勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2020年09月

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    文政権による強引な原発休止根拠は、今も二転三転している。原発休止を決めた当時の最高責任者である産業通商資源部(日本の経産省)長官が、最初の陳述を撤回するという奇々怪々な動きを見せている。これで、原発休止の根拠は政治的談合であったことが明らかになってきた。政権支持団体である市民団体が、多額の政府補助金で太陽光発電を支援させるという圧力をかけたことを臭わせているのだ。

     

    『朝鮮日報』(9月30日付)は、「『自分の言葉はうそ』という脱原発の昼ドラ的展開」と題する社説を掲載した。

     

    韓国産業通商資源部の白雲揆(ペク・ウンギュ)元長官が、監査院の月城原子力発電所1号機の閉鎖妥当性監査で自ら陳述し、押印までした陳述書について、今になって「陳述の効力はない」と否定した。

     

    (1)「韓国水力原子力(韓水原)の月城原発1号機早期閉鎖の妥当性に関し、監査院監査の最終段階で現政権による脱原発の中心人物が、自分の陳述を自ら否定するという異例の事態が起きている。監査院の最高意思決定機関である監査委員会は最近、白元長官をはじめ、重要監査対象者を数人呼び、職権による審理を行った。その席上、白元長官をはじめ一部関係者は「自分が陳述したことは事実ではない」と集団で過去の陳述を覆したという」

     

    月城原発1号機早期閉鎖の妥当性について、当時の最高責任者が陳述したことを否定するという驚くべき文政権の無責任体制が浮き彫りになっている。そうなると、月城原発1号機早期閉鎖は間違った政策決定であったことを物語る。

     

    この結果、韓国の大学原子力学科で学んでいた学生の就職を奪うなどの責任をどう取るのかが問われる。ソウル大・漢陽(ハンヤン)大・慶煕(キョンヒ)大・釜山(プサン)大・中央(チュンアン)大・慶星(キョンソン)大など14大学の原子力関連専攻学生は現在、2500人余りが在籍する。文政権の無思慮な原発休止が、多くの若者の将来を奪った形である。

     

    (2)「監査院は監査対象者から陳述には誤りがないという確認書を受け取る。彼らは確認書に自筆で署名した人物だ。ところが、今になって「自分の陳述には効力がない」「圧力によるものだった」と180度主張を変えた。突然、そして一斉に陳述を覆したというのは、裏からの介入があったことを示している」

     

    この事実は、政権側が最初から原発休止意図を持っており、その理由付で適当な理由をつけたことを物語る。市民団体が、自らの利益を求めて原発廃止運動を始め、太陽光発電で補助金に預かろうという、極めてさもしい考えが原点であった。ここで、最大限に利用したのが福島原発事故である。被害を過剰に取り上げて、韓国国民を洗脳したのだ。用意周到であった。

     


    (3)「月城原発1号機の早期閉鎖が経済性分析の歪曲(わいきょく)で決定されたという点は誰も否定できないほど明らかになっている状況だ。当初は安全性の問題で閉鎖すると言っていたが、稼働後も問題がないことが判明すると、経済性が問題だと言いだした。経済性がないことにするため、原発の稼働率と原発による売電単価を引き下げたが、それでも経済性があることが判明した。すると、今度は「早期閉鎖は経済性だけでなく、安全性、住民の受け入れ度まで判断し、総合的に決定したものだ」と言葉を変えた。うそが際限なく続いている。このため、韓水原理事会は法的責任に備え、理事に保険に加入させ、国会には重要な数字を全て黒塗りにした経済性評価報告書を提出した。結局は全ての事実が監査院によって明らかにされる状況となった」

     

    原発は、国家のエネルギー政策の根幹である。それが、市民団体の欲望に引きずられ、国家100年の計を誤らせるという、とんでもないことを引き起している。私は、韓国行政の根本が近代官僚制でないことを指摘し続けている。家産官僚制という専制国家特有の恣意的組織である。だから、官僚機構としてあり得ないことを始めるのだ。それを指示した大統領府の責任は極めて重いのである。韓国は、未だに近代国家まで成長していないのだ。

     


    (4)「政権はいつもの方法で対応した。監査結果の発表を阻み、監査院長に対する政治的攻撃を始めた。元産業通商資源部長官らが陳述を覆したのはそれと密接に関連があるはずだ。国政ででっち上げと隠ぺいがあまりに横行している。選挙で勝てると信じる政権のなりふり構わぬ行為が後を絶たない」

     

    文政権は、腐りきっている。政策の原点は、文政権支持派の利益になることを優先していることだ。最低賃金の大幅引き引上げは、労組の要求に答えたもの。反日慰安婦運動は、市民団体の募金稼ぎを助けた。原発休止は、太陽光発電を推進する市民団体へ多額の補助金を流している。韓国は、こういう歪なことの連続である。国家経済が持つはずがない。


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    中国外交は、行き詰まっている。「戦狼外交」で大口を叩き相手国を威圧する外交術が、欧州で総スカンを食っているからだ。頼みの東欧16ヶ国も、「金の切れ目は縁の切れ目」となっている。湯水のように、「チャイナ・マネー」を使えず、これまでの経済支援の約束は、空手形になってきた。

     

    こうして有力国の中で、中国の味方になろうという国は一つもない状況だ。そこで目をつけたのが韓国である。中国の味方にならないまでも、「敵側」に付かないで欲しいと追い詰められている。近々、中国の王毅外相が訪韓するという。

     

    『中央日報』(9月29日付)は、「『四面楚歌』の中国外交…『習近平訪問』カードで韓国が突破口になるか」と題する記事を掲載した。

     

    中国外交が四方をすべて敵に包囲された「四面楚歌」状態に陥っているのではないかという話が北京外交界に出回っている。米国は世界各地で「中国共産党反対」という「火」をつけて回っている。だが、中国は現在、この火を消す「消防外交」に汲々としている状態だという。中国の王毅国務委員兼外交部長の10月の訪韓推進もこの消防外交の一環とみることができる。10月初め、先に訪韓する米国のマイク・ポンペオ国務長官が「反中戦線」への参加という火をつけていくとしたら、王毅国務委員が直ちに消火器を持って現れるということだ。



    (1)「『中国叩き』に集中している世界最強米国との関係は新冷戦状態で、破綻の一歩手前だ。人口大国インドとは6月から死傷者が発生するなど武力衝突状況に近い。中国が注力していた欧州および日本も背を向けている。シャルル・ミシェルEU(欧州連合)常任議長は9月25日、国連総会の一般基調演説で「欧州は中国と価値を共有していない」と話した後、香港での国家保安法通過と新疆ウイグル族に対する中国の人権侵害問題を取り上げて中国を圧迫した。一時期薫風が吹いていた日本との関係は、4月の習近平国家主席の訪日が取り止めになってから逆風が吹くようになった。日中間の領有権紛争の火種となっている尖閣(中国名・釣魚島)諸島海域での緊張が高まっている」

     

    米中対立の中で、EUはこれまで中立だったが、香港問題をきっかっけにして「反中」の立場を明らかにした。習氏の短慮が、EUをあえて敵に回したのだ。日本との関係も尖閣諸島周辺海域を侵犯するケースが続出して微妙な状態だ。なんら意味のない愚かなことをやったものである。

     

    (2)「習主席が最も大切にしていたロシアとの関係が微妙になっているのも注目するべき部分だ。両国は表面的には友情を誇示しているが、今年6月中印衝突以降、ロシアがインドに戦闘機の販売を拡大して中国の反発を買っている。中国インターネット空間には「敵と戦っているが友が敵に刃物を渡せばどうなるのか」というコメントが投稿された。ロシアを批判したのだ。特にロシアが最新の地対空ミサイルシステム「S-400」の販売を中国には先送りしてインドには急ごうとしているため中国の怒りを買っている」

     

    中露関係も微妙になっている。ロシアが、中国を後回しにして優先的にインドへ戦闘機を売却しているためだ。インドの武器ではロシア製のシェアが高い。ロシアの「ソロバン高さ」が目立つのだ。

     

    (3)「米国は反中国経済同盟である経済繁栄ネットワーク(EPN)も推進中だ。すると中国も10月中に王国務委員を韓国と日本に派遣すると発表した。米国の封鎖に立ち向かう対抗外交を行おうというものだ。このような中国の消防外交の背景には、第三国の歩みが米中対決において非常に重要だとみる中国の認識が根底に流れている。中国の高位級外交官出身で清華大学戦略安保研究センターの傅瑩主任は、「中米対決でどちらが欧州やロシア、日本、ASEANなど第三国の支持を得るかが重要だ」と話した。これらの支持の有無が米中の次の行動に影響を及ぼすという理由からだ。最近の様相は、米国が先に世界各国に「米国側に立って中国を反対せよ」と唱えて攻勢的な外交を繰り広げているとすると、中国は「中国を支持はしなくても、少なくとも米国側には立つな」という守勢的な外交に汲々としている」

    外交で四面楚歌の中国は、守勢外交へ回っている。米国の「反中キャンペーン」が強烈で、効果を上げているからだ。中国の価値観が人権蹂躙では、先進国が味方になるはずがない。

     

    (4)「米国が世界的な反中戦線を構築している中で、中国は韓国を米国の封鎖を突き抜ける重要な突破口とみている側面がある。8月に楊政治局委員を派遣したのに続き、2カ月おいてまた王外交部長を送り込もうとしているのはそのためだ。9月26日、中国メディア「環球時報」は、「われわれはクアッド加入の招待を受けなかった」という韓国の康京和(カン・ギョンファ)外交部長官の言葉をいち早く報じた。このような内容を伝えながら同メディアは「韓国が中国をけん制するクアッドに加入する意向がない」を記事の見出しに選んだ。韓国が米国に同調して中国をけん制しないでほしいという希望がにじんでいた」

     

    中国外交は感情的である。「戦狼外交」はその典型だ。理性的でなければ、他国の支持を得られるはずがない。そういう「理性外交」は中国に不向きである。韓国を突破口にして、天安門事件後の閉塞を突破できたのは、過去との因縁浅からぬ韓国との修交が実った結果である。今回も、韓国を足場にして生き残り策を狙っている。

     

    (5)「中国は1989年天安門事件以降、米国主導の国際制裁から抜け出すために近隣諸国との大々的な修交作戦に入ったことがある。92年韓中修交もそのような脈絡で実現した。中国は今回も米国の同盟である韓国をアキレス腱とみて、韓国に対する大々的な外交攻勢をしかける可能性がある。まだ実現していない習近平主席の訪韓カードがその一つだ。9月24日、香港紙『明報』は、習主席が今年訪問できる外国の一つとして韓国を有力視した。『明報』は習主席が訪問するためには、中国との関係が密接でコロナ状況が安定しており、習主席の訪問に意味を付与しなければならないが、このような3つの条件をすべて満たす国は韓国だと説明した」

    中国は、習近平氏の訪韓を餌にして韓国を「敵に回らせない」戦術を練っている。だが、韓国世論では、「中国が好き」という比率は数%に過ぎない。8割は「米国が好き」である。世論対策で習氏の訪韓が実現しても、文政権の支持率を引上げる効果は小さいだろう。


    テイカカズラ
       

    韓国民間人が、漂流中に北朝鮮軍によって射殺された。文大統領は、この件について金正恩国務委員長が「謝罪」したことで、「不問」に付す姿勢である。過去にも、北朝鮮で韓国人観光客が海岸で射殺される事件が起きている。当時の保守派政権は強い抗議をした。今回は、正恩氏が即刻罪したことで、文氏は「格別の意味を持つ」と、意図不明の発言だ。事を荒立てることなく、南北交流の話合いをしたいという政治意図が見え見えである。人命よりも、自己の支持率上昇優先という姿勢だ。

     

    国連のグテレス事務総長は、今回の事件について透明な調査を促したと、『ボイス・オブ・アメリカ』(VOA)放送が9月26日報じた。国連としては、当然のことだ。韓国政府は、この事件を深追いしたくない姿勢がありあり見える。正恩氏の謝罪で「すべてOK」という「お咎めなし」の態度である。

     

    『東亜日報』(9月29日付)は、「文大統領『金正恩氏の謝罪は格別の意味』」と題する記事を掲載した。


    文在寅(ムン・ジェイン)大統領が28日、海洋水産部所属の漁業指導員イさん(47)が殺害された事件について、「北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が韓国国民に非常に申し訳ないと謝罪の意を伝えてきたことを格別の意味として受け止めている」とし、「南北関係を進展させる契機に反転することを期待する」と述べた。また、「理由の如何を問わず国民の身体と安全を守らなければならない政府として非常に申し訳ない思いだ」とし、今回の事件で初めて謝罪した」

     


    (1)「大統領は同日、大統領府首席・補佐官会議で金正恩氏の謝罪について、「北朝鮮の最高指導者として直ちに謝罪したのは史上初めてで、極めて異例だ」とし、このように話した。文大統領が今回の事件について発言したのは、22日の殺害事件発生後初めて。文大統領は、「金正恩氏も今回の事件を深刻かつ重く考えており、南北関係が破綻に行かないことを望んでいることを確認することができた」とし、「今回の事件を解決していくことから対話の灯を消さず、協力の突破口を開いていくことを願う」と述べた。

     

    文大統領は、正恩氏の通知文で大喜びしている。だが、南北の事務当局が一堂に会して、手続きなどを了解しない限り、喜ぶのは早い。そういう手続きを無視した、一方的な謝罪は再発防止にならないだろう。

     

    (2)「また、「北朝鮮当局は韓国政府が責任ある回答と措置を求めた翌日(25日)に通知文を送り、迅速に謝罪し、再発防止を約束した」とし、「南北関係を修復できない状況に進むことを望まないという北朝鮮の明確な意思表明と評価する」とも述べた。また、「少なくとも軍事ホットラインだけは優先的に復旧して再稼働することを北朝鮮側に要請する」と述べた」


    謝罪だけで済む問題ではない。人間の生命が消えたのである。「人権大統領」としては、徹底的に調査し予防措置で南北が合意すべきはずだ。それを、すべて省略してしまった。



    (3)「しかし、北朝鮮が前日、韓国軍の正常な捜索作戦をめぐって、「思わしくない事件を予告させる」と警告した状況で、北朝鮮の蛮行に対する糾弾よりも金正恩氏の謝罪を「格別の意味」、「非常に異例」、「考えを確認することができる」などの表現を使って評価することは適切なのかという指摘が出ている。また、文大統領が「悲劇が繰り返される対立の歴史はもう終わらせなければならない」と述べたことをめぐって、23日、国連総会テレビ演説で提案した終戦宣言推進の意思を再確認したのではないかという観測も流れている」

     

    文大統領は下線のように、今回の悲劇を「朝鮮戦争終結宣言」に利用しようという魂胆を疑われている。終結宣言は、北朝鮮が核を放棄しない段階で行えば、どういう結果になるか。韓国と在韓米軍が極めて不利な事態に置かれることだ。そういう戦略的な配慮はゼロで、思いつきを実行しようとしている。米国の文大統領への評価は、このように極めて厳しいものがある。




    ムシトリナデシコ
       

    中国を取り巻く国際環境は、確実に変わってきた。これまで台湾を巡る問題では、中国の発言権が大きく事態を左右してきた。台湾は、WHO(世界保健機関)へのオブザーバー出席も認められず、蚊帳の外に置かれている。だが、ここへ来て空気が変わってきた。台湾の地位を正当に認めようという動きが強まっているのだ。その動きを後押ししているのがEU(欧州連合)である。

     

    中国の睨みが効かなくなってきたのは、中国による香港への「国家安全維持法」適用である。中国は、「一国二制度」を破棄して香港の人権蹂躙が明らかになるとともに、EUは中国を批判して台湾への肩入れを公然とするようになった。この動きは、もはや止まらない明確なものになっている。中国は、香港問題で大きなミソをつけたのだ。

     

    『大紀元』(9月29日付)は、「国際大会で台湾当局が国名を『中国』から『中華台北』に修正、EUが支援」と題する記事を掲載した。

     

    台湾当局は9月28日、欧州連合(EU)の協力を受け、地球温暖化対策を進める世界の自治体が参加する「世界気候エネルギー首長誓約」の公式サイトで台湾の6都市の国名が「中国」と表記されていたのを、「中華台北(チャイニーズ・タイペイ)」に修正されたと表明した。

     


    (1)「今回、表記修正された台湾の6都市(高雄市、台北市、新台北市、高源市、台南市、台中市)の市長らおよび台湾外交部は同連盟に対し、修正を求めて抗議し、「返答がない場合、連盟からの脱退を排除できない」とする中英文の共同抗議声明を発表していた。これに対し、中国外務省の報道官は28日、記者団に対し「台湾は中国の不可分な領土である」とし、「台湾の都市は当然、中国の都市として記載すべきだ」と回答していた。中国からの圧力が高まっている国際的な環境の中で、台湾はEUの助けを借りて、勝利を収めた。台湾の呉釗燮外相は同日、この問題でEUから支援があったと述べ、各方面の努力によって、9月27日夜に表記が訂正されたと説明した」

     

    従来であれば、EUと言えど中国の鼻息を覗う立場にあった。中国との貿易関係を考慮して、EU独自の主張をすることはなかった。現在は一変している。中国経済の将来を「大したことはない」と見くびり始めたのだ。その先頭に立つのは米国だ。徹底的な「中国潰」に取りかかっており、中国の技術的脆弱性を叩いている。これまでEUは、中国の虚像に騙されて恐れていたのだ。中国は、自らの弱点を握られ四苦八苦する「発展途上国」並みの地位に追い込まれている。

     

    (2)「台湾政府は、EUをはじめとする関連機関へ、感謝の意を表し、「今後も各国政府とともに気候変動と戦い、世界の持続可能な開発を推進するために協力していく」ことを表明した。現在、EUの加盟国は台湾と正式な外交関係を確立している国はない。これまで、EUは中国を怒らせないために、台湾の問題については常に控えめな姿勢を続けてきた。米台の関係が接近するにつれ、EUをはじめとする他の欧米諸国もそれに追随しているようだ。 アレックス・アザー米厚生長官とキース・クラック国務次官が8月と9月に相次ぎ台湾を訪問し、台湾を孤立させようとする中国の企みに対抗するトランプ政権の意思を反映している」

     

    米国は、「台湾旅行法」によって米台高官の相互訪問が自由になっている。米国政府高官が、相次いで台湾を訪問して「一つの中国」に風穴を開けた。中国が、何らの報復措置もしないことから、EUはこの壁が「鉄」から「カーテン」程度の実態を伴わない形式的なものと認識し始めている。中国の「一国二制度」破棄は、とんだ副作用を生んだのだ。

     

    (3)「ドイツ政府で欧米関係のコーディネーターを務めるピーター・バイエル氏は、11月の米国大統領選挙の結果にかかわらず、EUと米国は「中国との新冷戦」に立ち向かい、一致団結しなければならないとする決意を表明したことを、AFP通信が報じた。バイエル氏は、中国共産党政権は「独裁、報道の自由と人権の欠如、デジタル監視、ウイグル人や香港人への弾圧、環境への攻撃」と批判し、米中間の「新冷戦」はすでに始まっており、今世紀の初めには形になるだろうとの考えを示した」

     

    ドイツ政府の関係者は、EUと米国が「中国との新冷戦」に立ち向かい、一致団結しなければならないとする決意を表明した。これは、新事態である。中国共産党の「悪事」に共同で立ち向かうという宣言でもある。中国は、外交的に大きな間違いを引き起した。弱り目に祟り目で、これから中国の苦悩は本格化する。 

     

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    中国は、一時の年間経常黒字4000億ドル台に酔って、世界中に「中国マネー」をばらまいてきた。それも今になってはあだ花であり、約束が空手形になって恨みを買うという「反中国」の原因になっている。その上に、今回の新型コロナウイルスのパンデミックである。中国離れの動きが決定的になっている。中国は今や、米欧日の3極を敵に回す結果となった。

     

    中国離れの典型例は東欧である。中国マネーに期待して「嫌いな共産主義」に封印し、経済関係を強化してきた。だが、中国の内政干渉が深まり、スパイの巣窟にされるという予期せぬ事態が生まれている。肝心の経済支援も約束だけに終わっている。こうして、東欧は一斉に「No」を言い始めている。金の切れ目は縁の切れ目だ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(9月29日付)は、「中国に幻滅した東欧、投資の『空手形』に不満」と題するエッセイを掲載した。筆者は、同紙のコメンテーター秋田浩之氏である。

     

    共産党が牛耳る中国は好きではない。それでも、ビジネスでは彼らは有望なパートナーだ。チェコやハンガリーを2年前に訪れた際、対中関係について外交官や識者にたずねると、こんな声が聞かれた。経済建設を急ぐ東欧は中国熱を帯びていた。しかし、今や期待はしぼみ、失望に変わろうとしている。

     


    (1)「すでにドイツやフランス、英国といった西欧では、対中観の冷え込みが明らかだ。南シナ海やサイバースパイ、香港の自治侵害、ウイグル族の弾圧……。これらが重なり、新型コロナウイルスの拡散も追い打ちをかける。9月14日の欧州連合(EU)と中国によるテレビ首脳会談では、議長国ドイツのメルケル首相らが人権問題で批判を浴びせた。習近平(シー・ジンピン)国家主席は「人権の先生は要らない」と怒り、極めて険悪だったという。そして中国に融和的だった東欧でも幻滅が広がり、経済で結ばれてきた欧州と中国の蜜月は事実上、終わりを告げようとしている。世界は米欧日と中国による2極対立の色彩が濃くなるだろう」

     

    世界の普遍的価値観である「人権擁護」の流れに対して、中国は「人権蹂躙」である。波長が合うはずがない。この中国が、世界覇権を狙う。まさに世界の悪夢である。

     

    (2)「東欧で中国熱が高まったのは、もう8年前のことだ。この地域の16カ国は2012年、中国と「16プラス1」という経済協力の枠組みをつくり、ほぼ毎年、首脳会議を開いてきた。16カ国のうち11カ国はハンガリー、チェコといったEUメンバーだ。19年にギリシャも加わり「17プラス1」となった。これに対し、独仏は「中国によって東欧が囲い込まれ、EUが分断されてしまう」(独当局者)と危機感を募らせてきた。南シナ海問題でEUが中国非難の声明を出そうとした16年には、対中配慮からハンガリーなどが難色を示し、足並みが乱れる騒ぎもあった」

     

    中国は、EU攻略の手始めに東欧16ヶ国の囲い込みを始めた。これまでは、経済支援の手形をぶら下げて東欧各国の歓心を集めてきた。中国の狙いは、効果を上げたのだ。

     


    (3)「そんな東欧で一転、中国離れの波が広がっている。急先鋒(せんぽう)はチェコだ。ミロシュ・ビストルチル上院議長が8月末から台湾を訪れ、中国を激しく怒らせた。これに先立ち、首都プラハ市は北京市との姉妹提携を解消し、1月に台湾・台北市と結びなおした。次世代通信規格「5G」の安全対策をめぐっても、ポーランドやチェコ、ルーマニア、エストニアが昨年から今年にかけ、米国との協力に合意。中国通信大手、華為技術(ファーウェイ)を制限する姿勢をにじませる。さらにルーマニアでは今年6月、中国企業との原発建設計画が破棄された」

     

    すでに報じられたように8月、チェコは上院議長を団長に台湾へ99人もの大型使節団を送った。「一つの中国」から言えば、あり得ないことが起こったのである。中国外相は激怒して、「相当の代償を払わせる」と暴言。これが、独仏から猛反発を受ける結果となった。中国の地位は、確実に低下している。

     

    (4)「いったい何が起きているのか。内情を知る現地の外交専門家らにたずねると、第1の原因は経済協力への失望だ。中国は「一帯一路」構想をかかげ、巨大なインフラ整備の大風呂敷を広げた。だが、さほど進んでいない。プラハ国際関係研究所のルドルフ・フュルスト主任研究員は語る。「中国は12年以降、中欧、東欧で主にエネルギーと輸送インフラの投資プロジェクトを多数、手がけた。だが、バルカン諸国を除けば、ほとんどが完全には実現していない。このため、中国との経済協力への期待が薄れている」と指摘する」

     

    中国得意の「大風呂敷」が破綻しただけである。経済支援がなくて、大口だけをたたかれることに我慢できなくなったのだろう。中国の経常黒字が劇的に低下しており、海外支援の「原資」がなくなったのだ。中国の経常黒字は、すでに2025年以降に赤字転落予想となっていた。今回のコロナウイルスでその時期は早まる。もはや、海外支援の経済力は消えかかっているのだ。

     

     

    (5)「2000~19年、中国からEUに注がれた直接投資のうち、東欧向けは10分の1にも満たない。親中派を自認してきたゼマン・チェコ大統領ですら今年1月、ついに失望を表明した。2に中国との交流が深まるにつれ、内政干渉や安全保障への不安も高まっている。ポーランドでは昨年1月、ファーウェイのワルシャワ支店幹部がスパイ容疑で逮捕された。チェコでは情報機関が1911月、同国内で中国のスパイ網づくりが加速しており、ロシアと並ぶ深刻な脅威になっていると結論づけたという。チェコの国会議員は「中国国有企業からチェコ政府高官に、不透明な資金が流れたという疑惑もある」と憤る」

     

    中国は、どこでもスパイ網をつくり挙げる。チェコが、その舞台になっていた。ファーウェイが密接に協力している。衰え行く経済力の中国は、これまで多くの手形を切ってきた。すべて「空手形」となって、今後は中国の信用毀損となってはね返るであろう。

     

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