勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2020年02月

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    韓国のLCC(格安航空会社)が、中国の新型コロナウイルスで運航中止に追い込まれている。もともとは、日本路線がドル箱であった。昨年7月以来の「反日不買」で韓国の訪日観光客が激減し、やむなく中国路線へ転換したという経緯がある。「元の鞘」に収まって、日本路線で再デビューである。

     

    『聯合ニュース』(2月2日付)は、「韓国LCC、中国路線運休で日本回帰へ=新型肺炎拡大」と題する記事を掲載した。

     

    中国・湖北省武漢市で発生した新型肺炎の拡大を受けて韓国の航空各社が中国路線の運休に動いているなか、代替路線として日本線が再び注目されている。

     

    (1)「格安航空会社(LCC)のエアプサンは2日、韓国と張家界、海口、三亜などを結ぶ中国5路線の運航を一時停止すると発表した。運休となった中国線の機材を日本や東南アジア、韓国南部・済州島などに振り分けることを検討しているようだ。3月1日まで運航予定だった釜山札幌線の運航を3月末まで延長するなど、代替路線の確保に動いている」

     

    韓国の旧正月の日本旅行では、LCCの搭乗率が回復して80%台を維持する路線も出ていた。これに気を良くした韓国LCCでは、中国路線の休止に代わって、「ドル箱」路線である日本市場を開拓しようという戦略転換である。中国など中華圏は、新型コロナウイルス警戒が激しいので、韓国の海外旅行客は日本へ関心を持つだろうという皮算用を弾いている。

     


    (2)「同社関係者は中国路線の運休について、「新型肺炎拡大への懸念に加え、中国当局が張家界や三亜などの観光地を閉鎖したため」と説明。収益性と市場性から代替路線として日本線が浮上しているという。搭乗率が高く、運航距離が短い日本線はLCCにとって「ドル箱路線」だ」

     

    韓国では、次々と新規のLCCが参入している。お目当ては、ドル箱路線の日本である。それが、反日不買で腰を折られてきた。日本路線が回復軌道に乗れば、一息入れられるはずだ。

     

    (3)「昨年後半から日本政府による対韓輸出規制強化に反発して韓国で日本製品の不買運動や日本旅行を自粛する動きが広まり、日本路線の利用客が急減した。LCC各社は日本線を運休、減便し、機材を中国線に振り分けたが、わずか半年ほどで再び日本に回帰することになる。韓国と中国を結ぶ全6路線を運休したLCCのチェジュ航空も代替路線として日本線や東南アジア線を検討している」

     

    韓国航空界はここ半年、目の回るほど日中の間で振り回されている。日本から中国へシフトしようとしても、中国側が冷たい姿勢で泣かされ続けてきた。それがようやく軌道に乗りかけてきたら、新型コロナウイルスの障害である。再び、日本路線への切り替えだ。

     


    (4)「このところ日本製品の不買運動も下火になっている。このことから日本線は回復傾向にある。昨年12月の韓国航空各社の日本線運航便数は約6600便で、前月より16%増えた。冬休みシーズンに合わせて大阪や札幌、福岡など日本の各都市では韓国人観光客が目に見えて増えている。航空各社は日本線の供給増による利用客の早期回復を期待している

     

    日本路線の広告を打っても、韓国国内の反発が収まってきたのであろう。日本製自動車販売は、昨年9月を底に回復に転じている。自動車のように目立つ大型商品の購入が増加に転じているのは、反日不買が下火になっている証拠だ。「日本旅行」が、周囲から白眼視される雰囲気でなくなれば、日本旅行リピーターは静かに動き出すはず。過去、半年間じっとしていた日本フアンが、「蟄居」から目を覚ます時期であろう。

     

    話題は変わるが、次のような在日韓国人の「就職・転職」斡旋の会合が行なわれる。

     

    在日本大韓民国民団(民団)傘下団体の在日韓国青年会は2日、在日韓国人の若者の就労支援に向け「第1回就・転職フェア」を15日に東京で開催すると発表した。転職支援サービスを手掛けるワークポート(東京・品川)との共催。IT企業や人材派遣会社が参加するという。18~35歳の青年会会員は誰でも参加できる。事前に申し込めば書類選考なしに会場で希望する企業の面接試験を受けることができる、という。『聯合ニュース』(2月2日付)が伝えた。

     

    日韓両政府の「管理された安定」によって、すこしずつ民間交流が始まっている。文大統領の「反日」がすべてをぶち壊した後、そろりと雪解けが始まった感じもする。

     

     

     

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    漢方薬の母国・中国が、特技を発揮して生薬での新型ウイルス抑制に挑戦している。それによると、新たなウイルス抑制効果が発見されたと報じられている。

     

    『レコードチャイナ』(2月2日付)は、「上海の研究所、生薬製剤による新型コロナウイルス抑制効果を発見」と題する記事を掲載した。

     

    『新華社』(1月31日付)は、中国科学院上海薬物研究所などが生薬製剤に新型コロナウイルス抑制効果があることを発見したと報じた。

    (1)「記事は、同研究所が31日に明らかにした内容として「同研究所と武漢ウイルス研究所の共同研究により、中薬製剤の双黄連内服液に新型コロナウイルス抑制効果があることを発見した」と紹介。同研究所がこれまでに新型コロナウイルスによる肺炎に関する緊急研究チームを作って研究に取り組み、2003年に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)の関連研究成果を踏まえ、今回のウイルスに有効な可能性がある候補の新薬や既存薬の選定、評価を行ってきたと伝えた

     

    SARSの関連研究成果が生かされることは事実だ。米国では、次のような動きが始まっている。

     

    免疫学も飛躍的に進歩しているため、治療薬およびワクチンがずっと早期に利用可能になるはずだ。ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)、モデルナ・セラピューティクス、イノビオ・ファーマシューティカルズなどの米製薬会社は既に、ワクチンに関して米国立衛生研究所(NIH)と協力している」(『ウォール・ストリート・ジャーナル』1月31日付社説「新型ウイルス、米製薬大手が救援に」)。中国の漢方薬と米国の現代製薬が、それぞれの特長を生かして取り組んでいる点に注目したい。

     

    (2)「双黄連内服液は金銀花、黄芩(おうごん)、連翹(れんぎょう)の三味の生薬から作られており、中国伝統医学(中医)においては清熱解毒、表裏双清の作用を持っていると説明。現代医学における研究では、抗ウイルス、抗菌、免疫機能向上の作用があるとされており、広範囲に使用される抗ウイルス薬の一つであると紹介した」

     

    (3)「記事によれば、同研究所は長らく抗ウイルス薬の研究に携わっており、2003年のSARS流行期においても双黄連内服液による抗ウイルス作用を実証し、その後も各種インフルエンザウイルスやMERS(中東呼吸器症候群)の抗ウイルス薬研究で成果を挙げてきたという。現在、同研究所での研究結果を踏まえ、上海公共衛生臨床センター、華中科技大学付属同済医院が双黄連内服液の臨床研究を実施中とのことだ」

     

    混乱期の情報は錯綜するが、発信元は中国政府の機関紙『新華社』である。誤報でないことを祈るほかない。


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    2月3日は、春節の連休明け初取引である。株式・人民元の相場はどこまで下げるのか。新型コロナウイルスの感染者は、SARSを大幅に上回って1万人1791人(1日現在)を数えている。先行きが、全く見えない中で、上海市場は再開される。関係者は当局が、どのような対策を打つかにも目を配っている。

     

    『ブルームバーグ』(1月31日付)は、「中国金融市場、週明け取引再開ー売り殺到に備える関係者」と題する記事を掲載した。

     

    中国経済を脅かす新型コロナウイルス感染の拡大を受け、他国の金融市場には既に反応の機会があったが、2月3日に取引が再開される中国市場では容赦ない売りが殺到する公算が大きい。

     

    (1)「春節(旧正月)連休入り前の1月23日以来初となる取引では、株・商品相場が急落するのはほぼ確実で、債券利回りも低下しそうだ。株式市場ではレバレッジが約11カ月ぶりの高水準にあるだけに、下げは増幅する可能性が高い。株価急落でトレーダーが追加証拠金の支払いを迫られさらなる下降スパイラルが生じる恐れがある」

     

    下線部のような事態が起これば、スパイラル的な値下がりに追い込まれる。それ故、当局がどの時点で介入するかを注目している。

     

    米キャタピラーは、製造業活動の世界的指標とされている。鉱業・建設機械メーカーの世界景気が、2020年に一段と厳しくなると警鐘を鳴らしている。それは、同社の示した20年通期の利益見通しが、アナリスト予想を1株当たり最大で2ドルも下回ったからだ。市場は、新型コロナウイルスの感染拡大や製造業活動の低迷、大幅な設備投資削減の影響で揺らいでいる。震源地の中国はどういう反応するか、世界が固唾を飲んで見守っている。

     


    (2)「どれだけ売りが極端になりそうかを示す事例としては、昨年5月の連休明けに米中通商対立を巡る悪材料に反応し上海株式市場の指標が6%近く下落したケースがある。市場の緊張ムードを強めるのは、銀行が短期資金で1兆元(16兆円)余りを返済する中国で最大級の流動性イベントが予定されていることだ。人民元がオフショア取引で1ドル=7元台の元安水準にあるため、日々の人民元中心レートも注視されそうだ

     

    昨年5月の連休明けに、上海株式市場の指標が6%近く下落した。米中通商対立を巡る悪材料に反応したものだ。今回の新型ウイルスによる経済停滞の影響は、昨年5月の比でない。前記6%をどこまで上回って下落するかである。少しでも、楽観材料があれば安値を拾う動きもあろうが現在、そういう明るい材料は後で述べる医薬品開発ぐらいである。

     

    人民元は、すでにオフショア取引で1ドル=7元台の元安水準にある。これが、オンショア取引(上海為替市場)で、どこまで反映されるか。中国当局が、意図的に下げ場面へ誘導すれば、米国政府の目が光っている。安易な手は使えない。こちらは「無介入」を通すか。

     

    (3)「INTL・FCストーンのトレーダー、ミンツォ・ウ氏(シンガポール在勤)は「市場は弱気な反応に備えている。月曜日に弱気一辺倒の動きが見込まれ、状況が改善するまでの予見可能な将来も立てられる可能性もある」と指摘。当局は資金注入と強い人民元レートの設定を通じて、ボラティリティーの抑制を試みるだろうと付け加えた。オンショア株式市場では、2015年のバブル崩壊後に導入されたサーキットブレーカーが裏目に出た後、指数下落を制限する同措置は停止されている。中国本土上場株の値幅制限は上下10%。デリバティブ(金融派生商品)を欠くことで投資家はヘッジが難しい状況だ」

     

    当局は、ボラティリティ(予想変動率)を抑制する動きによって、相場を誘導することはあり得る。ただ、現実の売り勢力が強ければ、いかなる誘導策も吹き飛ばす。

     

    一つ明るい材料は、未確定だが特効薬への期待だ。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月31日付)が、「新型ウイルス、米製薬大手が救援に」と題する社説で、次のよう指摘している。

     


    (4)「科学者らがSARSワクチンを開発して臨床試験を行うまでに20カ月かかったが、今回NIH米国立衛生研究所)は4月までにワクチンの臨床試験の準備が整うことを期待している。その間に何万人もの人々が発病するかもしれないが、米国の製薬会社は新型ウイルスに効く可能性のある抗ウイルス薬を寄付しようとしている」

     

    米国立衛生研究所では、4月までにワクチンの臨床試験準備ができるように期待しているという。その可能性があれば、局面が変ってくる。

     

    (5)「アッヴィとJ&Jはエイズウイルス(HIV)治療薬を中国に出荷しつつあり、ギリアド・サイエンシズは他のコロナウイルス向けに動物実験を行った抗ウイルス治験薬が今回の感染症治療に役立つかどうかを研究している。メルクは、自社医薬品の製品群の中に転用可能なものがあるかどうかを調べている」

     

    既存の医薬品のなかで、新型ウイルスの治療に役立つものがあるかどうかを調査中という。意外と、全く効用の違う薬品が役立つケースが報告されている例がある。その可能性にも期待しているのだ。


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    最近の日韓関係は、静かになっている。これが平常な外交関係であるが、依然として爆弾は横たわっている。徴用工賠償問題である。差し押さえられている日本企業の資産が、4月頃に売却期限が到来する。韓国裁判所が売却を認めれば、日本は対抗上の措置として、「外交保護権」を行使する。

     

    韓国裁判所も、こういう国際法上の手続きを熟知しているはず。だから迂闊なことはできないであろう。爆弾の「信管」を抜くという野暮なことはしないであろう。ただ、爆弾が横たわっている事実に変わりない。韓国は、徴用工賠償問題をどう片付けるかが問われている。

     

    韓国の差し迫った問題は、経済危機の回避である。中国の新型ウイルス発症によって、韓国経済が大きな影響を受けることが決定的になってきた。さすがの文大統領も、事態の深刻さに気づいたようである。文政権2年間で、韓国経済の体質劣化が急速に進んでいるのだ。企業の設備投資見送りで、生産能力の増加率は48年ぶりの大幅減少率(1.2%)となっている。反日運動をやっている間に、国力の足元がぐらつき始めている。これでは、反日運動にも力が入らないはずだ。

     


    『日本経済新聞 電子版』(1月31日付)は、「安倍・文政権に忍び寄る『正念場の3カ月』」と題する記事を掲載した。

     

    201911月以降、日韓関係は「管理モード」に入っている。けん引しているのは両首脳だ。通常国会冒頭での安倍晋三首相の施政方針演説に韓国との2国間関係が2年ぶりに復活した。「韓国は元来、基本的価値と戦略的利益を共有する最も重要な隣国だ」。「元来」とあえて付けたところに韓国への抜きがたい不信感がのぞくが、隣国関係をこれ以上悪くしたくないという意思を示した。韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領も年頭の記者会見で対日批判を控えた」。

     

    (1)「今年に入り、全国各地の観光地に韓国人客が徐々に戻りつつある。日韓関係がようやく底を打った感がある。が、春の訪れととともに、再び不穏な空気が日韓を覆い始める。日本企業に戦時中の元徴用工への賠償を命じた韓国大法院(最高裁判所)の判決を受け、韓国で差し押さえられた日本企業の資産が売却・現金化されるのが「春ごろ」とされているためだ。かりに日本企業が実害を被れば、日本政府は報復せざるを得ず、日韓関係は再び冷えこむ。泥沼化する恐れもある。日韓関係の「Xデー」と懸念されるゆえんだ。Xデーの到来を回避するため徴用工問題の解決に向けた韓国国内の動きと、日本による韓国向け輸出管理の厳格化の見直しをめぐる両国間の折衝が激しくなる見通しだ」

     

    日本企業の資産売却という「Xデー」の可能性はゼロに近い。1億円未満の金で日韓関係をズタズタにする裁判官がいるとは思えない。それは、一種のテロリストのようなものであろう。

     

    (2)「韓国側は保守、革新勢力が激突する春の総選挙が終わるまで日本に譲歩しにくい。日本では夏の東京五輪・パラリンピック閉幕後の衆院解散・総選挙論や安倍首相の五輪花道退陣論などがかまびすしい。秋以降は政局が流動化する可能性がある。おのずと日韓交渉の余地は、韓国総選挙投開票の415日から、東京五輪開幕の724日までの3カ月間に絞られる」

     

    (3)「今後のシナリオは大きく分けて3つある。日韓関係を重視する韓国政権内の「外交派」は総選挙直後に徴用工問題を決着させ、日本からも輸出規制の撤回を引きだす構想を描く。ただ、国会議長が主導した法案は一部の原告や支援団体が反対している。「被害者中心主義」の文大統領の腰も重い。少なくとも徴用工問題が片付かないままでは日本政府は輸出管理措置の撤回に踏み切れないし、日本企業の資産の現金化にも黙ってはいられない。

     

    韓国総選挙投開票日の4月15日から、東京五輪開幕の7月24日までの間が、日韓が交渉する最適機会という指摘だ。韓国は、国会で文議長案を議決する。日本へ「ホワイト国」復帰を要請する。これが、双方の交換条件になるというのが一般的な見方だ。

     

    韓国にはもう一つ、東京五輪を機会に北朝鮮に金正恩国務委員長との会談を狙っている。これにより、南北交流のきっかけを作りたいという念願があるのだ。

     

    (4)「五輪開幕の直前に最悪の事態を避けたいのが本音だ。日本だけではない。文大統領も、北朝鮮が対話路線に急旋回した18年平昌冬季五輪の夢よもう一度とばかりに、東京五輪を南北再接近の契機にする思惑がある。文大統領は五輪に合わせた自身の訪日も検討しているという。最優先の北朝鮮問題で再び脚光を浴びるには五輪開催国の日本の協力がどうしても欠かせないのである」

     

    日韓関係は、荒れるだけ荒れた後である。早急な回復は不可能だ。とりわけ、日本側の文大統領不信感は根強い。反日を政治的に使った罪は重いのだ。文氏が退任する2022年5月以降に日韓双方が交流を始めるであろう。


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    中国を襲った新型ウイルスの経済的な影響は軽微である。こういう見方が、『人民網』(中国人民日報の電子版)に掲載された。新型ウイルスの感染者が増加の一途を辿っている現在、そのような楽観論の根拠はゼロである。いささか、無責任な論調と言わざるを得ない。

     

    中国国内の治療現場では、防護服をはじめとする資材不足が深刻である。満足に治療もできない状態で、感染者はうなぎ登りである。ウイルス発症初期に情報を隠蔽した結果、感染率がSARS以上の拡大を見せている。

     

    感染者の増大は、経済活動の停滞に直結している。都市封鎖という荒っぽい手を使わなければ、感染を防げないという最悪事態がいつまで続くのか。新規の感染者が、ゼロになって1ヶ月後に、「解決」宣言が出るという。その時期はいつなのか。現在、全く見当がつかないのである。

     

    『人民網』(2月1日付)は、「新型肺炎は、中国経済成長に変曲点をもたらさない」と題する記事を掲載した。

     

    今年の春節、中国は上から下まで新型コロナウイルス感染による肺炎の感染拡大と戦うこととなった。感染者数の増加が変曲点に達するのが期待されると同時に、経済が明らかな打撃を受けるのではないかという懸念も広がっている。中国新聞網が伝えた。

    (1)「この点について、中泰証券チーフエコノミストの李迅雷(リー・シュンレイ)氏は、「SARSが流行した2003年を振り返ると、中国の第1四半期から第4四半期のGDP成長率はそれぞれ111%、91%、10%、10%だった。第2四半期はGDPへの影響が最も顕著で、成長率が低かったが、それに続く第3、第4四半期には回復がみられた。以上から、この年の『SARS』の経済に対する影響は限定的だったことが分かる」と指摘した」

     

    中国の「1人当り名目GDP」は、2003年が1293ドルである。2018年は9580ドルだ。この間、7.45倍の拡大をした。人間は、所得水準が上がれば欲求も異なる。高度化するのだ。マズローの「欲求5段階説」によれば、次の通りである。

     

        生理的欲求

        安全的欲求

        社会的欲求

        承認欲求

        自己実現欲求

     

    欲求段階は、①→②→③→④→⑤と順々に高度化していく。2003年当時の1人当り名目GDPは、①の段階であろう。2018年のそれは、③の段階と思われる。こうなると、欲求段階が異なる以上、個人消費は高度化している。新型ウイルスの被害は、金額的にも多いはずである。

     


    (2)「李氏はさらに、「新型コロナウイルス感染による肺炎の感染拡大が中国経済に与える影響は、悲観的に見れば1年、楽観的に見れば約半年にとどまるとみられ、影響が比較的大きい期間は今年の第1四半期で、半年後にはほぼ正常に戻るだろう。従って、新型肺炎で中国経済の長期的な趨勢が変わることはなく、中国経済が世界経済において地位を高めている状況が変わることもないだろう」との見方を示した」

     

    下線部では、矛楯したことを言っている。「中国経済に与える影響は、悲観的に見れば1年、楽観的に見れば約半年にとどまる」とは、半年~1年の期間について影響を受けるということだ。しかし、GDPへの影響は今年1~3月が大きく、4~6月に正常化するという。全く、チグハグナことを言っている。カッコ内の言葉通りとすれば、GDPへの影響は短くて半年、長くて1年というのが正解である。

     

    海外の予測では、1~3月期が4%台へ落込み、通年で5%という厳しいラインである。なにせ、工場は操業停止である。生産活動が止まっている状況では、付加価値はゼロである。この事実に目を向けるべきであろう。

     

    (3)「野村証券中国エリア・チーフエコノミストの陸挺(ルー・ティン)氏は、「需要と供給の両面から見て、新型コロナウイルスが中国経済に与える打撃はおそらく一時的なものになるとみられ、長期的な影響を与えるとは限らない。新型コロナウイルスによって抑制された需要と生産能力は、感染拡大の収束後に強い回復をみせるだろう。しかし、現在の経済成長鈍化の規模と回復の時期については新型肺炎感染拡大の進展状況次第であり、依然として不確定だ」と指摘している」

     

    ここでは、サプライチェーン・リスクという物理的問題を忘れた議論をしている。米国商務長官は、中国から米国へ生産機能の回帰が起こっていると指摘している。SARSも今回の新型ウイルスも、野生動物を食することが原因で発症した。中国の「食文化」へ警戒論が出ているのだ。これまで2度あった「事故」である。3度目がないと言い切れない中国に、わざわざ生産機能を置くことの危険性を再確認させている。

     

    (4)「李迅雷氏はまた、「長期的に見れば、新型肺炎が中国経済の成長に変曲点をもたらすことはないだろう。短期的に見ると、その影響を過小評価することはできない」と強調している。さらに、「産業別では、第三次産業がまずその打撃を受ける。次が第二次産業で、最後が農林畜水産業になるだろう」と述べ、「論理的に言えば、新型肺炎が観光や飲食・ホテルなどサービス業に与える悪影響は最も直接的かつ顕著になる」との見方を示した」

     

    下線部は、短期的には影響が出ても、長期的には影響はないとしている。私は、短期的にも長期的にも影響が出ると予測する。それは、中国が潜在的な「信用危機」に陥っていることだ。中国が「モラトリアム(支払い猶予)宣言」しない限り、支払期限のくる債務決済は不可能な企業が続出するだろう。「都市封鎖」されるような状況で、ビジネスは不可能だ。モラトリアム宣言をしなければ、倒産企業が続出するはずだ。

     

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