勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2020年10月

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    韓国は、WTO(世界貿易機関)事務局長選で大差の敗北となった。ナイジェリアのヌゴジ・オコンジョイウェアラ候補が104ヶ国、韓国の兪明希(ユ・ミョンヒ)産業通商資源部通商交渉本部長が60ヶ国であった。ナイジェリア候補は、日本、EU(欧州連合)、中国、カナダ、豪州などが支持した。韓国候補は、米国のみが目立っている。

     

    こういう支持国の顔ぶれから見ても、韓国が不利であることは明白である。このまま、次期WTO事務局長の正式就任を遅らせると、韓国が世界から批判され兼ねないという微妙な地位に立たされている。そこで、韓国が撤退すべきという意見が強まってきたという。

     


    『朝鮮日報』(10月31日付)は、「WTO事務局長選、『美しい辞退』に苦心する韓国政府」と題する記事を掲載した。

     

    ナイジェリア人候補の楽勝が予想されていた世界貿易機関(WTO)次期事務局長選挙で、兪明希韓国産業通商資源部通商交渉本部長を米国が支持すると宣言したことにより形勢が揺れ動く中、韓国政府は同氏の候補辞退案をめぐり苦心していることが30日、分かった。「途中下車」は適切でないとする青瓦台の意向が現実的に見て逆転困難な状況の中、結果に承服せずに選出手続きを遅延させることによる外交的負担が少なくないためだ。

     

    (1)「30日現在、青瓦台・韓国産業通商資源部・韓国外交部などは、WTO事務局長選挙の形勢や加盟国の動向をリアルタイムで分析し、協議している。外交部関係者は同日、記者たちに「11月9日に行われる理事会の時に決定するというのが(WTO議長団の)計画なので、急がなければならない状況ではなさそうだ」と語った」

     

    韓国政府は、いくら現地情報を分析しても支持国数で大差がついている以上、どうにもならないことを承知のはず。米国が、本心で韓国を支持しているとは思えないのだ。米国は、事前に西側諸国と「韓国支持」という打合せをしていないからだ。「突発的」に韓国支持と言い出しても、困るのは西側諸国である。この戸惑いと不満が、韓国に向けられることは不可避であろう。

     


    (2)「青瓦台は29日に「まだ公式の手続きが残っている」として、WTO内部の協議状況をさらに見守るとの意向を示していた。米国の強力な支持を得ただけに、米大統領選挙後、兪明希氏に加盟国の支持が集まる可能性もあるとの判断が作用したとみられる。しかし、得票で大きくリードしているナイジェリア人候補を米国が異例にもヴィートー(拒否)したことをめぐり、「トランプ大統領はWTOを無力化しようと試みている」という国際社会の非難が高まりつつある。外交消息筋は「膠着(こうちゃく)状態が長期化すれば、成果のないまま韓国責任論だけが広がるかもしれない」と話す。このため、政府の一部では、来月3日の米大統領選挙後に米国側と協議した上で、なるべく早く退陣決定をしようという声もある」

     

    韓国は負け戦である。これ以上の傷を負わないためにも、自ら「撤退意思」を示してWTO事務局長の正式決定を急ぐべきだろう。だが、韓国大統領府はこういう潔い決定をするか疑問も残る。対日外交に見られるように、横車を押す国であるからだ。万に一つでも可能性があれば、絶対に「撤退」しないという予想もできるのだ。

     


    (3)「兪明希氏と競合しているナイジェリアのオコンジョイウェアラ氏は29日、ツイッターで「一時的な問題があっても、我々は予定されている次の段階に進むだろう」と勝利に自信を見せた」

     

    ナイジェリア候補は、圧倒的多数の支持を得ている以上、ゆとりを持っているだろう。104ヶ国の支持が、自身を深めさせたに違いない。これは同時に、韓国に向けられる不満増幅の引き金にもなる。

     

    『中央日報』(10月29日付)は、「英紙ガーディアン、米国『圧倒的支持受けるWTO事務局長候補を阻止』」と題する記事を掲載した。

     

    (4)「英国『ガーディアン』紙は、「WTOは伝統に基づいて164カ国のすべてが候補者を承認した場合、事務局長を選出する」とし「WTOは11月9日の一般理事会で次期事務局長を承認する予定で、それまでコンセンサスを達成するために広範囲な活動を見せるだろう」と説明した。また「11月9日まで米国がオコンジョイウェアラ候補を支持しない場合は、WTOの25年の伝統を破り、規定に基づいて投票により次期事務局長を選出す可能性がある」との見方を示した」

     

    米国が11月9日までに、オコンジョイウェアラ候補を支持しなければ、規定に基づく投票で次期事務局長を選出する可能性もある、と示唆している。韓国は、これまでに撤退しなければ、WTO事務局長選を混乱させた責任の一半を負わされる。


    (5)「ただし、専門家の言葉を引用し、「米国の意思に反する次期事務局長が任命されれば、今後のWTOの活動に大きな制約が生じるだろう」と指摘した。また、 「ジョー・バイデン民主党候補の勝利が有力な米国の大統領選挙(11月3日)の結果によって米国の立場が変わる可能性もある」と分析した」

     

    米大統領選の結果しだいでは、米国がナイジェリア候補に賛成する可能性も指摘している。 

     

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    韓国司法は、時の権力に尻尾を振るほど大統領権力は絶大である。先の総選挙で司法出身者が幾人も与党推薦で立候補し当選した。これを見ただけでも、韓国司法は、時の権力に汚染されている。形は正統でも、中身は報復裁判である。旧李朝と同じ蛮行を繰返している。

     

    韓国大法院(最高裁)が10月29日、李明博(イ・ミョンバク)元大統領の上告審で、収賄や横領などの容疑を有罪とし、懲役17年の刑を確定した。すでに、朴槿恵(パク・クンへ)前大統領が国政壟断事件で拘束の身である。二人の元大統領が、揃って獄窓につながれるという異常事態である。

     

    李明博元大統領の場合、文在寅(ムン・ジェイン)大統領の就任後、積弊清算の風に乗って検察捜査は直ちに李氏に向かった。現政権の友好勢力とされる参与連帯と民主弁護士会が、「自動車部品メーカー『ダース』の実際のオーナーは李氏」と告発した結果だ。

     


    『朝鮮日報』(10月30日付)は、「李明博元大統領再び収監、文在寅政権に同じ物差しを当てると」と題する社説を掲載した。

    韓国大法院は李明博元大統領の事件で上告を棄却し、懲役17年を言い渡した二審判決が確定した。李元大統領は直ちに収監される。李元大統領に対する捜査は当初、国家情報院のコメント操作指示に焦点が合わせられた。そこで立件に至らず、国家情報院の特殊活動費に捜査が移行。さらに、ダースの実質的所有者論争、大統領選資金までさかのぼった。李元大統領の監獄行きを先に決めておいて、容疑が浮上するまで追及した。

     

    (1)「朴槿恵前大統領は懲役22年の刑を言い渡されている状況だ。李元大統領よりも1年前に逮捕された朴前大統領の収監期間は1300日を目前にしている。前職大統領のうち最長だった盧泰愚(ノ・テウ)元大統領の768日の倍近い。李元大統領は来年80歳、朴前大統領は再来年で70歳になる。17年、22年の刑は獄中で生涯を終えろというものだ」

     

    韓国の裁判は、怨恨に基づく。文政権が、保守派政権を率いた李明博元大統領と朴槿惠前大統領を目の敵にしたのは、進歩派政権を組織した盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領が自殺したことへの報復である。朝鮮李朝の派閥争いで、勝者が敗者を裁く方法がこういう理不尽なものだった。あれから100年以上経っても、同じ報復をして胸の溜飲を下げているのだ。進歩のない民族と言うほかない。

     

    (2)「梁承泰(ヤン・スンテ)前大法院長時代の大法院を狙った裁判は先週で公判が100回を超えた。なぜ罪になるのか、なぜ裁判をやるのかも分からない裁判だ。職権乱用罪で起訴された判事6人に相次いで無罪判決が出たにもかかわらず、裁判が続いている。ギネスブックに登録されるのではないかという言葉まで聞かれる。この容疑がだめならあの容疑というやり方で6つの容疑で追及された金寛鎮(キム・グァンジン)元国家安保室長は先週、サイバー司令部のコメント指示事件の二審で懲役24月を言い渡された」

     

    文政権が、絶対に犯罪人にしたい者には、あらゆる罪を探してくる。李明博元大統領の事件もその例である。検察は李氏の就任前のダース事件まで含めて何と16の容疑を適用して起訴し、最終的に9つの容疑が有罪とされた。李氏側が「保守勢力を完全に崩壊させようとした政治報復の捜査だった」と抗弁する理由だ。政治裁判であり、暗黒裁判と言っても過言でない。

    (3)「文在寅政権発足と同時に始まった前政権狩りは3年を超えた。前政権と同じ物差しを現政権に当てれば、そんな結果が出るのか知りたがっている国民は少なくないはずだ」

     

    文大統領は、自らの辞任後に法廷に立たされないように幾重にも法律をつくりガードを固めている。だが、李元大統領の例もあるように、時間を置いて捜査される可能性もあるのだ。文氏が獄窓に送られる事態がくるかどうかは不明だが、文政権関係者は捜査を受けなければならない「犯罪」を冒している。こういう繰り返しが韓国政治である。

     

     

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    人民元の対米ドル相場が上昇中である。中国への資金流入を反映したものだ。為替相場が政府管理の手を離れ、市場の需給実勢を反映することは、ごく自然である。これが、中国政府にとってプラスになるかどうか、話題を呼んでいる。つまり、管理型変動相場制が、自由変動型相場性へ移行すれば今後、訪れる中国経済の激動によって、人民元相場は乱気流に飲み込まれるリスクを増すからだ。中国の為替相場には、それほど脆弱性を抱えている。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(10月30日付)は、「人民元高は一段と操縦不能に、政府から離れる手綱」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「人民元の対ドル相場は、今年上昇している。中国人民銀行(中央銀行)は急速な元高を抑えようとしているようだ。だが、為替相場に対する手綱の一部を国際市場に委ねたことで、今や金融当局に打てる手は減っている。人民銀は日々公表する元の基準値(中央値)の設定に組み込んでいる、いわゆる「逆周期因子(カウンターシクリカルファクター、CCF)」の利用を停止した。これは必要に応じて為替相場を下支えするための調整手段だ。さらに同行は、為替先物取引に義務づけられた準備金要件を引き下げた。いずれの措置も初めてではないが、足元のこうした動きは元高の抑制に向けた姿勢を示している」

     


    中国は、人民元の対米ドル相場の上昇を歓迎している。中国
    人民銀が、日々公表する元の基準値(中央値)の設定に組み込んでいる、いわゆる「逆周期因子」の利用を停止したからだ。それだけ、市場実勢に合せている証拠である。人民元相場の上昇は、中国への資金流入を意味する。

     

    中国が、この時点で米ドル流入を歓迎しているのは、それなりの理由がある。中国は、発展途上国へ貸付けた1000億ドル以上の債権が、G20の申し合わせで「返済凍結」になっている。それだけ、米ドルの資金繰りが苦しくなっているのだ。それゆえ、米ドル流入はすべて「ウエルカム」である。苦肉の策だ。

     

    (2)「中国製品の国外での需要が高まり、2020年の中国の貿易黒字は急増している。元の対ドル相場は5月の安値から7%近く上昇し、現在は1ドル=6.72元付近で推移する。同国が債券・株式市場の主要指数への中国国債や中国株の組み入れを容認したことも、外国人投資家からの資金流入に拍車を掛けている。外国人投資家の中国国債保有高は今年に入って約3700億元(約5兆7600億円)の純増となり、政府発行高に占める比率がわずかに上昇した。それでも外国勢による中国国債の購入がピークを付けた2018年の同時期より若干緩やかなペースだ」

     

    人民元相場は10月30日夜間(23時12分現在)で、1米ドル=6.6831元である。さらに人民元高だ。米ドル資金が、流入基調を維持している証拠である。この背景には、中国が債券・株式市場の海外主要指数へ中国国債や中国株の組み入れを認めたことも挙げられる。中国が、「金融開国」した結果である。

     

    (3)「大規模な資本流入は多くの途上国が気にかけない類いの問題であり、(株価)指数組み入れに起因する流入は、アジア金融危機以降、中国政府が懸念するホットマネーの流入ほど気まぐれではない。だがそれを受け入れることは、同国の金融状況に対する制御の一部を国際市場に委ねることになる

     

    下線のように「金融開国」は、これまで中国政府が執拗なまでに行なってきた「金融鎖国」を放棄したことを意味する。人民元相場は一部、国際市場に委ねられたのだ。現在の管理型変動相場制は、自由変動相場制へ一歩も二歩も踏み出したと言える。

     

    (4)「特別に関心を払うべきもう一つの要因は、来週投開票される米大統領選・議会選の行方だ。米通商政策の好戦的姿勢が和らぐことで、元相場にどれほど影響があるのかを正確には言えないが、昨年の市場動向をみる限り、為替相場と米中の通商関係を巡るセンチメントに密接な関係があることが分かる。選挙結果がどうであれ、中国が自国資産への資金流入の拡大を容認することは、元のコントロールをある程度放棄することを意味する。国外投資家による資産保有がさらに増えれば、中国政府は以前のように為替を管理下に置くことは一段と難しいと気づくかもしれない」

     

    米大統領選は、トランプ敗北になるという読みが人民元相場に反映されているようだ。これは、一時的な変動要因である。もっと重要なことは、下線部のとおり「人民元のコントロールをある程度放棄することを意味」している。一度、このコントロールを緩めれば、元の管理状態へ戻すことの難しさが分るだろう。中国は、経済の脆弱性がもたらす人民元相場の変動を防ぐ手段を手放したのである。ルビコン川を渡ったのだ。

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    米国上院議員が、中国企業で取引禁止リストに掲載している株式の米国上場を廃止させる法案を提出した。米国の貯蓄は、中国の取引禁止企業に利用させてはならぬという主旨である。米国ではすでに、中国企業で米国が監査できない米上場企業の廃止法案を成立させてある。今回の法案では、取引禁止リストに掲載された企業自体の上場を禁じるという厳しさである。

     

    『大企業』(10月30日付)は、「米ルビオ上院議員「取引禁止リスト入りの中国企業の上場を廃止」法案提出」と題する記事を掲載した。

     

    米国マルコ・ルビオ上院議員は、国防総省や商務省のブラックリストに掲載された中国企業を、米市場から上場廃止させたり、上場を阻止する法案を提出した。米国からの投資に依存している中国企業に打撃を与え、米金融市場からの中国マネーの排除を後押しする狙いがある。

     

    (1)「提出された法案は、『米国金融市場の誠実とセキュリティ法』と名付けられ、ルビオ議員とマイク・ブラウン上院議員 (共和党) が共同提案した。法案は、米投資会社、退職基金、保険会社が、商務省の取引禁止リストに載る中国企業や、米国防総省が作った中国軍支援企業リストに載る企業の株式を取得することを禁止している。法案が可決されれば、取引禁止リストに載っている中国企業は、1年の猶予期間を経て、米国の取引所での上場を禁止されることになる。商務省や国防総省のリストには、人権侵害に関与する企業と指摘された監視カメラ大手・杭州ハイクビジョンや、国有通信大手チャイナモバイル、チャイナテレコムなどが含まれる

     

    米商務省の取引禁止リストに載る中国企業や、米国防総省が作った中国軍支援企業リストに載る企業の株式が、米国で自由に売買されていることは、米中対立の長期化という視点から言えば矛楯している。「敵に塩」を送っているからだ。米国は、取引禁止リストに載る中国企業を細大漏らさず封鎖するという強い姿勢を見せている。

     

    (2)「ルビオ氏は声明の中で、提案された法案で「共産党に私たちの金融システムを利用できなくなると明白にする」と書いた。5月、米上院は、中国企業が米国の監査規則に従わない場合、取引所から排除する法案を可決した。8月には、公開企業会計監視委員会への会計書類の提出を義務づけて、この義務を怠ると上場廃止もありうるとした」

     

    ルビオ氏は、提案された法案で「共産党に私たちの金融システムを利用できなくなると明白にする」にするとしている。これは、緊急事態が発生すれば、中国をドル経済圏から追放して、「米国金融システムを利用させない」という強い決意の前兆と読むべきである。

     

    (3)「ロナルド・レーガン政権の元ホワイトハウス高官で、米国資本市場における中国企業の規制強化を求めてきたロジャー・ロビンソン氏は、ロイター通信に対して「中国本土企業は、インデックスをベンチマークとする上場投資信託 (ETF) を通じて、米国資本市場への規制されていない、審査もされていない『バックドア』を通じて米市場に自由なアクセスを持っていた」と指摘。ルビオ議員の法案は、この穴を埋める法律だと指摘した」

     

    米国資本市場で自由に取引される上場投資信託 (ETF)は、今回の法案が成立すれば売買不可能になるという。ETFは上場審査もされない点で、米国資本市場へ「バックドア」をつけているようなもの、と指摘している。

     

    (4)「アリババ・グループ、京東、網易など、米国に上場している中国企業の多くは、外資を引き付けるために、香港での二重上場を模索している。アリババのアント・グループもまた、香港と上海で二重上場して、新規上場では世界最高となる340億ドルが見込まれている。米誌バロンによると、アナリストらは、中国企業が米監督機関を迂回して投資を呼び込もうとしているが、米議会は超党派で対中強硬姿勢が優っており、今回のルビオ議員の法案よりも、さらに中国資本による厳格な法律が制定される可能性もあるとみている」

     

    今回のルビオ氏らの法案は、超党派でさらに厳格な法律が制定される可能性もあるという。米国資本市場を中国企業に利用させないという強い決意が滲み出ている。

    ムシトリナデシコ
       

    中国は、まともな経済学者が消えてしまったのか。そういう思いを抱かせるほど、実現不可能な経済計画が飛びだしてきた。2035年に1人当り名目GDPを中等先進国並みに引上げるというのだ。胡鞍鋼・北京大学教授によれば、2035年まで5%前後の経済成長率が可能というから、この「超超楽観予測」を下敷きにしたのだろう。

     

    真面目に考えれば、中国は2022年に「高齢社会」(65歳人口比率14%以上)、2032年に「超高齢社会」(同比率が20%以上)に移行する社会だ。生産年齢人口比率が急減するなかで、5%前後のGDP成長率達成は不可能である。いくら、生産性向上を図ると言っても、すでに中国の生産性はインフラ投資偏重で低空飛行状態である。

     

    客観的に見て、不可能は経済目標を打ち出すのは、政治目的が優先されている結果だ。習近平国家主席の終身制にするためのお膳立てに過ぎないのである。前記のような経済目標達成のため、習近平氏が終身国家主席に据えるというのであろう。毛沢東が、終身の「共産党主席」であったように、習氏もそれを狙っている。事実、10月29日に閉幕した中国共産党の重要会議、第19期中央委員会第5回全体会議(5中全会)で、党指導部の人事は発表されなかった。後継国家主席の人事がなかったのだ。

     

    『日本経済新聞』(10月30日付)は、「中国、2035年『先進国並みに』、1人当たりGDP」と題する記事を掲載した。

     

    中国共産党の重要会議、第19期中央委員会第5回全体会議(5中全会)は29日に閉幕した。2021~25年の「第14次5カ年計画」の骨格などを固めた。35年に「1人当たり国内総生産(GDP)を中等先進国並みにする」との目標を掲げた。対米摩擦の長期化に備え、消費など内需を拡大し自力での安定成長をめざすが、道のりは険しい。

     

    (1)「中国の1人当たり(名目)GDPは19年に1万ドル(約105万円)を超えた。中等先進国は3万ドル前後のイタリアやスペインが念頭にあるとされる。4億人とされる中間所得層も「目に見えて拡大する」とした。米国のハイテク封鎖を念頭に「コア技術で重大なブレークスルーを実現」とも表明した」。

     

    総人口に占める高齢者の割合が12.6%に達した時、日米韓1人当たりの名目GDPは、2万4000ドル(約251万円)を上回っていた。中国の1人当たりの名目GDPは、約1万ドル(約105万円)に過ぎない。この差は大きいのだ。中国の低生産性体質を示している。統制経済であることが、市場機能を歪めているからだ。習氏は、終身国家主席を目指している以上、統制経済が続くはず。生産性向上はあり得ない。

     


    (2)「長期目標の実現に向けて、新たな5カ年計画は「2つの循環」を柱に据えた。貿易を軸とする「外」と、消費を柱とする「内」の2つの経済循環で成長を実現する考えだが、重点は「内」にある。新計画も「国内の大循環が主体」と明記した。鄧小平氏の改革開放の重点は「外」にあった。外資を取り込み「世界の工場」として輸出主導で高速成長した。改革開放の前提は安定した米中関係だったが、貿易戦争や覇権争いで見直しを迫られた。習氏の「2つの循環」は改革開放からの大きな路線転換といえる」

     

    米中デカップリングの中で、中国経済は輸出依存が不可能になる。そこで、内需=個人消費依存の経済運営に移行するという。これは、急激な経済成長率低下を招く。対GDP比で40%弱の個人消費では、中国経済を牽引できないからだ。やはり、インフラ投資依存になろう。中国全土が、コンクリートで覆い尽くされるに違いない。

     

    (3)「コミュニケは、「国際的なパワーバランスは深刻な調整がある」とし、いまの米覇権の揺らぎも示唆した。「機会と試練に新たな変化がある」と指摘し、国際秩序が流動化しても自力で安定成長できる経済をめざす。まず内需の拡大を急ぐ。計画は「消費を全面的に促進し、投資の余地を切り開く」とした。中国の個人消費はGDPに占める比率が39%57割の日米独を下回り、伸ばす余地が大きい。次期計画は「質の高い成長を推進する」と記した。21~25年の経済成長は年5%台をめざす案がある。供給面では「科学技術を自力で強化する」とうたい、先端技術の内製化を進める。米国の禁輸も意識し「サプライチェーン(供給網)の水準を明らかに高める」とした」

     

    下線部分は、とんでもない間違った判断を下している。個人消費の対GDP比は、年間1%ポイント以下しか上昇しないのだ。家計支出に依存する経済では、家計債務比率が現在のように急増している状況において、過大な期待は禁物である。今後10年間、住宅バブルで多額の債務を抱える家計に中国経済を牽引する力はない。あまりにも現状認識が甘いのだ。

     

    (4)「中国の生産年齢人口は13年をピークに減り、19年の出生数は58年ぶりの低水準だ。5中全会で産児制限の緩和観測もあったが、具体策は見送った。少子高齢化が深刻さを増せば、構想とは逆に内需は縮小しかねない」

     

    中国の合計特殊出生率は2019年、わずか1.048だった。1949年以来の過去最低を記録した。日本の合計特殊出生率は、まだ1.36(2019年)で中国を上回っているのだ。日本では、出生率低下が大きな社会問題になっている。中国の実態は、日本の水準以下という厳しい状況に置かれている。この中国経済が、2035年に1人当り名目GDPで3万ドルのレベルへ達するとは考えられないことである。


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