米国の中国融和派は、今回のパンデミックにより、完全な沈黙を余儀なくされている。中国の傍若無人の振る舞いが目立ち、米国へ公然と牙を向けているからだ。中国国営メディアが、米国への医薬品輸出を止めろと主張し始めている。この血も涙もない報道によって、もはや米中の「平和共存」という最後の希望が打ち砕かれたとの指摘が出ているのである。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月1日付)は、「米国と同盟国は対中国依存の再考を」と題する寄稿を掲載した。筆者は、ポーラ・J・ドブリアンスキー氏。ハーバード大学ベルファー・センターのシニアフェロー。2001~09年に国際問題担当の米国務次官を務めた。
(1)「解決に向かっていると思われていた諸問題についての再検討が、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)によって始まっている。そのうち1つは、現実的なコスト面の評価から中国を重要物資のサプライチェーンのハブにしたのが賢い選択だったかどうかだ。また、中国を世界経済の中に取り込むことが、同国の姿勢の穏健化につながるとの考え方も再考の対象だ。残念ながら中国は穏健化しなかった。中国政府は、貿易相手国に圧力をかける信頼できないサプライヤーの姿を示した」
ここでは、2点について再検討を呼びかけている。
① 中国を重要物資のサプライチェーンのハブにするデメリットの認識。
② 中国を世界経済に取り込むことが、中国穏健化に貢献しないという認識。
これまでは、中国を世界経済のメンバーにすることが、グローバル経済の効率性につながり、世界平和に貢献すると信じられて来た。その信念が今、パンデミックによって揺らいでいるのだ。
(2)「米供給管理協会(ISM)の春季調査では、米国企業の約4分の3が、中国国内のサプライチェーンが途絶したと回答した。日本とオーストラリアの経済は、中国が実施した湖北省のロックダウン(都市封鎖)などの供給制限措置で深刻な打撃を受けた。中国国営の新華社通信は、パンデミック渦中で中国の行動責任を問おうとする米国に対し、報復手段として医療分野のサプライチェーンの支配力を利用する構えを見せた」
パンデミックの最終責任は、中国にある。WHOを抱き込み、情報開示を遅らせて罪は重い。
(3)「見直しは遅すぎたぐらいだ。日本の安倍晋三首相は、新型コロナの緊急経済対策に日本企業が生産拠点を中国から東南アジアに移転するのを支援する費用として約2400億円を盛り込んだ。米ホワイトハウスのラリー・クドロー国家経済会議(NEC)委員長は、米国企業が中国から拠点を移す費用を政府が支払う可能性があることを示唆している。韓国は、いくつかの重要な工場の中国からインドへの移転を計画しているようだ」
中国が、異質の政治体制にあることが、いつでも世界への扉を閉じる危険性を秘めている。世界覇権を狙う中国が、サプライチェーンのハブであることはどれだけ危険なことか。それを自由主義諸国に教えたのだ。
(4)「米政府とアジアの同盟国は、新しい供給網を設け、貿易関係を再構築し、対中依存度の低い国際的な経済秩序を作り始めるべきだ。多国間の「有志連合」的なアプローチにより、貿易関係は政治および安全保障の関係と一層合致したものになろう。それはまた、インドや東南アジア諸国がより迅速に発展し、より強力な米国のパートナーになるのを後押しするだろう」
米国の同盟国は、有志連合をつくって「貿易関係は、政治および安全保障の関係と合致させる」メリットを享受すべきであるとしている。これは、TPP(環太平洋経済連携協定)によって代替可能である。すでに、こういう多国間貿易協定ができあがっている以上、米国がここへ復帰すれば良いのである。
(5)「4カ国戦略対話(QSD)は、最適な舞台の1つだ。これは安倍首相が2007年に地域の安全保障問題を話し合うために提唱したもので、日本、インド、オーストラリアと米国がメンバーとなっている。トランプ政権は2017年、自由で開かれたインド太平洋戦略に着手した。それは米国とインドの関係を支援することで、地域で支配を確立しようとする中国の動きを相殺することを意図した戦略だ。これは一層、QSDの重要性を高める。マイク・ポンペオ米国務長官は昨年9月に初のQSD閣僚級会合を開いた」
4カ国戦略対話(QSD)とは、日米豪印の4ヶ国である。このうち、米と印がTPP未加盟国である。TPPは本来、米国を含めた12ヶ国で構成されていた。トランプ氏が、このTPPから脱却したものだ。米国がその気になれば、いつでも復帰可能な状況になっている。TPPも、もともと中国封じのシステムなのである。
(6)「QSDは、経済安全保障にテーマを広げるべきだ。また韓国、台湾、ベトナムといった友好国を招き「QSDプラス」という形にしてもいいだろう。ベトナムは特に勧誘する意義が大きい。過去数年間で、米越関係は劇的に改善した。ベトナム政府は、中国の侵略的な行動への懸念を米国と共有しており、世界的なサプライチェーン運営と製造で主導的立場を目指している。 「QSDプラス」は、経済、政治、安全保障面での不可避の課題について均衡の取れた政策を追求すべきだ」
「QSDプラス」とは、TPPのことである。インドが、国内保護政策を撤廃すれば、TPPに加入できる。
(7)「すべてのサプライチェーンを米国に戻したり、すべての貿易秩序を見直したりするより、最重要な産業に焦点を当てることが望ましい。肝要なのは、経済面の懸念と安全保障面の目標をうまく組み合わせ、知的財産権を保護し、公衆衛生用品の安定した供給を確保することだ。これにより米国は、パンデミックが起きても、中国政府に左右されるのを避けることができる」
このパラグラフで指摘している点は、TPPによって全て代替可能である。屋上屋を重ねることなく、TPPの加盟国を増やせば、広範囲な国々で「脱中国」が実現し、「安保・貿易・防疫」の3点で効果を上げられるはずである。




