勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2019年11月

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    米国は、民主主義の真骨頂である人権擁護の刃を中国に突付けた。香港人権法がそれだ。トランプ大統領の署名が27日に終わって発効した。トランプ氏は、中国と通商交渉の真っ最中だけに、この法案の影響を考慮して署名を延ばすのではという観測もあった。こうした予測を覆し、通商と人権擁護は別問題という原則から、署名に踏み切ったと見られる。

     

    中国は早速、反発して「報復」を公言している。報復策としては、何をするのか。米国との通商協議を打ち切ることであろう。困るのは中国である。国内経済は一段と疲弊し減速している。

     

    中国財政省は11月27日、来年の特別地方債発行枠のうち1兆元(1420億7000万ドル)を今年に前倒しすることを明らかにした。今年の発行枠の47%に相当するという。来年執行する予定の地方債発行枠の約半分を、繰り上げ発行せざるを得ない事態だ。インフラ投資を繰り上げ実施しして、GDP成長率を維持する事態に追い込まれている。

     

    「中国財政省は地方政府に対し、特別債をできる限りに早期に発行・利用するよう指示。「来年初めに確実に成果が出るよう、できる限り早期に景気を効果的に押し上げるべきだ」と表明した。多くの地方政府は、減税や景気減速に伴う歳入の減少で財政が悪化しており、中央政府が景気対策として期待を寄せる大型インフラ事業の実行が難しくなっている」(『ロイター』11月27日付)

     

    中国経済は、まさに「尻に火がついている状況」である。ここで米国に報復したら、中国経済自体が真っ逆さまに落込むリスクを抱える。よって、報復は不可能だ。

     

    『ロイター』(11月28日付)は、「米大統領、香港人権法案に署名、中国は報復を警告」と題する記事を掲載した。

     

    トランプ米大統領は27日、香港の反政府デモを支援する「香港人権・民主主義法案」に署名し、同法は成立した。中国政府は28日、「断固とした報復措置」を取ると表明し、香港に干渉しようとする試みは失敗すると警告した。中国外務省は声明で、香港を巡り米国が「独断的な行動」を続ければ、米国は中国の報復措置の影響を受けることになるとした。

    香港政府は、同法の成立はデモ参加者に誤ったシグナルを送り、香港の内政に「明らかに干渉」するものだと反発した。

     

    (1)「法案は前週、上院を全会一致で通過し、下院では1人を除く全員による賛成で可決された。中国は内政干渉で国際法違反に当たると強く反発していた。香港に高度の自治を保障する「一国二制度」が守られ、米国が香港に通商上の優遇措置を与えるのが妥当かどうか、少なくとも1年に1回検証することを国務省に義務付けている。香港で起きた人権侵害の責任者には制裁が科せられる。 トランプ氏は香港港警察向けに催涙ガスや催涙スプレー、ゴム弾、スタンガンなど特定の軍用品を輸出することを禁じる法案にも署名した」

     

    香港人権法は、米議会でほぼ100%の支持で可決されたものだ。米国民の総意と言える中で、大統領が署名拒否することは不可能である。来秋の大統領選で不利な戦いを強いられることは明白である。

     

    (2)「トランプ氏は声明で「習近平中国国家主席と香港の市民に対する尊敬から、これらの法案に署名した。中国と香港の指導者と代表者が対立を友好的に解消し、長期的な平和と繁栄をもたらすことを願うものだ」と説明した。来年の大統領選に向けて中国との通商合意を最優先とするトランプ氏は、これまで法案に署名するか拒否権を発動するか明確にしていなかった」。

     

    トランプ氏は声明で、中国と香港の指導者が香港市民と平和的な関係が維持できるようにと希望を託した。中国にとって、香港デモに対して弾圧を加えることは不可能になった。痛手であろう。ということは、香港市民が民主化要求デモを自由に行える保証を与えられたに等しいからだ。

     

    (3)「関係筋によると、議会が法案を可決した後、トランプ氏が支持した場合に通商交渉に悪影響が及ぶかどうか大統領の側近が協議した。最終的には大半がデモ参加者への支持を示すために署名することを勧めたという。法案が圧倒的賛成多数で議会を通過しており、拒否権を行使しても再可決される可能性があったことや、香港の区議会選挙で民主派が圧勝したことも、判断材料になったとしている。共和党のルビオ上院議員は、トランプ氏の署名を歓迎する立場を表明。「中国が香港の問題に介入したり影響力を行使したりすることを阻止する新たな意味のある手段を米国は手にした」とする声明を発表した

     

    ルビオ氏は、対中強硬派として知られている。次々と対中強硬法案を超党派で成立させている。将来は共和党候補として、米国大統領選に出馬する可能性を秘めた「成長株」と見る。ルビオ氏が、下線で引いた部分で指摘しているように、中国は香港へ干渉する手段を今回の「香港人権法」で封印された。中国の受けるダメージは計り知れないだろう。

     

              

    テイカカズラ
       

    韓国の合計特殊出生率が7~9月期に入って、さらに急激な減少を見せている。ソウルでは、なんと0.69である。人類が経験したことのない「絶滅的」な低水準記録である。理由は何か。若者の生活苦である。高い失業率で5人に1人は失業である。就職も出来ない人間が、結婚や出産など考えるゆとりがない。その日その日をどうやって生きて行くかで精一杯である。住宅も高騰している。結婚して新居も構えられないのだ。

     

    こういう生存条件すら保証できない政府が文在寅政権である。包容社会とか平和経済とか、立派な話をなさるが、この出生率急速低下に対してどういう感想か。まさに「文さん、大変だ」という緊急事態である。

     

    『朝鮮日報』(11月28日付)は、「ソウルの合計特殊出生率0.69 絶滅への道に入った水準」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「ソウルの合計特殊出生率が今年79月期に0.7を初めて切り0.69を記録した。合計特殊出生率とは、1人の女性が妊娠可能とされる15歳から49歳までの間に産む子どもの数を意味する。全国的に見ても、79月期の新生児数と合計特殊出生率は1981年に関連統計の集計を開始して以来、最も低かった」

     

    戦前の日本では、「生めよ増やせよ」と出産を大奨励した。人口増加が国家の繁栄に結びつくという理由だ。現代では、人口が横ばいを維持しない限り、社会保障を維持できないという切実な悩みに直面する。文大統領の「平和経済」は、出生率の急低下がそれを不可能にしている。

     

    ソウルの合計特殊出生率が、7~9月期に0.69とは驚きを超えて、文政権の「経済無策」に怒りを覚えるほど。しかも、突発的な現象でなく傾向的に下落していることを考えると、タイトルのように「絶滅の道に入った」のだ。

     

    (2)「統計庁は27日に発表した「9月人口動向」で、「今年79月期の全国の出生児数は73793人で、前年同期よりも6687人(-8.3%)減少した79月期の全国合計特殊出生率も0.88で過去最低を記録した」と明らかにした。特に地域別で見ると、今年79月期にソウル地域で記録した0.69という合計特殊出生率は、世界的にも類を見ないほどの超少子化だと指摘されている。この数値は、人口を維持するために必要な合計特殊出生率(2.1)の3分の1、超少子化基準(1.3)の半分に過ぎないものだ。世界を代表する少子化国・地域と言われるマカオ(0.92)、シンガポール(1.14)=以上、昨年の数値=の出生率を大幅に下回っている」

     

    韓国全体の合計特殊出生率は、7~9月期に0.88と過去最低を記録している。ソウルの0.69よりも高いが、ともに世界最低レベルである。ソウルの数値は、韓国全体がいずれこの超低水準に落込む先行シグナルと見るべきだろう。「韓国が地球から消える」と言えば大袈裟にしても、そのくらい驚き悲しむべきデータである。

     

    (3)「人口学者のチョ・ヨンテ・ソウル大学保健大学院教授は「もし『ソウル』と名付けられた人間の種がいるとしたら、絶滅の道に入ったと判断してもいいほどだ。人口のコントロール・タワーだとされていた大統領直属の少子高齢社会委員会の失敗であり、これまでの少子化政策の完全な失敗を示す象徴的な出来事だ」と語った」

     

    韓国は、絶滅の道に入った。韓国の人口学者が危機感をあらわにしている。日本人の私がのけ反るほど驚くのだから、韓国人であれば衝撃的であろう。すべての原因は、文政権にある。就職はできない。住宅は高騰している。この不整合な経済現象を生み出したのは、文大統領の経済政策と住宅政策の失敗による。

     

    (4)「今年は年間出生児数30万人維持も危うい状況だ。9月までの出生児数は232317人だ。1012月期の新生児数が67000人台に下がれば、初めて年間出生児数が20万人台となる。昨年の年間死亡者数(298820人)を考えると、出生児数30万人は人口減少の影響を防ぐためのマジノ線(最終防衛ライン)とされる。韓国の年間出生児数は2002年から16年までは40万人台を維持していたが、2017年に30万人台に下がり、減少速度がますます増している」

     

    今年の出生数が20万人台に下がれば、昨年の死亡者数を下回る。つまり、今年から「人口減」社会に突入である。韓国統計局の最新推計の人口減社会よりも8年も前倒しである。社会保障計画が間に合わないという事態である。

     

    高齢者で年金未受給率が54%の韓国である。反日などと言っていられる経済的な状況ではない。日本に頭を垂れて「和解」を申入れ、経済の安定をはかるのが政府の務めであろう。現実には、謝罪しろとか賠償しろとか、逆の行動である。韓国の頭の高さが、韓族を滅亡に追いやるのだろう。

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    メルマガ109号を発行しました。よろしくお願い申し上げます。

     

    「ホワイト国」復帰に3要件

    韓国は来春の総選挙に利用へ

    徴用工の賠償解決がカギ握る

     

     

    日韓は、よほど相性の悪い組み合わせである。11月22日午後6時、韓国大統領府は、GSOMIA破棄の「一時停止」を発表した。これで、「一件落着」とはいかなかった。その後、韓国大統領府首脳からは本件を巡る日本側報道に激怒する一幕があったのである。

     

    「『You try me(われわれを試してみなさい)』という話を日本にしたい」(大統領府の鄭義溶(チョン・ウィヨン)国家安保室長)。
    「事実でなければ小説にすぎない」(大統領府の尹道漢(ユン・ドハン)国民疎通首席秘書官)。

     

    この二人は、文在寅(ムン・ジェイン)大統領の右腕とされる人たちだ。ここまで激昂して友好国の日本を批判したのは、外交慣例に反するものだ。彼らはなぜ怒ったのか。日本側の報道で、「日本はなんら譲歩していない」というニュースが流れたからである。これでは、韓国政府の立場がなくなるというもの。来年4月の総選挙を控えて、与党が選挙を戦えないという危機感から出たものである。

     

    「ホワイト国」復帰に3要件

    韓国経済は、「釣瓶落とし」の状況にある。今年の経済成長率は良くて2.0%程度。1%台の成長率予想も増えている。来年の経済成長率について洪副首相は、「今年よりも良くしたい」程度しか語れないほど自信がないのだ。この状態で、与党が総選挙で勝利を収める可能性はゼロに近い。

     

    これにテコ入れできるのは、GSOMIA破棄の「一時停止」によって、日本が輸出規制手続きの撤廃にかかっている。韓国が、再び「ホワイト国」に戻れれば、韓国企業を覆っている「不確実性」が取り除かれる。韓国企業が、前向きになって設備投資もできる、という論理だ。この理屈は正しい。韓国は、日本を悪者しているが、自ら蒔いた種である。冒頭のような高飛車な態度は、日本側の反感を買うだけ。なんら事態の解決に寄与しないのだ。

    韓国高官が激怒したのは、日本による輸出手続き規制撤廃時期の食違いからだ。韓国が、GSOMIA破棄の「一時停止」を決めた理由は、日本が輸出手続き規制の撤廃を1ヶ月ぐらい先に行なうと約束した結果としている。日本にとっては、「譲歩」である。だが、前述の通り日本は「なんら譲歩していない」とにべもない。半導体3素材は戦略物資である。日本が、これら3品目について輸出手続きを厳格化した理由に、韓国はルーズであることを上げている。そういう難問を、「1ヶ月程度で解決できるはずがない」。これが日本側の言い分なのだ。韓国は、この問題をごく軽く考えている。こういう点で、両国は重要な点の理解で食違いを起こしている。

     

    『毎日新聞』(11月26日付)によれば、経済産業省の関係者は25日、自民党の関連会合に出席し、韓国が「ホワイト国復帰」条件を3つ上げている。

    .日韓両政府の対話が開かれていないなど信頼関係が損なわれている

    .通常兵器に関する輸出管理の不備

    .輸出審査体制、人員の脆弱性

    これらが解消されなければ、韓国をホワイト国に戻すことはできないと述べた。

     

    私のブログ(勝又壽良のワールドビュー)に寄せられた読者のコメントでは、次の点を指摘している。

     

    .旧ホワイト国に戻すには、最低限、審査官の増員(日本120名、韓国10名で教育には最低でも数ヶ月)

    .韓国での法改正が必要(新しい武器に対応できていない)で、その施行状況を確認するための期間も必要

    .国内手続き(政令のパブリックコメント等)が必要

    .結論:約1ヶ月では物理的に不可能である

     

    先ず、1で審査官の増員を上げている。日本は120名もいるのに、韓国は10名である。韓国は、この貧弱な体制にもかかわらず、日本を罵倒してきた。日本の密輸事件が、韓国よりも圧倒的に多いと豪語したもの。密輸は法に外れた行為である。戦略物資の審査官の陣容とは関わりがないのだ。韓国は、「ああ言えばこう言う」で事実の深刻性を認めなかった。

    (つづく)

     

     

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    習近平国家主席の夢は、軍事国家の建設にあることがますます明らかになってきた。中国が26日、世界2位と3位の造船会社を統合して世界最大の造船会社を誕生させた。目的は、空母や原子力潜水艦など先進艦艇の開発および生産によって、世界一流の海軍を建設することを明らかにした。

    中国の動きを見ると、戦前の日本と全く瓜二つの道を歩んでいる。軍事国家として米国覇権に挑んだが、国内は疲弊して得たものはなにもなかった。

     

    中国のような新興国が、覇権国と軍事衝突するのは「トゥキディデスの罠」と呼ばれている。現時点で米中が軍事衝突にまで至ると考えている人は多くないかもしれないが、日米開戦の歴史を振り返ると不穏な未来に行きつく可能性を否定できないのだ。米中を比較すれば分るように、「月とスッポン」である。中国は愚かなことを考えているのだ。

     

    『中央日報』(11月27日付)は、世界最大造船会社を誕生させた中国 内心は世界一流海軍の建設」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「中国国有資産監督管理委員会は25日、中国造船業界で1位の中国船舶工業集団(CSSC)と2位の中国船舶重工集団(CSIC)の統合を承認した。26日には北京で両社の統合で新しく誕生した中国船舶集団の設立式典が開かれた。従来の中国船舶工業集団の世界市場シェアが11.5%、中国船舶重工集団は7.5%で、新設の中国船舶集団はシェア19%となる。これまで世界1位だった韓国の現代重工業(13.9%)を上回り、世界最大の造船会社に浮上した」

     

    国有企業同士の合併である。非効率合併の典型例である。国有企業が先ず非効率経営であること。その二社が合併しても効率化できず、時間の経過と共に朽ち果てる運命である。中国経済が、こういう非効率企業を抱えて行くゆとりは次第に消えて行く運命にある。市場機構を無視した「丼経営」が長続きするはずがない。

     

    (2)「中国船舶集団は傘下に147の上場企業を保有し、資産総額は7900億元(約12兆円)、職員は41万人にのぼる。これは現代重工業と大宇造船海洋の統合問題に大きな刺激を与えている。特に注目されるのは26日に中国船舶集団の雷凡培会長が語った抱負だ。中国メディアによると、雷会長は記者会見で今後のグループの発展計画について3つの事項に言及し、その最初に強い軍隊の建設を挙げた。雷会長はまず「強軍興軍」の最初の責務を忘れないと述べた。世界一流軍隊の全面的建設のために一流の装備を研究開発し、世界一流海軍の建設を支えると明らかにした。雷会長は2番目の発展計画で世界一流の企業にすると述べた後、3番目の抱負で海洋防衛装備産業の発展に拍車を加えるとし、またも海洋国防のための新設中国船舶集団の役割を強調した」

     

    合併新会社の社員数は41万人という。これだけに人数をどのようにして動かすのか。軍隊方式によるのであろう。創意工夫とか、イノベーションなど生まれる動機が育たない。軍需企業であるから、国家がユーザーである。高コストの戦艦や空母を建艦するのであろう。あるいは、国有企業であるから、造船会社の負担で建艦して中央政府の財政赤字を隠す狙いもあるだろう。そこまでやって、米海軍と戦争する。なんと馬鹿げたことに血道を上げているのか。

     

    中国の高齢化は、貯蓄率の急低下をもたらす。一方では、社会福祉予算が急増する。いずれ、「大砲かバターか」という米ソ冷戦時代に使われた標語が再浮上するであろう。

     

    (3)「過去20年間、統合される前の中国船舶工業集団と中国船舶重工集団が軍需産業で国家に報いるという意味の「軍工報国」の初心を忘れず強軍興軍のために努力してきた、と述べた。両社は期日に合わせて空母と原子力潜水艦、大型駆逐艦、水陸両用艦など先進艦艇などに関する研究および開発、生産で中国海軍の現代化に大きく貢献してきたと強調し、中国船舶集団の最も重要な任務も強い中国海軍の建設だと明らかにした」

     

    狙いは、合併新会社の経済負担で空母と原子力潜水艦、大型駆逐艦、水陸両用艦など先進艦艇などを作らせ、中央政府の財政赤字を隠す目的であろう。

     

    (4)「香港明報は27日、中国の最初の空母「遼寧」と中国が独自で製作した最初の国産空母が中国船舶重工集団傘下の大連造船所で建造され、中国の2番目の独自製作空母は現在、中国船舶工業集団傘下の上海江南造船所で建造中と報じた。香港明報はマカオの軍事専門家、黄東氏の言葉を引用し「現在、中国の軍艦生産が世界1位」とし「中国は過去10年間、『準戦時状態』の速度で軍艦を建造してきた」と伝えた。また、中国の軍事透明度が低い点を考慮すると懸念されるしかないと話したという」

     

    中国は過去10年間、『準戦時状態』の速度で軍艦を建造してきたという。軍艦を急増させたことは、いずれ老朽化する。いったんそうした過剰なまでの建艦をすれば、ランニング・コストや老朽船の立て替えなど膨大なコストが確実に中国を襲ってくる。その時、合併新造船所にコストを負担させる狙いはますます明らかとなろう。

     

     

     

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    韓国のGSOMIA(日韓軍事情報包括的保護協定)破棄騒ぎは、米国に大きな衝撃を与えた。一時は、米国を離れて中国へ接近する積もりでないかとさえ疑念を呼んだ。大統領府の安保室次長は、同盟の意味すら正確に認識していないお粗末さを露呈した。同盟を結べばある種、一心同体になる。だから、相手国が防衛に協力してくれるのだ。

     

    韓国では、米軍を「使い捨て」感覚で捉えている。特に、現政権はそういう身勝手さが露骨に出ている。これは、大統領府の秘書官の6割が「86世代」で、「親中朝・反日米」という米韓同盟を結んでいる国としてはあり得ない構成であることも影響している。

     

    「86世代」とは、1960年代生まれ、1980年代に学生生活を送り、北朝鮮の「チュチェ思想」という民族主義に心酔したグループである。火焔瓶闘争をした学生運動家が主体だ。過激派出身であるので、言動が過激である。今年7月からの日韓関係悪化の過程では、これら「86世代」が前面に出て猛烈な「日本批判」を繰り広げた。

     

    米国が、米韓同盟のリニューアルという表現を使い始めたのは、これら「86世代」に米韓同盟のあり方を考え直させる意味が込められているように見える。常識のないこの元過激派学生運動家を再教育して、厳しい世界情勢を勉強させ直す狙いがあろう。

     

    『ハンギョレ新聞』(11月23日付)は、「ビーガン北朝鮮政策特別代表、韓米同盟リニューアル 険しい防衛費交渉を予告」と題する記事を掲載した。

     

    スティーブン・ビーガン米国務省対北朝鮮政策特別代表は21(現地時間)、韓米防衛費分担金交渉と関連して「韓米同盟の更新(renewal)」という言葉を使い、苦しい交渉になるだろうと述べたと、韓国与野党3党の院内代表らが伝えた。

     

    (1)「米国の防衛費の大幅増額要求に対する懸念を伝えるため、前日ワシントンを訪問したイ・イニョン共に民主党院内代表やナ・ギョンウォン自由韓国党院内代表、オ・シンファン正しい未来党院内代表は同日、国務省庁舎でビーガン代表と面会した。ナ院内代表は面会後、記者団に「ビーガン代表が『1950年以降、韓米同盟のリニューアル(更新)』と発言した」とし、「結局、防衛費増額が必要だという意味と見られる」と述べた。ナ院内代表は「米国の戦略が韓米同盟だけでなく、全世界の同盟国に対して新しい枠組みを作っているという印象を受けた」とし、「もう少し高いレベルの役割と分担を要求するという意味だと思った」と付け加えた」

     

    韓国では、米国の要求を金銭面だけで見ているようだが、そのほかに、国際情勢の変化について、韓国の「井の中の蛙」を目覚めさせようとしている。それは、米中の軍事対決が不可避という認識の共有を迫っていることだ。この点で、韓国は鈍感である。中国にも秋波を送りかねないという「こうもり外交」を見せるからだ。中国が、南北朝鮮に対する姿勢を見れば一目瞭然だ。北を厚遇し韓国を冷遇している。韓国は、それでも懲りずに中国へ尻尾を振っている不思議な光景を見せている。

     

    米国は、こういう情景を苦々しく見てきたが、もはや黙認しないという姿勢であろう。米国が、経済的な負担をして韓国に駐留している。一方の韓国は、奔放に中国へ接近している。何のための米韓同盟か分らなくなるのだろう。

     

    (2)「ビーガン代表は、面会で「更新」「元気回復(rejuvenation)」という表現を使ったという。オ院内代表が伝えたところによると、防衛費交渉については、「過去の交渉とは異なり、困難で厳しい交渉になるだろう」と述べたという。アトゥール・ケショップ米国務省東アジア太平洋首席副次官補も院内代表らと面会し、1950年代と2019年の韓国は異なるとして、防衛費分担金の増額の必要性を強調した。「韓国には高速鉄道と医療保険があるが、米国にはない。他の国が成長して発展し、自国民のための仕事をしている間、米国国民は税金を払って貢献した」という趣旨の発言をしたという」

     

    米国の犠牲で韓国は平和な生活を送れたのだと釘を刺している。だから、米国の立場になって考えて見ろ、と迫っているのだ。韓国が、我が儘な振る舞いをして日本とも対立している。米国は、日韓の歴史問題には絶対に介入しないと宣言している。それは、韓国がもっと大人になれというサインだろう。

     

    (3)「米政府高官らのこのような発言は、韓国と日本を「金持ちの国」と表現し、防衛費分担の大幅な引き上げを迫ってきたドナルド・トランプ大統領の認識と一致する。米政府が共通認識に基づき、防衛費分担金増額行動に出たもようだ。オ院内代表は、「米国が韓米同盟だけでなく、世界的な戦略に対する新しい認識を共有することを望んでいるようだ」とし、「難しい交渉になるだろうという発言は、年内の交渉妥結は難しいということを示唆しているかもしれない」と伝えた」

     

    下線部分は、韓国が米韓同盟の意義を再確認して、米中冷戦への心構えを持つように言外に諭しているのだろう。あるいは、韓国が鈍感で、米中関係の対立を見落としているのかも知れない。米国が、米韓同盟のリニューアルを口にする意図を正確に読み取ることだ。   
           
                                 

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