中国の愛国主義教育は、Z世代(1995年以降生まれ)で大きな効果を上げている。習近平氏の「中華民族の偉大な復興」スローガンが、若者に「中国製造」=国産品という誇りを持たせているからだという。戦前の日本が、「大日本帝国」の美名で少年たちは続々と兵役に応募していった、あの時代と雰囲気が似通っている。危険なシグナルである。
『朝鮮日報』(11月30日付)は、「『メード・イン・チャイナ』という自負心」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙のキム・ナムヒ北京特派員である。
最近中国の10~20代の消費者が熱狂する製品がある。特定ブランドの製品ではない。どんな商品であれ、「中国製造(メード・イン・チャイナ)」というフレーズが付いた商品だ。
(1)「この「中国製造」は単に中国で作ったという原産地表示としての「メード・イン・チャイナ」ではない。説明書には小さな文字ではなく、前面と目立つ場所に商品のアイデンティティーを示すように大きく「中国製造」と書いてある。過去に外国では「メード・イン・チャイナ」は無視と嘲笑の対象だった。現在の中国で「中国製造」とは、世界最強の大国となった祖国に対して中国人が抱く自負心の象徴だ」
自国に誇りを持つのは当然のこと。行き過ぎた場合の弊害として、「戦争」という二字を招く危険性が高くなる。「メード・イン・チャイナ」という意味の「中国製造」に誇りを持つのは良いとしても、危険な予兆を感じるのだ。
(2)「中国茶飲料のブランドのうち、茶にチーズを混ぜたチーズティー飲料を販売する「喜茶(HEYTEA)」がある。最近中国のZ世代(主に1995年以降生まれ)の間で流行するファッションを見たいならば、喜茶の店舗に行けと言われるほど若い世代に人気がある。喜茶は携帯電話ケース、かばん、靴下、カップ、バッジなどのブランド周辺商品も販売している。消費者は商品の中央に書いてある「中国製造」という文字が気に入って購入するのだという。愛国主義マーケティングが成功したのだ」
「中国製造」が、ロゴとして使われることで商品が飛ぶように売れるとは、愛国主義マーケッティングの成功例であろう。ただ、「中国製造」が商標登録されている場合、他社は類似行為を禁じられるので、中国社会全体に拡散されることはないだろう。
(3)「『中国製造』は中国政府が米国を意識して打ち出した概念だ。中国政府は2015年に「中国製造2025」という産業政策を開始した。25年まで10年間に新エネルギー車(NEV)、ロボットなど10の先端技術製造分野で中国が世界首位を目指すとする計画だ。中国政府は補助金投入、外国企業の買収などを通じ、「中国製造2025」計画を大々的に推進した。トランプ米大統領が中国製品に関税をかけ、貿易戦争を起こしたのも「中国製造2025」政策に脅威を感じたからだという分析がある」
習近平氏は当初、「中国製造2025」を宣伝して、「中国再興」と結びつけていた。だが、米中対立が激化するとともに、「中国製造2025」を取り下げてしまい目立たなくさせている。皮肉にも、ブランドとして「中国製造」が生き残った感じである。
(4)「現在、外国企業は中国の消費者の愛国ムードに合わせなければ生き残れず、プライドを少しでも逆なですれば、すぐに撤退させられる。米電気自動車(EV)大手のテスラは昨年、中国・上海工場で生産したモデルを発表し、「中国製のモデル3がやってくる」と宣伝して好評を集めた。これに対し、イタリアのファッションブランド、ドルチェ&ガッバーナは2年前、中国系の女性モデルがはしでピザを食べる場面の広告を流し、中国を侮辱しているとの批判を受け、事実上中国事業を畳まなければならなかった」
愛国教育が20年間続けば、国民を戦争に駆り立てられる。習政権になって8年を経ている。習氏が2022年以降も続投になれば、中国は確実に「戦争モード」になろう。習氏は、こういう若者の「好戦気運」を利用して、戦争を仕掛けるのでないか。その危険性が高まる。
(5)「韓国のアイドルグループ、防弾少年団(BTS)による6・25戦争(朝鮮戦争)に関する韓米友好発言も最近、「侮辱罪」に引っ掛かり、中国の一部ネットユーザーや民族主義系メディアから集中攻撃を受けた。中国でBTSを広告モデルに起用したサムスン電子、現代自動車など韓国企業は明確な情報把握を行う前の段階で、インターネット上で批判世論が強いという理由だけでBTSとの関係を絶った」
愛国主義マーケティングの拡散は、独善主義を生む危険性を孕んでいる。中国は、国家として危ない橋を渡り始めている。すべて、習近平氏ら少数の民族主義者の意図通りに取り運ばれているようだ。
(6)「愛国主義と優越主義は中国の10~20代で最も強く表れる。中国が米国と二大大国と呼ばれるほど大国に浮上するのを直接見守り、学校で「中華民族の偉大な復興」という愛国思想を絶え間なく注入された影響が大きい。彼らが消費層の中心となった中国市場で外国企業の将来の不確実性は相当大きい。外国企業が堂々と声を上げて活動できるだろうか」
愛国主義がマーケティングに止まっている段階から、愛国民族主義へと転化する段階へと進めば、確実に「戦争謳歌」ムードに一変するであろう。この問題は、簡単に考えるべきではない。