勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2020年01月

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    けさ、発行しました。よろしくお願い申し上げます。

     

    新型ウイルス感染力は2倍

    武漢発症者は最悪25万人
    中国のGDPは5%へ下落

    韓国成長率は1.5%へ追随

     

    中国武漢を感染地とする新型コロナウイルスは、当初予想を覆して世界中に飛び火している。感染力が弱いと見られたのは、発症するまでの時間が長いことが誤解されたものだ。SARS(2002~03年)に比べて、感染力は大きいことが分かってきた。

     

    過去のインフルエンザによるRO(感染拡大率)を見ておきたい。WHOとは世界保健機関である。

     

    過去のRO比較(WHO調査)

    季節性インフルエンザ 1.28人

    2009年 世界的大流行の新型インフルエンザ 1.48人

    1918年 全世界に流行ったスペイン風邪 1.8人

     

    武漢ウイルスのRO予想比較

    WHO 1.4~3.3人

    英米4学者 3.6~4.0人(詳細は後述)

    米ハーバード大学ファイグルーディン博士 3.8人

     


    新型ウイルス感染力は2倍

    過去のROと武漢ウイルスの予想ROを比べると、今回の方が格段に高くなっている。これには、次のような理由が考えられる。

     

    1は、致死率は4%と低いものの、伝染力がきわめて強いことだ。肺にウイルスがくっつかず、喉の奥にあることが原因とされる。このため患者が「のどが痛い」と訴える。ウイルスがのどから出るのだ。せきをしなくても伝播する場合もある。風邪やインフルエンザのように地域社会に広がる状況が最悪である。以上は、韓国政府疾病管理本部の初代本部長を務めた翰林大聖心病院の鄭ギ碩(チョン・ギソク)教授(呼吸器内科)の見解である。『中央日報』(1月29日付)が伝えた。

     

    第2は、グローバル化で人の交流が世界的になっている。2002~03年のSARS発症時の中国経済と現在(2018年)のそれでは、GDP規模が3.7倍にも拡大している。これに見合って、中国人の海外旅行が盛んになっており、それだけ海外への拡散率が大きくなっていると見るべきだろう。

     

    第3は、発症地の武漢が、昨年12月末からSNSで「単なるインフルエンザでなく危険な感染症である」との投稿を取締、その関係者を拘束する大きなミスを冒したことだ。武漢市民は、これを見て「SARSの二の舞」と感知して、武漢市が交通機関(空路を含めた)封鎖を発表した時点で、市民1100万人のうち500万人以上が武漢を脱出していたことが判明した。これが、中国内外にウイルス菌をばらまく危険性を高めている。

     


    中国が専制主義でなく、言論の自由が認められていれば、昨年末のSNSでのインフルエンザ発症情報で即時、防疫体制が取れたはずである。中国はSARS発症に次いで、今回もまた世界的感染症の発症地という不名誉な記録を担うことになった。秘密主義は感染症拡大の原因になるのだ。次の例がそれを示している。

     

    1次世界大戦中の1918年、スペインかぜの流行も「情報管理」が事態を悪化させた。米国では、政府当局者やマスコミが、戦意低下を避けるために、スペインかぜの被害を軽微に装おうと出来る限りの策を講じた。メディアが、この病気を「熱と寒気を伴う普通のかぜ」と表現していた時期に、1000人単位で人々が死亡する悲劇招いた。以上は、『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月27日付)が伝えた。

     

    新型コロナウイルス(武漢肺炎)の世界拡散を最も早く予測したのは、カナダの人工知能(AI)だった。17年前のSARS発生時に死闘を繰り広げたカナダの医師が創業したスタートアップ企業の技術である。そのスタートアップ企業「ブルードット」が、WHOや米国疾病予防センター(CDC)よりも先に武漢肺炎の拡散を警告していたことが1月28日に判明した。以上は、『中央日報』(1月29日付)が報じた。

     

    それによると、ブルードットは昨年12月31日、AIで世界中のニュースや航空データ、動植物疾病データなどを収集・分析し、「ウイルスが拡散するだろう」という報告書を出していた。その後、昨年1月6日にCDCが、1月9日にWHOが新型ウイルスの拡散を公式に警告した。このように、中国の秘密主義で感染症を隠蔽していても、AIがいち早く情報をキャッチする時代である。中国は、このことに気付かなかったのだろう。(つづく)


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    中国武漢の新型コロナウイルスに対して、日本はいち早くマスク100万枚の寄贈に乗り出した。中国メディアは日本民間が寄贈した100万枚の防疫マスクが26日に東京-成都間の航空便を通じて中国に入り、その後陸路で武漢に送られたと報じた。

     

    姉妹都市の援助も続いている。28日、西日本新聞によると、大分市は市次元で武漢に3万枚余りのマスクを送った。大分と武漢は友好都市関係にある。大分から送られたマスク入りの箱には中国語で「武漢、頑張れ(武漢、加油!)」と記されている。大分市関係者は「少しでも役に立てればうれしい」と明らかにした。以上は、『中央日報』(1月29日付)が伝えた。

     

    この日本の動きに、中国の経済学者が讃辞を送った。

     


    『レコードチャイナ』(1月29日付)は、「台湾や韓国に比べ日本は『こういう時に本質見える』と中国経済学者」と題する記事を掲載した。

     

    中国の著名な経済学者・郎咸平(ラン・シエンピン)氏が28日、中国版ツイッター『微博(ウェイボー)の自身のアカウントで、日本とその他の国・地域の新型肺炎への対応を比較する投稿をした。

     

    郎咸平は台湾出身である。東海大学を卒業し、国立台湾大学で修得碩士号を取得。ペンシルベニア大学ウォートン・スクールで財務管理博士号を取得。その後ウォートン・スクールミシガン州立大学、オハイオ州立大学、ニューヨーク大学、シカゴ大学等で教鞭を執った教授である。日本の大学を卒業しているので、日本への思いが強いのであろう。

    (1)「同氏は、「台湾は大陸へのマスク輸出を禁止(制限)、フィリピンは中国人観光客を送還、韓国では中国人観光客の入国を禁止する請願、北朝鮮は中国人の入国を禁止。日本は中国に救援物資を送り、街には至るところに『中国頑張れ、日本頑張れ』の文字。災害を前にすれば政治は関係ないが、(その国の)本質を見ることができる」と投稿した。同氏は、自身の投稿へのコメントを受け付けていないが、いいねの数は11000を超え、シェアされた回数は5000以上に上っている」

     

    この投稿が、中国では多くの賛同を得たようである。日本が、東日本大震災で世界中から励ましの言葉や支援を受けたと同様に、萎える気持ちを奮い立たせてくれるものだ。本欄でも、韓国における中国人観光客の入国禁止請願と、北朝鮮による中国人の入国禁止について批判記事を書いた。1100万人の武漢が封鎖されたほか、周辺都市も同様の措置がされているという。弾丸こそ飛び交わないが、「戦争」そのものだ。日本人が応援できることは、マスクの支援しかない。

     

    「武漢」と言えば、日本人は忘れてはならないことがある。日中戦争で1938年に「武漢作戦」と称し、最大規模の30万以上の兵力で攻撃をかけた都市である。80年以上も昔のことだから風化されているが、日本としてはマスク支援で当時の日本軍の行動を謝罪しなければならない場所である。

     

    韓国は、あらゆる面で日本に対抗しなければ気が済まないらしい。日本が、中国の新型ウイルスでマスク支援とチャーター便運航で、韓国よりも先に話を進めたと焦っている。

     


    『中央日報』(1月27日付)は、「チャーター便もマスク支援も日本より一歩遅れた韓国政府」と題する記事を掲載した。

     

    中国湖北省武漢で発生した新型コロナウイルスが拡散する状況で、韓国でも中国にマスクなどの医療用品を支援しようとする動きが活発化している。28日、中国留学韓国総校友会などによると、今月30日出発予定のチャーター便で武漢現地が必要な医療用マスクおよび防塵服などの救護用品を送る予定だ。

     

    (2)「寄付を主導している中国経営研究所のパク・スンチャン所長は「ひとまず(30日に出発する)韓国政府のチャーター便の貨物室にマスクなどを載せて派遣する予定で、その後も駐韓中国大使館と協調して医療用品を送る予定」と明らかにした。中国経営研究所は現在、中国政府が最も必要としている医療用マスクを数千枚購入して中国大使館に伝達する計画だ。現在、中国全域ではマスク・医療用ゴーグル・医療用帽子・防護服・術衣などの物資が切実な状況だ。パク所長は「近距離にある近隣諸国の韓国から援助を伝えるのは、今後の韓中関係にも大きな意味がある」としながら「困っているときに支援すれば、近隣諸国間の友愛がより一層深くなる」と付け加えた。同日、青瓦台(チョンワデ、大統領府)ホームページの掲示板にも武漢にマスクを送ろうという投稿があった」

    確かに、日本の支援の動きに比べると遅れている。「反日不買」では、「No Japan」の幟を立てて強い抗議姿勢を見せたが、中国への支援では「今一つ」という感じである。なぜだろうか。「宗主国」中国が、災難に遭っているのだから、何かやらなくていいのか。韓国による中国への思いは、この程度のものなのか。とすれば、かなり「薄情」な一面もある民族のようである。

     

     

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    中国武漢で発症の新型ウイルス感染者数が激増している。長い潜伏期間とその間も感染する悪条件が、感染者を世界的に拡大している。これからどうなるか。世界で25万人が感染する予測も出ており、各国は防疫体制を固めるべく必死である。

     

    その中で韓国は、政府の請願板に5日間で50万人以上にも及ぶ「中国人の入国禁止」という過激な要求が出てきた。普段は、中国に対して言いたいことも言えず、平身低頭している身だ。中国が弱り目になると、途端に高姿勢に転じて「入国禁止」とは、身勝手過ぎる。

     

    北朝鮮も同じ姿勢である。中国人観光客の入国を禁止しており、中国から入るすべての外国人に対しては1カ月間の隔離と医療観察措置の義務化を決めるなど、新型ウイルスの流入阻止に総力を挙げている。北朝鮮は、防疫体制面で不備であることは十分に想像できる。それにしても「掌返し」の印象が強い。

     

    「朝鮮民族」と一括りした議論は飛躍し過ぎるが、相手が弱いと見た場合に高姿勢に転じるのは、劣等感の裏返しであろう。戦後日本の混乱期に朝鮮の人々は、自らを「戦勝国民」と言って威張り散らした歴史がある。ロッテは、こういう雰囲気の中で、米軍司令部から特別の配慮で「ガム事業」が軌道に乗ったと伝えられている。そのロッテ創業者は、心から日本人を憎んでいたという。事業が成功できた日本を恨む。これを、朝鮮民族の深層心理とすれば、韓国も北朝鮮も、新型ウイルスで苦悩する中国に対して、距離を置く姿勢を見せるのも納得できるのだ。

     


    『朝鮮日報』(1月29日付)は、「武漢肺炎、反中は駄目だが与党は国民の健康から先に心配を」と題する社説を掲載した。

     

    (1)「大統領府ホームページの国民請願掲示板には「中国人の入国禁止」を求める書き込みにここ5日間で50万人以上が賛同した。武漢肺炎で中国と中国人に対する無分別な嫌悪感をむき出しにするのは良くない。一部とはいえ、ネット上には「中国人の患者たちがただで治療してもらうため韓国に集まってきている」といったフェイクニュースも出回っている。中国人も感染病の被害者にすぎない。隣国として支援できることがあれば支援すべきだ。武漢肺炎に対する行き過ぎた恐怖心やデマが広がるようなことも阻止しなければならない」

     

    国民の品位は、相手国が苦難に遭ったときに示す態度に表れる。韓国では、東日本大震災時に、「ざまあ見ろ」という投稿があって顰蹙(ひんしゅく)を買った。武漢の新型ウイルスに対して、「中国人の入国禁止」は行き過ぎた話だ。厳重な防疫体制を取っても、「入国禁止」とは冷淡な要求だ。

     

    ソウル麻浦区(マポグ)の繁華街、弘大入口(ホンデイプク)駅近くの路上で29日、韓国人3人と中国人4人が暴行容疑で警察の取り調べを受けた。麻浦警察署によると、29日午前1時30分ごろ、双方の言い争いは互いが歩行中に相手の肩にぶつかりながら始まった。中国人一行は取り調べで「韓国人一行が『中国に帰れ』などの発言をした」と陳述したという。こういうレベルの話に、韓国人の狭量さを感じるのだ。

     

    (2)「韓国政府と与党は韓国国民の健康を優先する姿勢を示すべきだ。隣国への心配はその次にしてもよい。今月1324日の間、武漢から韓国への入国者は3000人に達したという。つまり今後も韓国国内の感染者がさらに増える可能性も考えられるということだ。韓国政府は当初「政府を信じ、行き過ぎた不安は抱かないように」と呼び掛けていたが、後に武漢から入国した人に対しては全数調査を行う方針へと見直した。国民の間では不安が高まっている。このような状況で与党の院内代表が「中国は友人」と強調したため「また中国の顔色をうかがっている」「国民の健康よりも中国との関係が優先か」といった不満の声も広がっている

     

    下線部は、「韓国人優先」と言わずもがなのことを記している。自国民優先は大原則だ。ただ、映画「寅さん」の台詞でないが、「それを言ったらおしまいよ」という感じが強い。あくまでも、相手への「いたわり」が必要であろう。

     

    茂木外相は、中国の王外相に「困ったときに力を尽くして助ける友こそが真の友ではないか」とし「日本は中国と疾病の脅威に共同で対応し、中国に全方向的な支持と援助を提供する」と明らかにした。『中央日報』(1月29日付)は、こう伝えている。

     

    (3)「疾病本部でもない韓国大統領府が、「武漢肺炎」ではなく「新型コロナウイルス」という表記を使うよう求めているのはなぜか。世界保健機関(WHO)は疾病の名称に特定の地域を明示しないよう勧告しているが、実際は「日本脳炎」「中東呼吸器症候群」「アフリカ豚コレラ」などすでに広く使われている言葉もある。中国ではなく米国や日本だった場合、大統領府はどうしただろうか。今の政権は「東京オリンピックは放射能オリンピック」と主張しボイコットまでちらつかせている。与党も外交部(省に相当)に対し「日本旅行の規制を検討してほしい」と正式に要請した。このような政権が中国に対しては軍事主権を自ら制限する「3不合意」に応じ、大気汚染問題ではまともに抗議さえしていない。大統領が中国で意図的にぞんざいな扱いを受け、韓国を「小さい国」と侮辱したこともある。中国の前では常に小さくなる理由が気になるところだ」

     

    このパラグラフでは、韓国の日本と中国に対する差別を指摘している。中国には気を使い、日本を粗略に扱う文政権の姿勢を問題にしているからだ。この指摘は正しい。文政権がいつまでも、福島原発の放射能汚染問題を吹聴して歩くのは、狭量さを物語っている。韓国国民の狭量さは、民族特性であるからすぐには直らない。だが、文政権の日本を差別する狭量さには断固、抗議すべきで改めさせなければならない。

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    中国は、新型ウイルスで苦境に立っているだけではない。米国との関係が悪化している。米国は、中国の世界覇権奪回論を見過ごすことはなかった。中国が、これを諦めるまで追い込む姿勢を見せている。米中貿易戦争はその一環である。中国ファーウェイ(華為技術)への製品・技術輸出禁止措置は、この延長線にある。

     

    武漢の新型ウイルスは、先進国に見られない野生動物を食用することが原因である。さらに、言論統制していることによる矛楯が、感染者を増やしている。今回の事件で、中国の抱える構造的な脆弱性が浮かび上がっている。

     

    米国が、中国を完全に「デカップリング」(切り離し)すれば、中国は生きる術を失う。世界一の巨大マーケットである米国市場から切り離されるほかに、技術導入先を失う点で死活問題になってくる。中国が米中貿易戦争「第一段合意」で、米国の要求を100%受入れたのは、米国に捨てられることの恐ろしさを知っているからだ。

     

    中国が、ここまで追い詰められた背景には、民族主義をぎらつかせた軽率さにある。戦前の日本が、新興国特有の傲慢さで米国へ対抗したのと全く同じ構図が出現した。今回の新型インフルエンザ発症は、2003年のSARS発症と同じ誤りの繰り返しである。中国の抱える根本的な脆弱性は、専制主義そのものにある。これを放棄しない限り、未来は開けないことを予感させている。

     


    『中央日報』(1月28日付)は、「米中デカップリングなら新冷戦、中国が期待するのは韓日中FTA」と題する記事を掲載した。

     

    中国人民大国際関係学院の金燦栄副院長は中国国内で屈指の対米戦略専門家として知られる。昨年6月の上海講演で、米国の圧力に対抗する中国の戦略カード7枚と戦術カード18枚を挙げて注目を引いた。今月8日、金教授の研究室で米中覇権競争時代を解決する中国の内心を尋ねた。以下は金副院長との一問一答。

    (1)「中米関係が完全に新しい段階に進入したと見なければいけない。中国は変わっていないが、米国の考えが変わって起きた状況だ。転換点は2015年だった。以前まではクリントン政権の介入政策が米国の対中政策を支配した。ブッシュ政権、オバマ政権ともに介入政策を継承した。それが2015年から変わった。米国は介入政策にもかかわらず期待したように中国が民主化されなかったと考えた。国際的にも中国が米国に投降しないと判断した。米ジョンズ・ホプキンス大学のデビッド・ランプトン教授の『米中関係が臨界点に到達した』という主張が出てきたのが2015年だ。米国は失望し、失望は新しい政策を呼んだ」

    金燦栄副院長は、冷静に米中関係を分析している。米国は、中国が自由主義的な国家にならず、米国と対抗する道を選んでいることを認識した。2015年のことである。米国は、中国を「デカップリング」して、安全を図る道を選んだ。金氏はこう分析している。

     

    (2)「2017年末から2018初めにかけて米国の考えが整理された。過去の米国は自国の3大脅威にテロリズム、ならず者国家、大国競争を挙げた。この順序が変わった。大国競争が最も危険で、続いてならず者国家、テロリズムとなった。大国競争の対象は中国とロシアだ。ロシアは経済が弱いため、米国は中国を長期的な唯一のライバルを見なした。米中関係の長期的な見通しは良くない。1979年の中米国交正常化以降40年近く、両国は50対50の協力と競争の関係を見せた。しかし今後の基本傾向は競争であり、ますます危険になっている。米国の一部の右翼極端勢力が中国との『デカップリング』を望む。その場合、両国関係は全面的な新冷戦に向かう。決して望ましくない結果だ。とはいえ、そのような可能性があるのが問題だ」

     

    デカップリングは、共和党だけの選択でない。民主党は、専制主義を拒否する立場から、中国へ強い反感を持っている。米国は、党派を超えて冷戦の道へ進んでいるのだ。中国は、新興国特有の傲慢さと無鉄砲さで、軽々に世界覇権論を口にしている。だが、米国市場からデカップリングされる中国は、輸出市場を失い経済が縮小均衡を辿るほかない。米国にとっては、安全保障で災いをもたらす国は、早く「消えて」貰った方が好都合なのだ。

     


    (3)「中国の米国に対する態度にまだ変化はない。習近平国家主席はトランプ大統領にいつも話している。『中米関係には1000種類の良くなる理由がある。悪くなる理由は一つもない』と。中国の短期対応戦略はまず貿易戦争を一段落させることだ。貿易戦争の休戦を通じて国内経済を安定させなければいけない。中国国内の経済状況は良いわけではない。長期的には時間を稼いで技術を発展させることだ」

     

    中国は、経済安定のために米国へさらに譲歩する用意があると言う。「米中第2段合意」を示唆している。現在の中国は、信用危機に見舞われており、これ以上「戦う」余裕がなくなっている。すべては、習氏の民族主義が招いた危機である。

     

    (4)「現在、半導体チップ、ソフトウェアともに米国に依存している。したがって今後、中国は米国の激しい圧力を避けるために一部を米国に譲歩する措置を取るだろう。また、周辺国には開放を拡大し、これらの国の同情と協力を共に得る戦略を追求する計画だ。昨年、中国の小売市場は41兆元を超えた。中国の購買力が米国を超え、世界最大になったことを意味する。中国の友人にはチャンスだ」

    一方で、中国マーケットの魅力を訴えている。ただ、中長期的に見れば、中国の人口減と「中所得国のワナ」でどこまで発展できるか未知数である。中国は、米国へ「喧嘩」を売るのが早すぎた。喧嘩の準備もできないうちに口外してしまい、米国の奇襲攻撃を受けている。愚かな姿に見えるのだ。



    (4)「中国の対米反撃カードは多い。米国との戦略的協力を縮小したり、中国が保有する米国国債を売ったりと、戦略的で戦術的なカードが少なくない。ただ、使う考えがないだけだ。中国は現在、自国を発展させることで米国の圧力に対抗しようと考えている。参考に昨年の中日韓のGDPを合わせると22兆ドル(中国15兆ドル、日本5兆ドル、韓国2兆ドル)だ。米国の21兆ドルより多い。韓日中FTAが実現すれば米国を恐れなくなるだろう」

     

    下線の米国債売却論は、中国の取り得る数少ない「反撃カード」とされている。本欄では時々、この問題を取り上げてきたが無益である。米国は、大きな金融市場であるから、簡単に消化できる能力を持っている。その時、米国は「倍返し」で中国経済虐めに出るだろう。

     

    結局、中国は日韓を頼って「日中韓FTA」で、市場を確保する戦術に出たいようだ。だが、中国は、日韓に照準を合わせた中距離弾道ミサイルを据え付けている。中国は、山東省に新型中距離弾道ミサイル(IRBM)「東風(DF)-26」を配備したことが分かった。このミサイルは、韓国と日本を射程距離内に収めている。『中央日報』(1月25日付)が伝えたもの。

     

    日韓が、こういう潜在的敵国の中国とFTA(自由貿易協定)を結ぶほど、お人好しに見えるのだろうか。日韓は、山東省の新型中距離弾道ミサイル撤去を要求すべきだ。こうなると、攻守ところを変える。


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    中国武漢で発症した新型ウイルスは、感染しにくいとされてきた子供の感染例も一部で出始めた。最年少の感染者は生後9カ月といい、中国メディアは「子供を含めた全ての人が感染する可能性がある」と警鐘を鳴らしている。感染の拡大ペースは、SARSを上回るのではないかと指摘されている。

     

    この調子でいくと、どこまで感染が拡大するか分からなくなってきた。すでに、日本への影響も出ており、中国人観光客のキャンセルが増えている。日本経済への影響をチェックする段階になってきた。

     

    『ロイター』(1月27日付)は、「東京五輪に忍び寄る新型肺炎、日本経済への影響を読む」と題する熊野英生氏(第一生命経済研究所主席エコノミスト)の寄稿を掲載した。

     

    中国人の訪日客は頼みの綱だった。中国の団体旅行の禁止や、国内移動の制限はいつまで続くのだろうか。仮に東京五輪の手前で非常態勢が解除されても、すぐに日本への訪日客数が元に戻るかどうかもわからない。通常、旅行の手配は2~3カ月前に行われるからである。従って、非常態勢からの脱却は、7月の2~3カ月前の2020年4~5月までに行われてほしい。

     

    (1)「最近の訪日外国人の状況からすると、今回の中国の肺炎はさましく最悪のタイミングであった。日韓関係の悪化や香港情勢の緊迫化という2つの事件を受け、2019年の訪日外国人数は韓国からは前年比25.9%減と大幅に減り、香港からも伸び率が鈍化した。2019年の3188万人(前年比2.2%増)という数字は、2つの要因がなければもっと伸びていたに違いない。ラグビーワールドカップの追い風に支えられ、加えて中国人観光客の伸びに助けられていた。2020年に入ってからは、ラグビーワールドカップの効果はなくなっているので、中国人の訪日客だけが頼みの綱になっている。そうした苦しい局面での新型肺炎であった。4月には、習近平国家主席が国賓として来日する。そこまでに新型肺炎が鎮静化していれば、日本政府は訪日客の促進策についての議論を進めることもできよう」

     

    4月には、習国家主席の国賓として来日する。それまでに、新型ウイルスが収束しなければ、延期となろう。7月には、東京五輪がある。どんなことがあっても、それまでには「解決」できるように祈るほかない。

     

    (2)「新型肺炎の打撃は、インバウンドだけに止まらない。中国経済の減速を通じた日本経済への影響がより警戒される。人口1100万人の武漢市が封鎖されると、中国経済にも打撃は大きいはずだ。武漢市のある湖北省は人口5902万人で、工業生産額の約2割を自動車関連産業が占めている。日本貿易振興機構(JETRO)によると、武漢市には約700人の日本人が駐在しており、進出している日本企業は自動車など約160社に及ぶ。すでに中国全土から多くの駐在員やその家族が帰国しており、日本から中国への渡航もかなり慎重になっている。日本企業への影響は必至とみてよい」

     

    武漢市に進出している日本企業は約70社である。湖北省は、中国工業生産の約2割を占めている。それだけに新型ウイルスによる工場操業停止は痛手だ。

     

    (3)「マクロ的には、中国経済の減速が、日本からの輸出減少につながる点が不安である。現地に進出した企業の生産停滞が、日本から輸出している部品や素材の需要を減少させることもあろう。貿易統計によると、日本から中国向けの実質輸出は3四半期連続プラスで推移(季節調整値)してきた。次世代通信5G需要の立ち上がりが、電気・機械や生産用機械の輸出を最悪期から脱出させていたところだった。せっかくのその流れが阻害されることになれば、新型肺炎の影響は誠にタイミングが悪いと言わざるを得ない」

     

    日本から中国への輸出は、3四半期連続プラスである。それだけに、せっかくの上昇カーブが途切れることは痛手という。ただ、日本にとってはどうにもならない「事故」だけに、諦めるほかない。


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