米国は、本気でWHO(世界保健機関)の新型コロナウイルス対応巡り、調査を要求する姿勢である。すでに、WHOへの拠出金提供を中止している。理由は、WHOが公平な運営をせず、中国偏重が目立つからだ。WHOは、国連傘下である。米国共和党有力上院議員が国連へ書簡を送り、WHOの実態調査を依頼して、是正を求める姿勢を鮮明にしている。
『大紀元』(4月25日付)は、「米共和有力議員『国連に調査要請』WHOの新型コロナ対応巡り」と題する記事を掲載した。
米与党共和党の有力上院議員は24日、国連のグテレス事務総長に書簡を送り、国際保健機関(WHO)の新型コロナウイルス世界的大流行への対応を巡り独立した調査を実施するよう要請した。
(1)「書簡の署名者には上院外交委員会のジム・リッシュ委員長ほか、マルコ・ルビオ、ミット・ロムニー、リンゼー・グラム、ランド・ポール、テッド・クルーズ氏ら有力議員が含まれる。書簡は、「この新型コロナのパンデミック(世界的大流行)の間、WHOが中国に際立った配慮を払っているようにみられる」と主張。「WHOの信認回復には一段の透明性や説明責任、改革が必要となる」とし、小委員会を即時に設置し、今日までのWHOの実績に関する中間評価すると同時に、改革に向けた提言を行うよう、グテレス事務総長に求めた」
国連における最大拠出金提供国は米国である。その米国共和党有力議員によるWHO調査要求は、国連として無視できないものだけに、どのように対応するのか関心が高まるであろう。米国によるWHO揺さぶりは徹底している。WHOへの拠出金を中止した。拠出金は4億ドルで、全体の15%を占めている。この拠出金が提供されなければ、WHO運営は行き詰まる。仮に、中国が肩代わりすれば、一段とWHOの中国化が非難されるだろう。WHOは、進退に窮する事態を迎えている。
米国が、徹底的にWHOを問題にしている裏には、「米中デカップリング(分離)」が意識に上がっているとみるべきだろう。パンダミックで、世界を大混乱に陥れた中国の存在は、米国を初め西側諸国にとって「鬼門」であることがはっきりしてきた。こういう「異質国家」の存在は、世界経済の安定維持にとって、どれだけ障害であるか分からない。今後もパンダミックが起こらないという保証はどこにもないのだ。そうであればこの際、西側諸国の経済圏から中国を外す。米国には、こういう思い切った戦略が浮上している。
米国は、グローバル経済というこれまでの錦の旗を降ろして、米中のブロック化による「断絶」によって、西側諸国のサプライチェーン安定化を目指す。この大方針が、すでに米国ではできあがっている。米中貿易戦争は、グローバル経済の効率性を犠牲にしてでも、防疫と貿易の二大側面で、安定的発展を策す。これが、米国の新戦略に見える。
(2)「トランプ大統領は今月、WHOによる新型コロナ対応を巡り、資金拠出を少なくとも一時的に停止するよう指示したと表明。WHOは「基本的な任務の遂行を怠った。責任を取る必要がある」とし、新型コロナに関する中国の「偽情報」をWHOが助長したことが感染拡大につながった可能性が高いと非難した。ポンペオ国務長官も前日、WHOの抜本的な改革が必要とし、米国がWHOへの資金拠出を再開しない可能性があるほか、WHOの代替機関の設立に取り組むこともあり得ると表明した」
下線部分は、米国がWHOと異なる組織を立ち上げる意図を明らかにしている。謀略によって世界覇権を目指す中国とは、異なる経済圏をつくり防疫と貿易の安全保障を確実にする狙いであろう。中国は、この米国の意図を薄々だが、感づき始めている。それは、日米における在中企業の「Uターン」促進政策に脅威を感じ始めているからだ。
『レコードチャイナ』(4月25日付)は、「中国、コロナ禍で『日米企業撤退の動きに緊張』と韓国紙、火消しに追われる当局」と題する記事を掲載した。
新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大する中、日本と米国が中国に進出した自国企業にUターンを呼び掛け、中国を緊張させていると韓国『中央日報』が報じた。撤退論について、中国当局は「産業配置の調整を検討している企業の数はとても少ない」などと火消しに追われている。
(3)「中央日報はこのほど、「中国、日本・米国企業撤退の動きに緊張」との記事を掲載。「経済規模が世界1位の米国と3位の日本が2位の中国を挟み撃ちする状況だ。偶然にも日米両国は同じ日の4月9日、中国に進出している自国企業にUターンを促す声を出した」と伝えた。 記事は「こうした米国の立場はトランプ米大統領の執権以降、一貫している。昨年8月、トランプ大統領は『われわれの偉大な米国企業が中国からすぐに撤退を始めることを命じる』と述べたりもした。譲歩のない米中貿易戦争の中で出てきた発言だ」と指摘。「新型コロナ事態を迎えたことで、米製造業の中国撤退を強調する声はさらに強まっている。ロス米商務長官は先日、新型コロナ状況は米製造業のUターン加速につながると述べた」と補足した」
旧ソ連は、1991年に崩壊した。それ以降、グローバル経済の効率性によって世界経済は大きく発展して来た。この過程で、中国が台頭して西側諸国へ対決する構図をつくり上げている。かつての冷戦時代への逆戻りである。
中国は、防疫面でも世界経済を脅かす存在になっている。西側諸国には想像もできない低い公衆衛生思想の国であるのだ。内政を放置して、外延的発展にのみに関心を持つ、典型的な「帝国政策」に回帰している。中国は、世界覇権論と内政放置が重なって、防疫面での危険な国と化している。この危険性を遮断するには、自国企業の「Uターン」しかない。
(4)「日本に関しても、「経済産業省は9日、総額108兆円のコロナ関連経済援助計画を発表し、日本のサプライチェーン改革に関連して2435億円を予算に盛り込んだ。コロナ事態で中国から必要な部品を調達できなくなると、こうした状況の再発防止のためにサプライチェーンを多元化するということだ」と報道。「2435億円のうち2200億円は中国から日本にUターンする企業に、残りの235億円は中国の工場が東南アジアなど他国に移転するのを支援するのに使用するという」と説明した」
日本も米国と同じ事情にある。日本企業を「Uターン」させて、中国に依存するサプライチェーン・リスクの軽減を図る。
(5)「これに対し、中国の経済政策全般の立案から指導までの責任を負う国務院の中核組織・国家発展改革委員会の袁達報道官は、20日の定例記者会見で「調査によると、現在、在中国の米系企業や日系企業の中で、産業配置の調整を検討している企業の数はとても少ない」と強調。商務部の高峰報道官も「全体的に見ると、感染症は在中外資系企業に一定の影響を及ぼしているが、中国で大規模な外資撤退は生じておらず、生じることもない」などと反論した」
中国は、日米企業の「Uターン」が始まれば痛手を受ける。それを止める「好条件」は、すでに中国で消えていることも事実だ。賃金コストアップ・共産党の締め付け・不動産賃料の引上げなど、これまでの進出メリットは大半が消えた。その上、感染症発症の危険性を考えれば、製造業の中国に止まる理由が薄れる。中国は、西側諸国の製造業が撤退すれば、その穴を埋められないのだ。