米中貿易戦争は、中国の景況感(PMI)を悪化させている。5月は好不況の節目になる50を大きく割り込み49.4と3ヶ月ぶりに50を下回った。米国の第3弾関税引き上げによる「2000億ドル25%」が、早くも輸出受注減となってPMIを大きく引下げる結果となった。
中国経済が、土壇場に向かっていることは明らかだ。米国との妥結時期を遅らせれば遅らせるほど、中国の受けるダメージは大きくなっていく。米国への報復策を練っている時間があれば、メンツを捨てて米中合意案に戻るべきだろう。それでは、どうしても腹の虫が治まらないならば、中国は焼土と化す危険性が強まるだろう。
『ロイター』(5月31日付け)は、「中国製造業PMI、5月は予想以上の景況悪、輸出受注の不振で」と題する記事を掲載した。
(1)「中国国家統計局が発表した5月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は景況拡大と悪化の分かれ目となる50を割り込み、市場予想も下回った。中国政府は景気刺激策の拡大を迫られる可能性がある。製造業PMIは49.4と、4月の50.1から低下。ロイターがまとめたアナリスト予想は49.9だった。
4月の製造業PMIは50.1であった。それが5月には49.4と0.7ポイントもの減少である。「急落」と呼んでも不思議はない状況に陥っている。米中貿易戦争が引き金を引いたもの。
(2)「項目別にみると、生産は拡大ペースが鈍り、新規受注は4カ月ぶりに悪化に転じた。輸出受注のサブ指数は4月の49.2から46.5に急低下した。海外需要がさらに弱まっている可能性がある。 キャピタル・エコノミクスの中国担当上級エコノミスト、ジュリアン・エバンス・プリチャード氏は、『輸出受注は特に急激に落ち込んだ。トランプ米大統領の直近の関税引き上げが既に海外需要を圧迫している可能性が示された』と指摘した。PMIでは輸入受注のさらなる悪化も示された。政府が年初から景気支援策を相次いで打ち出したにもかかわらず、内需が縮小しているもよう」
下線を引いた輸出受注は、4月の49.2が5月は46.5と2.7ポイントの落込みである。この落込みが、景況感悪化に拍車をかけている。輸入受注は、輸出受注よりもさらに悪化しているので、国内景気が縮小ムードに入っていることを窺わせている。
(3)「トランプ米政権は今月に入って2000億ドル分の中国製品への関税を最大25%に引き上げ、中国も対抗措置を講じた。両国の関税合戦が世界経済の成長や貿易、企業投資の足かせとなる中、米政府は、中国通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)に対する事実上の輸出禁止規制を導入し、貿易摩擦は一段と強まった。先行き不透明感が強いため、大半のアナリストは一段の景気刺激策が必要と指摘する。一方、中国人民銀行(中央銀行)の高官は30日、比較的緩やかなマネーサプライの伸びで、経済活動を妥当なレンジ内に維持できるとの見方を示した」
中国経済の落込みを防ぐには、さらなる景気刺激策が必要とされている。もはや、限界を超えた「延命策」に過ぎない。今後の中国経済の債務を増やすだけで何の意味もない政策である。それよりも、習近平氏がメンツを捨てて「原案」に戻す勇気があれば、中国経済は「救われる」。日本は、終戦直前に決断がつかずに時間を空費したことが、広島と長崎に原爆を落とされる悲劇を生んだ。中国経済も状況は似通っている。習近平氏の立場は、戦時中の昭和天皇のそれであろう。