勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2019年04月

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    韓国の文在寅政権の日々を観察していると、これほど無責任な政府が存在するだろうかという実感に襲われる。昨日、発表になった1~3月期の実質GDPが、前期比マイナス0.3%に落込むと、理由のすべてを外部要因に転嫁させる。この国には、本当の意味での政府が存在しない。

     

    経済成長の動因には二つある。外需と内需である。前者は純輸出(輸出-輸入)。後者は消費・投資などだ。昨年4~6月期以降、内需がマイナスでも外需がカバーしてプラス成長を維持してきた。私は、外需の伸びが落ちればたちどころにマイナス成長に落込むと、昨年のブログで書き続けてきた。

     

    昨年10~12月期は、政府が大盤振る舞いして財政でアルバイトを増やす奇策が奏功。内需が大きく跳ね上がった。この結果、前期比1%増という予想外の数字が飛び出したのだ。

     

    今年の1~3月期は、内需も外需もすべて前期比マイナスである。これでは、トータルのマイナス成長に落込んで当然である。問題は、文政権が厚顔にもマイナス成長の責任を認めないことだ。外需のマイナスはやむを得ないとしても、内需のマイナスは文政権の失政によるのだ。

     

    その原因は、もはや取り上げるのも億劫になるが、最低賃金の大幅引上げだ。2年間で約30%にもなる引き上げで、しかも罰則を伴うという厳しさが、「最賃解雇者」を大量に発生させた。文政権が、最賃引き上げ幅を3分の1に抑えていたら、マイナス成長に追い込まれる可能性は低くなっていたであろう。

     


    『朝鮮日報』(4月26日付け)は、「マイナス成長を外部要因のせいにする韓国大統領府」と題する記事を掲載した。

     

    韓国銀行(中央銀行)は25日、韓国の2019年13月期の国内総生産(GDP、速報値)が前期比で0.3%減だったと発表した。世界的な金融危機当時の08年10~12月期(3.3%減)以降で最低だった。

     

    (1)「08年当時は全世界が金融危機に陥り、マイナス成長が避けられない側面があった。しかし、文在寅(ムン・ジェイン)政権下の今回はこれといった外部の悪材料がないにもかかわらず、成長率が2017年10~12月期(0.2%減)に続き2回目のマイナスを記録した。通貨危機以降の歴代政権では初めてだ。しかし、韓国大統領府(青瓦台)の尹道漢(ユン・ドハン)国民疎通首席秘書官は同日、13月期の成長率について、『外部の経済的要因が最大の原因として挙げられるのではないか』と述べた。青瓦台関係者は『海外の経済が不安定で影響を受けた面が大きい。これを経済政策の失敗と見なすことには同感しない』と話した」

     

    先に、私がコメントしたGDP動因には2要因がある。外需と内需に分けて考えれば、韓国大統領府の説明がいかに責任逃れであるか明白である。外需が不振でも内需の岩盤がしっかりしていれば、外需不振を跳ね返すことが可能だ。もともと、内需がマイナス基調であった所へ、外需不振が重なって前期比で0.3%のマイナス成長になった。これが、真相である。

     

    内需のマイナス基調をつくり出したのは、文政権が間違えた最賃大幅引上にある。自らの責任を棚に上げて、外需にすべての責任を押しつけるのは、余りにも韓国流すぎる。独善主義の韓国左翼政権らしく、責任を取らずに逃げ回るのは醜悪である。

     

    (2)「経済専門家は13月の成長率が低下した直接的原因として、『政府主導の成長』を挙げる。政府が18年の成長率を押し上げようと財政出動を行い、18年10~12月期の成長率は前期比1.0%増だったが、財政出動の効果が切れ、一時的ショックが訪れた格好だ。18年10~12月期の財政出動による成長寄与度は1.2ポイントだったが、1913月期はマイナス0.7ポイントだった」

     

    経済の運転台に立つのは本来、民間企業である。その民間企業が、最賃大幅引上で大きなダメージを受けたので、代わって政府がその役を引き受けた。だが、昨年10~12月期の1期のみである。今年の1~3月期は、誰も運転台に立たなかったからマイナス成長になった。これが、舞台裏の話である。文政権は、これほど経済について無知である以上、韓国経済の基盤が、さらに取り返しのつかない事態へ突っ込むのは致し方ない。落日の韓国経済である。

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    韓国の文在寅政権は、いよいよその本質を顕わにしてきた。中国と北朝鮮への指向をはっきりさせ、日本切り捨てが明らかになっているからだ。現状において、韓国が日本に背を向けようと何らの痛痒も感じない。ただ、今後の韓国経済を襲うであろう経済危機の際、韓国はどこへ頼ろうとしているのか。学生レベルの拙い思考法で乗り切れるはずがない。

     

    『中央日報』(4月25日付け)は、「韓国、219年間12年を除いて日帝・独裁・極右によって統治―韓国与党代表」と題する記事を掲載した。

     

    (1) 「韓国与党である共に民主党の李海チャン(イ・ヘチャン)代表が25日、『正祖(チョンジョ)大王以降219年間金大中(キム・デジュン)・盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領の10年と文在寅(ムン・ジェイン)大統領の2年など12年を除いては日帝強占期や独裁、または非常に右的な勢力によって国が統治された』と話した。 李代表はソウルの延世(ヨンセ)大学金大中図書館コンベンションホールで開かれた『金大中・盧武鉉元大統領死去10周忌』学術会議に参加し、祝辞でこのように述べた後、『そのため、国が非常に傾いている。運動場が傾いたのではなく平和・民主勢力が崖っぷちでかろうじて手でつかんでいる状況』と話した」。

    共に民主党の李海チャン氏は、「国が非常に傾いている」と言っている。発言のタイミングから言って、1~3月期のGDPが前期比マイナス0.3%に落込んでいる事態を指しているようだ。これは、文政権の稚拙な政策の結果ではない。現政権の平和・民主勢力が、崖っ縁で手をつないでさらに傾くのを阻止しているというニュアンスで発言している。

     

    現政権は、韓国独特の朱子学の道徳主義に毒されており、自分に責任はない。悪いのは相手であるという論法が「全開」している。気楽なものである。責任はすべて他者にかぶせているからだ。こういう神がかった連中が、韓国100年の計を考えているはずがない。北が核を持っていても気にならない様子で、内々では喜んでいる節さえ見える。核保有の北と統一することが、日本への対抗力を高めて結構という認識なのだ。これが、まさに「克日」と見ているのだろう。

     

    ここで李海チャン氏は、とんでもない発言をしている。「正祖(チョンジョ)大王以降219年間金大中(キム・デジュン)・盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領の10年と文在寅(ムン・ジェイン)大統領の2年など12年を除いては日帝強占期や独裁、または非常に右的な勢力によって韓国が統治された」と悪びれもせずに言っていることだ。まさに、韓国朱子学による、自己の絶対的正しさという、箸にも棒にもかからない幼稚な理屈を持出している。韓国左翼は、ほとんどこの韓国朱子学の独善主義に毒された小児病にかかっている。韓国大法院の下した旧徴用工への判決は、形式主義ゆえの独善主義に陥った典型的な判決であった。現実に日本から賠償が払われている。だが、名目が経済協力金だから賠償金でないという屁理屈である。

     

    こういう論法を基盤に据えて、「219年中、12年間を除いて不幸であった」という腰を抜かすような我田引水のこじつけ話をしている。ならば問う。現在の出生率急低下の責任はどこにあるのか。文氏の最賃大幅引上げによる雇用破壊がもたらした事態だ。屁理屈を並べず、現実を直視することだ。

     

    (2)「 また、彼は『ようやく再執権したが、この機会を絶対に逃がしてはならないという見方が強い』として『特に、今こそ分断70年史を終わらせて平和・共存の時代に行ける、別の見方をすれば唯一の機会』と述べた」

     

    文政権が続き後継政権も左派であれば、韓国経済は確実に崩壊過程へ突き進むであろう。韓国はそこまで偏向して「核付き北朝鮮」と統一できるだろうか。現実は、不可能である。「核付き」を米国や日本が容認しないからだ。「親中朝・反日米」では、絶対に南北統合は不可能である。日本が北朝鮮へ「戦後処理費」を支出しないからだ。文政権は「反日」だが、これは南北統一を邪魔する最大の障害になろう。そこまで、頭が回らないところが、左翼独特の頭の鈍さと言える。

     

    『朝鮮日報』(4月25日付け)は、「韓国、小学校教科書から消えた『漢江の奇跡』」と題する記事を掲載した。

     

    (3)「今年3月から全国の小学6年生は3年ぶりに改訂された社会科の教科書で授業を受けている。ところがこの教科書には1960~80年代の韓国の経済成長を意味する『漢江の奇跡』という言葉がない。以前の教科書には経済開発5カ年計画の成果として紹介されていた」

     

    韓国の高度経済成長(漢江の奇跡)は、軍事政権の手で進められたから抹殺したい。これが、現政権の基本スタンスである。歴史的事実が、思想的に受け入れられない独裁政権がやったので抹殺するというのだ。日韓併合の成果を拒否しているのも同じ屁理屈に基づく。

     

    文政権は統一を前提にして、韓国を北朝鮮に合わせる準備を始めている。朝鮮戦争の解釈も変るだろう。「侵略」でなく「解放」に置換えられることになったら一大事である。左派政権は北朝鮮を美化している。何をやり出すか分らない不気味さを帯びてきたのだ。


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    中国の通信機メーカーのファーウェイ(華為技術)は、社員株主制度による純粋な民間企業とされている。その裏には、中国政府が控えているという説も根強い。米国の専門家による踏み込んだ調査分析によれば、実態は中国政府が保有しているという報道が現れた。

     

    『大紀元』(4月25日付け)は、「ファーウェイの所有者は誰、米専門家中国当局の可能性大」と題する記事を掲載した。

     

    中国の法律に精通する米国の専門家はこのほど発表した調査報告書で、中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の実質の所有者は、「中国当局である可能性が大きい」との見方を示した。

     

    中国当局が公開する工商登記情報によると、ファーウェイの株式は、創業者の任正非氏が1%、華為投資控股有限公司工会(労働組合)委員会が99%とそれぞれ保有している。中国法律専門家で米ジョージ・ワシントン大学法学部教授のドナルド・クラーク氏と、フルブライト大学ベトナム校のクリストファー・バルディング教授はこのほど、共同で調査報告書を発表した。

     

    (1)「非上場企業であるファーウェイは、社員が労働組合を通じて株式を所有する、従業員持株制度を採っていると宣伝している。報告書は、ファーウェイの従業員持株制度は、一般的な従業員持株制度と異なるとの見方を示した。中国の労働組合は、当局の支配下にある中華全国総工会が管理しているため、ファーウェイの社員は労働組合の方針、決定などに発言権を持っていないと教授らは指摘した。また教授らは、ファーウェイが社員に与える『ファントム・ストック(架空の株式)』について、実質的には賃金の一部でインセンティブであり、法で定める会社の所有権や経営決定権と無関係だとした。社員がこのファントム・ストックを他人に譲渡・売却することはできず、退職の場合、同労働組合がその社員が持つファントム・ストックを買い取らなければならない

     

    「ファントム・ストック(架空の株式)」の例では、日本経済新聞社の社員株主が最高裁判所まで争って敗訴して件がある。社員株主は、退社とともにその権利を失い、購入した時の株価で会社へ渡さなければならないという。これは、ジャーナリズムの独立性を守るために必要な制度というのが最高裁の判断である。この日経の件とファーウェイは似たような面があるようだ。ファーウェイの機密性を守るという狙いが込められている。

     


    (2)「教授らは、現有の公開情報では、ファーウェイの真の所有者は誰であるかをはっきりと示すことはできていないと指摘した。現時点では、中国当局が間接的に同社のオーナーである可能性が高いとの認識を示した。ファーウェイ側は教授らの指摘を否定した。労働組合はその代表委員会を通じて、株主である社員の権利を行使するうえ、労働組合の代表者は株式保有の社員によって選ばれているという。しかし、三権分立を議論すると投獄される可能性のある中国で、なぜファーウェイの社員にはこのような民主的な権利があるのかを説明しなかった

     

    共産主義社会において、ファーウェイ社員だけに資本主義社会の三権分立議論が適用されることは困難である。現時点では、中国共産党が労働組合を管理しているシステムから見て、中国当局が間接的に同社のオーナーである可能性が高いとの認識を示した。

     

    (3)「米ボイス・オブ・アメリカ(VOA)4月20日付によると、2003年ファーウェイの社員2人が、一株当たり純資産(BPS)額で株式を買い取らないとして、同社を相手取って訴訟を起こした。当時、広東省最高人民法院(地裁)は、ファーウェイの発起人だけが工商管理部門で登記しているが、同社の社員は株主として登録していないと指摘した。地裁は、関連規定に基づき、ファーウェイの労働組合が保有する株式は「ファーウェイとその社員の契約」であり、ファーウェイ社員は同社の株主ではないと結論付けた。クラーク教授らは報告書において、ファーウェイの労働組合が同社の99%株式を保有するということは、『ファーウェイはある種の国有企業であると示された』とした」

     

    地裁は、ファーウェイ社員が株主として登記されていないことを理由に、株主の権利を認めなかった。結局、ファーウェイの労働組合が同社の99%株式を保有することは、中国の制度に照らし合わせると、皮肉にも国有企業であるという結論になる。この推理過程は、なかなか興味深い。

     


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    北京では、27日まで「一帯一路」第2回フォールムを開催中である。話題の焦点は金融である。中国からいくら借り出すか。発展途上国は鵜の目鷹の目で見ている。だが、人民元を借りる訳でない。米ドルである。

     

    中国は、これまで「一帯一路」に約4400億ドル融資したと正式に発表した。この融資に使った米ドルは、中国の4大国有銀行が主なドルの借り手になって調達してきたのであろう。ここに異変が起こっている。中国銀行が、ドル資金不足に陥っているというのだ。これには、中国の経常収支黒字の急速な減少も影響しているだろう。これまでにない「ドル不足」は、中国経済のアキレス腱を予感させる。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月24日付け)は、「中国の銀行がドル不足 『異変』に要注意」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「中国の大手商業銀行は、当局の管理が及ばないところで資金調達に不安を抱えている。国内外で必要とするドル資金が足りなくなっているのだ。中国大手商業銀4行の年次報告書によると、2018年末時点のドル建て債務はドル建て資産を上回り、数年前から状況が一変した。2013年時点では、4行の合計ドル資産が債務を約1250億ドル(約14兆円)上回っていた。しかし現在では貸し付けよりも、債権者や顧客から借り入れたドル資金の方が多い

     

    4大国有銀行が、ドル資金の債権・債務関係が逆転して、貸付よりも借入が増えている事態になった。顧客がドル資金の引き出しに来れば、最悪の場合、即時の払い出しに応じられないという厳しい局面になっている。この事態は、金融機関にとって「信頼」という生命線に傷がつくばかりでなく、最終的には政府の外貨準備高の取り崩しにまで発展する。

     

    ドル資金の債権・債務関係が逆転した理由は、焦付け債権の発生であろう。「一帯一路」に4400億ドルも融資した裏には、「債務漬け」で不良債権化したものが相当含まれている。その多くが、中国銀行経由の貸出になったのだろう。中国銀行は1905年に清朝政府によって創立された銀行で、後に外国為替銀行となり、現在の商業銀行へ転換した。こういう歴史から、海外貸付の窓口になっているが、「国策」(一帯一路)の犠牲になっている面もあろう。

     


    (2)「こうした変化をもたらした最大の要因は中国銀行だ。かつては中国の銀行の中でドル建て純資産が最も大きかった同行だが、2018年はドル債務がドル資産を700億ドル程度上回った。実のところ、他の3行は昨年末時点でドル資産がドル債務を上回っていた。だ、中国工商銀行(ICBC)は2017年末時点では、ドル債務の方が多かった」

     

    2018年末の4大国有銀行の米ドル純資産(資産-負債)は次のようになっている。データは、『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月24日付け)

     

    中国建設銀行  +47億9000万ドル

    中国工商銀行  +17億6000万ドル

    中国銀行   -723億6000万ドル

    中国農業銀行 +163億4000万ドル

    合計     -494億7000万ドル

     

    2018年末で、4大商業銀行は合計で約500億ドルの焦付け債権を抱えている計算だ。これは、いくら国策による貸出とはいえ、本来であれば政府資金を貸付けるべきであった。中国は、国家の行なうべき経済行為を国有企業に肩代わりさせ、国家財政を身ぎれいにするという「見栄」を張っている。

     

    (3)「中国銀行は年次報告書で、資産と債務の不均衡は、バランスシートにはないドル資金で十分に対処されていると説明した。通貨スワップやフォワードなどの金融取引は他で計上されている。だが簿外の貸し出しは不安定だ。国際決済銀行(BIS)が指摘しているように、通貨デリバティブの大部分は期限が1年未満となっている。つまり、契約を常に更新する必要があり、圧力が高まれば消滅する恐れもある」

     

    中国銀行の年次報告書では、資産と債務の不均衡は、バランスシートにはないドル資金で十分に対処されていると説明している。だが、にわかに信じがたいのだ。2018年になって突然、バランスシートにない取引でカバーしている理由がないからだ。

     


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    人口14億人のトップ、中国国家主席の習近平氏に健康不安説が囁かれている。国家主席として君臨するが、後継者が決まっていない異常な政治体制にある。「万一」の場合、中国国内の混乱は避けられない。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月25日付け)は、「習氏に健康不安? 後継巡り内部闘争懸念も」と題する記事を掲載した。

     

    中国の習近平国家主席は先月の欧州歴訪で、歓迎式典から晩さん会まで数々の表舞台に立ち、指導者としてのイメージを高めた。だがその背後で、習氏の異例の「足取り」が一部の注目を集めていた。イタリア、モナコ、フランスを訪問する習氏の様子を伝えるテレビ報道では、足をやや引きずりながら、儀仗(ぎじょう)隊に迎えられ現地を視察する習氏の姿が映し出されている。エマニュエル・マクロン仏大統領との会談では、習氏が両腕で椅子を握り、自身の体を支えながら着席する様子が報じられた。

     

    (1)「これを受け、政治に関心がある中国人や海外の外交筋、中国問題の専門家などの間では、6月で66歳になる習氏を巡り、ひそかに健康不安説がささやかれ始めた。臆測は海外の中国系通信社にも波及し、ソーシャルメディア上では、捻挫から痛風までさまざまな臆測が飛び交っている。ある元政治学教授は、中国知識人の間ではソーシャルメディアの非公開チャットルームで『ちょっとした議論』が起こっていると話す。『誰も多くは語らないが、互いに暗黙の理解がある』という」

     

    習氏の健康不安の原因としては現在、ねんざから腰痛までと軽い病状がささやかれている。ただ、今年6月で66歳を迎える習氏だ。中国社会では平均55歳定年制だから、「何か持病でもあるのか」と話が拡散される要因を持っている。

     

    (2)「仮に習氏が職務遂行不能な状況に陥った場合、かつて毛沢東氏の独裁体制を見舞ったような激しい内部の権力闘争が再燃する恐れがある。中国の歴史学者、章立凡氏は、習氏の後継体制を巡る不透明感が「政治制度と社会に対するリスクを増幅する」と指摘する。「後継者を指名しなければ、指導者は病気になることも、職務の遂行を妨げるような問題を抱えることも許されないという危険がある」とし、これがうわさを助長し、求心力の低下を招くという」

     

    習氏が突然、国家主席を辞任する事態になればどうなるか。当然に、党内は混乱する。習氏を支える毛沢東派と経済改革派が激突する。中国経済は、米中貿易戦争によってその弱点が明らかになった。これをいかに修正するかだ。これを阻もうとする保守派が、経済改革派に総攻撃を加えるに違いない。

     


    (3)「2カ国の情報当局者と最近接触したというある研究者は、とりわけ習氏が昨年、任期撤廃を通じ『終身主席』に道を開いて以降、海外の情報当局が習氏の健康状態を注視していると話す。『彼らの懸念は、共産党が熟考された後継計画を策定していないことだ』とし、『習氏に何かが起きた場合にどうなるのか、われわれにも分からない』と述べる。多くの一党独裁政権と同じように、中国共産党は指導者交代に関する明確な規定を欠いている。指導者ポストが空席となる不測の事態が起こった場合の後継順位や手続きを定めていないのだ」

     

    中国では、指導者交代について明確な規定がない。毛沢東時代は、この弱点が現れて混乱を生んできた。仮に、習近平氏の健康に問題が起った場合、毛沢東時代の混乱へ戻るリスクを抱えている。重大な政権移行システムのない中国政治は、前近代的と称せざるを得まい。この状態で、世界覇権などと叫んでいることに、ますます驚くほかない。

     

    (4)「歴史学者によると、共産党は新指導者の選定プロセスを制度化していないため、1世紀近くにわたる党の歴史において、激しい政治闘争を引き起こしてきた。習氏はまさにこれを体現しているかのようだ。習氏は2012年に権力を掌握して以降、共産党が掲げていた集団指導体制を覆し、意志決定を自らの手中に収め、自身をカルト化して個人崇拝を醸成した。2017年には、主席任期の撤廃に動く前に、後継候補を指導部に昇格させることを拒んだ

     

    習氏が普通の市民感覚であれば、下線を引いたような振る舞いをするはずがあるまい。これは、習氏を利用して権力のもたらす利益を私益化しようというグループがいるはずだ。私は、この人物こそ党内序列5位の王氏と見ている。彼は、江沢民、胡錦濤の知恵袋として活躍し、さらに習近平の懐刀となって、これまですでに27年間も権力の密を吸ってきた人物だ。

     

    私は、党内序列5位の王氏を最も危険な人物と判定する。彼は、中国の「ラスプーチン」であろう。習氏は、この王氏によって政策ミスを冒している。一帯一路、南シナ海進出、経済政策奪取、さらに国家主席の任期制廃止まで、王氏の止まるところを知らない権力欲によって、習氏は踊らされているのだ。習氏の健康不安説は、中国政治の脆弱性を余すところなく浮き彫りにしている。

     


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