中国の習近平国家主席の訪日スケジュールが固まってきたようだ。中国は、「桜の咲く頃」を希望している。実現すれば、中国国家主席として12年振りの訪日になる。習氏の訪日に当り、中国駐日本大使・孔鉉佑(コン・シュエンヨウ)氏が、日本経済新聞とのインタビューに応じた。
『日本経済新聞』(9月28日付)は、「日中 第5の文書検討」と題する記事を掲載した。
中国の孔鉉佑駐日大使は都内で日本経済新聞のインタビューに応じた。2020年春に予定される習近平(シー・ジンピン)国家主席の国賓としての訪日の際に発表が見込まれる、日中共同声明などに続く「第5の政治文書」について「条件が熟せば共通認識を示すことも考えられる」と明言。検討していることを明らかにした。同文書を巡る日本側との協議については「中国はオープンな姿勢を取っている」と前向きな姿勢を見せた。
(1)「中国は1972年の日中共同声明や78年の平和友好条約などこれまで日中間で交わした4つの政治文書を両国関係の基礎として重視している。孔氏は第5の文書により両国関係の「将来の発展の原則が確立される」との考えを示した。日中関係については、協調・協力を強化していく新しい時代の関係構築を目指し、日中はライバル意識を持たず「パートナー意識を育て上げる必要がある」と強調した」
これまでの日中共同文書には、次の4つがある。
1972年 日中国交正常化を宣言した日中共同声明
1978年 平和的手段での紛争解決を明記した日中平和友好条約
1998年 両国関係を最も重要な関係の一つと規定した日中共同宣言
2008年 戦略的互恵関係の推進を明記した共同声明
中国は、すぐに文書を取り交わして後々、日中間で問題が起こると必ずそれを持出して、日本を攻め立ててきた。そういう意味では、軽々に文書を交わすと中国に悪用される危険性が高い。過去の共同文書の精神が生きていれば、尖閣諸島の領海侵犯を繰り返すようなことをするはずがない。中国には、共同文書を守る意識が浅薄であり、文書を出しても実質な意味はない。止めるべきだ。利用されるだけである。
(2)「孔氏は、習氏の訪日で日本側との交渉役を担う。実現すれば、12年ぶりの中国国家主席の国賓来日となり「関係発展に深い影響を及ぼす」と話した。訪日の時期については、天皇、皇后両陛下や安倍晋三首相の日程を総合的に判断して調整するとした上で「我々としては桜の満開の時期を希望したい」と語った」
習氏の訪日時期は、来春の「桜が咲く頃」(3月末~4月初め)が想定される。
(3)「激化する米中貿易戦争についても触れ「両国は協力すれば利益になり、戦えば互いに傷つく」と主張した。米国に対しては話し合いを通じた相互利益につながる合意を求めた。日中の経済・貿易関係が高度に融合しているため、貿易戦争が「日本の経済にも影響することは避けられない」とも述べた。米国が唱える次世代通信規格「5G」からの中国通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)排除を巡る問題については「差別的である」と非難した。米国は安全保障上の理由で同社製品を排除するよう同盟国に求めている。孔氏は「責任ある企業として日本社会に奉仕する。正常な経営活動が保証されるよう日本政府に願う」と訴えた」
米中貿易戦争は、中国がWTO(世界貿易機関)のルールを100%受入れるかどうかという問題である。中国が、抵抗しているので貿易戦争という関税引上競争になっているだけだ。世界銀行と中国国務院発展研究センターの共同研究によれば、中国が何らの改革もしない場合、2031~40年の平均経済成長は1.7%に落込むと見ている。
米中貿易戦争は、米国が中国に対して経済改革を求め、他国からの技術窃取を禁じることが主な内容である。それについて、中国は「主権の侵害」などと理屈をつけて実行しない理由付にしている。ただ、2030年代の成長率が1%台に落込めば、「中華の夢」どころの話ではない。超高齢社会に伴う社会保障費の重圧で財政破綻のリスクを背負う。これに、軍事費の膨張が加わる。楽観は禁物である。
下線を引いたファーウェイは、中国技術スパイの最先端を担っている。これは、FBI(米連邦捜査局)から犯罪実態として発表されている。中国は、2049年をメドに世界覇権確立の野望を持っている。ファーウェイには、それを助ける任務が課されているのだ。民主主義国から敬遠されるのは当然。弁解は無用である。
(4)「保護主義の動きが広がる中、日中韓自由貿易協定(FTA)協議の前進に意欲をみせた。「3カ国の経済関係を強化する極めて重要な枠組み。発展の未来を切り開くため、協議を加速させる」と強調した。一方、半導体材料を巡る日韓関係の悪化を懸念し、早期正常化へ向け中国も協力する姿勢を示した」
日中韓自由貿易協定(FTA)は、構想としては面白いが、日中の産業レベル格差が大き過ぎて実現不可能である。先行している中韓自由貿易協定も自由化率が低く、韓国に何らのメリットにもならない代物である。ましてや、日本にとってメリットはゼロであろう。中国が、日中韓三カ国のFTAを言い出している背景は、米中対立の隠れ蓑に利用したいだけである。
日米豪印が軸になって進める「インド太平洋戦略」は、中国の軍事拡大戦略への防衛である。この「仮想敵」である中国と日本が、協力できる範囲は自ずと限定される。中国は、日本を通して自国の軍事戦略がいかに「自滅リスク」を抱える危険なものであるか。それを自覚することだ。