出てくる。痛し痒しなのだ。

     

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    明けましておめでとうございます。昨年はご愛読ありがとうございます。今年もよろしくお願い申し上げます

     

    私が、ブログ「勝又壽良のワールドビュー」を始めましたのは、昨年7月からでした。それ以前に、ブログ「勝又壽良の経済時評」を2010年5月よりアメブロで毎日書いております。途中から「二足のわらじ」になりました理由は、ライブドアの執筆上の便宜性に惹かれた結果です。さらに、昨年11月より、メルマガ(有料)「勝又壽良の経済時評」を始めるという「三足のわらじ」となっております。

     

    私は、もともと週刊東洋経済の記者出身です。後に、週刊東洋経済編集長を経験しましたので、一つの情報を「単発記事」で扱うか、「特集記事」に仕立てるか、本能的に情報を選択する衝動に突き動かされます。最初のブログ「勝又壽良の経済時評」は、単発記事と特集記事が混ざったような形でした。その弊害に気付き「勝又壽良のワールドビュー」は、単発記事主体に変え、特集記事はメルマガ(有料)「勝又壽良の経済時評」に組み替えました。

     

    「雀百まで踊りを忘れず」と言います。私もその部類かも知れませんが、記者時代の担当で、財政・金融・労働・景気・産業・企業など一通りの取材・執筆の経験をしています。さらに東海大学での研究生活を経ることで、現在の世界経済の混乱をどう見るか、おぼろげながらも方向性が見えてくる感じを持っています。

     

    特に、日本のバブル経済の形成過程と崩壊後遺症をつぶさに見てきた経験が、中国経済の分析には必須であることを痛感しています。曲がりなりにも早くから、中国経済の行き詰まりを予測し得たのは、日本のバブル経済の形成と崩壊の両過程を見てきたことが役立っております。

     

    私の最初の書物は、『日本経済バブルの逆襲』(1992年1月発行)でした。世間で、バブルという認識がゼロの時代でした。日本政府が、バブルと認識したのは1993年でした。また、『戦後50年の日本経済』(1995年3月発行)によって、戦後日本経済の抱える構造的な問題点を追求しました。極めて、産業保護的体制でした。

     

    今頃、こういう古い自著を持出したのは、中国経済の今後を分析するには不可欠であると考えているからです。中国経済の辿る道は、日本経済が過去に歩んだ道であることは間違いないと見ています。不良債権処理の重圧、労働力人口の急減という点は、日本と全く同じです。

     

    日本よりさらに悪い条件が2つあります。

     

    (1)米中が、冷戦時代に入っていることです。中国は、自由主義諸国から安全保障上において、危険国と見なされて包囲対象になりました。これは、中国が先進国への投資が不可能になったことを意味します。グローバル経済時代は、企業の海外直接投資が不可欠です。米国や日本、ドイツなどの企業が積極的な海外投資で利益を上げています。その点で、中国企業は先進国から敬遠されておりグローバル経済のメリットを享受できない、大変なデメリットを受けています。これは、将来の中国経済の発展に決定的なマイナスです。

     

    (2)中国は、冷戦時代で軍事費の負担が嵩みます。米国覇権に挑戦すると宣言した結果、自由主義諸国は警戒体制に入っています。中国には、信頼できる同盟国がありません。一方、EU諸国と米国・日本・豪州・インドに包囲網を作られています。戦前の日本がABCDラインで経済封鎖された点とよく似ているのです。ちなみに、A=米国、B=英国、C=中国、D=オランダです。

     

    戦前日本の外交的な失敗と、戦後日本経済のバブル崩壊後の後遺症を見れば、中国の将来がどうなるか見当はつくはずです。中国は、新興国特有の「奢り」と「衝動」に突き動かされています。中国が、米国と対決しても勝てる相手ではありません。日本は二度(戦争とバブル経済)も、米国へ挑んで敗れた歴史があります。米国の手強さは、日本が一番よく知っています。日本の勝てなかった米国に対して、中国は歯が立ちません。

     

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