勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2020年04月

    テイカカズラ
       

    正恩氏脳死説の現実性

    後継は金ファミリーで

    米朝交渉は米が有利に

    韓国経済に支援が重荷

     

    北朝鮮最高指導者である金正恩氏が、脳死状態に陥っていると伝えられている。情報源は、中国の対北朝鮮政策のトップで、これまで北朝鮮へ50回も渡っている人物である。この枢要な人物から、韓国の金大中政権当時、大統領府の初代国政状況室長を務め、第16代国会議員を歴任した張誠ミン(チャン・ソンミン)氏へ、電話で伝えられたものである。

     

    正恩氏脳死説の現実性

    ここまで「正恩氏脳死」が生々しく伝えられている以上、北朝鮮政治に一大異変が起こっていることは否定し難い事実として受入れざるを得ない。事態の詳報は、次のようなものである。『中央日報』(4月24日付)が、伝えた。

     

    1)「世界と北東アジア平和 フォーラム」張誠ミン理事長が4月23日、中国高位関係者から金正恩(キム・ジョンウン)北朝鮮国務委員長が回復不可能な重態にあるという情報を入手した。張理事長は、「今朝、北朝鮮の最高要人が『これは死亡と見なすべきだ』という結論を下した」という話を聞いた。

     

    2)正恩氏は呼吸しているが、事実上「植物(人間)」状態である。今朝(23日)、北朝鮮の高位職が状況を見て事実上死亡と結論を下したようだ。いかなる医術を動員しても、回復不可能な状態と判断しているようである。

     

    3)米国政府は、この緊急事態に気付いたようだが、韓国政府は情報がない模様。金委員長が事実上、脳死状態であるので現在、権力の空白が現れている。韓国政府は、韓半島(朝鮮半島)のリスクを最小化する方向に戦略を講じて準備に入らなければならない。

     

    4)張理事長は該当情報を伝えた中国側要人と情報の信頼性について、「長いつきあいの関係で、北朝鮮問題に関する情報が間違ったことが一度もなかった。99%以上信頼している」とし、「北朝鮮駐在中国大使が分からなくても、当該要人は情報を知りうる立場にあると」主張した。

    以上のような経緯で、金正恩氏は再起不能の脳死状態に陥っている。突然、訪れた不幸である。この衝撃的ニュースが、今後の北朝鮮後継問題、米朝関係、南北関係にいかなる影響を及ぼすか、焦点になってきた。現状で推測できる範囲で、前記の問題の行方にスポットを当てた。

     

    後継は金ファミリーで

    北朝鮮の政治体制は、古代の王政と同じである。一人の王が、全ての権限を掌握しているシステムだ。金正恩氏の統治活動が中断すれば、北朝鮮の「国家機能」そのものが麻痺しかねないのである。例えば、金正恩氏が建設現場を視察した際、建物の仕上げ材やインテリアについてまで「細かな指示」を下すことがある。北朝鮮の最高指導者は、「現地指導」を通して北朝鮮を統治しているもの。正恩氏が脳死状態に陥れば、国家機能は動かないシステムである。

     

    現在の北朝鮮は、すでにこの国家機能麻痺の事態になっている。早急に、後継体制をつくらなければならない。北朝鮮は、「血統による統治」である。金日成→金正日→金正恩という金ファミリーが「首領」ポストを独占してきた。後継体制も、金ファミリーから出なければ、「革命」騒ぎの事態を迎える。穏便な後継体制づくりには、金ファミリーが必須条件であろう。

     

    韓国の北朝鮮専門家は、実妹の金与正(キム・ヨジョン)や実兄の金正哲(キム・ジョンチョル)などを中心に「集団指導」のメカニズムが作動する可能性を指摘している。

     

    金与正氏は、父親・金正日が4人の子どもの中で、最も政治性に富むとして目をかけてきた。ただ、「女性」であることが最大の難点で、後継者に選ばれなかった。金正哲氏は生来、政治に無関心で文学や音楽を好む「文人派」とされ、早くから後継者レースから外されていた。結局、「帯に短し襷に長し」である。前記の二人だけで、剛腕「金正恩」に代わって北朝鮮を統治できる可能性は低い。

     

    脱北した元駐英北朝鮮公使で、4月15日の総選挙で当選した未来統合党の太救民(テ・グミン)氏(本名=太永浩)が23日、次のように指摘している。「金与正体制に移行するだろうが、現体制を支えている60から70代の勢力にとって、金与正(32)は完全に「ひよっ子」だと指摘。代わって、金平一(キム・ピョンイル、66)の存在に注目している。

     

    金平一氏は、金正日の異母弟で、金正恩氏の叔父に当たる。金平一氏は、金正日との権力争いに敗れ、1979年以降はハンガリー、ブルガリアなどの海外公館で勤務し、昨年チェコ大使としての勤務を最後に40年ぶりに平壌に戻ったところだ。前述の通り、金与正氏は子どもの頃から政治問題に並々ならぬ関心を持って来たとされる。それだけに、実兄の後を継ぐ意欲は満々であるはず。それが、「女性と年齢」でトップの座を外されれば、新たな紛争の種を持込むことになろう。(つづく)

     

     

    サンシュコ
       


    北朝鮮は、過去の報道例からいえば、正恩氏に関わる重大事態のニュースがあれば即刻、反応して否定してきた。今回は、全くそれがない。世界の有力メディアも、金正恩氏の生死問題について沈黙している。

     

    正恩氏の政治的な退場は決定的と見るほかない。その場合、北朝鮮に何が起こるのか。ここでは、金正日氏の死去後に起こった対韓国への軍事強硬策を振り返っておくことが重要であろう。以下の記事は、正恩氏が「脳死状態」という本欄の記事以前に、朝鮮日報に掲載されたものだ。正恩氏の復帰は、不可能という前提であることに留意すべきであろう。

     

    『朝鮮日報』(4月22日付)は、「金正日総書記死去後3年間大混乱、金正恩空白期には金与正氏が出てくる可能性」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「今回の「金正恩(キム・ジョンウン)重体説」は、北朝鮮が制裁長期化とコロナ禍で経済難に直面しているところに浮上した。金正恩国務委員長の健康リスクまで加わった場合、北朝鮮の状況は大きな混乱に陥るだろうという見方が持ち上がっている。北朝鮮は、首領一人に全ての権力が集中する唯一領導の体制だからだ。金正恩の健康状態は、すなわち北朝鮮体制の安定性・耐久性と直結することが避けられない。金日成(キム・イルソン)、金正日(キム・ジョンイル)死亡時も、極度の混乱とともに事態急変への懸念が高まった」

     

    韓国政府は、「正恩氏健在説」に立っている。だが、過去の二人の「首領」が死亡後に起こった対韓国への軍事的挑発を前提に、緊急体制を組む必要性が強くなってきた。

     

    (2)「保守系最大野党「未来統合党」所属で、先日の総選挙で当選を果たした脱北者出身の太救民(テ・グミン。本名:太永浩〈テ・ヨンホ〉)氏は21日、「身辺異常説が報道された後、1週間以上たつ現在まで北朝鮮が何ら反応を見せずにいるというのは極めて異例」と語った。太氏はこの日、見解を表明して「北朝鮮は体制の特性上、『最高の尊厳』にけちが付けられるたびに、『最高の尊厳』は健在だという動きを数日のうちに見せてきた」として、このように指摘した」

     

    北朝鮮は、正恩氏の生死問題について沈黙していること自体が、事態の深刻性を示唆している。

     

    (3)「韓米中の政府当局者らの説明を総合すると、金正恩はすぐに「重体」あるいは「事故」というべき状況までは至っていないとしても、健康問題で休息や治療を必要とする状況だとみられる。金正恩は10日前の今月11日、西部地区航空師団隷下の「追撃襲撃機連隊」を視察するなど、今年に入ってこれまで16回の公開活動に出ていた。週に1度の割合で軍事・経済・政治分野の動きを続けてきた」

     

    (4)「健康問題などで金正恩の統治活動が中断したら、北朝鮮の「国家機能」そのものがまひしかねない。首領一人が「万機親覧」する北朝鮮の権力構造上、意思決定権者がいなくなるからだ。例えば金正恩は、建設現場を視察した際、建物の仕上げ材やインテリアについて「細かな指示」を下すこともある。南成旭(ナム・ソンウク)高麗大学教授は「北朝鮮の最高指導者は現地指導を通して北朝鮮を統治するが、これができなくなると権力が動かなくなる」と語った」。

     

    北朝鮮政治は静止状態に陥るであろう。この機に乗じて「金ファミリー」打倒の動きがあるのかどうか、全く分からない。

     


    (5)「かつて、金正日国防委員長が20088月に脳出血で倒れて1112月に死亡するまでのおよそ3年間、韓半島情勢は大きく揺れ動いた。後継者の金正恩に権力が移譲された当時、平壌では権力闘争が激しく、北朝鮮は外部にその混乱を噴出させる様相を呈していた。2回目の核実験(20094月)と哨戒艦「天安」爆沈(103月)、延坪島砲撃挑発(同11月)などがこの時期に集中した。「天安」・延坪島挑発など南への攻撃は、金正恩が後継者として立地を固め、能力を誇示するために主導した-という見方が支配的だ」

     

    金ファミリーは、金日成・金正日・金正恩と直系3代が権力を承継してきた。それでも正恩氏は、自らの権力基盤強化のため、韓国へ軍事挑発し、能力の高さを誇示してきた。「正恩後」の権力継承では、正恩氏以上の困難が伴う。となれば、韓国に対していかなる戦術を使って、北朝鮮内での権力基盤を確立するのか。警戒すべき段階であろう。儒教社会の北朝鮮が、直系男子を欠く権力承継である以上、模索=混乱が予想される。

     

    (6)「専門家らは、金正恩の空白が長引く場合、取りあえず金与正(キム・ヨジョン)や金正哲(キム・ジョンチョル)など「白頭山の血統」を中心に「集団指導」のメカニズムが作動する可能性があるという見方を示した。情報機関の関係者は「2008年に金正日が倒れたとき、妹夫婦(金敬姫〈キム・ギョンヒ〉、張成沢〈チャン・ソンテク〉)、夫人(金玉〈キム・オク〉)を中心に非常指導体制が稼働したことがある」として「金与正、李雪主(リ・ソルジュ)に注目する必要がある」と語った」

     

    当面は、金ファミリーによる「集団指導体制」が取られるという見立てをしている。この段階で、過去に正恩氏から加えられた異常な弾圧に反発する層が動くのかどうか。これにも、関心を向ける必要があろう。


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    北朝鮮の最高指導者である金正恩氏が、昏睡状態に陥り再起不能説が伝えられている。一説では、脂肪吸引中に心臓に発作を起こし、昏睡状態に陥っているという。この情報は、日米政府も確認したとされている。

     

    『中央日報』(4月24日付)は、「張誠ミン元国政状況室長、『中国高位層、金正恩氏が昏睡状態』韓国与党、北朝鮮高位層は否定」と題する記事を掲載した。

     

    情報源の張誠ミン(チャン・ソンミン)氏は、金大中政権の青瓦台(チョンワデ、大統領府)で初代国政状況室長を務め、第16代国会議員を歴任した。中国に太いパイプを持つとされており、記事内容から見て、信憑性が高い。正恩氏の「植物人間説」は、日本のSNSでも伝えられている。北朝鮮が、否定情報を出さず沈黙しているのは、後継体制を構築中とされている。実妹ら親族が政権を担うという。

    (1)「世界と北東アジア平和 フォーラムの張誠ミン理事長が4月23日、「中国高位関係者から金正恩(キム・ジョンウン)北朝鮮国務委員長が回復不可能な重態にあるという情報を入手した」と話した。張理事長は「今朝、北朝鮮の最高要人が『これは死亡と見なすべきだ』という結論を下したという話も聞いた」と話した」


    (2)「彼はこの日、中央日報と電話インタビューで「今日午前10時10分ごろ、中国共産党高位幹部が国際電話をかけてきてこのような内容を伝えた」として「電話をかけた人は中国内高官の中でも北朝鮮問題に関しては第一人者で、北朝鮮を約50回出入りしている人」と話した」

    (3)「張理事長は、「該当要人が『あまりにも(状況が)緊迫で昨日夕方、一睡もできなかった』と言うからなぜかと聞いたら『(金委員長が)とても危篤で事実上死亡とみている』と話した」とし、「そのため、事実上死亡とみているというのがどういう意味かと聞いたら、『昏睡状態で回復が不可能だと判断している』と言われた」と伝えた」

     

    (4)「また、「息はついているが、事実上植物(人間)状態に入ってしまった、そのような状態ではないか推測する。ということで今朝、北朝鮮の高位職が状況を見て事実上死亡と結論を下したようだ」とし、「いかなる医術を動員しても回復が不可能な状態だとすでに判断しているようだ」と主張した」

     

    (5)「さらに、「このような状況を中国政府も最近知り秘密裏に医療スタッフを送ったようで、米国は少し気付いたようだが、韓国政府は情報がないようだ」として「北朝鮮でどのような判断を下し、いつどのように発表するかは分からないが、金委員長が生きていようが亡くなろうが重態状態で長期化しようが、今権力の空白が現れているため、わが政府は韓半島(朝鮮半島)のリスクを最小化する方向に戦略を講じて準備に入らなければならない」と話した」

     

    韓国政府は、この秘密情報を知らないとされる。米国は日本に伝えており、共同で「正恩後」の対策について協議しているという。韓国が全く知らないとすれば、文政権は国民の信頼を失うだろう。



    (6)「張理事長は該当情報を伝えた中国側要人と情報の信頼性について、「長いつきあいの関係で、北朝鮮問題に関する情報が間違ったことが一度もなかったため99%以上信頼している」とし、「北朝鮮駐在中国大使が分からないといっても該当要人は情報を知っているだろう」と主張した」


    トップ・シークレット扱いである。情報の確度は「99%以上」という状態である。


    (7)「張理事長の主張の他にもこの日、金正恩異常説に関連した各種デマ、または偽ニュースも広範にわたって出回った。「金正恩、フランス医療スタッフ手術後死亡」「CNN緊急打電。金正恩氏、元山(ウォンサン)現地で平壌(ピョンヤン)専門病院に搬送確認」「脳出血意識不明10日目、事実上回復不可判定、親中首脳部がこの事実を中国側に伝達」などマスコミの報道形式のデマもあった。「中国側親中金平一(キム・ピョンイル)氏を今後権力継承すると意思伝達」「金平一氏と親中首脳部、クーデターで権力掌握」「金与正(キム・ヨジョン)氏監禁状態」などのクーデター説もあった。これを受け、この日、韓国の一部株式種目の株価が揺れ動いた」

     

    韓国でも、種々の情報が流れている。

    (8)「対北朝鮮消息筋とされる与党のある核心関係者は、「海外に出ている高官級北朝鮮要人が金正恩異常説を否認したと承知している」と伝えた。この関係者はこの日、中央日報との電話インタビューで「最近、ある在外同胞(海外在住韓国人)が該当国に滞在中の北朝鮮高位要人と業務関係で通話をしながら金正恩危篤説を尋ねたところ、北朝鮮要人が笑いながら『そのようなことがあれば私が一番最初に分かったはずだが、だとすればあなたとこのようにのんきに通話できるだろうか』と答えたという」と伝えた。この関係者は「金正恩氏がある場所で休んでいるかもしれないが、異常説は事実でないようだ。過去、金日成(キム・イルソン)主席、金正日(キム・ジョンイル)総書記の死亡の時と比較しても北朝鮮内異常の兆候は見えない」と話した」

    (9)「青瓦台はこの日、鄭義溶(チョン・ウィヨン)国家安保室長の主宰で国家安全保障会議(NSC)常任委員会会議を開いた。青瓦台は報道資料を通じて、「NSC常任委員が最近の北朝鮮動向を確認、現在の北朝鮮内部に特別な動向がないということを確認した」と明らかにした」

     

    韓国大統領府は、正恩氏の健在説である。正恩氏について正式情報が発表後、どのように対応するだろうか。


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    中国は、新型コロナウイルスの発症震源地で、取り返しの付かないダメージを受けている。国内では大失業時代の到来。国外では、自国の発症源を隠蔽するために著しく信頼を損ね、「反中国ムード」を醸成していることだ。その結果、国内で激化する矛楯を隠すために、海外から中国のコロナ対策が成功したという「賞賛の声」を集めようと焦っている。次の例がそれだ。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(4月20日付)は、「自滅した中国コロナ外交」と題する記事を掲載した。

     

    米ウィスコンシン州議会のロジャー・ロス上院議長のもとに、中国政府から一通の電子メールが届いた。中国の新型コロナウイルス感染拡大に対する取り組みを称賛する決議案を議会に提案してほしいという依頼だった。この「自作自演」の中国賞賛の決議案依頼こそ、中国政府がコロナ禍で追い詰められている実情を自ら暴露したものである。

     

    (1)「ウィスコンシン州議会のロジャー・ロス上院議長は、これは(前記の依頼メール)いたずらに違いないと考えた。メールには、決議の文案まで添付されていた。その内容は、中国共産党がいかに素晴らしく対応したかといった論点や信じがたい主張が羅列されており、決議にかけるには怪しすぎる内容に満ちた提案だった。「外国の政府が州議会に接触してきて法案の可決を求めるなど聞いたこともない。そんなことはあり得ない」とロス議長は4月中旬、筆者に語った。そして、そのメールはシカゴの中国総領事から送られてきたことが判明した。『びっくりした。それで、こう返信してやった――親愛なる総領事殿、ふざけるな、と』」

     

    中国の在米中国領事館が、ウィスコンシン州議会のロジャー・ロス上院議長へ送ったメールは信じがたい内容であった。中国のコロナ対策を賞賛する決議案を可決してくれと言うもの。ここまで、中国政府が国内的に追い詰められている証拠だ。

     

    (2)「中国政府は新型コロナ危機に乗じて国際的な立場を高めようとして、逆に手ひどいオウンゴールを喫するということが続いている。このエピソードもその一つと言わざるを得ない。中国南部の都市にはアフリカの人が多く居住するが、そのアフリカ系住民が感染デマなどにより嘆かわしい扱いを受けていること、中国が各国に送った医療用品や医療機器に欠陥が多いこと、中国政府高官が感染は米軍から始まったとする陰謀説を公に認めるなど、世界における中国の評判をコントロールしようとする中国共産党の取り組みは、大半が裏目に出ている

     

    中国は、コロナ禍によって大きなミスを冒している。世界における中国の評判をコントロールしようとする中国共産党の取り組みは、大半が裏目に出たのだ。WHOの事務局長追放や、WHOと別組織の設立への動きなど、すべて中国政府の蒔いた種だ。

     

    (3)「データに疑いは残るが、新型コロナに関する中国の公式発表では、中国の死者数は5000人未満で、米国の約4万人(19日時点)、イタリアとスペインのそれぞれ約2万人(同)に比べ少ない。中国政府が、この状況を利用しようとしたことは結局、危機の収束後、中国が世界で孤立し、信頼を失う可能性を高めている。北京大学の著名な学者、王緝思氏は、新型コロナがもたらした様々な事態により米中関係は1970年代の国交正常化以降、最悪の水準に落ちたと指摘する。米中間の経済、技術面の分断は「もはや回復不能」なところまできていると指摘する」

     

    中国は、自分の蒔いた種で世界を大混乱に陥れながら、これを機に外交的な利益を得ようと画策するなど、西側諸国に信じがたい行為を重ねている。米中関係は、「回復不能」な段階まで悪化したと指摘されている。米中デカップリングが現実化する背景は、中国の裏切り行為が招いたものだ。

     

    (4)「英国でも変化は急激だ。保守党の有力議員たちは、首相に中国に対しもっと強硬な姿勢を取るよう求めている。英メディアは中国への批判を強め、英情報機関も中国政府からの脅威に重点的に備えると明言した。欧州やオーストラリアは、株価の下落など経済が混乱する中で中国企業が欧州や豪の企業を安く買収するのを阻止すべく対応を急いでいる。日本政府は、日本企業がサプライチェーン(供給網)から中国を外すことを促すため、7日に決定した緊急経済対策に2400億円超の予算を盛り込んだ

     

    日欧は、中国への不信感を強めている。既述のように、米国も中国への疑念を深めた。こうして日米欧が、結束して中国に背を向ける事態になれば、中国はもはや頼る先を失うであろう。

     


    (5)「もし、中国政府が早くから透明性を高め各国との協調路線にかじを切っていれば、もっと世界から共感を得られていたはずだ。ところが中国政府は逆に、政府による感染の隠蔽を批判した国民を逮捕し、新型ウイルスの感染が中国から始まったとする見方は違うのではないかという宣伝活動まで展開した。そして、感染封じ込めには自国の独裁体制の方が優れているとさえ主張している。中国政府が3月に国境を実質的に閉鎖し、査証の効力を停止したため、多くの多国籍企業は大打撃を受けている。米メディア企業の記者の多くを3月に国外退去させたことも中国政府に対する国際社会の態度を硬化させた。中国の主要国営メディア(新華通信が運営するサイト「新華網」)は、「米国を新型コロナウイルスの地獄に投げ込めるよう」、米国への医療用物資の供給を停止し、医療関係の輸出を差し止めればよい、と脅しさえした

     

    中国の外交戦略は、全て秦の始皇帝並みの「合従連衡」という古びた謀略を基本にしている。現在も、2200年前のこの戦略を使っているから、すぐに中国外交の裏が読めるのだ。「オウンゴール」という中国外交の失点こそ、近代外交戦略を知らない幼稚さを示している。

     

    (6)「こうした中国の言動は、米国をはじめ世界各国の政府に中国を自国の供給網から外そうとする動きを加速する結果につながる。なぜ中国がこのような明らかな自滅的な行為に走るのかは、中国国内の政治状況を考えるとわかる。今回の危機は、2012年に習近平(シー・ジンピン)氏が中国共産党総書記の座に就いて権力を握って以来、最大の危機だ。中国共産党支配の正統性は、感染初期段階の過ちとその後の強権的な抑え込みにより傷ついた。習氏は、今後始まる経済的危機で国民の支持はさらに失われることに気づいている

     

    中国共産党は、国民から選挙権を奪っている軟弱な基盤に成立する政権だ。これが、外交戦略でも近視眼的な政策を発動させる背景である。ウィスコンシン州議会のロジャー・ロス上院議長へ、中国賞賛の決議案を出してくれと出した依頼こそ、中国国内でどれだけ不利な事態に陥っているかを物語っている。

     

    ポールオブビューティー
       

    韓国は、コロナ災害支給金を巡って政府・与党の態度が二転、三転している。4月15日が総選挙であったので、与党は票欲しさに大盤振る舞い。「全国民に一律支給」を決め、大量得票を得たが、選挙が終わってみれば「財源難」に直面。一律支給はするが、金持ちは辞退せよ、というなんとも風変わりな結論に落ち着きそうだ。

     

    日本でもコロナ災害支給金は、国民一律で10万円を支給する。財務省は、この一律案に抵抗したが、公明党の強い要請に自民党の歩み寄りで決定した。韓国同様に、「辞退」もあり得るとしているが、世論は「全員受領説」になっている。金持ちも受給して、寄付するなどは自由という議論だ。コロナ災害支給金の主旨は、消費を喚起することにある。国民は、速やかに10万円を消費して、景気盛上げのテコにせよ、という話で落着している。

     

    『朝鮮日報』(4月24日付)は、「『自分が金持ちと思うならカネを返納せよ』こんな政策もあるのか」と題する社説を掲載した。

     

    (1)「緊急災害支援金の「所得下位70%支給」と「全国民支給」を巡って韓国政府と与党がもめたかと思えば、今は「高所得層の自発的寄付」を前提として全国民に支給する方向に向かっている。4人家族基準で最大100万ウォン(約87000円)の支援金をいったん与えるので、金持ちは思うがままに返納せよという意味だ。その一方で与党・共に民主党の院内代表は「今後は全て野党の手に懸かっている」としてボールを野党に投げた。与党勢力の議席が過半数をはるかに上回っているのに「野党の手に懸かっている」とはどういうことか。野党が反対すれば「野党のせい」に、寄付金の額が少なければ「高所得層のせい」にするという話だ」

     


    韓国与党ほど、ポピュリズム政党はない。選挙に勝つためには、財政的に無理なことでも平気で公約し、後からそれを撤回するという「公党」にあるまじきことをやっている。総選挙では、「日韓戦」といって反日を高く掲げていた。選挙の結果は、総議席の6割を得て絶対多数である。思う存分、反日政策が実行可能になった。

     

    コロナ災害支援金は、「金持ち辞退」である。総選挙中は、「全ての国民に支給」であった。これが、総選挙ごはいち早く修正し、挙げ句の果てに、野党(保守派)が反対すれば不可能と煙幕をはっている。絶対多数を握る与党が、野党の反対を口実に上げている。信用ならない与党である。

     

    (2)「緊急災害支援金は企画財政部(省に相当)が設計した原案通り「所得下位50%」の世帯に迅速に支援するとしていれば、何の問題もなかった政策だ。従来は全ての福祉サービスが下位50%を対象としていたため、これを基準とすれば直ちに対象者の選定と支給が可能だ。ところが総選挙に向けた買票のため対象を70%に拡大したことで混乱が始まった。対象から除外された人と70%付近の階層から不満の声が相次ぐと、共に民主党は「全国民に拡大」を公約として掲げ、これを選挙に活用した。選挙遊説では「わが党の候補を当選させてくれれば、全国民に支援金を払う」とも言っていた。しかし3兆ウォン(約2600億円)以上となる財源の調達が困難になると、今度は「高所得層は思うがままに寄付せよ」と言い始めた」

     

    当初案は、「所得下位50%」である。それが「70%」に引き上げられ、結局は票集め目的で与党の「国民全員案」になった。こういう経緯を経ているが、最後は財源難で「高所得者は辞退せよ」である。こういう、インチキなことを言う与党の政策に、整合性など最初からあろうはずもない。日韓の条約反古は当然、起こるべくして起こる政治土壌である。

     

    (3)「『自発的寄付』と言っておきながら、これがややもすれば国民に対して有形無形のありとあらゆる形の圧力として降り掛かる可能性もある。所得上位30%は全勤労所得の95%を負担している。全国民に支給する支援金は彼らが負担する部分が最も多いが、彼らは災害支援金をくれとは一言も言っていない。それでも税金を支払った人たちに「道徳的責務」まで試そうとしている。これは政府として正しい政策とは言えない」

     

    所得上位30%が、全勤労所得の95%を負担している。これが、韓国の現状である。ちなみに、大企業労組員は所得上位10%に入っている。「貴族労組」と言われるゆえんだ。貴族労組は、災害支援金を辞退するのだろうか。まず、あり得ない話だ。彼らは、「一銭」でも多く貰いたい方である。労組の動きが興味深い。


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