中国を感染地とする「新型コロナウイルス」は、世界経済を麻痺させている。中国が、サプライチェーンの核になっているからだ。先進国は、コロナ猛火の中にいる現在、静かに終息後を見据えた動きが始まっている。欧米では、グローバル経済の持つ潜在的な大きなリスクに気付かされたのだ。21世紀当初から始まったグローバル経済体制は、大きな角を回ったことは確実である。
米中デカップリングは、昨年まで米中貿易戦争の底流にあった。だが、新型コロナウイルスの蔓延によって、この流れは確実に大きなものになる様相を呈し始めた。本欄では、これまで一貫してこの流れを不可避と見てきた。中国の専制政治体制がもたらす不透明性は、新型コロナウイルス発症で、そのリスクの大きさを証明しているからだ。今後も「中国発」のコロナ発症はあり得る。一度、起きてしまえば収拾の付かなくなるコストを考えれば、2度目の「パンデミック」回避には、脱中国しか道はない。
日本もその例外でない。製造業の中国依存体制の見直しに着手した。中国から部品など中間製品の輸入杜絶がもたらす損失回避には、生産機能の移転以外に道がない。日本政府は、その政策対応を始めている。
『日本経済新聞』(4月5日付)は、「アビガン備蓄 最大3倍に 緊急経済対策案 生産国内回帰に補助」と題する記事を掲載した。
政府が7日に決定する緊急経済対策の原案が4日わかった。新型コロナウイルスに対する治療効果が期待されている抗インフルエンザ薬「アビガン」の増産を支援し、2020年度中に現在の最大3倍にあたる200万人分(インフルでは600万人分)の備蓄を確保する。中国に集中した部品の生産拠点などを国内に戻す企業に費用の最大3分の2を補助する。
安倍晋三首相は4日、麻生太郎財務相らと緊急経済対策について首相官邸で協議した。事業規模はリーマン・ショック後の56兆8千億円を上回る過去最大とする方針だ。
(1)「副作用も指摘されるアビガンについては、海外と協力しながら臨床研究を拡大するとともに薬の増産を開始する。開発した富士フイルム富山化学は、6月までに治験を終える計画。政府はその結果も踏まえ、生産能力を高めるのを後押しする。インフルなら40錠とされる1人あたりの投与量が、新型コロナでは120錠程度と3倍必要になる。現在の備蓄はインフル患者200万人分だ。20年度内に現状の最大3倍に積み増し、200万人の新型コロナ患者に対応できるようにする」
アビガンについては、副作用として妊婦が服用した場合に胎児への悪影響が懸念されている。これは、アビガンが当初から持つ問題点で最近、新たに発生したことではない。米国防総省が、開発時点から注目し開発費の一部を支出した背景には、米国兵が主として男性であることを考慮したのであろう。ともかく、国際的に注目されていたが、副作用の一点で広く普及する機会を奪われてきた。韓国が、この点を最大限に強調し「臨床にも値しない」と感情的に切り捨てている。
ドイツでは、アビガンの治療効果に注目して数百万セットの輸入を決めたと報じられている。中国では、著効が確認されたので日本の技術で増産体制に入る。また、世界30ヶ国から臨床試験の申入れを受けており、日本政府は無償で提供する意向である。
(2)「日本企業が数多く進出する中国では、感染拡大で工場を稼働できなかったり、日本に部品を送れなかったりしている。政府は特定の国に生産や調達先が集中することによるリスクを減らすため、国内回帰を後押しする。移転費用は大企業にも2分の1を補助する。東南アジアに移すなど日本以外への分散も支援する」
日本政府は、かねてから中国一国集中の危険性を表明してきたが、日中関係を考えればそれを表面切って打ち出せないジレンマもあったはずだ。だが、今回の新型コロナウイルスの感染で、日本企業も大きな影響を受けている。それだけにこの機会を生かして、移転費用の半分を補助するという破格の扱いで「脱中国」を大々的に進める方針を固めた。日本もグローバル戦略見直しに着手した。