勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2020年09月

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    中国政府による徹底したロックダウン(都市封鎖)が、一般庶民の消費に大きな後遺症を残している。収入が極端に減少した中での「食いつなぎ」が、人々の生活パターンを大きく変えてしまった。必要な物を最低限購入するという節約生活だ。一方、庶民の勤め先である中小企業も景況不安を抱えている。中国経済の回復力は、大きく削がれている。

     

    『ロイター』(9月26日付)は、「回復鈍い中国の消費、低所得層の『コロナ節約志向』顕著」と題する記事を掲載した。

     

    中国では新型コロナウイルスの感染がほぼ抑制されてから何カ月も経過し、消費者はゆっくりと財布のひもを緩め始めている。だが、ロックダウンのつらい日々を過ごした多くの低所得世帯は、なお精神的なショックが残り、節約志向をやめようとしていない。

     

    (1)「中国の今年第1・四半期は、1992年の四半期ベースによる統計開始以来、初のマイナス成長を記録した。その後の中国経済の回復ぶりは、他の多くの国よりもかなり先行しているとはいえ、まだ全面的に上向いているわけではない。特に消費の弱さは、習近平国家主席が推進する内需主導型の「双循環」モデル達成の足を引っ張る恐れもある」

     

    習近平氏は、中国経済立直しの柱として内需主導型を理想型に選んだが、個人消費の中で低所得層の購買活動が低調である。内需主導型経済は、不発に終わる危険性が高まっている。

     

    (2)「実際、製造業はロックダウンに伴う落ち込みから比較的素早く立ち直った半面、消費者信頼感の改善は緩やかなペースにとどまっている。小売売上高が前年比でプラスに戻ったのは8月になってから(0.5%増)で、1~8月の前年同期比は8.6%減とさえない。また、イタリアの高級ブランド・プラダのバッグなど一部ぜいたく品の支出は、「コロナ危機」を迅速に乗り切ったが、日々の生活に欠かせないモノやサービス消費の回復は鈍い。アナリストによると、これは低所得世帯が特に慎重な態度を維持していることが主な理由だ。1~8月の小売売上高の内訳を見ると、衣料品・靴は依然として15%減、ガソリンやその他石油製品は17.3%減で、食品・飲料は26%を超えるマイナスだった」

     

    一部贅沢品の購入は増えたが、一時的現象であろう。永続性を期待できないからだ。低所得層では、下線部のように1~8月の小売り売上高の内訳は、生活必需品が極端に買い控える傾向が強まっている。

     

    (3)「アリババ傘下の金融会社・アントの調査部門と中国の西南財経大学が共同で公表した四半期リポートでは、コロナ流行に対する低所得層の脆弱性が浮き彫りになった。年収10万元(1万4800ドル)未満の世帯のほとんどは、第1・四半期と第2・四半期に資産が減少した一方、年収30万元超の世帯は資産増加が続いたという。ガベカル・ドラゴノミクスのアナリスト、Wei He氏は「所得が比較的高い世帯は、恐らく貯蓄を増やした。なぜならロックダウン中は消費の縮小を強制されたからで、今は支出を拡大する態勢にある」と指摘。家計の正常化に「より長い道のり」をたどることになるのが低所得世帯だと説明した

     

    年収10万元(約150万円)未満の世帯では、上半期の資産を取り崩している。一方、年収30万元超(約450万円以上)では、ロックダウン中の消費がままならなかったことを背景に資産が増えている。こうした両極を見ると、中国の個人消費が増勢傾向を辿るにはかなりの時間を必要としている。

     


    (4)「京東商城(JDドット・コム)のデータからは、6月に中小の都市や低所得層の消費の伸びが、主要都市と高所得層に比べて弱かったことが分かった。同社のフィンテック部門JDディジッツのチーフエコノミストは、これは普段とは逆の動きだと指摘する。多くの低所得労働者を雇っている中小企業が、コロナの影響をより大きく受けたからではないかというのが同氏の見方だ。低所得層の苦境が中国の消費に及ぼす打撃は、相当大きくなる可能性がある。李克強首相は5月の演説で、月収が1000元(約1万5000円)程度しかない労働者は6億人前後存在すると明らかにしていた。6億人といえば全人口の4割を超える」

     

    低所得層の消費低迷は、中小企業がコロナ禍の影響を大きく受けている結果だ。中小企業は民営であり、政府支援は受けにくい層である。月収が1000元(約1万5000円)程度しかない労働者は、全土に6億人前後も存在する。すべて、中小企業勤務者か自営業であろう。コロナ禍で、経済的にもっとも苦しむ国の一つは中国である。

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    先の国連演説で、文大統領は「朝鮮戦争終結宣言」発言をして米国から強い批判を浴びた。北が核放棄しない前に、朝鮮戦争終結宣言とは非常識というものだ。文氏が、そこまで譲歩して北朝鮮を庇っているのに、韓国国民が北朝鮮軍から海上で射殺され、遺体を燃やされるという異常事件が起こった。

     

    文大統領の北朝鮮政策は、完全に方向を間違えているという批判が強い。前記の民間人射殺では、韓国軍が経緯を把握しながら、北朝鮮側に救助の依頼をしなかったのだ。北朝鮮の機嫌を損ねるという思惑があったのであろう。韓国は、自国民の生命保護よりも南北関係を優先させる、信じがたい「人権無視」を行った。この韓国が日本に対して、「人権意識」で慰安婦問題や徴用工問題を持ち出して非難し続けている。ダブルスタンダードである。

     

    『中央日報』(9月25日付)は、「民間人を殺害した北朝鮮の蛮行を糾弾する」と題する社説を掲載した。

     

    北朝鮮が21日、延坪島(ヨンピョンド)沖で長時間漂流して力尽きていた大韓民国海洋水産部の公務員イさんに銃撃を加えて殺害し、遺体に油をかけて毀損した。「天人共怒」の蛮行だ。北朝鮮は最近、コロナ防疫を理由に「国境地帯1キロ以内に接近する外部の者は射殺する」という、文明国家では想像もできない反倫理的な守則を決めたという。しかしいかなる名分であれ、非武装の民間人を射殺して遺体を燃やした行為は許されない。戦時にも民間人の射殺を禁止するジュネーブ条約を正面から違反した国際的な重犯罪だ。またイさんが射殺された場所は9・19南北軍事合意書で一切の敵対行為を禁止した緩衝海域だ。北朝鮮は南北軍事合意も破ったのだ。



    (1)「韓国軍は、冷たい秋の海で40時間ほど漂流したイさんを北朝鮮水上事業所の船舶が発見し、越北の経緯を追及した後、海上に長時間放置した過程を把握していた。当時、北朝鮮側にイさんの送還を要求しながら迅速に対応していれば、Aさんが6時間後に射殺されて遺体を燃やされるという最悪の事態を防げたかもしれない。しかし軍は「我々の領海でない」として眺めていた。軍の存在理由である国民の生命保護をしなかったのだ。さらに「北がそこまでするとは予想できなかった」という弁解に加え、「9・19合意に銃を撃ってはいけないという規定はない」と北朝鮮をかばう態度を見せ、あきれるしかない状況だ」

     

    韓国軍は、北朝鮮軍が主敵でなくなって以来、友軍扱いしている節がある。代わって、自衛隊が「主敵」扱いという転倒ぶりである。海上で韓国国民が漂流していれば、即刻北朝鮮に、救助手配をすべきである。それをせずに、「見殺し」という最悪事態を招いた。

     

    (2)「イさんは、子ども2人がいる平凡な家庭の家長だ。ところが韓国軍はイさんが北側に渡ろうとして殺害されたと発表し、疑惑を増幅させている。イさんの業務(漁業指導)は船から転落する事故もあり、漂流して北朝鮮水域に入った可能性もあるからだ。たとえイさんが越北を図ったというのが事実だとしても、北朝鮮側がなぜ射殺したのかも疑問だ。7月に韓国で性犯罪を犯して北側に戻った脱北者は、北朝鮮に無事に入ったほか赦免まで受けたという。政府が南北関係の悪化を憂慮して明確な証拠もなくイさんを「越北」と決めつけたのではという疑惑が提起される理由だ」

     

    北朝鮮の蛮行ぶりは、すでに知れ渡っている。それにも関わらず、韓国軍は救助の手配を怠ったのである。その上、被害者を「越北者」扱いして責任を逃れようとしている。仮に、越北者としても、韓国軍は自国民の越北を阻止する義務があるだろう。国境警備とは、そういう役割である。

     


    (3)「今回の事件が公開された時点も深刻な問題だ。軍は21-22日に発生したイさんの行方不明・死亡事件について沈黙していたが、メディアが国会発で報道を始めると24日午前になって公開し、隠蔽・縮小疑惑を自ら招いた。青瓦台(チョンワデ、韓国大統領府)の対応も疑惑だらけだ。青瓦台はイさんが殺害された直後の21日午後10時30分ごろ関連機密情報を入手し、3時間後に国家安全保障会議(NSC)を開いた。それだけ事案を重く受け止めていたという証拠だ。にもかかわらず文大統領はその直後に画像で進行された第75回国連総会の基調演説で南北終戦宣言を提案した」

     

    韓国当局は、メディアが報道するまで「何ごともなかったように」情報公開せずにいた。北朝鮮のイメージが落ちることを避けたかったのだろう。それほど韓国政府は、北朝鮮の代理人に成り下がっている。

     

    (4)「青瓦台は、「演説は15日に録画された内容であり、情報の信憑性が確認されなかったため、演説をそのまま送りだした」という。非常状況だったにもかかわらず、北朝鮮に融和的な内容が入った演説を修正なく送りだした点は、「終戦」イベントに執着して国民の生命は後まわしにしたのではという疑問を抱かせる。青瓦台は今回の事件が文大統領にいつどのように報告されたのか、また、終戦宣言演説がそのまま出た理由について明らかにする必要がある。与党も野党の常任委開催要求に応じて国会レベルで透明に真相調査をし、責任者の問責と再発防止対策の樹立に全力を傾けなければいけない。北朝鮮側が責任を取って謝罪するのは言うまでもない」

     

    文政権は、南北統一だけが夢である。その夢に水をかけられることを、全力で阻止するという倒錯した価値観に支配されている。無法国家・北朝鮮を意味もなく許したいという思いが、今回の情報隠蔽をもたらしたのであろう。文政権は、国民のための政権でない。北朝鮮の代理人となっている。


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    昨年は大卒者の20%近くが就職活動でうまくいかなかった。今夏の卒業予定の874万人は昨年よりも5%も多いとされている。そこへ、海外留学生80万人が加わるので、就職戦線は氷河期を迎えている。

     

    結局、数十万人の新大卒生が失業者集団に加わるのは避けられなくなっている。中国当局者は、受け皿を見つけるのに躍起だ。軍の入隊枠を拡大し、卒業間近の学生には修士課程への進学を促すなどして雇用市場への参入を遅らせようと、あの手この手で失業者増加を防ぐ努力を迫られている。

     

    『大紀元』(9月25日付)は、「海外留学の帰国者増加で就職難に拍車、大卒平均月給は11万円」と題する記事を掲載した。

     

    中国経済は悪化の一途をたどり、失業率は上昇傾向にある。今年、80万人もの海外留学生が就職のために中国へ帰国予定で、今年の国内大学新卒者数874万人と就職先を争う。雇用情勢はさらに厳しくなるとみられる。

     

    (1)「『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』は9月21日、就職サイト『UniCareer』の情報を引用し、2020年に帰国して就職する中国人留学生の数が70%増加すると伝えた。それによると、調査対象となった帰国予定者のうち、約28.%がアメリカ、26.%がイギリス、13.%がオーストラリアに留学していた。彼らの6割以上が修士号を持ち、博士号を持つ者もいる。近年、海外で卒業した後に帰国を選択する中国人学生の数は、2011年の18万人から2015年には40万人、2018年には51万人と大幅に増加している」

     

    海外もコロナウイルスで経済は大混乱している。中国留学生が、現地で就職できるチャンスは少なく、いきおい帰国せざるを得ない。海外で卒業した後に帰国を選択する中国人学生の数は、2011年の18万人から2015年には40万人、2018年には51万人とうなぎ登りである。それだけ、国内での就職難に拍車がかかる。

     

    (2)「これまでの調査によると、海外留学帰国組は、わずか約5%の人が30万元(約450万円)以上の年収を得ており、40%近くは年収10万元(約150万円)未満だという。オンライン就職情報サイト『58.com』が最近発表した、2020年の大卒者の就職状況によると、中国国内の大卒者の平均月給は7839元 (約11万7000円)である。近年、中国の大学の卒業生数は増え続け、今年の大学卒業予定者数は874万人と過去最高となった。しかし、求人需要は低下し就職率も悪く、加えて帰国組とともに就職先を争うことになるため、大卒生の就職環境は非常に厳しい状況にある」

     

    海外留学組でも年収450万円以上は、わずか5%程度である。大半の40%は同150万円程度という。一方、国内大学卒の平均月収は約11万7000円(年収は約140万円)である。留学組も国内大学卒も、年収では10万円程度しか違わないのだ。海外留学の就職上の価値は、ほとんど変わらない。これは、留学組を生かす職場がないことを意味している。

     


    (3)「オーストラリアの中国人学者・李元華氏は、中国経済全体は急速に衰退しており、賃金の高い外国企業が相次ぎ中国から撤退していることが就職環境の悪化の一因だと指摘する。「帰国しても就職難に見舞われるなら、海外にいる中国人は帰国を見送るだろう」。米サウスカロライナ大学エイケン・ビジネス・スクール教授の謝田氏は大紀元の取材に対して、中国共産党政権は「雇用安定」に重きを置くようになったという。たとえば、大学生の就職時期を遅らせるため、修士課程の学生の採用を拡大したり、新卒者の軍入隊を奨励している。さらに、大卒生に対して農村部での就職・創業を促している。「文革時代の知識青年が農村に行かされたのを彷彿とさせる」と謝田氏は述べた」

     

    海外留学組の適職が少ないのは、中国経済の減速を反映している。グローバル企業の就職先が減っていることだ。これは、中国経済が確実に減衰している証明であろう。

     

    (4)「中国の金融学者である賀江兵氏は、就職環境の悪化にはさまざまな要因が重なっていると指摘する。「流行感染症の発生や、水害、米中貿易戦争などが起きた。米国の制裁で、中国のハイテク企業は大きなダメージを受けて、多くの外国企業は移転した」 と『ラジオ・フリー・アジア』の取材に述べた。7月末までに中国から移転するとして補助金を申請した日本企業は1700社に達する。加えて、国内資本の衰退もあり、中小企業の雇用はさらに減った」

     

    下線部のように米国の半導体輸出規制が、中国ハイテク企業に相当のダメージを与えている。これが、留学組の職場を奪っている。以上のように、大卒就職戦線から中国経済の裏側が読めるのだ。

     

    テイカカズラ
       

    建国以来、非同盟が旗印であったインドが、中国脅威に対抗して海洋で日米豪と同じ歩調で進む意図を鮮明にしている。中国は、人口大国インドを敵に回すという最悪の選択をしてしまった。2027年には、インドが中国を上回って人口世界一になる。この潜在的成長力のあるインドが、中国の「喉」を覗うという地政学的課題に発展している。すべて、中国のインド脅迫が招いた結果である。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月25日付)は、「インドが海洋進出にかじ、対中共闘で国際協力強化」と題する記事を掲載した。

     

    国境沿いでの中国との衝突を受けて、軍事力で見劣りするインド政府が従来とは異なる対応を模索し始めた。世界で影響力を強める中国に対抗するため、対中共闘を目指す他国との協力を深め、海上での軍事能力を重視する戦略へとシフトさせている。

     

    (1)「インドは、中国にとって石油・ガスの調達先である中東、および主要輸出市場である欧州を結ぶインド洋の航路上にちょうど位置している。中国の海軍は急激に拡大しているものの、まだ遠洋で展開する能力は限られており、自国の裏庭では米国と対峙しなければならない状況にある。インド海軍の元トップ、アルン・プラカシュ氏は「北部の国境では、膠着状態に持ち込むのがせいぜいだ。だが、海では中国に対して優位に立てる」と話す。「海上での軍事力を誇示することで、ぜい弱な立場にあることを中国に思い知らせることができる。つまり、われわれは中国の輸出やエネルギー調達にいつでも手を出すことが可能で、中国経済を脅かすことができるとのメッセージだ」としている」

     

    6月15日深夜、インド兵はヒマラヤ山中で中国軍の急襲にあい20名が死亡した。インドは、その恨みをインド洋で果たすという決意である。インドが、確実にインド洋で中国経済を脅かす存在であることを知らしめる、と強硬だ。

     


    (2)「インドはここにきて、米国などの友好国と海軍の合同演習を強化している。一方で、新たな艦艇を建造するとともに、インド洋の海運交通に目を光らせるため、沿岸に監視を担当する前哨基地のネットワーク構築を進めている。インドは核保有国であるパキスタン、中国と長距離にわたって国境を接しており、軍事戦略も従来、国境警備に重点が置かれてきた。しかしながら、インド指導者らはここ10年で、インド洋を重視する姿勢へと傾いている

     

    インドが、中国をけん制するのは国境線でなく、インド洋であることを認識した。これは、大きな発見である。海洋では、他国と共同して中国に対抗できるからだ。

     

    (3)「背景には、国際貿易の拡大に加え、インドが自国の影響下にあるとみていた南アジアの小国に中国が進出し始めたことがある。インドのスブラマニヤム・ジャイシャンカル外相はインタビューで「インドは海洋大国で、インド洋のちょうど中心に位置している」と指摘する。「過去数年にも、この点に十分注意を向けていないとの意識はあった。貿易の拡大に伴い、輸入も増えており、単に国家安全保障の観点だけでなく、広範な地政学的観点からも、海洋の相対的な重要性が高まった」と指摘する」

     

    中国は、すでに海洋戦略でインドを包囲するように「真珠の首飾り戦略」を展開している。パキスタン、スリランカ、バングラディッシュ、ミャンマーなどに軍事拠点・基地に準じた港湾施設を構築しようとするもの。インドが、これに対抗する戦略を立てるのは当然であろう。

     


    (4)「国際貿易でインド洋が果たす役割を強調しすぎるということはない。世界の海上貿易の75%、世界の石油供給の半分はインド洋を通過する。東のマラッカ海峡や、西のホルムズおよびバブ・エル・マンデブ海峡などの難所では、軍事衝突が発生すれば海上輸送の大半が危険にさらされる。中国がインド洋へと着実に進出してくるのに伴い、米国や地域の友好国に対するインドの見方は根本的に変化した」

     

    インド洋は、世界の海上貿易の75%が通過する重要な拠点である。ここで、中国に対抗する海軍力を同盟軍と共に保持できれば、インドの杞憂は消える。

     

    (5)「冷戦時代に「非同盟運動」を主導してきたインドは、かつてすべての外国勢力に対し、周辺から軍事プレゼンスや基地を排除するよう求めてきた。現在では、インドの南端から南西1100マイル(約1770キロ)程度に位置するディエゴ・ガルシア島にある戦略基地を米国が維持することにも警戒感はない。インドは米国、フランス、オーストラリア、日本などとの軍事・外交協力を着実に強化している。これらの国々はいずれも、インドと同様、アジアで覇権を握ろうとする中国に対する懸念を共有している」

     

    下線部にあるディエゴ・ガルシア島は英領。米軍が、租借しており重爆撃3機を常駐させている。南シナ海での軍事衝突に備えた基地だ。

     

    (6)「前出のジャイシャンカル外相は「世界は変化した。率直に言って米国はかつて懸念要因であり、脅威でさえあった。現在ではパートナーだと認識されている」と語る。「インド洋で今起こっているのは、政治的に互いに容認できる関係にあり、世界全体の視点から懸念を共有する国々の利害がここに集まりつつあるということだ」。インドは2016年、米政府との間で、米印海軍による港湾施設の相互訪問の促進や共同演習の実施を定めた合意を締結。非同盟時代からの方針を転換した。インドはそれ以降、フランスや韓国、オーストラリアとも同様の合意を結び、今月には日本とも締結した」

     

    インドにとって、米国はかつて脅威であった。現在は、パートナーであるという認識は重要である。それは、中国という新たな脅威が現れたからだ。世界情勢の急変を意味する。中国が、帝国主義国家として登場したことを示すのである。

     

     

     

     

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    これまで、中国企業の発行するドル建て債券(オフショア=中国本土以外の市場)は、暗黙裏に中国政府保証が期待されていた。中国政府は3年前、外貨準備高を増やす目的で企業に積極的なドル建て債券発行を奨励したほど。今そのブーメランに苦しんでいる。中国特有の無計画性によるものだ。

     

    『大紀元』(9月25日付)は、「中国企業ドル建て債の不履行、昨年3倍の約1.3兆円」と題する記事を掲載した。

     

    フランス投資銀行ナティクシス(Natixis)の統計によると、今年に入ってから、中国企業のドル建て債の不履行(デフォルト)規模が120億ドル(約1兆2645億円)に達し、昨年1年間の3倍となった。香港英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストが9月23日報じた。

     

    (1)「報道によると、新型コロナウイルスの世界的な大流行、米中対立、原油価格の低迷などで、中国企業の返済能力は低下し、デフォルトが急増した。各分野の中で、今後、不動産企業と半導体企業のデフォルトリスクが高くなるとの見通しだ。中国当局は8月末、不動産企業の債務急拡大を防ぐため、資金調達規制を実施し始めた。各企業は流動性が圧迫しているため、今後、ドル建て債務の返済がさらに難しくなるとみられる」

     

    今後、不動産企業と半導体企業のデフォルトリスクが、高くなるとの見通しである。その背景は、中国経済構造の急変である。不動産企業はバブル崩壊。ハイテク企業は、米国の技術とソフトウエアの対ファーウェイへの輸出禁止措置が波及すること。グローバルサプライチェーンの見直しなどが大きく響く。

     

    (2)「Natixisのアナリストは、中国の半導体およびハイテク企業のデフォルトリスクが高まっていると指摘した。中国の半導体メーカーなどの海外向け収益は高かったが、米中貿易戦以降、グローバルサプライチェーンが見直され、中国半導体企業の収益が減少した。さらに、中共ウイルスの世界的大流行で、グローバルサプライチェーンの再構築が一段と進んでいることや、米政府による中国半導体企業などの禁輸措置も、デフォルトリスクの高まりにつながっているという」

     

    これまで、グローバル経済の成長発展と軌を一にしてきた中国経済は、新型コロナウイルスを契機に、明らかな「天変地異」が起こっている。今まで当然と思ってきた需要が、朝になったら消えていたというほどの激変だ。ドル建て債券を発行する企業は、グローバル経済への依存が大きかったはずである。その仕え棒がなくなってしまったのである。

     

    (3)「Natixisの専門家は、中国国有企業のドル建てデフォルト率が初めて民間企業のデフォルト率を上回ったと指摘した。北京大学系列国有IT企業、北大方正集団はすでに5銘柄のドル建て債を不履行した。総額17億ドル(約1791億円)。中国天津市が保有する天津物産集団も5銘柄のドル建て債が不履行となった。総額は17億5000万ドル(約1844億円)。同社は今年6月、地裁に破産・債務再編手続きを申し立てたと発表した」

     

    中国国有企業のドル建てデフォルト率が、初めて民間企業のデフォルト率を上回った。国有企業は、政府の熱い庇護を受けてきたので経営合理化面で遅れていた。その咎めが、一挙に現れたものであろう。習近平氏は、「国進民退」で国有企業を保護してきた。習氏の責任に帰せられる問題だ。ドル建て債券のデフォルトは、急に起こったものではない。これまでも次のように、メディアが取り上げてきた。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(6月24日付)は、中国企業のドル建て債 デフォルト増加へ」と題する記事を掲載した。

     

    アジアで人気が高いドル建て「ジャンク債(低格付け債)」市場がショックに見舞われそうだ。3年前にブームのように売れたが、その主な発行体である中国の企業がその対応に追われている。ここ1年で中国企業がオフショア(中国本土以外)市場で発行した債券のデフォルト(債務不履行)が2倍以上に増えた。

     

    (4)「直近では香港上場の油田サービスの海隆控股(ハイロン・ホールディングス)の社債1億6500万ドル相当が不履行になった。これまでも何度か危険な兆候があった。海隆は2020年に満期を迎える社債の借換期限を4回延期し、米格付け会社大手ムーディーズはデフォルトが起きる前に海隆の社債の格付けを投資不適格級に引き下げていた。同社の株価は今年になって72%下落している」

     

    当時のオフショア債券市場では、ドル建て債券には別格の信頼を置いていたことが分る。今から3ヶ月前である。事態がいかに急変したかが分るであろう。

     

    (5)「それでも、投資家がこうした兆候をあえて無視したことは驚くにあたらない。高利回りのオフショア債は、長らく外国人投資家に人気が高かった。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)にもかかわらず、日本を除くアジアの今年のドル建て債発行総額は1400億ドル超と過去最高となっている。ドル建て債は発行体の国の政府が暗黙の保証をするものと受け取られている。中国企業が発行するドル建て債のデフォルトは特に珍しい

     

    幻の政府保証期待が、この段階では大きかったことを示している。現在は、すべて崩れ去った。これが今後、危機感を増幅して新たな危機を招くであろう。

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