勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2019年10月

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    韓国経済は、底が抜けたような状況に追い込まれている。30大企業グル-プの7~9月期の営業利益は前年比50%減となった。期を追うごとに落込み幅が大きくなっている。輸出不振に内需不振が重なって、「NO文政権」という状況である。

     

    海外からも韓国経済への不安視が強まっている。米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』に続いて英紙『テレグラフ』は29日(現地時間)も下記のように報じている。

     

    『中央日報』(10月31日付)は、「韓国、『日本の失われた20年』より深刻な経済危機も」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「英紙『テレグラフ』は、韓国経済が危機に直面した理由として、米中貿易戦争や韓日葛藤など対外要因だけでなく、所得主導成長や法人税引き上げなど文在寅(ムン・ジェイン)政権の誤った政策のためというのが同紙の分析だ。同紙はソウル大行政大学院のパク・サンイン教授の韓国経済分析を引用した。パク教授は「韓国経済が不況を迎えることになれば、1997年の通貨危機当時と同じような危機が発生する可能性がある」と述べた。パク教授は韓国が2011年から下降傾向だと説明し、「韓国の危機は日本の『失われた20年』より状況がさらに深刻になるだろう」という見方を示した」

     

    韓国経済が、慢性的な危機状況にありながら表面化しなかったのは、輸出増が内需不振を隠してきたからだ。昨年12月から輸出が前年比マイナスに落込み、韓国社会が実勢悪に気付いただけであろう。ここで、韓国経済が「衰退不可避」のデータを提示したい。

     

    潜在成長率推移        生産年齢人口比率

    1991~1995 7.3%      70.5%

    1996~2000 5.6       71.

    2001~2005 4.7       72.

    2006~2010 3.9       72.

    2011~2015 3.2       73.

    2016~2020 2.

    (資料:現代経済研究院)     (資料:世界銀行)

     

    生産年齢人口比率が上昇する「人口ボーナス期」でありながら、潜在成長率が下がっていた事実を見落としてはいけない。韓国経済がすでに生産性が落ちていたことだ。労組の生産性向上への協力拒否も見逃せない。韓国社会がバラバラで統一が取れないマイナスは大きい。唯一まとまるのは、「反日」だけというなんとも不思議な「感情社会」である。

     

    『韓国経済新聞』(10月31日付)は、「半導体不況に内需不振重なり韓国30大上場企業、 7~9月期営業利益半減」と題する記事を掲載した。

     

    韓国の主要上場企業の7-9月期の営業利益が前年同期より50%以上急減したことがわかった。業績が悪化した1-3月期と4-6月期より減少幅が大きい。国際会計基準(IFRS)が全面導入された2012年以降で最大の減少幅だ。一部では韓国企業の競争力が根本的に損なわれたのではないかとの懸念が大きくなっている。

    (2)「韓国経済新聞が30日に7-9月期の業績を発表した四半期売り上げ1兆ウォン以上の30大企業(金融・持ち株会社除外)の営業利益を集計した結果、総額14兆2779億ウォンで昨年7-9月期の31兆1433億ウォンより54.2%減った。今年1-3月期の46.9%減、4-6月期の49.7%減より減少幅が大きくなった」


           営業利益前年比減少幅

    ~3月期    46.9%

    ~6月期    49.7%

    ~9月期    54.2%

     

    この「釣瓶落とし」の状況を見れば、韓国経済が容易ならざる事態に落込んでいることが分かるはずだ。韓国大統領府の「素人集団」だけは、経済が順調であると嘯いてきた。経済データの見方が分らないのでないか、とすら思うほど鈍感な反応であった。もはや、逃げ口上は許されない。

     

    (3)「サムスン電子とSKハイニックスなど半導体企業の営業利益が70%近く急減したのが決定的だったが、鉄鋼、石油精製、化学、建設、電子などほとんどの業種が振るわなかった。30大企業の売り上げ比営業利益率は6.1%で昨年7-9月期の13.1%から半分水準に落ち込んだ。同期基準では2014年7-9月期の5.2%以降で最低だ」

     

    半導体市況の急落が、収益を悪化させた主因であるが、ほとんどの業種が不振である。7~9月期の30大企業グループの営業利益率は6.1%。前年同期は13.1%であった。半減以下である。ここまで低下してくると、設備投資も研究開発も絞らざるを得なくなる。韓国経済にとってはSOSである。

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    韓国大法院が、徴用工賠償判決を下したのは昨年10月30日である。あれからちょうど1年が経った。すでに日本企業の資産(株式)が担保で差し押さえられており、遅くも来年には売却が行なわれると見られている。その場合、日韓関係は破綻する。

     

    もともと、韓国司法が国際慣例を破った判決をしたことが間違いの元である。国際的に、「司法の自制」として認められているように、条約に関する裁判を回避するのが普通である。韓国ではこういう慣例を破って、司法が条約に干渉するという特異の行動を見せている。日本が、国際法違反という主張は当然である。韓国がローカル過ぎるのだ。

     

    『中央日報』(10月30日付)は、「安倍政権、日本企業の資産を現金化なら同じ金額で韓国に報復検討」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「徴用裁判の原告側が韓国で差し押さえた日本企業の資産が現金化される場合、同じ金額の損害を韓国側に負わせる「報復措置」を日本政府が検討していると、朝日新聞が30日報じた。同紙が韓国の徴用判決1周年(30日)を迎えて報道した記事の内容だ。同紙は「現金化する場合、日本政府は国際司法裁判所(ICJ)への提訴と韓国政府への賠償請求も共に検討している」とし、このように伝えた」

    日本企業の資産が売却されれば国際法上、日本の対抗措置が認められている。その根拠は、日韓基本条約で処理された問題が、韓国の一方的な判断で蒸し返され、日本企業が損害を被ったので、日本政府が損害賠償を求めるという法的な根拠だ。文在寅「弁護士」の見誤りが、国交断絶に近い状態をもたらすとすれば、文氏は大統領失格である、

     

    (2)「早ければ来年1月ごろと予想される「差し押さえ資産の現金化」が実際に実行される場合、日本政府が本格的な報復を始めて両国関係は取り返しがつかない状況になるというのが両国の主な見方だ。茂木敏充外相も29日の記者会見で資産現金化について「あってはならない」「そのようなことが発生する場合、韓日関係はよりいっそう深刻な状態になる」と述べた。30日付の朝日新聞には「現金化はルビコン川渡ってしまう」「現金化される場合、両国関係はアウト」という日本外務省幹部の発言が掲載された」

    差し押さえられている株式が現金化されれば、もはや日本も遠慮は要らない。韓国の急所を突くことも可能である。だが、落ち目の韓国経済は、日本の一撃で堰を切ったように流されてしまうリスクも抱えている。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(10月30日付)は、「韓国に迫る経済危機、日本が教訓に」と題する記事を掲載している。その中で、「韓国と日本の政府は現在、関係が良好ではない。韓国にとって今、とりわけ重要な経済的教訓を日本から得られる機会なのに残念だ」とし、民間債務の急増で景気後退とデフレ懸念が強いと警告している。ここまで追い詰められてきた韓国が、「司法の自制の原則」を無視した行動で自国経済を沈没させるとは、なんとも愚かに見えるのだ。

     

    (3)「水面下では賠償金の準備に韓国と日本の企業(1+1)のほか韓国政府が「アルファ」として参加する案、韓国企業と韓国政府(1+1)に日本企業が「アルファ」として参加する案などが議論されている。しかし「日本側は一銭も出せない」(毎日新聞が引用した首相官邸幹部の発言)とうのが日本の基本的立場であり、急進展を期待するのは難しい状況だ。日本高官は読売新聞に「問題は単純だ。国際約束(請求権協定)を守るか守らないかだ。ボールは韓国にある」と述べた」

     

    韓国が、「司法の自制の原理」を破った科を受けるだけである。

    (4)「一方、読売新聞は「日本政府は11月初めにバンコクで開催される東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議、同月中旬にチリで開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議では韓日首脳会談を見送る方針を固めた」と報じた。同紙は「両首脳が接触しても短時間の立ち話程度にとどまる見通し」と伝えた」。

     

    下線部分にあるAPEC首脳会議は、チリ政府が国内混乱を理由に返上したので当面、開催不能である。日韓首脳会談は立ち話も不可能になった。韓国にとっては不運だろう。

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    米軍は、韓国に対して大幅な防衛費分担増を求めて来たグアムのアンダーセン空軍基地から韓国へ出撃するB-1B戦略爆撃機の費用として、1回1億ドルを要求したと言うのだ。韓国は、昨年まで1回3000万ドル程度であった費用が、1億ドルに増えたことで目を丸くしている。

     

    韓国は鈍感である。米国が来年の防衛費分担で50億ドル要求に辻褄合わせで「1回1億ドル」になったと見ているが、韓国にGSOMIA(日韓軍事情報総括管理規定)復帰を促すテコである。韓国の防衛にはこれだけ費用がかかっている。この現実に気が付くならば、GSOMIAに復帰せよと促しているはずだ。

     

    韓国は、その真意が掴めずに、高いといって騒いでいるだけである。要は、防衛には費用がかかるのだから情報収集を完璧にやれば、米軍機の出動回数が減らせる。だから、GSOMIAへ復帰せよ。こういう謎かけをしているのだろう。韓国では、誰もこれに気付かないとすれば、鈍感なことおびただしい。

     

    『中央日報』(10月30日付)は、「米、『グアムから飛んできた爆撃機の費用払え』韓国に1億ドル要求」と題する記事を掲載した。  

     

    米国が、第11回防衛費分担金協定(SMA)交渉で、9月24~25日の1度目の交渉と10月23~24日の2度目の交渉において、戦略資産展開費用戦略資産展開費用として1回の出撃で1億ドル以上を請求したことが、29日に明らかになった。戦略資産は米軍の長距離爆撃機、原子力潜水艦、空母などだ。これら戦略資産は昨年米朝非核化交渉が本格化してから韓半島(朝鮮半島)上空と海域を避け主に東シナ海などで哨戒作戦を遂行した。このため米国が純粋な在韓米軍駐留費用ではない東アジア・西太平洋安保の費用まで韓国に負担させようとしているという分析が出ている。

    (1)「米国側は具体的にグアムのアンダーセン空軍基地から出撃するB-1B戦略爆撃機の場合、昨年基準として韓半島防衛のため5~6回出撃したと根拠に提示した。だが別の政府消息筋は、「米国側は自分たちが算定した防衛費分担金50億ドル相当に合わせるため全般的に項目ごとに3倍以上膨らませおり、戦略資産展開費用も同じこと」と話した。米CBS放送の昨年6月の報道によると、B-1Bを韓半島に展開する運用・維持費用は1回の出撃当たり13億ウォンほど。年間基準でも69億ウォン程度だ。3000万ドルが1億ドルに増えた背景には人件費と手当てをこれまでより大幅に増やし、米国本土の支援部隊人件費など間接項目を上乗せしたためというのが韓国政府の分析だ。米国は在韓米軍だけでなく米本土の米軍も韓国防衛のため寄与しているという立場だ」

    韓国は、駐韓米軍の役割が朝鮮半島の安全保障だけと狭く解釈しているが、それを頭から拒否して安全保障地域を拡大していることを教えようとしている。つまり、米国が純粋な在韓米軍駐留費用ではない東アジア・西太平洋安保の費用まで韓国に負担させる点に気付かせようとしている。

     

    この延長線で、韓国に対してGSOMIAの役割を考えろと迫っているのだ。韓国は、朝鮮半島のことしか考えていないが、それではダメだと教えているに違いない。換言すれば、もっと大人になれと諭しているのであろう。

     

    (2)「米国は昨年から戦略資産を韓国軍との合同演習に投じていない。戦略資産が韓国の領空や領海で作戦を展開したこともほとんどない。米空軍爆撃機の場合、2017年まではグアムから出撃し、フィリピン(南シナ海)、台湾(東シナ海)を経て済州島(チェジュド)を通じて韓国領空に進入した後、西海(黄海)→東海(日本名・日本海)または、東海→西海方向へ韓半島を横切った。だが昨年は南シナ海と東シナ海などを飛行しながら韓半島周辺を回って行くルートに変わった」

     

    昨年から、B-1B戦略爆撃機の飛行コースは従来と変って、南シナ海と東シナ海などを飛行しながら韓半島周辺を回るルートになった。これは、重大な戦略変更である。中国軍やロシア軍の動向を探っているという意味だ。

    (3)「こうした戦略資産の移動経路を考慮すると、米国は戦略資産を北朝鮮だけを相手にする韓国防衛任務ではなく、東アジアなどでの中国・ロシア牽制任務に投じた後に関連費用を韓国に払うよう要求する格好だ。在韓米軍駐留費用ではなく東アジア安保費用に対する分担要求だ。このため韓国交渉チーム内部では「戦略資産展開費用を韓国と日本、台湾、フィリピンが分担して出さなければならないのではないのか」という意見まで出てきたという」

    B-1B戦略爆撃機の飛行コースの変更は、韓国防衛が対北朝鮮だけでなく、中国・ロシアも牽制しているという意味に解して、韓国はその費用も支払えということになった。ここまで明確になると、GSOMIAは日韓だけの問題でなく、日米韓三ヶ国の安全保障に深く関わってくる。韓国のGSOMIA復帰は、「当然」という結論になるはずだ。韓国はここまで来ても、まだ「日本が憎い」という感情論丸出しの議論を繰り返すのだろうか。

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    けさ、下記の目次で発行しました。よろしくお願い申し上げます。

     

    米打倒の政策に赤信号

    不法行為に違和感ない

    無残な半導体自立計画

    経常黒字減少が暗示?

     

    米中貿易戦争によって、中国のハイテク計画「中国製造2025」は、先行きが怪しくなってきた。米国が警戒して、中国へソフトや技術の輸出禁止措置を取っているほか、中国の学者や留学生への入国ビザを厳しく制限し始めているからだ。

     

    EUも中国人スパイを名指して、今後8年間の入国禁止措置を発表するなど、米国と歩調を合わせている。スパイによる技術流出を阻止する体制強化だ。詳細は後で取り上げる。行き場を失った中国のスパイは、日本と韓国へ向かうだろうと予測されている。EUのスパイ拠点は、「孔子学院」である。すでに、米国の孔子学院はFBIの監視体制に入っている。日本も、警察当局が孔子学院をマークしていると言われる。

     

    米打倒の政策に赤信号

    「中国製造2025」とは何か。中国の産業構造を高度化させる目的のプロジェクトである。中国政府が、こうした産業政策を作ること自体、問題があるわけでない。米国が問題視したのは、政府の補助金が大量につぎ込まれることや、外国企業から技術窃取や強制的な技術開示させる違法行為を重ねている点にある。米国にとってさらに見過せないのは将来、米国と覇権争いをする目標を明示したことだ。

     

    次のようなプロセスを経て、米国を打倒するというのである。

     

    中国は2015年、習近平氏の永久国家主席就任を決める支援材料として、ハイテク計画「中国製造2025」を公表した。この計画は2049年を最終目標にし、米国と覇権争いをする中国の基幹産業育成スケジュールであった。「中国製造2025」には公表されていない別添資料がある。これは、「グリーンブック」と呼ばれ、表紙の青いマル秘の指示書である。

     

    これには、具体的な国内生産シェアの目標を掲げていた。国内保護主義の徹底化によって、寡占状態にする計画を練っていたことが分る。習近平氏は、対外的に中国が自由貿易の旗手であると喧伝している。現実は、全く異なる保護主義を目指していたことが明らかにされた。

     

    2025年の国内生産シェア目標は、次の通りである。

     

    農業機械    95%

    新エネルギー車 90%

    携帯通信機   80%

    産業用ロボット 70%

    集積回路    56%

    汎用機     40%

     

    農業機械から産業用ロボットまで国内企業が過半の生産シェアを占めることになっている。だが、集積回路(半導体)は、56%と控え目の数字になっている。これを見ても、半導体については「苦手意識」を持っていたことが分かる。この弱点をカバーすべく、大量の資金投入と人材の引き抜きを行なう予定でいた。

     

    もう一つは技術窃取によって、先進国との溝を埋める強気の戦略を立てていた。技術窃取については、米国が事前に気付き関係者を逮捕して事なきを得たケースもある。中国側では、新工場が完成済みで技術窃取を待っていたという、漫画のような実例だ。この悪だくみは失敗し、がらんとした工場建屋がぽつんとあるだけという報道があった。

     

    半導体部門は、第4次産業革命の母体になる重要な戦略部門である。中国が最も遅れている分野だけに違法手段を使ってでも、その遅れを取り戻す至上命題がかかっていた。技術スパイを初めとする種々の違法行為で、中国は百戦錬磨というべき経験豊富な国家である。中国4000年の歴史は、陰謀の歴史である。他国の技術や情報を盗み出すことに罪の意識がない、希有の民族だ。(つづく)

     

     

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    韓国の労組は、戦闘的な存在で世界に広く知れ渡っている。「労働貴族」という名前の通り、大企業の賃金は日本を上回る。生産性が高い結果、賃金も高ければ問題はない。現実は逆で、韓国の生産性は日本を下回るのだ。

     

    これでは、韓国企業の経営が行き詰まって当然である。すでに、その兆候が現れている。設備投資余力を失い、韓国経済の先行きに警戒信号が上がる理由になった。韓国労組が、労働貴族に転じたのは、1997年の韓国金融危機以降である。労働者の首切りが、韓国労組を怒らせた。これ以降、企業の労働生産性には協力しない。終身雇用を守る。年功序列賃金を堅持させるという「労組3原則」を守ってきた。これでは、韓国経済が潰れても致し方ないのだ。

     

    『朝鮮日報』(10月30日付)は、「韓国大企業の大卒年収、日本を30%上回る」と題する記事を掲載した。

     

    韓国大企業の大卒者に対する初任給の水準が日本の大企業に比べ30%以上高いことが分かった。一方、中小企業の大卒初任給は日本が韓国を上回った。このため、大企業と中小企業の賃金格差も韓国がはるかに大きく、若者がスタートアップなど新たなチャレンジに消極的になり、大企業への就職に必死になる社会的風潮を生んでいると指摘されている。

     

    (1)「韓国経営者総協会(経総)が韓国雇用労働部、日本の厚生労働省の資料に基づき、昨年の韓日の大企業の新入社員初任給(1年目の年収)を分析した結果、韓国の大企業(従業員500人以上)は36228ドル(約394万円)で、日本(同1000人以上)の27647ドルを31%上回った。1人当たり国内総生産(GDP)に占める初任給(年収)の割合は韓国(GDP33346ドル)が115.5%で、日本(39286ドル)の70.4%を大きく上回った」

     

    給料は、高ければ高いほど良いわけでない。生産性に見合ったものでなければ安定性がない。働く者にとっては不安だ。外資系企業は高賃金で有名だが、一度不況が来ればあっさりと解雇されるリスクを伴う。賃金とは、解雇リスクを伴う意味で「ハイリスク・ハイリターン」である。

     

    韓国では、「ローリスク・ハイリターン」を狙っている。解雇は絶対にさせないという戦闘的な取り組みによって、ハイリターンを守っている。韓国企業が疲弊するのは当然である。私の韓国経済衰退論には、こういう「貴族労組」の存在が大きな影を落としている。

     

    (2)「一方、中小企業(従業員1099人)の大卒新入社員の初任給は韓国が23814ドル、日本が24479ドルで、日本の方が高かった。中小企業の大卒初任給を100とした場合、韓国では大企業の初任給が152.1だが、日本の大企業は112.9で、大企業と中小企業の差は韓国がはるかに大きかった」

     

    韓国では、大企業労組が高賃金を得ている裏で、中小企業がそのしわ寄せを受けている。そのメカニズムはこうだ。大企業が、中小企業製品を買い叩いて、自らの高い賃金コストを補填させているからだ。これでは、中小企業が大企業の支払う賃金を一部、肩代わりさせられているも同然の話だ。これを抑えるには、公正取引委員会が、大企業が中小企業製品買い叩きを防止する強力なシステムを作ることだ。これを率先して実行しているのは、サムスンぐらいである。

     

    (3)「韓国と日本の大企業における大卒初任給の格差は拡大傾向にある。2006年には従業員1000人以上の事業所で韓国が日本より10.4%高かったが、14年(韓国は従業員300人以上、日本は1000人以上)には格差が39%に拡大した。ところが、経済協力開発機構(OECD)が調べた1時間当たりの労働生産性は17年時点で日本が41.8ドルで、韓国(34.3ドル)に比べ20%以上高かった。経総のイム・ヨンテ経済分析チーム長は「企業の国際競争力を高めるためには、まず大企業の大卒初任給を合理的に見直し、年功基準の賃金体系を職務、成果中心に再編する必要がある」と指摘した」

     

    下線を引いた部分は正論である。まさに、労働改革をすることだが、韓国労組が納得しないから、現在まで未解決のままにきている。年功序列賃金と終身雇用が、韓国の労働市場を閉鎖的にさせ、労働の流動化を妨害している。転職の自由が実現できない限り、40代過ぎて会社を辞め自営業に転じるという、韓国固有の「自営業増殖メカニズム」を絶たなければ、韓国の就業構造は近代化しない。韓国労組は、それを邪魔している点で「天敵」に成り下がっている。

     

    (4)「財界からは大企業の大卒初任給を引き下げ、中小企業との賃金格差が縮小すれば、失業率を抑制する上でも役立つとの意見がある。大企業と中小企業の初任給に格差が大きい場合、青年が大企業にばかりこだわり、就職を先送りにするからだ」

     

    これを実現する第一歩は、まず保守党が政権に復帰しなければ話は進まないであろう。ただ、韓国では労組が総力を挙げて反対運動を展開し、交通機関が止まるなど騒乱状態になるだろう。国民の4割は労組寄りの「進歩派」である。よってこの理想案は実現せず、韓国経済は衰退過程を歩むほかないと見る。

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