勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2019年03月

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    米朝首脳会談で、トランプ米国大統領は外交成果が欲しくて妥結するのでは、と危惧されていた。それが、会談4時間で物別れに終わらせるという「離れ業」を見せて、外交専門家を安心させた。「国益を売らなかった」という評価だ。

     

    米中通商協議でも同様の懸念が持たれている。中途半端な外交で、次期大統領選で有利な立場を狙うというもの。もしそうなると、過去のブッシュやオバマの両氏と同じで中国に騙されると『ウォール・ストリート・ジャーナル』は警告している。約束しても実行しないのが中国流外交であるからだ。その懸念はないのか。

     

    『ロイター』(3月1日付)は、「トランプ氏、米中協議で『物別れあり得る』、北朝鮮協議と同様」と題する記事を掲載した。

     

    トランプ米大統領は28日、中国との通商協議について、交渉がうまく行かなければ歩み去ることもあり得るとの考えを示した。

     

    (1)「トランプ大統領は27日から2日間の日程でベトナムの首都ハノイで北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長との会談を行ったが、北朝鮮が求めた制裁の全面解除は受け入れられないとして、合意は見送った。トランプ氏は滞在先のハノイで、『いつでも歩み去る用意はできている』とし、『ディール(取引)から歩み去ることをちゅうちょしたことはない。うまくいかなければ、中国とも同様のことをする』と述べた。

     

    トランプ氏は、ハノイで「男を上げた」と言える。自らの意志に反する妥協をしないという見本を見せたからだ。これは、最後の最後まで気を抜くな、という中国への警告でもある。

     

    (2)「トランプ氏は24日、米中通商協議で『大きな進展』があったとし、3月1日に予定されていた中国製品に対する関税の引き上げを延期すると表明。その後、トランプ政権当局者から協議の詳細についてはほとんど明らかにされていないが、米国家経済会議(NEC)のカドロー委員長はこの日、CNBCに対し、中国との協議は前週の目覚しい進展を受け、順調に進捗しているとの見方を表明。米国は中国との歴史的な通商合意に向け前進していると語った

     

    (3)「米経済諮問委員会(CEA)のケビン・ハセット委員長も楽観的な見方を表明。フォックス・ビジネスネットワークに対し、ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表と中国の劉鶴副首相は『知的財産保護と通商に関する合意の青写真』の作成にこぎ着けたとし、『作成された文書の詳細を見てみると、これ以上望めないほど良好な内容となっている』と指摘。ただ、最終的にはトランプ大統領が中国の習近平国家主席と米フロリダ州のリゾート施設『マールアラーゴ』で行う会談で承認する必要があると述べた」

     

    米国家経済会議(NEC)のカドロー委員長と、米経済諮問委員会(CEA)のケビン・ハセット委員長は。合意内容に高い評価を与え、楽観的な見方を表明している。ただ、中国は素晴らし内容で合意しても、その場しのぎで実行しない、きわめて老獪な外交術を駆使するところがある。それだけに、いかに実行させるかがカギを握る。その担保が、習近平氏との会談で確保しなければならない。

     

    トランプ氏については、悪評さくさくである。だが、米朝会談で見せた豪腕はトランプ氏特有のものだ。ブッシュ氏やオババ氏という「常識派」にはとてもできない芸当である。この豪腕を中国に向けて、理想的な米中貿易協定が成立すれば、トランプ氏は悪評と同時にその業績も長く記憶されるであろう。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月28日付)は、「トランプ氏、対中譲歩ならオバマ氏の二の舞いに」と題する記事を掲載した。

     

    (4)「トランプ氏はここにきて、ブッシュ、オバマ両氏と同様に、中国側から構造改革への断固たる決意表明が得られなくても、決着したいと考えているようだ。ただ、その理由は米農家を満足させ、株価を押し上げることであり、歴代大統領とは異なる。中国はまだ、技術移転の強要や他の差別的慣行の停止など、米国側の主要な要求に応じていないと伝えられる。だが、トランプ氏は31日の交渉期限の延期に応じ、習氏との首脳会談の準備に着手した」

     

    米国内には、トランプ氏が中国と妥協する懸念を持っている。

     

    (5)「ジョージ・W・ブッシュ大統領時代、安全保障当局者だったダン・サリバン氏は、『中国の構造改革や合意履行の検証制度を実現できない場合には、絶対にこの戦いを続ける方が良い。トランプ氏と大統領のチームが強硬姿勢を維持することについては、超党派で強い支持が集まるだろう』と力説する」

     

    中国と安易な妥協するより、あくまでも正論を貫けば米国世論の支持を得られるとしている。トランプ氏は自らの悪評を打ち消すには、中国に対しても強く出ることだ。

     


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    中国国家統計局発表による2月の製造業PMI(購買担当者景気指数)は、1月より0.3ポイント低い49.2。好不調の節目となる50を3カ月連続で下回った。16年2月以来3年ぶりの低水準である。政府は、インフラ投資を増やして、景気下支え役にしようとしているが、問題は頼みの綱である地方政府の「融資平台」に倒産騒ぎが起っていることだ。

     

    融資平台とは、地方政府傘下にある資金調達とデベロッパーの機能を兼ね備えた投資会社である。これまでのインフラ投資は、この融資平台が黒子になって推進役になってきた。だが現在、金融情勢ががらりと変ってしまった。融資平台の後ろに地方政府が控えているとは言え、投資家が資金回収で警戒するようになっている。

     

    中国政府の国家発展改革委員会(発改委)は2月26日、投資家の信頼感低下がインフラ投資計画を圧迫しているとの認識を示した。一部の省は計画されたプロジェクトで急速な落ち込みがみられるというのだ。これは、融資平台での資金調達が円滑に行かなくなったことを表している。もはや、地方政府がバックについていても、それが「印籠役」にはならなくなっている。中国の抱える問題点はここまで拡大してきた。

     

    2月の製造業PMIが、49.2と50を割り込んでいる中で、生産の指数は前月より1.4ポイント低い49.5であった。節目の50を下回るのは、リーマン・ショック直後の09年1月以来である。実に、10年ぶりの生産指数の落込みである。ここまで落込んだ生産を回復させるには、即効性という点ではインフラ投資しかない。だが、既述の通り、肝心の資金調達ができず工事発注ができない事態になっている。

     

    多くのエコノミストは、インフラ投資が「呼び水」となって景気が軌道に乗ると期待している。金融状況が、従来と変ったことを認識すべきだろう。

     

    『ブルームバーグ』(2月26日付)は、「中国に驚き広がるー融資平台と見なされている企業が利払い不履行」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「中国の青海省投資集団がドル建て債の支払いを怠り、地方政府と密接な結び付きを持つ企業の債務不履行(デフォルト)を避けるため当局が介入するとの想定が揺らぎつつある。アルミニウム生産の青海省投資は2月22日が期限だった利払い向けの送金が、同日午後遅くの時点でできていなかったと同社の担当者が匿名を条件に明らかにした。目論見書によれば、この債券の利払い遅延に関する猶予期間は設定されていない。オフショア債の支払いで問題を昨年抱えていた青海省投資を、政府の支援姿勢を見極める指標と捉えているアナリストもいる」

     

    中国政府は昨年9月、融資平台を正規の機関として認知しないので倒産しても関知しないとの通知を出していた。つまり、「深刻な債務超過に陥り、償還能力を失った地方政府融資平台企業に対して、法に基づき破産重整(注:日本の会社更生手続き)または清算を実施する」と記されていた。この通知によれば、前記の青海省投資集団がデフォルトに陥っても救済されるはずがない。投資家は過去の例から、最後は地方政府が支援するという淡い期待があったのだろう。それが、期待薄となって騒ぎが広がってきた。こうして、融資平台への投資がシビアになって、資金調達が困難になっているのだ。

     

    金融当局である銀行業監督管理委員会の統計では、地方融資平台企業は約1万1000社(2016年8月時点)ある。そのうち、1870社の2016年末までの負債規模が30兆2700億元(約484兆3200億円)に達したと報じられたことがある。この規模を1万1000社に当てはめると、2847兆円にも達す。中国政府は、これを公的債務と認めていないのだ。「隠れ債務」という扱いである。仮に、これがデフォルトになれば、世界中を巻き込む騒ぎになろう。

     

    (2)「一部のアナリストは青海省投資を地方政府の資金調達事業体『融資平台(LGFV)』と見なしており、今回の明らかな不履行は融資平台のデフォルト懸念を再燃させる可能性がある。オーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)のクレジット戦略責任者オーウェン・ガリモア氏は、青海省投資の『支払い不履行が融資平台を巡るセンチメントを動揺させるのは確実だ。政府はこれまでどんな犠牲を支払ってでもこのセクターを支えてきたからだ』と語った」

     

    このパラグラフに見られるエコノミストの指摘は、昨年9月、中国政府から出され融資平台の通知を無視していることになる。これからは、「こんなはずではなかった」という驚きの現象が多発する気配だ。中国の不動産バブルによる債務残高は、隠れ債務を含めどれだけあるのか、誰にも正確に分らない不気味さがある。

     


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    今日は、「三・一節」(1919年3月1日の朝鮮独立運動記念日)から100年たつ。韓国では、盛大に反日運動を盛り上げようとしており、文大統領は閣議で「親日精算」を宣言したほどだ。戦後から74年後の現在、なおも親日精算を叫ぶ韓国に違和感を覚える。日本統治時代は1910~45年の35年間である。その後、統治期間の2倍以上の歳月が経っている。それでも、「親日精算」を叫ぶのは反日を盛り上げるための方便であろう。

     

    韓国が、この「三・一節」を一段と華やかに彩るものとして期待したのが、米朝首脳会談であった。だが、米朝会談の失敗で、この目論見はもろくも消え去った。

     

    『聯合ニュース』(2月28日付)は、「米朝首脳会談決裂で対北制裁維持、南北協力・正恩氏訪韓に影響必至」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「2回目の米朝首脳会談が成果なしに終わったことに、韓国政府の当局者は戸惑いを隠せずにいる。今回の会談が成功すれば、合意に対北朝鮮制裁緩和に関する内容が盛り込まれ、制裁が足かせとなっている南北経済協力に転機が訪れると期待していたためだ。北朝鮮の非核化措置に対する『相応の措置』として、金剛山観光事業の再開と開城工業団地の再稼働を制裁の例外として米国が認めるとの期待があったが、これも合意に至らなかった」

     

    文政権は、米朝首脳会談に大きな期待を掛けていた。懸案の南北交流事業を一気に立ち上げ、国内政治の問題点を覆い隠す積もりでいたはずだ。最低賃金の大幅引上げが、韓国の低所得層に大きな被害を及ぼしており、集中砲火を浴びている。これを回避するには、米朝首脳会談の成功が絶対条件であった。大変は思惑外れである。

     

    (2)「韓国政府は、今回の米朝首脳会談の結果が南北関係の発展の追い風になると予想し、各方面で準備を進めていたことが分かった。米朝首脳会談後に開城工業団地の再稼働や金剛山観光事業の再開に加え、南北の鉄道・道路の連結、山林協力など南北交流・協力事業を本格的に推進する計画だった。そのために韓国は米朝首脳会談の開催に先立ち、北朝鮮と米国の双方と会談と関連した協議を進め、米国や国際社会とは制裁緩和問題について協議してきた」

     

    米議会から、これまで韓国の先走った南北融和への動きが、北朝鮮の核放棄を阻害しているとまで指摘されてきた。今回の米朝首脳会談で、北朝鮮が最後まで強気姿勢を崩さなかった裏に、韓国のこの先走りがあったという批判を浴びかねない状況だ。韓国が、北朝鮮へ妙な「入れ知恵」したのではという疑いを掛けられても仕方あるまい。

     

    (3)「南北は最近、北朝鮮・開城の南北共同連絡事務所を通じ、鉄道・道路に関する資料をやり取りし、連結事業のための努力を続けていた。文在寅(ムン・ジェイン)大統領は米朝首脳会談を2日後に控えた25日、『朝鮮半島の運命の主役はわれわれ』と述べるとともに、『歴史の隅ではなく中心に立ち、戦争と対立から平和と共存へ、陣営と理念から経済と繁栄へと進む新朝鮮半島体制を主導的に準備する』と表明し、南北経済協力を積極的に推進する可能性を示唆した」

     

    文氏は、国内経済の失敗を南北交流事業で取り戻そうという狙いがある。だが、それは微々たる金額であろう。それよりも国内経済立て直しに全力を挙げるべきだ。

     

    なぜ、最賃の引上げ幅を修正することができないのか。それは、韓国労組との軋轢を生むことを恐れている結果だ。韓国労組のご機嫌取りをして、庶民の生活を破綻に追い込むことに平気でいられる神経が信じられないのだ。韓国労組は、所得上位20%の富裕層である。この労組の所得を押上げ、その日暮らしの所得下位20~40%の庶民を苦しめている。革新政権を看板にする「欺瞞政治」と言わざるを得ない。


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    皮肉な言い方をすれば、「親日精算」などと70年以上も昔の亡霊に怯え、未来を見なかった罰が下った。韓国の人口は、来年がピークとの予測が出てきた。ソウル大学人口学研究室の推計結果である。

     

    日本が人口減社会に入ったのは2011年である。韓国は、日本よりも10年遅れての後追いとなる。これまで、日韓は人口面で約20年の時間差があるとされてきた。それが、一足飛びに「10年差」に縮まったのは、韓国の合計特殊出生率の低下によるもの。昨年は、これが0.98と歴史上初めてに「1」割れとなった。日本は「1.4台」を維持し、さらに2025年に「1.8」へ引上げる政策努力が行なわれている。教育費の無料化だ。保育園から高校までの無料化に加え、大学も一定の学業成績者の授業料が無料化される。

     

    日韓の生産年齢人口比率は、約20年の間隔をおいて同じ動きをしてきた。だが、韓国は今後の生産年齢人口比率が急速低下となる。これに合わせて、潜在経済成長率も急低下するはずだ。「親日精算」どころの話でなくなり、日本へ「SOS」を打ってくる局面になろう。韓国大学生の就職活動は、日本企業がメインになる。

     

    『中央日報』(2月28日付)は、「韓国、このままだと2021年から人口減少 予想より7~11年早まる」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「韓国の昨年の合計特殊出生率(女性1人が生涯に産むと期待される子どもの平均数)0.98人、出生児32万7000人は十分に衝撃的だ。少子化が一日二日の話ではないためそのまま通り過ぎてしまうかもしれないが、米朝首脳会談に劣らず韓国の未来を決める重要な懸案だとみなすべきだ。出生率0.98人は2つの意味を持つ。一つは現在の韓国社会を構成している各種制度・法・価値観・規範などがそろそろ変わるべき時を迎えたということだ。人類歴史で出生率が1人以下に落ちた時がほとんどなく、あっても中世の黒死病が吹き荒れた時のような生存そのものが不確かだった時期以外はなかった」

     


    記事では、「米朝首脳会談に劣らず韓国の未来を決める重要な懸案だとみなすべきだ」と指摘している。その通りであろう。文政権は、そのような危機感を持ち合わせていない。「親日精算」と70年以上も昔のことに関心を取られているからだ。文氏が大統領になったことは、韓国危機の始りと見ている。過度の民族主義を振り回しており、「愛国主義」で韓国の現実課題を忘れさせているからだ。

     

    歴史上初めて、合計特殊出生率が「0.98」にまで低下したのは、文政権2年目に起った事態である。生活が苦しいから結婚を見送り、出産を諦めている結果だ。朴槿惠政権時よりも経済が悪化していることの証明である。

     

    記事はまた、「現在の韓国社会を構成している各種制度・法・価値観・規範などがそろそろ変わるべき時を迎えた」とも指摘している。その通りだ。労働組合が「労働貴族」と揶揄されていること自体、異常なことである。労働組合は、庶民を代表し特権を振り回す立場にない。現代自動車労組に見るように、①働かない、②高賃金を獲得する、③終身雇用を守る、を労働運動の3原則にしている。他の労組も「右へ倣え」である。こうなると、労組は「社会の敵」という存在になる。庶民の味方を装って特権を獲得することは、労働組合の本旨にもとるのだ。

     

    この記事では、「黒死病」の例が出てくる。黒死病は、1346年~50年にかけてヨーロッパに流行したペストである。これは、封建社会に変革をもたらしたことでよく知られている。韓国でも急激な出生率低下が、社会保障制度の維持に痛撃を与えるはずだ。その場合、現在の労働組合のあり方が大きな争点になろう。組織率10%の労組が、全労働者の代表と言えるのか。自らの利益確保だけに奔走している利権集団という認識が深まれば、労働市場改革へのうねりが高まり、労組の特権を奪う動きが出るだろう。その前に、労組は自ら改革すべきだろう。

     

    (2)「ソウル大学人口学研究室が、最近国内居住者(内国人)を対象に1.0人以下の合計特殊出生率を適用して推計した結果、韓国の人口が2020年にピーク(約4999万人)に達した後、2021年から減少することが分かった。政府の予想よりも早くて7年、遅くて11年前倒しになるということだ。今後の出生率が昨年のように低くても国内居住内国人は2030年まで約4946万人に減るためだ。今後10年間で約40万人の減少にとどまる。だからといってその後何事もないわけではない。2040年に総人口は約4730万になり、10年間で200万人が減る予定だ」

    合計特殊出生率が、0.98にまで低下したことは衝撃的事件だ。文政権は、国内経済を改革しなければならないが、そういう関心はゼロである。文氏の在任中、合計特殊出生率はどこまで低下するか。これが、文氏の経済政策を評価する尺度になろう。


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