南米のベネズエラには、「二人の大統領」が現れた。現大統領のマドゥロ氏と、グアイド国会議長である。実は、ベネズエラを舞台に現政権を支援する中国と、暫定大統領を宣言したグアイド国会議長には米国とEUが支援しており、「米中代理戦争」の様相を呈している。
中国は、「一帯一路」プロジェクトで各国を債務漬にしてきたことで評価を落としている。ベネズエラでも汚職と腐敗が深刻化している。マドゥロ大統領が、その腐敗政治の張本人とされ、その裏に中国がうごめいているという構図だ。中国は、ベネズエラの石油資源を狙って最低で500億ドル(約5兆5000億円)、あるいは620億ドル(約6兆8200億円)の資金を投入したと指摘されている。
この巨額資金が、グアイド国会議長が率いる新政権が実権を握った暁は、果たして全額返済されるのか分らない。中国は、南米の一角に橋頭堡を築いて米国を牽制できると思ったのだろうが、大変な誤算になった。
『ブルームバーグ』(2月4日付)は、「中国との透明性ある関係求めるーベネズエラのグアイド氏」と題する記事を掲載した。
(1)「ベネズエラの暫定大統領就任を宣言したフアン・グアイド国会議長は、対ベネズエラ投資国として最大級の中国との『透明性ある関係』を求めた上で、マドゥロ政権が結んだ取り決めについては合法的になされたものであれば尊重すると表明した。書面インタビューに応じたグアイド氏は『国会承認の適正手続きが守られたこれまでの合意であれば、受け入れられ尊重される』と説明し、この点で『私は非常に明確だ』と記した」
グアイド国会議長は、中国がベネズエラ政府と結んだ開発契約で、国会承認を受けたものについて尊重するとしている。言外に、国会が承認していない「隠れ契約」の存在を示唆している。中国が、「一帯一路」でやっているような汚い手を多用しているとなれば、新政権では返済されないリスクが高まる。
(2)「政局が混迷を極め大統領が2人並び立つ状況の中で、グアイド氏は米国やブラジルなどから支持を得ており、石油・金輸出や国家独占事業からの収入などの資金をマドゥロ政権側が入手できないよう探っている。同氏は、『われわれは中国との透明な関係を構築し、マドゥロ政権下で横行していた資源の略奪を終わらせたい』とコメント。『ベネズエラでの中国の開発プロジェクトは腐敗と債務不履行にまみれ破壊され、破綻しつつある』と指摘した」
中国の開発したプロジェクトは、「腐敗と債務不履行にまみれ破壊され、破綻しつつある」という。これでは、中国のメンツは丸つぶれである。中国が関わるプロジェクトは100%、おぞましいものばかりという悪評が定着する。中国は南米まで出かけて、悪事の片棒を担いでいたのだろうか。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月4日付)は、「ベネズエラ情勢混迷、中国はいかに見誤ったか」と題する記事を掲載した。
中国は2012年、500億ドル(約5兆5000億円)以上の融資をつぎ込んだが、ベネズエラの政治危機が今、その投資の回収を脅かし、中国を代理戦争へと引きずり込もうとしている。中国は、米国が権力の座から引きずり降ろそうとしているニコラス・マドゥロ氏を支持しているためだ。景気の足かせとなっている米国との通商摩擦問題を解決しようと取り組んでいる中国にとって、できれば避けたい問題だろう。
(3)「ベネズエラ情勢の混迷は、中南米における中国の信頼低下につながる一方、他にも中国の融資により『債務の罠』に陥る国が相次ぐ中で、中国の対外融資に対しては海外で批判があるほか、国内でも議論を呼んでいる。米国をはじめ複数の国が、野党指導者のフアン・グアイド氏を暫定大統領として認める意向を表明した後も、中国は表向きには、ロシアとともにマドゥロ氏を支持する姿勢を示している」
中国は、ベネズエラでミソを付ければ、信用ガタ落ちになる。「一帯一路」でも信用失墜しているからだ。中国は、地政学的理由で南米まで手を伸ばしたことが失敗の原因である。米国の力を甘く見た結果だろう。トランプ政権は、ベネズエラと密接な関係にあるキューバと再断交を目指しており、「反米勢力」一掃に動き出している。
(4)「専門家らによると、中国は水面下で、ベネズエラへの融資に関する批判や投資の回収を巡り、懸念を強めている。一部では、グアイド陣営との対話経路の構築に動いているとの指摘もある。中国外務省の耿爽報道官は1日、中国はグアイド氏と連絡を取っているかと問われ、中国政府は『関係者すべてと、さまざまな手段を通じて緊密な接触を続けている』と答えた。その上で『今後の状況にかかわらず、われわれの協力が損なわれることはない』と述べた。中国商務省の推計によると、ベネズエラは中国に対し、200億ドル程度の債務返済が残っている」
中国はこれ以上、米国と揉めごとを起こしたくないのが本心である。ベネズエラでも、貸金の回収が最大目的で、暫定大統領宣言をしたフアン・グアイド国会議長とも話合う姿勢を見せている。現政権支持に固執しない方針だ。