勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2019年07月

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    日本政府は、7月4日から韓国の半導体・テレビ・スマートフォンなどの製造に欠かせない3つの先端材料の輸出を規制することにしたと産経新聞などが報じたことから大騒ぎになっている。昨年11月、韓国大法院(最高裁)は、戦時中の日本における徴用工への賠償を求める判決を下した。以来、日本政府はすでに解決済みの問題として反発、国際法違反として韓国政府に話合いを求めて来たが無反応で取り合わない姿勢を見せきた。日本政府が、これに業を煮やしての報復措置と受け取られている。

     

    『朝鮮日報』(7月1日付)は、「『華為制裁の10倍』の衝撃、韓国政府は日本の報復に備えているのか」と題する社説を掲載した。

     

    日本政府は半導体・テレビ・スマートフォンなどの製造に欠かせない3つの先端材料の韓国向け輸出を規制することにしたと産経新聞が報じた。日本政府はこれまで、これら3品目を輸出する際の手続きを大幅に簡素化する「ホワイト国」(優遇国)27カ国に韓国を入れていたが、今月4日から韓国を外す制裁方針を正式発表する予定だという。強制徴用賠償判決や慰安婦財団解散などが重なり、感情的な溝を深めてきた韓日関係が、ついに一触即発となりかねない局面に至っている。

     

    (1)「(3品目とは)半導体ウェハーを思い通りの形状に削り、ディスクに細かい回路を描くのに使われるエッチングガス(高純度フッ化水素)とレジスト(感光剤)、スマートフォンやテレビのディスプレイ工程に使われるフッ素ポリイミドは日本が世界市場の7090%を生産している。半導体は昨年の韓国の全輸出の約20%を占め、サムスンのスマートフォンは現在、世界シェア1位。世界市場で販売されているテレビ の2台に1台はサムスンかLGのテレビだ。もし日本がこの3つのハイテク素材の輸出を遅延または中止すれば、韓国経済は壊滅的な損失が避けられなくなる。米中のはざまで揺れた「ファーウェイ(華為技術)制裁問題」で、韓国企業は打撃を受けることになるかもしれないと心配していたが、今度はそれ以上の大きな問題が日本で起こりつつある。日本の規制が現実のものとなれば、韓国経済が受ける打撃はファーウェイ制裁問題の場合の10倍になると言われている」

     

    前記の3品目は、かねてから日本が韓国への報復策として噂に上ってきたものだ。韓国政府が、こういう動きを察知しながら日本政府へ対応しなかったのは怠慢というべきだ。

     

    韓国国内では、「日本が一度、怒りの対応を始めたら大変な事態を招く」という警告の意見が噴出している。本欄は、そういう声を最大限、紹介してきた。秀吉の朝鮮出兵も、李朝の日本への対応の拙さが招いた事件という文書の存在まで指摘されている。むろん、本欄はそれを取り上げてきた。

     

    敗戦後、日本は韓国の批判にさらされ続けてきた。「無反省国」「戦犯国」「帝国主義国家」「軍事国家」とあらん限りの紙つぶてが投げつけられてきた。日本は、それに対して反論もせずに耐えてきたのだ。鳩山由紀夫元首相のように、韓国が「もういいと言うまで日本は謝罪し続けろ」という意見もある。それは、少数説であろう。

     


    (2)「日本政府はこれまで、「強制徴用賠償問題で韓国に差し押さえされた日本企業の資産が売却され、実質的な被害が生じたら報復措置を取る」と警告してきた。日本の今回の規制発表は、報復の引き金に指をかけて韓国側の動きに注視するという予告だ。今回のG20サミット主催国の首相・安倍首相が19カ国の首脳や国際機関代表と会いながら、最も近い国・韓国の大統領との対面は8秒間の握手だけで終わったことも、こうした措置を念頭に置いていたからだろう。日本の対応は十分に予想されていたが、韓国政府がどのような対策を立てているのか心配だ。ファーウェイ制裁問題が浮上した時、韓国大統領府は「各企業が自律的に対処すべき事項だ」と言ったが、その10倍と言われる衝撃が迫っていても、同じ言葉を繰り返すつもりなのだろうか」

     

    日本の怒りが爆発するとなると、韓国経済も大きな影響が出る。韓国政府は、真摯な態度を持って日本政府へ対応すべきだ。あくまでも、国際法違反であるという日本の批判を無視するとしたら、日本が最終的に報復措置を取るのは致し方あるまい。

     

     


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    トランプ大統領の若い時代の写真を見ますと、プレイボーイというイメージが伝わってきます。さぞや、女性にもてたであろうと想像します。男女の駆け引きでは、相当の腕前であり自信を持っているはずです。

     

    昨日の北朝鮮の金正恩委員長との会談は突然、思いついたものでなく、一連の米朝交渉が始まる前から、思い描いていた過程であるように思います。と言うのも、北朝鮮が失礼な発言をすると、国務長官の訪朝計画にストップを掛ける。ハノイでの米朝首脳会談では、会談途中で席を立ってショックを与える。そして今回は、板門店まで出かけて「会いたい」と言って「誠意」を見せる。このように、相手に冷たく接して置きながら、要所、要所では暖かく接して、虜にさせる「手練手管」を心得ているからです。

     

    北朝鮮は、鼻っ柱が強くてなかなか一筋縄でいかない相手です。こういう向きには、トランプ流人心操縦法が見事に効果を上げるのかも知れません。一度、相手のプライドをへし折って粉々にし、それから優しく接するのです。

     

    中国の人心操縦法も凄いと言います。米中復交交渉に当った米国のキッシンジャ-元国務長官が述懐しています。

     

    北京で交渉している時の経験では、夜の宴会を終わってホテルへ帰り、そろそろ休もうかとしている所へ中国の交渉担当者が現れて、議論を始めると言うのです。相手は、キッシンジャー氏が疲れているところを利用して、中国の主張を通そうとするのだそうです。米国では、この時の外交経験を一冊の本にまとめてあるほどです。

     

    話を元にもどします。

     

    トランプ氏は、交渉術の本を書いているほどです。自信があるのでしょう。正恩氏は、トランプ氏にとっては年齢的に、自分の子ども世代です。トランプ氏が、「一日の長」があるのは当然としても、昨日の板門店会談は、トランプ氏の腕前の凄さを発揮しました。感服せざるを得ません。

     

     


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    ベトナム・ハノイでの米朝首脳会談は、後味の悪いもので終わった。今回の意表を突く板門店会談は、前回会談のマイナス分を埋めた形だ。これが、「トランプ式人心操縦法」としたら大した魔術と言うべきかも知れない。

     

    『聯合ニュース』(6月30日付)は、「分断を超え平和へ、板門店で事実上の3回目米朝会談」と題する記事を掲載した。

     

    北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長(朝鮮労働党委員長)とトランプ米大統領は30日、板門店の韓国側施設「自由の家」で、事実上の3回目の米朝首脳会談を行った。 金委員長とトランプ氏は板門店の南北軍事境界線上で握手した後、共に北側に入ってから韓国側に移動した。2人は待機していた文在寅(ムン・ジェイン)大統領と対話した後、自由の家に入った。

     

    (1)「施設内では両氏がそれぞれ発言した後、報道陣が外に出た。会談は53分間、行われた。このため事実上の3回目の首脳会談が行われたことになる。トランプ氏は会談後、「きょうは歴史的瞬間だった。よい会談だったし、速度より正しい交渉を進めていく」と述べた上で、ポンペオ国務長官主導の下、2~3週間以内に実務チームを構成し、非核化を巡る米朝交渉を進める考えを明らかにした。北朝鮮に対する制裁緩和も交渉過程であり得ることも示唆した

     

    米朝首脳は、二人きりで53分間の会談を行った。トランプ氏は、交渉過程で制裁緩和もあり得ることを示唆した模様で、北朝鮮が最も欲していた制裁緩和という「ニンジン」をぶらさげた格好である。こうなると、金氏もぐっと身を乗り出さざるを得なくなるはずだ。

     


    (2)「一方、文大統領は「きょうの対面を通じ、朝鮮半島の完全な非核化と恒久的平和を構築するための平和プロセスが大きな峠を一つ越えた」と説明した。米朝対面を提案したトランプ氏に対しては、「果敢かつ独創的なアプローチに敬意を表したい」と話した。この日の対面で、史上初の南北・米首脳の「3カ国会合」が実現した。また、トランプ氏は初めて北朝鮮に入った現職の米大統領となった」

     

    (3)「今回の板門店会談は物別れに終わった2月のハノイでの米朝会談以降の不信と対立の解消につながり、朝鮮半島情勢の急変をもたらすきっかけになるとみられる。特に、米朝首脳が板門店で相互信頼を確認しただけに、当分の間、極端な情勢悪化はない見通しだ。一方、トランプ氏は金委員長をホワイトハウスに招待したとされる。今後行われる実務協議がうまく進めば、米朝首脳会談につながる可能性もあり、金委員長が招待を受諾すれば、会談の場所はワシントンになる

     

    今後2~3週間の間に実務交渉の準備が始まる。トランプ氏は、金氏をホワイトハウスへ招待したとされるので、4回目の米朝首脳会談が米国で開催される可能性もあるという。そうなると、膠着状態であった米朝交渉が動き出すかも知れない。


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    けさ、下記の目次で発行しました。よろしくお願い申し上げます。

     

    供給網の再編成を招く

    不動産税で財源捻出へ

    構造改革を拒否の理由

    経済成長率で米中逆転

     

     

    中国はいったん、米国との貿易戦争を終息させる決意をしました。だが、「主権」を理由に妥結を拒んでいます。6月末の米中首脳会談で、交渉再開を決めました。今後の交渉スケジュールは、これからの協議に委ねています。

     

    供給網の再編成を招く

    米中首脳会談の結果を受けて、メディアでは中国の「作戦勝ち」という見方もあります。果たして、そうでしょうか。表面的な見方と言わざるを得ません。紛争解決が延びれば延びるほど、中国へ不利に働く点を見過ごしているからです。今回のように、交渉開始から1年経っても結論が出ない問題は、仮に協定ができても紛争の種が尽きず、ギクシャクし続けるという予想を高めます。中国のサプライチェーンが、他国へ移転する可能性を大きくなるのです。中国にとって致命傷になります。

     

    中国政府は、サプライチェーン再編成のリスクに直面していることを見落としています。このことが、中国に「米国の圧力に対抗して最後まで戦う」というピント外れの発言をさせている理由でしょう。トランプ米大統領は、先の米中首脳会談で、「結論を急がない」と発言しました。まさに、米国の狙いはサプライチェーンの再編成によって、中国の潜在的な経済成長力を削ごうとしているのです。

     

    6月30日に、中国国家統計局は6月の「製造業PMI(購買担当者景気指数)」を発表しました。前月並みの「49.4」にとどまり、好不況の分岐点50を下回りました。問題は、輸出の新規受注が落込んでいることです。3~5月までの3ヶ月は、米国が第4弾3000億ドルについて25%関税を掛けると予告したので、繰り上げによる新規輸出受注が増えました。6月は急減しています。この状態は、今後とも続くはずです。

     

    製造業の不振は、雇用面に反映します。製造業の雇用指数は2009年以来の低水準に落ち込みました。非製造業部門の同指数も16年初め以来の悪化を記録したのです。製造業では小規模企業が景気減速の打撃を最も受けています。大企業も生産活動が縮小しているので、大企業の雇用指数は過去3年余りで、初めて50を下回る緊急事態に直面しています。

     

    中国経済は、雇用の悪化という本格的な景気後退局面を迎えています。とうてい、米中貿易戦争を繰り広げるゆとりなどあろうはずがありません。それでも弱気を見せず、米国と最後まで戦うと言わざるを得ない事情とはなんでしょうか。

     

    それは、ここで米国の要求である「市場経済化」を受け入れれば、中国共産党の崩壊につながりかねないという危機感です。つい最近まで、中国式社会主義は市場経済システムよりも優れていると喧伝してきました。それが、米国の要求に屈したとなれば、発展途上国向けの「一帯一路」プロジェクトの推進にも障害になるという思惑が交錯しているのでしょう。ここは苦しくても米国と戦い、中国の「レゾンデートル」(存在理由)を明らかにする切羽詰まったところへ追い込まれています。

     

    経済問題は、メンツではありません。合理的なシステムか、どうかが問われるのです。そういう視点で米中貿易戦争を見ますと、中国は感情論で捉えており、理性的な判断が入り込む余地は見られません

     


    不動産税で財源捻出へ

    中国経済は、ますます財政依存体質へ落込んでいます。膨大な補助金を財政から捻出する必要性に迫られています。地方政府はこれまで、不動産バブルを活用してきました。土地国有制を利用して、土地利用権の売却益を財源に組入れてきたのです。中国財政は、土地国有制という基盤の上に成り立つもので、不動産バブルとは密接不可分の関係にありました。

     

    不動産バブルも限界に達しています。債務総額が負担の限界を超えたことです。企業は過重債務で倒産が増えています。家計は住宅ローンの負担で個人消費を切り詰めています。銀行は、不良債権で貸出能力が落込んでいます。政府管理の中小銀行が1行出てきました。倒産リスクの高い中小銀行が、12行もあるほどです。市場経済国家であれば、これだけの信用危機の淵に立たされている状況で、米国と貿易戦争など継続不可能という議論が出てきます。中国ではそれがすべて抹殺されており、表面化しないところに真の危機があるのです。

    (つづく)

     

     


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    1本のツイッターが、首脳会談を実現させるという離れ業を演じた。昨日、米朝首脳が板門店で急遽、会談を行った。韓国の文大統領は脇役として米朝首脳から一歩、引き下がる形をとった。北朝鮮の金正恩氏委員長は、韓国の文大統領に対して「仲介役とはおこがましい」と非難してきただけに、文氏は脇役になったのであろう。

     

    板門店での米朝首脳会談では、金正恩氏が述懐していたように、「ビックリした」という。ここが、トランプ氏の持ち味であろう。毀誉褒貶の激しいトランプ氏だが、意表を突く形で相手の心を掴む当たりは、ビジネスで鍛えた経験の賜物であろう。

     

    『朝鮮日報』(6月30日付)は、「史上初の板門店での米朝首脳会談で『脇役』に徹した文大統領」と題する記事を掲載した

     

    文在寅(ムン・ジェイン)大統領は30日、米国のトランプ大統領と首脳会談を行い、その後共に南北軍事境界線のある板門店を訪れた。板門店では、平壌から来訪した北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長、トランプ大統領と3人で8分ほど言葉を交わした。しかしトランプ大統領が米国の現職大統領として初めて北朝鮮の地を踏むときは、一歩退いて様子を見守った。本格的な非核化交渉はトランプ大統領と金委員長の2人で行われた。板門店の韓国側施設「自由の家」で、トランプ大統領と金委員長が53分間にわたり会談した際、文大統領は別の部屋で待機していた。

     

    (1)「今回板門店で行われた米朝首脳会談での文大統領の役割をめぐっては、評価が分かれている。一部では「トランプ大統領を粘り強く説得し、ハノイでの会談失敗以降全く進展のなかった米朝非核化交渉を再開させるきっかけをつくった」と肯定的な評価が聞かれる。一方で「韓国の地で世界的な外交イベントが開催されたのに、肝心のわが大統領は周囲で見ているだけだった」と残念がる声もある。「文大統領が、非核化交渉の主導権を握っている米朝の間で実質的な進展を引き出すのであれば、結果的に今日の『助演』が主演2人より輝きを放つだろう」という指摘も出ている」

     

    文氏が、脇役に徹したことは評価すべきだろう。米国は、これまで韓国が勝手に北朝鮮と交渉して「隊列を乱す」と批判してきた。それだけに米朝首脳に「花」を持たせて、自身が一歩引き下がったのは結果として良かっただろう。文氏は、大阪のG20サミットでは、安倍首相から「無視」された形で、反省もあったであろう。その延長が、板門店での行動に反映されたのかもしれない。

     


    (2)「文大統領は韓米首脳会談の後の共同記者会見で、今日の板門店での会合の当事者は米国と北朝鮮になるだろうと述べていた。文大統領は「私も今日、板門店に招待されている。しかし、今日の中心は北朝鮮と米国間の対話だ」と明らかにした。また、南北対話の可能性に関しては「今日は朝・米間の対話に集中するようにし、南北間の対話は次の機会に計画されるだろう」と述べた。この日の板門店での会合は米朝間の非核化交渉再開に向けたものであり、南・北・米3か国あるいは南北間の対話のための場ではないと言ったわけだ」

     

    (3)「結果的に文大統領はこの日、世界の注目をトランプ大統領と金正恩委員長に向けさせ、自身は一歩下がる姿勢を貫いた。文大統領はトランプ大統領を「ピースメーカー」と呼ぶなど、何度も同大統領を持ち上げた。高麗大の南成旭(ナム・ソンウク)教授は「文大統領は米朝間の会談の動力が途絶えるのを防ぎ、(2人の間を)つなげることに総力を傾けたのだろう」を評価した。この日の面会の発案者がトランプ大統領だったため、文大統領は「脇役」に徹したというわけだ」

     

    北朝鮮メディアは、韓国を連日批判する報道をしてきたのは、米国とのパイプ役を果たせという催促であったのだ。これで、念願の3回目の米朝首脳会談が実現できたので、今後はトーンを下げるであろう。


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