勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2020年09月

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    習政権は、不動産バブルを利用しながら高目の経済成長を続けてきた。その手品も、ついに終末期を迎える。本欄は、一貫して不動産バブルの危険性を指摘し続けてきた。中国恒大集団は、中国を代表する不動産企業集団である。この著名企業にデフォルトの危機が迫っている。

     

    『ブルームバーグ』(9月25日付)は、「中国恒大、デフォルトの可能性を当局に警告-金融システム脅かす恐れ」と題する記事を掲載した。

     

    中国恒大集団がデフォルト(債務不履行)の可能性について中国当局に警告した。同社が求める深圳上場を当局が認めなければ、中国の50兆ドル(約5274兆円)規模の金融システムが動揺する恐れがあるとしている。

     

    (1)「中国恒大は広東省政府に宛てた8月24日付書簡で、資金不足を回避し、上場を確実にするために必要な再編案への支持を求めた。ブルームバーグがこの書簡を確認した。広東省に本社を置く中国恒大が深圳証券取引所に上場する認可を来年1月31日までに得られない場合、同社の大株主となっている戦略的投資家の一部は投資資金の返還を求める権利がある。投資家側が期限延長を拒めば、中国恒大は同社が持つ現金および現金等価物の92%に相当する最大1300億元(約2兆円)を支払う必要が生じる」

     


    中国恒大が、深圳証券取引所に上場する認可を来年1月31日までに得られない場合、同社の大株主となっている戦略的投資家の一部は投資資金の返還を求める権利があるという。具体的な内容が分らないが、投資家側は中国恒大の株式上場で資金を回収するのであろう。

     

    なぜ、来年1月31日までを上場期限としているのか。これは、戦略投資家との契約でそうなっているのだ。

     

    投資家側が、2月1日以降の上場を待てないとしている。遅延の場合は、最大1300億元(約2兆円)の現金支払いを求められるという。鍵は、来年1月31日が攻防日となっていることだ。株式上場か現金で約2兆円超を用意しろというもの。投資家側も資金返還を焦っているのだ。

     


    (2)「書簡では、こうした事態になれば、銀行や信託、ファンド、債券市場からの借り入れで「クロスデフォルト」を招く可能性があり、最終的には金融システムのシステミックリスクにつながり得ると中国恒大は警告している。中国恒大は資料で、同社の資産再編計画を巡るソーシャルメディア上の投稿は「でっち上げ」だと主張したが、詳細には言及しなかった。当局に支援を求めたかどうかについては触れずに、1~8月に事業売り上げが4000億元のキャッシュフローを生み出し、健全な運営を維持していると説明した」

     

    現金で約2兆円を払うとなると、銀行や信託、ファンド、債券市場からの借り入れで「クロスデフォルト」を招く可能性がある、としている。突然、市場から約2兆円が吸い上げられれば、その煽りを食ってデフォルトが発生しかねない。こうして、最終的には金融システムのシステミックリスクにつながり得るという。中国がデフォルトの波に飲み込まれるという意味である。なにやらきな臭いことになってきた。

     


    『大紀元』(9月27日付)は、
    「『中国恒大集団』負債が約12.9兆円とデフォルト示唆、地方政府に支援要請」と題する記事を掲載した。前記記事の不明部分は、次の記事を手がかりにして理解したい。

     

    (3)「書簡は8月24日に送られた。恒大集団はこの書簡の中で、同社の有利子負債残高は2020年6月30日時点で8355億元(約12兆9183億円)で、銀行系金融機関128社がかかわっており、借入残高は2323億元(約3兆5918億円)とした。同社は2021年1月31日までに、1300億元(約2兆100億円)の元金を(事業提携を前提とする)戦略投資家に償還し、137億元(約2118億円)の配当金を支払う必要がある。この1300億元が負債となれば、資産負債比率は90%以上に急上昇し、恒大集団は深刻な資金難に陥る可能性がある」

    前記のブルームバーグ記事で要領を得なかった部分が、この記事でかなり明らかにある。下線部が重要で、来年1月31日までに戦略投資家に1300億元の資金返済と、ほかに137億元の配当金を支払う。そこで、株式を1月31日までに深圳市場へ上場できれば上場値上り分で支払い可能であるという。上場できなければ、金融機関借入で調達するので、金融市場が混乱するほか、恒大集団にとっては資産負債比率が90%以上になって、資金難に陥るということだ。これを避けるには現在、香港市場に上場しているが、新たに深圳市場で恒大集団の株式上場を認めてくれという切羽詰まった話しだ。中国経済の縮図である。

     

     

     

     


     

     

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    5ヶ月前の反日が友好論へ

    文氏は単細胞「日本は悪」

    金大中の複眼思考に学べ

    業績ゼロ希有の大統領に

     

    韓国は、菅首相就任への祝賀メッセージを送って、日本の反応を覗っていた。型どおりの日本側の返書に痺れを切らして、日韓首脳の電話協議を日本へ要請した。こうして、日韓首脳電話協議が9月24日、約20分間行われたのだ。

     

    焦点は、むろん旧徴用工賠償問題である。菅義偉首相は、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領に対して元徴用工問題が「非常に厳しい状況にある両国関係をこのまま放置してはいけない」と伝えた。文大統領は、「両国政府とすべての当事者が受け入れられる最適な解決方法をともに探したい」と提起したという。

     

    このやり取りについて、韓国与党は日本に脈ありと踏み、乗り気になっている。自民党が無反応であるのと比べて、韓国側は積極的に対応する姿勢を見せている。韓国与党「共に民主党」の金太年(キム・テニョン)院内代表は9月25日、「韓日関係の未来志向的発展のために韓日首脳会談を含むハイレベル対話交流の活性化を提案する」と表明した。金氏はこの日、与党の最高委員会議で「(韓日)両国は歴史問題を解決し、未来に進まなければならない宿命的課題がある。この問題を解くためにハイレベル対話と意思疎通が必要だ」と述べたほどだ。

     


    5ヶ月前の反日が友好論へ

    4月の総選挙で、韓国与党は、「韓日決戦」を謳い文句に反日感情を煽ったが、もはや日韓関係がそういう感情論で対処できない局面にあることを物語っている。韓国が、日本との関係を正常化しなければならない段階に追い詰められているのだ。それは、中国からの恫喝をかわすには、日韓関係を改善して「アドバイス」を貰えるような状況に改善させなければならないからだ。そういう必要性に迫られているに違いない。

     

    韓国の政権・与党が、挙げて対日融和戦略に取り組む姿は、おかしくもあるのだ。ついこの間まで、「反日」「克日」と賑やかだった韓国与党が、一転して「韓日関係の未来志向的発展の意志を確認した」という騒ぎだ。日本は、何も変わっていないが、韓国が「一人相撲」ではしゃいでいる格好である。

     

    先の日韓首脳の電話協議で、文大統領は「両国政府とすべての当事者が受け入れられる最適な解決方法をともに探したい」としている。具体的には、昨年末に文・前国会議長が中心になった「日韓両国の民間寄付金を中心とする『代位弁済』(第三者が債務者に代わって弁済)方式」が再浮上するのであろう。当時、文大統領がこの提案に消極的であったことが、与党をまとめ切れず、廃案に追い込んだもの。

     


    この裏には、日韓慰安婦合意の破棄でも「暗躍」した市民団体が、反対運動をリードしていたこともある。このリーダーの尹美香(ユン・ミヒャン)国会議員は、補助金横領の罪で在宅起訴されている。もはや、目立った反対運動はできない立場である。だが、他にも豪腕の反日市民団体はゴマンと存在する。

     

    文大統領は、旧徴用工賠償でも解決するチャンスをミスミス失い、先見の明がないことを証明した。現在のように追い込まれて、やむなく現実を追認せざるを得ない「無様さ」は、なぜ起こったのか。

     

    文氏は単細胞「日本は悪」

    それは、文氏が「原理主義者」であることだ。原理主義者とは、「単一の価値観だけを信奉し、他者の価値観を排撃する」という悪い意味に使われている。文氏の場合、学生時代に軍事政権をめぐる民主化闘争で、火焔瓶を投げていた当時の国際政治状況に縛られているのだ。1980年代の「親中朝・反日米」というスローが、今も文氏の頭を支配している結果、「日本は悪」という偏った見方から離れられずにいるのだろう。そのツケが、現在の泥沼の日韓関係をもたらしたのである。

     

    文氏の「原理主義者」を証明する材料は、先の国連総会での演説にも現れている。文在寅大統領は9月22日(現地時間)、国連総会の基調演説で、韓半島の平和の始まりは、平和に対するお互いの意志を確認できる「韓半島終戦宣言」だと語って、周囲を唖然とさせた。北朝鮮が、核放棄していない段階で「終戦宣言」したらどうなるか。北が勝利者になるのだ。こういう見え透いたことが分らない。これが、文在寅のすべてである。(つづく) 

     

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    韓国で進歩派を名乗るメディアほど、国際情勢の動きを読めず旧態依然の感覚に囚われている。朝鮮李朝末期と同じ轍を踏んでいるようだ。思い込みが激しく、そこから抜け出せない病に取り憑かれている結果だ。米中対立を経済のカルテル化と見ているためでもあろう。米中デカップリングは、米中がそれぞれ経済圏を分断してグローバル経済を回避して利益を上げるという「珍説」を信じているのだ。

     

    経済の効率性を考えれば、世界に壁をつくらずに自由に貿易をすることが最善である。現実は、それが安全保障面で危険であるという認識に変わりつつある。中国による世界秩序をひっくり返して、中国主導に塗り替えようという野望が明らかになってきたのである。米国と同盟国が、これを防ぐべく立ち上がったのが現在だ。経済のカルテル化という低レベルの認識ではない。安全保障に関わる重大事態である。

     


    『ハンギョレ新聞』(9月25日付)は、「『アジア版NATO』と安倍前首相の大きな影」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙のパク・ミンヒ論説委員である。

     

    4カ国の安保対話を意味する「Quad(クアッド)」は、2007年に当時の安倍晋三首相の主導で始まった。米国、日本、オーストラリア、インドが手を握り、中国に対応するための非公式安保フォーラムだ。安倍首相は「自由と繁栄の弧」という概念を掲げ、米日印豪の4カ国が中心となって中国を包囲しようという構図を描いた。

     

    (1)「2017年に就任したドナルド・トランプ米大統領と安倍首相が意気投合したことで、忘れられていたQuadはよみがえった。米中対立が激化したことで、最近この構想は、米日印豪4カ国が核となり、それ以外の国を下位パートナーとして引き入れて中国に対抗する多国間安保機構へと拡大しようという「Quadプラス」へと発展している。冷戦時代にNATO(北大西洋条約機構)がソ連に軍事的に対抗したことを連想させる「アジア版NATO」構想である」

     

    ここでは、NATOを米ソ冷戦時代の「遺物」扱いしているが、現在も立派に機能している。ロシアの軍事強国化に備えて加盟国は現在、30ヶ国に拡大されているのだ。共同防衛は、単独防衛に比べて少ない防衛費で強大な防衛力を保持できるメリットがある。アジアで中国の海洋進出に備えて「アジア版NATO」を結成しようという狙いもそこにある。

     

    ドイツの哲学者カントは、民主主義国家は同盟国として結束すれば、専制主義国家からの侵略に勝てる、と指摘している。共同防衛は、コスト・パフォーマンスから見てメリットが大きいのだ。

     

    (2)「米国は、ここに韓国が参加すべきとの信号を送り続けている。最近、スティーブン・ビーガン米国務副長官とマーク・エスパー国防長官が相次いで、インド太平洋地域にNATOのような多国間安保機構が必要だと述べ、Quad4カ国に加え、韓国、ニュージーランド、ベトナムなどに言及している。10月初めに訪韓するマイク・ポンペオ米国務長官も韓国に対して、中国牽制に積極的に賛同することを求めると見られる」

     

    米国は、NATO結成の原動力になった。アジア版NATOをつくろうとする動機も同じである。たまたま、安倍首相が中国の膨張主義に対して最初の警告者となり、トランプ大統領が賛同者になったということに過ぎない。「アジア版NATO」構想は、口幅ったいことで申し分けないが、本欄も早くから提唱してきた。将来、NATOとアジア版NATOが連携すれば、世界の安全保障は万全になる。こういう主張もしてきたのである。安全保障は、国家成立の基盤である。ここを抜きにした「国家観」は成り立たないはずだ。

     

    (3)「Quadには日本のアジア戦略が込められている。日本の右翼勢力は、日米同盟を強化しつつ韓国や台湾などを下位パートナーとして引き入れ、平和憲法の修正、自衛隊の軍備強化と活動範囲の拡大などを通じて軍事力を強化しようとしている。これには、中国を抑えて日本がアジアの主導権を握るという意図とともに、米国がアジアから撤退する時に備えなければとの不安も作用している。安倍前首相は、南北和解を推進する韓国の朝鮮半島平和プロセスをQuad戦略の障害と考えて執拗に妨害し、退任後も「アジア版NATO」のかたちで韓国外交に大きな影を落としている」

     

    このパラグラフは、ジャーナリストの筆になると思えないほど稚拙である。日本が、Quad4ヶ国を利用してアジアの主導権を握る構想など考えられないのだ。平和憲法の制約と国民感情が許すはずがない。戦前の「大東亜共栄圏」再現は、構想力の貧弱さを示している。豪州・印度も、それを唯々諾々として認めるはずがない。「大東亜共栄圏」の被害国であるからだ。

     

    米国は、中国の世界戦略を阻止すべく日本の「インド太平洋戦略」に乗ってきた。米中デカップリングを真剣に進めている中で将来、Quadから撤退するはずがない。現実に、NATOを率いている国であるからだ。こういう国際情勢の変化を織りこめば、韓国進歩派ジャーナリズムの限界を露呈している。

     


    (4)「韓国が米日の圧力に押されて「Quadプラス」に参加すれば、まず中国との経済関係に大きな打撃を受けるとともに、韓国は米日が主導する対中国戦略の下位パートナーとして従属し、朝鮮半島平和プロセスは破綻に至り、南北の対峙構造が固定化するだろう。東アジアは長いあいだ軍事的緊張の波の上で揺れ動くだろうが、米国が実際にアジアから撤退すれば、日本は中国と「大国間妥協」に乗り出すだろうし、韓国が損失を被ることになる懸念が大きい」

     

    米中対立の長期化は、南北統一にも水を差すに違いない。中国が、北朝鮮を手放すはずがないからだ。中国の同盟国は、パキスタンと北朝鮮だけである。こういう点を考えれば、南北問題は気の毒だが解決しないと見るほかない。

     

    38度線は、緊張をはらむと見られる。韓国が、「Quadプラス」に参加することは、NATO加盟国が30ヶ国にも拡大されたことと同じで、韓国の安全保障に寄与するはず。日本は、Quadの主唱国であるが、中国との貿易関係になんらの支障もない。中国は、技術格差の存在から貿易面で韓国を重視するはずだ。韓国は、こういう合理的な思考をしないで、思い込みで「中国恐怖論」を唱えているのである。

     


    (5)「米中「新冷戦」の結末を断言することはできないが、両大国の正面衝突や完全な決別ではなく、長期間の競争と対立となる可能性が高い。韓国外国語大学国際地域研究センターのパク・ホンソ教授は、著書『米中カルテル』の中で、米中の対立を資本主義の国際秩序の中での一種のカルテル関係と診断している

     

    このパラグラフに至っては、「大甘」と言うほかない。下線部分は、大きな誤りである。中国を資本主義国家と規定しているが、現実は専制主義国家=共産主義国家である。だから、中国は世界秩序の変革を企んでいる。中国が資本主義国家とすれば、南シナ海の9割を中国領海と主張したり、東シナ海の尖閣諸島の領海侵犯を繰返すはずがない。西側と同じ資本主義という価値観であれば、侵略行為を行うはずがないのだ。

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    中国外交を眺めて気付くことは、外交に「進化」がないことである。秦の始皇帝が、中国を初めて統一した手練手管は「合従連衡」であった。敵側の「合従」(同盟)を崩して、「連衡」(一対一の関係)に持込み、征服するという古典的手法である。この裏には当然、謀略が伴う。

     

    習近平外交も、始皇帝が編み出した「合従連衡」策を多用している。手始めに、韓国を米韓同盟から引き離すという策略を始めている。当の韓国では、それに十分に気付いていない向きもいるが、第三者から見れば「見え見え」である。この魔術に引っかかっているのは、今のところ韓国だけ。大半の国は、「危ない中国」に警戒観を強めて逃げ腰だ。

     

    習氏は、始皇帝が漢族だけに通用する「合従連衡」であった事実を見落としている。この「恫喝戦術」が、他民族へ用いられると反発される点に気付かないのだ。私が、中国外交に「進化」がないというのは、まさにこの点を指している。

     

    『日本経済新聞』(9月26日付)は、「『インド太平洋』中国が追い風に」と題する記事を掲載した。筆者は、米ランド研究所上級防衛アナリストのデレク・グロスマン氏である。

     

    米国のトランプ政権のインド太平洋戦略は、中国に威圧されない「自由で開かれた」地域を維持するという目標の達成に向け、追い風を受けているようにみえる。皮肉なことに追い風となっているのは中国の動きだ。

     

    (1)「中国は(同じ中華圏の)台湾のほか、東シナ海・南シナ海、インドとの国境紛争などを巡り領土的な野心を強めている。結果としてインド太平洋地域の内外で、中国の強引な姿勢は歓迎されないという、かつてないほどの合意が得られつつある。懸念を深める国々は、中国の脅威に対抗しようと、米国などとの安全保障関係を強化した。例えば戦略対話の枠組みを持つ日本と米国、オーストラリア、インドはどうだろうか。4カ国は、ルールに基づく国際秩序と行動規範を維持することの重要性を確認し、安保面での協力を強めているといえる」

     

    中国の恫喝に萎縮する国は、韓国ぐらいであろう。他国は、「何を言っているんだ」と反発して、逆に中国を封じ込めてやるぞ、という気持ちになる。この遅れてやってきた「帝国主義国家」中国が、思い通りに領土拡張ができるはずもあるまい。21世紀の現在、20世紀の領土拡張の夢に酔うのは時代錯誤である。

     

    (2)「オーストラリアは7月、中国を念頭に、新たな対艦ミサイルの導入などの防衛戦略を発表した。中国はインドとの国境について、閣僚級会談で双方が早期に撤退する方針を確認したが、(域内の別の問題での軟化姿勢も)後の祭りとなったかたちだ。日本は2020年版の防衛白書で「現状変更の試みを執拗に継続している」と中国を批判している」

     

    骨のある先進国は、中国の思い通りにさせない戦術として同盟を選ぶ。中国がもっとも嫌う「合従」である。これを防ぐのは、始皇帝を以てしても不可能である。

     

    (3)「南シナ海などを巡る中国の高圧的な行動を受け、東南アジア諸国連合(ASEAN)でも米国の評価が高まっている。ベトナムは、米国の安保上のパートナーとしての存在感を増しており、20年のASEAN議長国でもある。ベトナムは19年11月、(米国を想定した)他国と必要で適切な軍事協力を発展させる可能性を示唆した。フィリピンは6月、米国と距離を置いているようにみえたドゥテルテ大統領が通告した「訪問軍地位協定(VFA)」の破棄を、保留すると明らかにした。VFAは両国間の軍事同盟に実効性を持たせる重要な協定で、合同軍事演習などを可能にするものだ」

     

    ベトナムの歴史は、中国の武力支配をはね返してきた点だ。根っからの「中国嫌い」である。朝鮮は中国の支配に屈し、儒教まで国教にするという「おべんちゃら」に徹した。この両国の歴史的比較が、極めて興味深いのである。ベトナムは、日本を助けてTPP(環太平洋経済連携協定)復活に最大支援をした国だ。理由は、中国経済圏から逃れることにあった。このベトナムが、公然と中国に反旗を翻すと、中国は窮地に立つ。その先には、インドも反中の旗幟を鮮明にしているのだ。

     


    (4)「ASEAN以外の国・地域では、台湾があらゆる面で中国からの強まる一方の圧力に直面している。中国の動きが、米台関係の改善に大きく寄与したことになる。インド太平洋の域外でも、英国とフランスは、海軍の艦船を中国の近海に派遣した実績がある。欧米の国々は、中国による香港の自治侵害に懸念を示す」

     

    台湾は、米国との連携を一層、強化している。中国が軍事的に脅迫すればするほど、米国が武器売却を増やす契約内容になっている。南シナ海の監視所として、地政学的に重要な役割を果たす。

     

    (5)「もっとも、地域のすべての国が米国のインド太平洋戦略を支持しているわけではない。カンボジアやラオス、ミャンマーなどからの支持はあまり期待できないだろう。シンガポールのリー・シェンロン首相は7月、米中関係の安定がアジアの繁栄の礎になると、対立沈静化に期待を寄せた。また、米国を支持しているようにみえる多くの国々が、全面的に中国よりも米国を選ぶとは限らない。ASEANの大半の国は、米中どちらかと敵対するのを避けるため、逃げ道をつくっておく公算が大きい

     

    カンボジア、ラオス、ミャンマーは経済的に自立化が難しく、中国の支援を頼りにしている。下線のように、ASEANは、中国との直接対決を回避している。内心は、中国の横暴を許さない気持ちが強い。

     

    (6)「中国が、強引にもみえる影響力の拡大姿勢を変えなければ、関係国はいずれ、より積極的に米国を支持するようになるかもしれないということでもある。中国がインド太平洋地域で頼りにできるのは、北朝鮮やパキスタンのような国だけになってしまうだろう


    中国は、「戦狼外交」と呼ばれるように、威張り散らして相手国を支配する卑劣な手段を使っている。これでは、中国が好かれる国になるはずもない。中華帝国は、近隣諸国に号令を発したいという「幼稚」な国である。

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    米国中が、中国との産業競争に負けてはならぬと緊張感が漲っている。電気自動車(EV)もその一つだ。中国政府は大気汚染を改善する目的で、EV依存度を高める工夫をしている。EVへの補助金支給もその一つである。その結果、2019年のEV販売台数は、中国が120万台だったのに対し、米国は32万台にとどまった。そこで、「米国は中国に負けてはならぬ」と檄が飛んでいるもの。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(9月23日付)は、「米軍産ロビー団体『EV支援は対中安保問題』」と題する記事を掲載した。

     

    米国が早急に自前の電気自動車(EV)産業を育成しなければ、将来、自動車産業を中国に依存せざるを得なくなる――米軍と米企業の幹部で作る有力団体がこう警告した。中国は鉱物資源の採掘からバッテリー生産、車両本体の製造販売に至るまでEV供給網での優位を確立しつつあると、米国のエネルギー安全保障を推進するロビー団体「セキュアリング・アメリカズ・フューチャー・エナジー」(SAFE)は主張している。

     

    (1)「中国がEV市場を支配しようとする動きに今後5年以内に対抗できなければ「米自動車産業は衰退」し、同産業で働く数百万人が失業する恐れがあると、SAFEのエネルギー安全保障リーダーシップ会議のメンバーのデニス・ブレア元米国家情報長官は指摘した。「米国の市場占有率が下がり、中国企業やその子会社が製造するEVに比べて性能や魅力が劣る製品しか作れなくなり、雇用や産業のすそのの広がり、技術力まで失われる」とブレア氏は話した」

     

    この記事は誤解を招きやすい。中国でEVを生産している国産自動車企業は、政府の大量の補助金でようやく息をついている。補助金がなければ生きられないのだ。次の記事が、その実情を報じている。

     

    「補助金や民間資本の後押しを受けて、かつては破竹の勢いとみられていた中国新興EVメーカーを取り巻く環境は一変した。2019年初頭時点で635社に上ったEVメーカーの一部は、アップルがスマートフォンに変革をもたしたように、自動車業界に革命をもたらすと意気込んでいた。だが、その面影はもはやほとんど見られない。新興EVメーカーの多くはまだ1台も生産できておらず、事業を継続させるだけの販売台数に達しているところもほとんどない。これまでは補助金が販売の不足分を埋め合わせてきたが、補助金制度も年内で終了する予定で、民間投資家の間でも幻滅が広がっている」(『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月31日付)

     

    上記WSJによれば、中国は深刻な事態に追い込まれている。中国EVを羨ましがることはなさそうだ。ただ、リチウムイオン電池工場を相次いで建設させている。

     

    (2)「中国はEV開発で主導的地位を占める。米国はリチウムやグラファイト、レアアース(希土類)の採掘をはじめ、リチウムイオン電池や車体の製造でも中国の後じんを拝している。「中国は販売台数だけでなく、EV産業に関わる企業も多い。バッテリー生産を急いでいるほか、世界中でレアアースなどの原材料を確保したり優先権を得たりしている」とブレア氏は懸念を示した。「EV産業では他国の一歩先を行っている」。英調査会社ベンチマーク・ミネラル・インテリジェンスのサイモン・ムアーズ氏によると、中国のリチウムイオン電池生産の世界シェアは19年には72%に上った。米国はわずか9%だった。同氏は5月、中国が1週間に1カ所のペースでバッテリー工場を新設しているのに、米国は4カ月かかっていると指摘し、両国の差がさらに広がっていると警告した」

     

    中国のリチウムイオン電池工場は、外資系企業も関わっており、中国企業だけが行っているのではない。世界の自動車メーカーは、一斉に中国でEV生産に取り組んでおり、その技術ソースは海外企業が握っている。むしろ、中国自動車市場はEV実験場という意味がある。中国にはまだ、海外企業を脅かすほどの高い技術のある企業は存在しない。

     


    (3)「中国は自前のEV産業向けに巨大電池工場を多数建設したのみならず、そうした工場向けのサプライチェーン(供給網)も作り上げた」と同氏は語った。「中国はバッテリーの主要原材料の23%しか生産していないが、次の製造工程で必要となる化学物質の80%、正極の66%、負極の82%、電池の基幹部品であるセルの72%を製造している」

     

    外資系企業の中国進出の結果、表面的には中国生産が突出しているイメージである。2019年の中国EV販売が、外資系を含めて120万台であるのに対し、米国は32万台である。こういう実情から見て、前記記事のような高いシェアになるのは当然だろう。

     

    (4)「SAFEの警告は、米大統領選が数週間後に迫るなかで公表された。民主党候補のバイデン前副大統領は国内EV市場の拡大を支持しており、30年末までに50万カ所の充電施設の新設と税額控除の復活を公約に掲げている。一方、トランプ大統領は企業に大規模なEV生産に慎重になるよう求め、EVが1回の充電で走行できる距離の延長についても疑念を示している」

     

    トランプ氏がEV生産に慎重なのは、EVでは部品生産点数が大幅に減って、雇用問題を引き起すという懸念を抱えているからだ。世界が、完全な自動運転車EVへ移行し高齢社会の足になる時代が来れば、爆発的な販売台数が期待される。その過渡期のEVでは、雇用減という大きな問題にぶつかるのだ。 

     

     

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