米朝首脳会談で、トランプ米国大統領は外交成果が欲しくて妥結するのでは、と危惧されていた。それが、会談4時間で物別れに終わらせるという「離れ業」を見せて、外交専門家を安心させた。「国益を売らなかった」という評価だ。
米中通商協議でも同様の懸念が持たれている。中途半端な外交で、次期大統領選で有利な立場を狙うというもの。もしそうなると、過去のブッシュやオバマの両氏と同じで中国に騙されると『ウォール・ストリート・ジャーナル』は警告している。約束しても実行しないのが中国流外交であるからだ。その懸念はないのか。
『ロイター』(3月1日付)は、「トランプ氏、米中協議で『物別れあり得る』、北朝鮮協議と同様」と題する記事を掲載した。
トランプ米大統領は28日、中国との通商協議について、交渉がうまく行かなければ歩み去ることもあり得るとの考えを示した。
(1)「トランプ大統領は27日から2日間の日程でベトナムの首都ハノイで北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長との会談を行ったが、北朝鮮が求めた制裁の全面解除は受け入れられないとして、合意は見送った。トランプ氏は滞在先のハノイで、『いつでも歩み去る用意はできている』とし、『ディール(取引)から歩み去ることをちゅうちょしたことはない。うまくいかなければ、中国とも同様のことをする』と述べた。」
トランプ氏は、ハノイで「男を上げた」と言える。自らの意志に反する妥協をしないという見本を見せたからだ。これは、最後の最後まで気を抜くな、という中国への警告でもある。
(2)「トランプ氏は24日、米中通商協議で『大きな進展』があったとし、3月1日に予定されていた中国製品に対する関税の引き上げを延期すると表明。その後、トランプ政権当局者から協議の詳細についてはほとんど明らかにされていないが、米国家経済会議(NEC)のカドロー委員長はこの日、CNBCに対し、中国との協議は前週の目覚しい進展を受け、順調に進捗しているとの見方を表明。米国は中国との歴史的な通商合意に向け前進していると語った」
(3)「米経済諮問委員会(CEA)のケビン・ハセット委員長も楽観的な見方を表明。フォックス・ビジネスネットワークに対し、ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表と中国の劉鶴副首相は『知的財産保護と通商に関する合意の青写真』の作成にこぎ着けたとし、『作成された文書の詳細を見てみると、これ以上望めないほど良好な内容となっている』と指摘。ただ、最終的にはトランプ大統領が中国の習近平国家主席と米フロリダ州のリゾート施設『マールアラーゴ』で行う会談で承認する必要があると述べた」
米国家経済会議(NEC)のカドロー委員長と、米経済諮問委員会(CEA)のケビン・ハセット委員長は。合意内容に高い評価を与え、楽観的な見方を表明している。ただ、中国は素晴らし内容で合意しても、その場しのぎで実行しない、きわめて老獪な外交術を駆使するところがある。それだけに、いかに実行させるかがカギを握る。その担保が、習近平氏との会談で確保しなければならない。
トランプ氏については、悪評さくさくである。だが、米朝会談で見せた豪腕はトランプ氏特有のものだ。ブッシュ氏やオババ氏という「常識派」にはとてもできない芸当である。この豪腕を中国に向けて、理想的な米中貿易協定が成立すれば、トランプ氏は悪評と同時にその業績も長く記憶されるであろう。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月28日付)は、「トランプ氏、対中譲歩ならオバマ氏の二の舞いに」と題する記事を掲載した。
(4)「トランプ氏はここにきて、ブッシュ、オバマ両氏と同様に、中国側から構造改革への断固たる決意表明が得られなくても、決着したいと考えているようだ。ただ、その理由は米農家を満足させ、株価を押し上げることであり、歴代大統領とは異なる。中国はまだ、技術移転の強要や他の差別的慣行の停止など、米国側の主要な要求に応じていないと伝えられる。だが、トランプ氏は3月1日の交渉期限の延期に応じ、習氏との首脳会談の準備に着手した」
米国内には、トランプ氏が中国と妥協する懸念を持っている。
(5)「ジョージ・W・ブッシュ大統領時代、安全保障当局者だったダン・サリバン氏は、『中国の構造改革や合意履行の検証制度を実現できない場合には、絶対にこの戦いを続ける方が良い。トランプ氏と大統領のチームが強硬姿勢を維持することについては、超党派で強い支持が集まるだろう』と力説する」
中国と安易な妥協するより、あくまでも正論を貫けば米国世論の支持を得られるとしている。トランプ氏は自らの悪評を打ち消すには、中国に対しても強く出ることだ。