勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2020年04月

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    米国は、本気でWHO(世界保健機関)の新型コロナウイルス対応巡り、調査を要求する姿勢である。すでに、WHOへの拠出金提供を中止している。理由は、WHOが公平な運営をせず、中国偏重が目立つからだ。WHOは、国連傘下である。米国共和党有力上院議員が国連へ書簡を送り、WHOの実態調査を依頼して、是正を求める姿勢を鮮明にしている。

     

    『大紀元』(4月25日付)は、「米共和有力議員『国連に調査要請』WHOの新型コロナ対応巡り」と題する記事を掲載した。

     

    米与党共和党の有力上院議員は24日、国連のグテレス事務総長に書簡を送り、国際保健機関(WHO)の新型コロナウイルス世界的大流行への対応を巡り独立した調査を実施するよう要請した。

     

    (1)「書簡の署名者には上院外交委員会のジム・リッシュ委員長ほか、マルコ・ルビオ、ミット・ロムニー、リンゼー・グラム、ランド・ポール、テッド・クルーズ氏ら有力議員が含まれる。書簡は、「この新型コロナのパンデミック(世界的大流行)の間、WHOが中国に際立った配慮を払っているようにみられる」と主張。「WHOの信認回復には一段の透明性や説明責任、改革が必要となる」とし、小委員会を即時に設置し、今日までのWHOの実績に関する中間評価すると同時に、改革に向けた提言を行うよう、グテレス事務総長に求めた

     

    国連における最大拠出金提供国は米国である。その米国共和党有力議員によるWHO調査要求は、国連として無視できないものだけに、どのように対応するのか関心が高まるであろう。米国によるWHO揺さぶりは徹底している。WHOへの拠出金を中止した。拠出金は4億ドルで、全体の15%を占めている。この拠出金が提供されなければ、WHO運営は行き詰まる。仮に、中国が肩代わりすれば、一段とWHOの中国化が非難されるだろう。WHOは、進退に窮する事態を迎えている。

     

    米国が、徹底的にWHOを問題にしている裏には、「米中デカップリング(分離)」が意識に上がっているとみるべきだろう。パンダミックで、世界を大混乱に陥れた中国の存在は、米国を初め西側諸国にとって「鬼門」であることがはっきりしてきた。こういう「異質国家」の存在は、世界経済の安定維持にとって、どれだけ障害であるか分からない。今後もパンダミックが起こらないという保証はどこにもないのだ。そうであればこの際、西側諸国の経済圏から中国を外す。米国には、こういう思い切った戦略が浮上している。

     

    米国は、グローバル経済というこれまでの錦の旗を降ろして、米中のブロック化による「断絶」によって、西側諸国のサプライチェーン安定化を目指す。この大方針が、すでに米国ではできあがっている。米中貿易戦争は、グローバル経済の効率性を犠牲にしてでも、防疫と貿易の二大側面で、安定的発展を策す。これが、米国の新戦略に見える。

     

    (2)「トランプ大統領は今月、WHOによる新型コロナ対応を巡り、資金拠出を少なくとも一時的に停止するよう指示したと表明。WHOは「基本的な任務の遂行を怠った。責任を取る必要がある」とし、新型コロナに関する中国の「偽情報」をWHOが助長したことが感染拡大につながった可能性が高いと非難した。ポンペオ国務長官も前日、WHOの抜本的な改革が必要とし、米国がWHOへの資金拠出を再開しない可能性があるほか、WHOの代替機関の設立に取り組むこともあり得ると表明した

     

    下線部分は、米国がWHOと異なる組織を立ち上げる意図を明らかにしている。謀略によって世界覇権を目指す中国とは、異なる経済圏をつくり防疫と貿易の安全保障を確実にする狙いであろう。中国は、この米国の意図を薄々だが、感づき始めている。それは、日米における在中企業の「Uターン」促進政策に脅威を感じ始めているからだ。

     

    『レコードチャイナ』(4月25日付)は、「中国、コロナ禍で『日米企業撤退の動きに緊張』と韓国紙、火消しに追われる当局」と題する記事を掲載した。

     

    新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大する中、日本と米国が中国に進出した自国企業にUターンを呼び掛け、中国を緊張させていると韓国『中央日報』が報じた。撤退論について、中国当局は「産業配置の調整を検討している企業の数はとても少ない」などと火消しに追われている。

     

    (3)「中央日報はこのほど、「中国、日本・米国企業撤退の動きに緊張」との記事を掲載。「経済規模が世界1位の米国と3位の日本が2位の中国を挟み撃ちする状況だ。偶然にも日米両国は同じ日の49日、中国に進出している自国企業にUターンを促す声を出した」と伝えた。 記事は「こうした米国の立場はトランプ米大統領の執権以降、一貫している。昨年8月、トランプ大統領は『われわれの偉大な米国企業が中国からすぐに撤退を始めることを命じる』と述べたりもした。譲歩のない米中貿易戦争の中で出てきた発言だ」と指摘。「新型コロナ事態を迎えたことで、米製造業の中国撤退を強調する声はさらに強まっている。ロス米商務長官は先日、新型コロナ状況は米製造業のUターン加速につながると述べた」と補足した」

     

    旧ソ連は、1991年に崩壊した。それ以降、グローバル経済の効率性によって世界経済は大きく発展して来た。この過程で、中国が台頭して西側諸国へ対決する構図をつくり上げている。かつての冷戦時代への逆戻りである。

     

    中国は、防疫面でも世界経済を脅かす存在になっている。西側諸国には想像もできない低い公衆衛生思想の国であるのだ。内政を放置して、外延的発展にのみに関心を持つ、典型的な「帝国政策」に回帰している。中国は、世界覇権論と内政放置が重なって、防疫面での危険な国と化している。この危険性を遮断するには、自国企業の「Uターン」しかない。

     


    (4)「日本に関しても、「経済産業省は9日、総額108兆円のコロナ関連経済援助計画を発表し、日本のサプライチェーン改革に関連して2435億円を予算に盛り込んだ。コロナ事態で中国から必要な部品を調達できなくなると、こうした状況の再発防止のためにサプライチェーンを多元化するということだ」と報道。「2435億円のうち2200億円は中国から日本にUターンする企業に、残りの235億円は中国の工場が東南アジアなど他国に移転するのを支援するのに使用するという」と説明した」

     

    日本も米国と同じ事情にある。日本企業を「Uターン」させて、中国に依存するサプライチェーン・リスクの軽減を図る。

     

    (5)「これに対し、中国の経済政策全般の立案から指導までの責任を負う国務院の中核組織・国家発展改革委員会の袁達報道官は、20日の定例記者会見で「調査によると、現在、在中国の米系企業や日系企業の中で、産業配置の調整を検討している企業の数はとても少ない」と強調。商務部の高峰報道官も「全体的に見ると、感染症は在中外資系企業に一定の影響を及ぼしているが、中国で大規模な外資撤退は生じておらず、生じることもない」などと反論した」

     

    中国は、日米企業の「Uターン」が始まれば痛手を受ける。それを止める「好条件」は、すでに中国で消えていることも事実だ。賃金コストアップ・共産党の締め付け・不動産賃料の引上げなど、これまでの進出メリットは大半が消えた。その上、感染症発症の危険性を考えれば、製造業の中国に止まる理由が薄れる。中国は、西側諸国の製造業が撤退すれば、その穴を埋められないのだ。

     

    あじさいのたまご
       

    中国は、身勝手な理屈で世界外交を行なっている。経済大国ぶりを露骨に示して、相手国を侮辱する言動が、大きな反発を受けているのだ。スウェーデンは、中国への反発が大きく、姉妹都市提携を相次いで解消し、孔子学院の閉鎖が続いている。中国の「成り上がり者根性」が嫌われているのだ。

     

    『大紀元』(4月24日付)は、「スウェーデン、中国との姉妹都市を相次ぎ解消、孔子学院の閉鎖も」と題する記事を掲載した。

     

    スウェーデンでは、中国との姉妹都市関係を打ち切る自治体が相次いでいる。中国政府が出資する孔子学院もすべて閉鎖する動きがあるとの報道も出ている。中国共産党政権のスウェーデン政府やジャーナリストに対する威圧的な態度が原因だという。

     

    (1)「スウェーデンと中国の関係は悪化している。昨年11月、スウェーデンの市民団体は言論自由賞であるトゥチョルスキー賞を、昨秋に中国で連行された同国籍を持つ作家・桂民海氏に授与した。授賞式にはアマンダ・リンド文化スポーツ・民主主義・少数民族担当相が出席した。これを受けて、桂従友中国大使は「一部のスウェーデンの人々は、中国人の感情や中国側の利益を傷つけるような行動をとった場合、事態を鎮静化できると思わない方がいい」と威圧的な態度をとった。桂従友氏は1月、スウェーデン国営メディアSVTのインタビューで、スウェーデン記者が中国の取材ビザを取得するためには「中国に関する誤った報道方法を変えなければならない」と述べ、取材制限を示唆した」

     

    中国人は、自分よりも金持ちにはへつらい、貧しい者には威張り散らす習性がある。人間の価値を、所有する財産で値踏みするという偏狭さを持っている。これは、中国社会が伝統的に貧しかったことの反映である。精神性よりも物質を重視するという、世界でも珍しい存在だ。初対面の者にも、平気で給料の金額を聞くという「無粋」な民族なのだ。国家間の価値秤量基準は、GDPの規模である。

     

    2010年、中国がGDPで日本を抜いた直後、知識人までが「日本は中国を尊敬すべきである」と発言して顰蹙(ひんしゅく)を買った。成り上がり者根性が、きわめて強い民族である。米中対立の根源には、中国がGDPで米国へ接近しているという「奢り」が強く影響しているはず。田舎者的な発想なのだ。それが、スウェーデンで強く出ているに違いない。

     

    (2)「桂従友大使はまた、両国の関係をボクシングの試合にたとえ、「48キロのフライ級選手」であるスウェーデンが、「86キロのヘビー級選手」の中国に挑もうとしていると侮蔑し、「忠告を聞き入れないフライ級の選手が挑発し続け、ヘビー級の選手の家まで押しかけたとしたら、ヘビー級選手には(彼を倒す以外)選択肢はないだろう」と脅した。この発言について、スウェーデン外務省は同月21日、桂大使を呼び出し、同氏がスウェーデンの報道機関を脅したとして抗議した」

     

    スウェーデンは、ノーベル賞発祥の国である。一度でもスウェーデンを訪ねたことのある者には、夢の国という印象が強い。中国大使は、そういうスウェーデンを「軽量」扱いするという「無知」を曝け出している。自ら、民度の低さを暴露しているに等しい振る舞いなのだ。

     


    (3)「201912月に発表された、世論調査大手ピュー・リサーチ・センターの対中感情とが明らかになった

     

    下線のように、スウェーデンでは中国を嫌っている。敬虔なスウェーデン人が、無信仰で粗野な中国人を軽蔑するのは当然であろう。

     

    (4)「リンショーピン市議会ラース・ビキンゲ議長は、「私たちは中国との政治的接触をすべて断ち切っている。これは、中国大使館がスウェーデン政府に向けた脅威のためだ」と、地方紙のインタビューで語っている。国内紙によれば、地方都市のリンショーピン、ベステルオース、オーモール、ボルレンゲ、ダーラナは、中国地方都市との姉妹都市関係を解消したという。また、中国広東省からの代表団は今年12月にリンショーピンを訪問する予定だったが、「歓迎しない」と断った

     

    中国は、スウェーデンで徹底的に嫌われている。今回の新型コロナウイルス感染で、その傾向はさらに深まるであろう。

     

    (5)「中部のダーラナ市は、新型コロナウイルスの発生源である湖北省武漢との姉妹都市関係を終了させている。また、ダーラナ市は湖北省との間の若者の民主化に関する協力関係も結んでいたが、解消されているという。英『タイムズ紙』(421日付)は、スウェーデンでは、中国共産党の対外宣伝組織とされる中国語教育機関「孔子学院」をすべて閉鎖する動きがあると報じた。ジェームスタウン研究所の調査報告によると、孔子学院は、儒教思想の普及や研究とは関係なく、中国共産党のソフトパワーを着々と広めるための道具であると指摘している」

     

    スパイ機関とも警戒されている孔子学院が、スウェーデンから全て姿を消す事態を迎えている。米国でもFBI(連邦捜査局)が常時、スパイ活動取締の一環として監視している。

     

    (6)「中国研究家で人口研究所スティーブン・モッシャー氏は、孔子学院は「トロイの木馬」であり、海外の若者に「中国脅威論」を払しょくするための狙いがあるとみている。孔子学院の問題に注視してきたグレン・アンソニー・メイ氏によると、中国共産党にとって体制を揺さぶる敏感問題である台湾、チベット、六四天安門事件、法輪功迫害などは、孔子学院の教室や教材のなかで取り扱うことを禁じられている」

     

    中国の深慮遠謀ぶりは、度を外れている。世界覇権の野望を持っている証拠だ。内政を無視して、外的発展だけに力を入れる姿は、典型的な「帝国路線」である。過去の帝国が滅びてきた背景は、この外延的発展重視という片手落ちが理由である。中国共産党も、その衰退路線を一直線に進んでいる。先は、長くないであろう。


    テイカカズラ
       

    世界は、新型コロナウイルス蔓延で危機を迎えている。その原因として、WHO(世界保健機関)が発症国・中国の利益を守る偏向行動を取っていることを上げられている。米国は、このWHOに不満を抱きドナルド・トランプ大統領は4月14日、「WHOが新型肺炎に対する中国の情報隠ぺいをそそのかした」としてWHOへの拠出金提供の中断を指示した。米国は、WHO予算の約15%を占める4億ドル以上を負担してきた最大供与国だ。中国は、米国の1割である4000万ドルを拠出している。

    米国の拠出金提供中断は、WHOの運営に障害となっている。中国は、これを見て3000万ドル(約32億円)を寄付することにした。米国への対抗措置と受け取られている。WHOは、活動の源泉である拠出金が不足すれば即時、活動に支障が出る。これを乗り切るには、WHO改革=テドロス局長辞任(任期は2022年7月)によって、「親中国」的な運営にメスを入れることが求められている。中国は、この動きを阻止するであろう。そうなると、膠着状態に陥るので、米国はWHOと別組織の設立を模索している。

     

    『ロイター』(4月23日付)は、「米、WHO資金拠出再開しない可能性、代替機関設立もー国務長官」と題する記事を掲載した。

     

    ポンペオ米国務長官は世界保健機関(WHO)について、新型コロナウイルス感染拡大への対応を巡って抜本的な改革が必要との認識を示し、米国はWHOへの資金拠出を再開しない可能性があると述べた。また、WHOの代替機関の設立に取り組む可能性もあると表明した。

     

    (1)「ポンペオ長官は22日夜、FOXニュースに対し「米国はWHOを厳しく検証し、どのように対応するか検討する必要がある」とし、「国連機関の1つであるWHOに対し米国は2007年に見直しを行っているため、これが初めてではない。WHOの構造的な改革が必要だ」と述べた。WHO事務局長の交代は排除しないかとの質問に対しては「それだけではない。米国民の税金をもはやWHOに拠出しない事態になる可能性がある。WHOには大胆な改革が必要だ」と述べた」

     

    主要7カ国(G7)首脳は4月16日、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)への協調対応を話し合うテレビ会議を開催し、WHOの「徹底した見直しと改革のプロセス」が必要との認識で一致した。米ホワイトハウスが声明で明らかにしたもの。ホワイトハウスの声明で、「議論の多くはWHOがパンデミック(世界的大流行)に対し透明性を欠き、誤った対応を繰り返したことに集中した」と説明した。WHO運営の中心は、事務局長である。この事務局長権限について議論されたのであろう。

     


    (2)「その上で、テドロス事務局長は、加盟国が規則を順守しなかった際、公に指摘する権限を行使しなかったと主張。新型ウイルスの発生源となった中国湖北省の武漢市で、ウイルス研究所の安全基準が確実に守られるようにする義務がWHOにはあったとし、事務局長には基準を順守しない国に対する「絶大な権限」があったはずだと述べた」

     

    テドロス事務局長には、中国がウイルス研究所の安全基準を確実に守られるようにする権限があるにもかかわらず、それを行使せずに放置した点が非難されている。中国がこれまで、テドロス氏をWHO事務局長に当選させるべく運動してきた背景は何であったのか。その黒い理由にスポットが当っている。

     

    (3)「ポンペオ長官はまた、4月23日のラジオ番組のインタビューで、WHOの役割を他の機関が担う可能性について聞かれ「まさにその問題について、検討しようとしているところだ」と言明。その上で「組織が機能していれば、米国は常に主導して役割の一端を担う。だが、望ましい結果を出すことができない場合、本来の目標を実際に達成できる構造、形式、ガバナンスのモデルを構築するため、世界のパートナーと協力していくつもりだ」と語った」

     

    米国は、WHOが公正な運営をやらなければ、別組織をつくる意向を滲ませている。米国の最終目的は、WHOの改革である。だが、その改革が不首尾に終われば、別組織をつくるという強い姿勢で改革を迫るのであろう。

     

    (4)「トランプ大統領は、新型ウイルス感染拡大を巡りWHOは「中国中心主義」だと批判。WHOへの資金拠出の一時停止を指示したことを前週明らかにした。22日には米国際開発庁(USAID)のバーサ長官代行が、WHOに対する資金拠出を停止している間、米国はWHOが適切に運営されているか検証すると述べた。米国のWHOに対する拠出金は加盟国の中で最大で、2019年は約4億ドルと、WHO予算全体の約15%を占めた」

     

    米国は、WHO運営費の約15%である約4億ドルを拠出している。中国の拠出金は、米国の1割規模とされている。この少ない費用負担で、WHOを意のままに動かそうというのは、大変な策略である。米国が、怒るのももっともと言える。

     

     

     

     

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    新型コロナウイルスを巡っては、先行き暗い話ばかりである。今冬からウイルス感染第二波が来ることや、インフルエンザが重なって、市民はさらに穴蔵生活を余儀なくされるというもの。本欄も、そういう暗い話を紹介してきた。その中で、唯一の希望は抗体検査の普及である。

     

    市民の生活を制限し、企業と世界経済に破壊的影響を及ぼしているのが、ロックダウン(都市封鎖)である。この安全な解除時期を見極めるうえで、抗体検査は政府に必要なデータをもたらす極めて重要なものである。その抗体検査セットが現在では、粗製濫造で自信を持って使えるものが、わずかと言われるほど。抗体検査が、封鎖解除の切り札になるとは分かっていても、二の足を踏まざるを得ないのが現状なのだ。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(4月23日付)は、「封鎖解除の鍵、『抗体検査』を試す精度のハードル」と題する記事を掲載した。

     

    抗体検査は、個人が過去の感染で免疫を獲得しているかどうかを示す。免疫ができていればウイルスに感染しないので、仕事や人との接触も許されることになる。この意味で、都市封鎖解除には欠かせないツールである。問題は、精度がきわめて低いことだ。ロシュ・ホールディングのセベリン・シュバン最高経営責任者(CEO)は、「これまでに発表された他社の新型コロナウイルス抗体検査薬はひどい失敗作だ」とこき下ろすほどである。

     

    (1)「英国COVID検査科学諮問委員会は今週、英政府が採用を検討している市販の抗体検査キット9種類に関する評価報告書を発表した。新型コロナに対する免疫反応の検査について、要件を満たすものは一つもなかった。英レディング大学の微生物学者サイモン・クラーク氏は、同報告書は「数種の検査キットは一般人が使用するには精度が不十分で、新型コロナに感染していたかどうか、免疫ができているかどうかを見分けるには決して十分ではないことをごく明確に示している」と話す」

     

    ついひと月前、英国はジョンソン首相の言う「ゲームチェンジャー」(状況を一変させるもの)を約束していた。新型コロナウイルスに感染して抗体ができた人を簡単に見分けられる検査キットを数百万個、間もなく配布するというのだった。ドラッグストアの英ブーツや米アマゾン・ドット・コムなどの小売業者を通じて、家庭用の「妊娠検査薬」のようなキット350万個以上を供給する計画だった。だが、検査の精度に問題のあることが判明し、計画は流れた。これで、抗体検査への期待がすっかりしぼんでしまった。前記のロシュCEOは、5月に入れば画期的な精度の高い抗体検査キットを発売すると胸を張っている。



    (2)「抗体検査は血液を採取し、人体の免疫系がウイルス感染と闘うためにつくる特定の抗体を検出するので血清検査とも呼ばれるが、困難に直面しているのは英国だけではない。世界各地で問題が報告されており、スペインなどの欧州諸国はアジアから輸入された大量の抗体検査キットを排除している。米国では、有効性が未確認で質的に問題のある検査キットを数十社が販売するのを許したとして、米食品医薬品局(FDA)が批判を浴びている。米国公衆衛生研究所協会のスコット・ベッカー会長は、「率直に言って質が疑わしい」90種類以上の抗体検査キットが市場に「氾濫」していると述べた」

     

    FDAは、抗体検査キットの発売を焦った結果、精度に問題のあるキットの発売を許したとして批判されている。「あの厳格なFDA」がと、すっかり評判を落とした。米国政府が、それほど都市封鎖解除を焦っていた証拠でもある。

     

    『ブルームバーグ』(4月23日付)は、「新型コロナ抗体検査薬、他社の既製品は失敗作ーロシュCEOが酷評」と題する記事を掲載した。

     

    ロシュ・ホールディングのセベリン・シュバン最高経営責任者(CEO)は、これまでに発表された他社の新型コロナウイルス抗体検査薬はひどい失敗作だとこき下ろした。

     

    (3)「これまでの抗体検査薬は信頼性が低く、英国やスペイン、米国の一部は使い物にならないと断定した。シュバンCEOによると、このような検査薬は開発が容易な一方、正確性の確保が極めて難しいことが理由だという。「どのような素人でも抗体検査薬を製造できる。問題は実際に役に立つのかということだ」と同CEOは22日、記者団との電話で述べた」

     

    ジュネーブに本部を置く非営利組織「革新的な新診断法のための財団(FIND)」は、開発中または市販されている280種類の免疫学的測定法(抗体検査)をリストアップしている。その多くは中国製だ。中国の規制当局は、スペインに輸出した検査キットに品質上の問題があったことが判明した後、未認可の輸出業者を取り締まっている。中国製の抗体検査キットは、精度が30~50%と言われている。抗体検査が、これまで精度が低く問題を起こしたのは、ほとんど中国製の粗悪品によるものだった。

     

    (4)「ロシュは5月初めまでに抗体検査薬を発売する計画だ。開発に当たり他社製品も調べたが、信頼に足る製品はなかったとし、「何の価値もないか、わずかな有用性しかない」と酷評。英国の検査のアプローチについても批判し、同国は長年にわたり必要なインフラへの投資が不足していたと指摘した」

     

    ロシュは、自信満々である。その抗体検査キットは、5月初めまでに発売されるという。期待通りの高精度であれば、抗体検査への期待が高まるであろう。抗体を持っていれば、もはやマスクをつける必要なない。そういう日が、早く来ることを願っている。

     

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    世界中を席巻している新型コロナウイルスには、未だに決定的な特効薬も出ないまま時間を空費している。その中で、米国政府がコロナ菌は「日光・高温・多湿で威力弱まる」という研究結果を発表した。藁をも掴みたい世界中の人々にとって、少しは気の休まるニュースとなろう。

     

    『ロイター』(4月24日付)は、「新型コロナ、日光・高温・多湿で威力弱まるー米政府研究」と題する記事を掲載した。

     

    米国土安全保障省の高官は23日、新型コロナウイルスに関する政府の研究で、日光が当たる場所や高温・高湿度の環境下では、より短い時間で威力が弱まる傾向が示されたと明らかにした。

     

    (1)「国土安全保障省科学技術局のウィリアム・ブライアン局長代行によると、政府の研究者らは、新型コロナが最も生存しやすいのは屋内の空気が乾燥した環境で、気温と湿度が上がれば威力を失い、特に日光に弱いとの研究結果を報告した同氏はホワイトハウスのブリーフィングで「直射日光に当たれば、最も早く死滅する」と述べた。インフルエンザなど他の呼吸器系疾患と同様に、新型コロナの感染力が夏季に弱まるとの期待を強める内容だが、実際は、シンガポールなどの温暖な場所でも強い感染力を発揮している。トランプ米大統領は、この研究結果は慎重な解釈が必要だと指摘した」

     

    下線部は、これまでも類似の指摘がされてきたが、具体的なデータが提示されたのは初めてである。従来は、漠然と「ウイルス菌が高温に弱い」というものであった。

     

    (2)「ブライアン氏によると、暗くて湿度が低い環境では、新型コロナはステンレス鋼など通気性のない素材の上で、18時間かけて威力を半減させるが、高湿度の環境ではこの時間が6時間に減り、高湿度の環境で日光に当てれば、2分に短縮されるという。また、せきやくしゃみによる飛沫感染を想定し、空気中に漂う新型コロナウイルスについても調べ、同様の結果が得られた。空気中の新型コロナは暗い室内で1時間かけて威力が半減したのに対し、日光に当てた場合は90秒に短縮した

     

    ウォーキングで、マスクをつける姿が増えている。かくいう私も、マスクをつけてウォーキングせざるを得なかったが、なんともやりきれない矛楯を感じていた。海岸に沿って歩くのにマスク姿とは、珍無類であるからだ。咳やくしゃみによる飛沫が、90秒で消えれば、他の人との距離が10メートル以上も離れる場合、「ノーマスク」でも無害となろう。

     

    このように、新型コロナウイルスには極度の神経を払う生活が続いている。一方では、特効薬への期待を打ち砕くニュースも流れている。

     


    『ロイター』(4月23日付)は、「ギリアドの新型コロナ薬、治験失敗と報道、WHOが誤って情報開示」と題する記事を掲載した。

     

    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(FT)は23日、米ギリアド・サイエンシズの新型コロナウイルス感染症治験薬の初期臨床試験が失敗に終わったと報じた。これに対しギリアドは、早期に打ち切られた試験の結果であり、結論を導くことはできないと反論した。FTの報道を受け、ギリアドの株価は4%超下落した。レムデシビルは新型コロナの有望な治療薬として注目を集めていた。

     

    (3)「FTは、世界保健機関(WHO)が誤って公表した報告書の草稿の情報に基づき、ギリアドが中国で実施していた新型コロナ治験薬「レムデシビル」の無作為抽出による初期臨床試験で、症状の改善も血液中の病原体減少も示されなかったと報じた。WHOは、ギリアドの試験に関する報告書の草稿が誤ってウェブサイト上に掲載され、ミスが発覚した後すぐに削除したと説明した。その上で、報告書は査読の段階にあるとし、完了後に正式に公表する方針を示した」

     

    「レムデシビル」の製造元ギリアドは米企業である。うがった見方をすれば、WHO(世界保健機関)への拠出金を停止した米国政府への嫌がらせとも受け取れる。それほど、微妙な案件なのだ。単なるミスとは思えない。

     

    (4)「草稿が削除される前に医科学メディア「スタット(STAT)」が保存した画像によると、この試験には患者237人が参加し、158人にレムデシビルを、79人にはプラセボ(偽薬)を、それぞれ投与した。その結果、死亡率はレムデシビルを投与されたグループが13.9%、偽薬グループは12.8%と、大差は見られなかった」

     

    治験薬としては、患者の人数が少ない感じがする。これだけのデータで結論が出るのだろうか。

     

    (5)「ギリアドは声明で、WHOの草稿には不適切な解釈が含まれているとし、中国で実施された試験は被験者が少なく打ち切られたため、統計的に有意義な結果は導き出せないと反論。その上で「データのトレンドからは、早い段階で治療を受けた患者で特に効果がある可能性が示されている」と指摘した。詳細は明らかにしていない。みずほのアナリスト、サリム・サイード氏は「被験者がさほど多くない試験であり、信頼性の高い統計とは言えない」と指摘した」

     

    下線部は、弁解でなく正しい見解表明とみられる。しかも、治験地が中国である。打ち切られた理由は不明だが、米中の政治的対立も背景にあるだろう。日本の「アビガン」は、この「レムデシビル」と同傾向の早期治療薬である。中国は、アビガンについては高い評価を下し、中国国内で大量生産に入る意向を表明した。「レムデシビル」の治験継続の必要性を感じなくなったとも見えるのだ。


    (6)「レイモンド・ジェームズのアナリスト、スティーブン・シードハウス氏は、この中国の試験を受け、レムデシビルは重症患者には効かない可能性が高いという見方が広がるだろうと述べた。医療関係者はこれまでに、レムデシビルのような抗ウイルス薬はウイルスが血液中で増殖するのを抑える仕組みであるため、発症早期に投与した方が効果は高いのでないかとの見方を示している

     

    下線部分は、正しい見解である。「アビガン」は、軽症者の7割が7日間で回復したと中国が発表している。「レムデシビル」も同様の効果があると指摘されている。

     

    アビガンとレムデシビルは、どちらが早く治験成果が発表されるか。株式市場では、これによって世界の採用順位が決まると判断してきた。レムデシビルが、WHOによる思わぬミスで足元を掬われたとすれば、アビガンが有利な立場になろう。


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