勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2020年12月

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    菅首相は、スマホ料金の大幅引下げを通信3社に迫ってきたが、NTTが予想以上の大幅引下げを発表した。韓国メディアは、管氏の交渉手腕に改めて注目しているという。これまで8年間、韓国は安倍前首相の交渉姿勢に反発して、「安倍批判」を繰り広げてきた。菅首相は、安倍氏ほどの派手さはないが、目標を着実に実行する姿に、安倍氏よりも手強い相手という認識を深めているという。

     

    『朝鮮日報』(12月4日付)は、「菅は安倍以上に手強いかも」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙の成好哲(ソン・ホチョル)記者である。

     

    菅首相は就任から3カ月も過ぎていない今月3日、日本の消費者に「朗報」が伝わった。日本の大手通信会社のNTTドコモが携帯電話料金を引き下げると発表したのだ。来年春には20ギガバイトのデータ契約を月2980円で可能にするというものだ。現在、5000~6000円はかかることから、破格の値下げと言える。NTTドコモは、韓国ではSKテレコムのような企業だ。

     

    (1)「日本は、「世界で携帯電話料金が最も高い国」として悪名が高い。日本の通信業界は20年以上にわたり政界や世論から激しい批判を受けてきたが、それでも企業側は動こうとはせず、NTTドコモは毎年およそ8000~9000億円の営業利益を出してきた。営業利益率は20%前後に達する。文字通り金をかき集めているのだ。韓国でもSKテレコムは批判を受けているが、それでも営業利益率は6%ほどだ」

     

    菅首相は、公約のスマホ料金の大幅値下げを実現させる方向だ。不妊治療も所得制限をつけずに無料化を実現させる。一方では、65歳以上の高齢者の健康保険の自己負担分を1割から2割に上げるという懸案事項を実現させる方向で動いている。官房長官を8年間やってきただけに、裏方から日本の問題点を知り抜いていた結果だ。

     

    以上は、内政面である。安倍前首相が得意とした外交問題では、菅首相も日韓問題で韓国をキリキリ舞いさせている。派手さはないが、韓国の弱点を見抜いていることは間違いない。

     


    (2)「
    最弱政権と言われた菅首相が、かつての小泉政権も、あるいは安倍政権でさえもできなかったことを短期間でやり遂げたのだ。菅首相は就任直後「国民から見て『当たり前のこと』をやる」と語ったが、その時から「20ギガデータの携帯電話契約」を具体例として挙げていた。菅首相は10年以上前、通信事業を管轄する総務大臣を努めている」

     

    菅首相の強味は、情報収集能力の高さである。朝食会を開いて、相手の話をじっと聞く。官僚だけの話を聞かないことが成功の秘訣かも知れない。官僚は、「できないこと」を理路整然と述べるが、解決策になるとお手上げである。こういう官僚の弱点を100%知り抜いている。それも強味であろう。要するに、「苦労人」であるから、実現の道を探し出すことに長けているのだ。

     

    (3)「1948年生まれの菅首相の経歴を見ると、歴代の首相たちとは大きく異なる。日本に今も根強く残る「父親の選挙区を引き継いだ世襲議員」ではなく、ましてや一流大学出身でもないし華々しい経歴があるわけでもない。秋田県のいちご農家の長男で、高校卒業後は夜行バスで東京に行き、段ボール工場に就職した。しかし仕事がつらかったため2カ月でやめ、法政大学に入学した。「最も学費が安かった大学」を選んだという」

     

    一流大学という概念づけは難しい。4年間の大学生活は、人生を生き抜く基盤を形成する。それは出発点に過ぎず、将来の成果を約束するものではない。「いかに生きるか」。それは、本人が社会へ出てからの努力に比例する。官僚社会との違いがそれだ。菅首相が官僚を信用しないのは、学歴にあぐらをかいて努力しない姿を嫌うのであろう。農家では、種を蒔いた後が勝負である。官僚社会は、種を蒔いただけであとは人任せである。

     

    (4)「10年以上にわたり衆議院議員の秘書を務めた後に横浜市議会議員となり、40代後半になってついに衆議院議員に当選したが、そのときまで一度も「ボス」をやったことはない。大学時代は空手部に所属したが、そのときも副主将で、市議会議員の時は横浜市長の右腕だった。8年続いた安倍政権では「ナンバー2」の官房長官を務めた。菅首相は韓国語の「泥スプーン」によく似た言葉の「苦労人」と呼ばれる。苦労の末に世間の厳しさを理解する人物という意味だ」

     

    菅氏は、これまで確かに「ナンバー2」の人生であった。ナンバーワンでなかったが、「オンリーワン」を目指してきた。戦前の財閥では「ナンバー2」の番頭が、三井・住友を動かしてきた。番頭であることが、堅実な経営の舵取りに向いているし、時には「緊褌一番」の大勝負にも出られる。こういうタイプの首相が日本に出るのも良かろう。

     


    (5)「実際、これまでの生涯で常に「ナンバー2」の補佐的な役割をしてきた菅首相は、「実務やディテール、推進力は最強」と評されている。そのため背後から政治家を動かす真の実力者とされるエリート官僚や財界などから「最も恐れられる政治家」とも言われている。
    菅首相について韓国国内では「安倍前首相よりはくみしやすい」と考える雰囲気がある。かつて戦闘機に乗った写真を公開するなど、帝国主義の雰囲気を醸し出した安倍前首相と比較し、菅首相をより穏やかな人物と考えたのだ」

     

    韓国の人物評は間違っている。安倍前首相が、戦闘機に乗ったから右翼だとかおかしな認識である。菅首相と韓国要人の会談中、管氏が声を出して三度笑ったから日韓関係は上手く行くとか、根拠のないことで結論を出している。菅首相の真骨頂は、8年間の官房長官時代に、韓国がいかに日本を騙すか。その手口をすべて知っていることであろう。日本が、韓国の手にダマされない。韓国は、そのことを肝に銘ずべきだ。

     

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    中国企業にとって、米国証券市場は金のなる木である。今年8月時点で、中国からナスダック株式市場またはニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場した企業は20社を超えた。調達総額は40億ドルにも上っている。大半はソフトウエアや電気自動車(EV)などハイテク業界の企業だ。2019年、中国企業25社がIPOで35億ドルを調達した。

     

    12月2日、米下院は米国の監査基準を順守しない限り一部の中国企業の米上場を阻止できる法案(「外国企業説明責任法案」)を全会一致で可決した。同法案は今年すでに上院で可決されており、トランプ大統領の署名を経て成立する見通し。同法案の下、3年連続で米公開会社会計監視委員会(PCAOB)の監査基準を順守できなければ、米国内の証券取引所での上場が禁じられる。対象企業は、主として中国企業である。

     

    中国企業にとって米国市場は、資金調達面でありがたい場所だが、肝心の中国企業に相次ぎ不正会計疑惑が持ち上がっている。最近の動きを見ておきたい。

     

    『日本経済新聞 電子版』(12月4日付)は、「米上場の中国企業続く不正会計疑惑」と題する記事を掲載した。

     

    米国市場に上場する中国企業の不正会計疑惑が相次いでいる。11月にはライブ配信大手や電気自動車(EV)メーカーで新たな疑惑が浮上した。カフェチェーン大手、ラッキンコーヒーも不正会計が発覚し、6月にナスダック市場の上場廃止に追い込まれている。米当局は新たな規制を導入し、中国企業に対する監視を強める方針を決めた。

     

    (1)「EVメーカーの康迪科技集団は米調査会社から「売上高を偽っている」と指摘された(同社のサイトから)。「売上高の約55%を占める最大顧客の連絡先がグループ会社と共通だ」。米調査会社のヒンデンブルグ・リサーチは11月30日、中国のEVメーカー、康迪科技集団についてリポートでこう指摘した。最高財務責任者(CFO)や監査人らが頻繁に交代していることなども偽装の兆候とし、「売上高を偽っている」と記した。中国や米国でのEVの販売実績・計画にも疑いの目を向けている」

     

    いかにも中国企業らしい粉飾決算である。米国で株式公開(IPO)して資金調達した後は、「野となれ山となれ」という無責任さである。詐欺行為である。

     

    (2)「前記のヒンデンブルグは9月にも米新興EVメーカー、ニコラが「技術力を偽って宣伝している」と指摘した。その後、ニコラと資本・業務提携で合意していた米ゼネラル・モーターズ(GM)は出資計画を撤回するに至った。ナスダックに上場する康迪科技の株価は30日に3割近く下落。康迪科技は「指摘には多くの間違いや不正確な結論が含まれている」と反論する」

     

    米GMも危ないところでダマされるところだった。こういう中国企業に対して、中国政府は米国の監査を認めないという悪質さである。中国企業の情報が漏れることを警戒したもの。多分、政府の補助金がばれることを恐れているのであろう。WTO(世界貿易機関)違反であるからだ。中国が、TPP(環太平洋経済連携協定)に参加したいと言っているが、国有企業の情報公開がネックで不可能である。

     

    (3)「中国のインターネット検索最大手、百度(バイドゥ)が36億ドル(約3800億円)の巨額を投じて買収すると発表してから、わずか数日後。中国ライブ配信サービス大手、歓聚集団(JOYY)にも11月18日、不正会計疑惑が持ち上がった。米投資会社のマディー・ウォーターズは、リポートで「中国の主要ライブ配信事業の90%に詐欺行為の不正があり、蜃気楼(しんきろう)だ」と断じた。JOYYは否定するが、ラッキンコーヒーやネット教育大手の北京世紀好未来教育科技(TAL)はマディーの指摘の後、不正会計の事実を公表した経緯がある」

     

    中国の主要ライブ配信事業は、90%に詐欺行為が見られるという。歓聚集団(JOYY)にもその疑いが掛っている。

     


    (4)「こうした状況に米当局も対応を急いでいる。政権内や議会で中国企業への不信感が高まっており、米証券取引委員会(SEC)は新たな規制導入の準備を進めている。米上場の中国企業は自国の監査法人に加え、米国の上場企業会計監視委員会(PCAOB)に登録する監査法人による監査も義務付けることが柱だ。中国の法律が立ちはだかり、現在はPCAOBは監査状況を検査することができない。米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(WSJ)によると、年内にも新規制案が公表される見通しだ」

     

    中国企業の不正行為に対処するため、米上場の中国企業は自国の監査法人に加え、米国の上場企業会計監視委員会に登録する監査法人監査も義務付ける。こういう二重監査体制を取らなければ、とても安心できないほど中国企業の信頼性は地に墜ちている。 

     

     

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    米国は、中国へのハイテク技術漏出に強い警戒をしている。中国政府系投資ファンドは、その警戒網をくぐって米ハイテク企業へ出資して技術窃取を試みている。ワシントンでは国家安全保障への影響を懸念する声が党派を超えて広がっているという。

     

    一方、米司法省が、今年1000人超の中国のスパイを出国させたと明らかにした。中国のスパイたちは研究員になりすまし、バイデン次期米政権を標的としたスパイ活動を繰り広げていたことが分かった。米国政府が30の都市で捜査を繰り広げ、ヒューストンの中国総領事館を閉鎖するなど厳しい取り締まりを続けるうちに、スパイたちは自ら出国したという。『朝鮮日報』(12月3日付)が伝えた。

     

    産業スパイと異なって、ハイテク企業への投資は形式的には合法的である。ただ、技術窃取という点では同じだ。共和党のクルーズ上院議員は、「中国企業による米企業・政府への傍若無人なスパイ活動がまかり通っている」と警鐘を鳴らしている。

     


    『フィナンシャル・タイムズ』(12月2日付)は、「
    御してもやまぬ中国の対米ハイテク投資」と題する記事を掲載した。

     

    米国が外国企業の投資規制を強化する中で、中国政府系ファンドによる重要技術分野への対米投資が依然続いている。

     

    (1)「重要品目の半導体分野ではピクセルワークス、ブラック・セサミ・テクノロジーズ、ライトICテクノロジーズの米3社が最近、中国の政府系ファンドの出資を受けた。中国のコンサルティング会社、清科集団によると、重要産業に重点投資する中国の戦略投資ファンドは1600社を超え、資産総額は推計4兆元(約64兆円)に達する」

     

    米国は、中国への半導体技術の漏出を警戒している。中国の政府系ファンドは、米国の半導体企業へ合法的に出資して、技術を手に入れようとしており、まんまと虚を突かれた形だ。中国の戦略投資ファンドは1600社を超え、資産総額は推計4兆元(約64兆円)に達するという。これが、世界中の最先端技術を狙っている。

     


    (2)「中国の政府系ファンドは経済政策の司令塔である国家発展改革委員会の指導の下で投資先を決定している。投資対象となるのは戦略的な新産業や、米国と肩を並べる産業育成を目指す半導体をはじめとする先端製造分野だ。米国の半導体3社への投資のうち、2社には国家集成電路産業投資基金(CICF)が関与している。CICFは14年、中国政府主導で200億ドル(約2兆1000億円)を集めて組成した半導体産業育成ファンドで、中国財務省が筆頭株主として名を連ねている」

     

    中国には、国家集成電路産業投資基金(CICF)が存在する。200億ドルの資金を擁する半導体産業育成ファンドである。中国は、自国で半導体技術の開発をするよりも、世界中からめぼしい技術を買い集める方式をとっている。促成栽培方式だが、基礎技術の不足している結果、手に入れた技術の実用化に手間取っている。中国半導体の自給率が、2019年でも15%台に止まっている理由だ。

     

    (3)「中国による対米ベンチャー投資は2年前にトランプ大統領が対米外国投資委員会(CFIUS)の企業審査を厳格化してから急減した。CFIUSは米政府の複数の省庁でつくる組織で、安全保障上の観点から外国企業による投資を審査・規制している。新たな規制により、バイオテクノロジーや半導体など「重要技術」に関わる投資案件をすべて審査するようになった。それまで審査対象は米企業への支配権を握る案件に限られていた。

     

    (4)「米調査会社ロジウム・グループによると、中国のベンチャーキャピタルによる19年の対米投資額は25億ドルと前年比ほぼ半減した。20年1~6月期は8億3000万ドルだった。ロジウムのアナリスト、アダム・ルイセンコ氏は重要産業とされる分野への投資がなお続いている理由について不明だと話す

     

    トランプ政権が、対中で急ブレーキを踏んだので重要技術の中国への漏出に待ったが掛っている。19年の中国による対米投資額は25億ドル、前年比ほぼ半減した。20年1~6月期は8億3000万ドル。年率換算では、約17億ドルになろう。18年を50億ドルとすれば、20年はその3分の1へ縮小する計算だ。

     


    (5)「前述のルイセンコ氏は、「中国の国策ファンドの多くは国家目標を達成するためならば世界中のどんな資産にでも投資する使命を担っている」と説明する。「CICFは数百社に上る巨大な国内ネットワークを持ち、複数の投資を経由して海外企業ともつながっている」という」

     

    中国は、米国だけに網を張っている訳でない。世界中へ鵜の目鷹の目である。特に、イスラエルに注目している。半導体技術で先端を走っているからだ。米国務長官がわざわざイスラエルへ飛び、「中国に警戒せよ」と促すほどである。米国がバイデン政権になれば、同盟国を対中警戒で結束させるであろう。

      


     

     

     

     

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    文大統領の反日姿勢は、今年8月頃まで強硬であった。日本の軽空母よりも大きい軽空母を建造するようにと国防部へ発破を掛けていた。これを真に受けた国防部は、来年度予算で101億ウォンの予算を要求したが、企画財政部は建造根拠が不明として、たったの1億ウォンに削減した。大統領府の反日意識が低下した結果だ。文政権の反日姿勢は風見鶏である。

     

    『朝鮮日報』(12月4日付)は、「101億ウォン要求して100億ウォン削減された韓国型軽空母予算」と題する記事を掲載した。

     

    韓国の新年度予算が2日に確定した。ところが、文在寅(ムン・ジェイン)大統領の公約である軽空母配備のための事業予算は1億ウォンしか反映されなかったことが3日までに判明した。防衛事業庁(防事庁)が事業妥当性の研究もきちんと行っていない状態で無理に100億ウォン(約9億5000万円)台の予算を編成しようとして、予算編成当局から削られたのだ。韓国軍からは、十分に議論してもいない軽空母事業を無理に掲げてきたのではないか、という指摘が出た。

     

    (1)「韓国政府の関係者は「防事庁が軽空母建造のため来年度予算で101億ウォン(約9億6300万円)を要求したが、企画財政部(省に相当)における審議の過程で全額削減された」とし「軽空母が韓国の実情に合っているかどうかなどについての妥当性研究が完了していないから」と語った。韓国国会は、軽空母配備の研究委託費という名目で1億ウォン(約950万円)だけを来年度予算に反映した」

     

    軽空母とは、正規空母に比べて小型であり、「ヘリ空母」とも呼ばれて来た。韓国が、軽空母を持つ必要性があるのかという議論は、当時(8月頃)も提起されていた。その懐疑論を紹介したい。

     


    「軽空母は、5兆ウォン以上もの大変な予算がかかる事業だ。運用費もばかにならない。その効用性をきちんと問うてみるべきだ。空母保有国は、ほとんどが広い海や海外活動領域を持っている。日本の排他的経済水域は韓国の8倍を超える。専門家らは「韓国の近海、とりわけ西海(注:黄海)は幅が狭く、空母が作戦する上で極めて脆弱」と語る。中国は、「空母キラー」の対艦弾道ミサイルを実戦配備した。また中ロは、マッハ10以上の極超音速ミサイルも配備している。日本もきちんとこれについていっている」(『朝鮮日報』8月8日付)

     

    ここでは韓国が、軽空母を保持する必要性がないと言い切っている。あえて言えば、日本が持っているから、という理由だけである。今年8月といえば、文大統領は反日に燃えていた時期だ。「日本に負けない」という子どもじみた対抗心だけだったのだ。

     


    (2)「韓国政府は今年8月、「2021~25年国防中期計画」を発表し、今年末までに軽空母の概念設計を終え、来年から基本設計に着手して2030年初めに戦力化する-と表明した。事業費として数兆ウォン(1兆ウォン=約953億円)が投じられると予想されるが、来年度予算で関連部分がほとんど削減されたことにより、現政権の任期中に基本設計を終えることも難しいだろうという予想が浮上した。文大統領の公約である軽空母事業は、昨年から「大型輸送艦」事業として進められてきたものが軽空母事業へと拡大された。韓国軍は、軽空母事業のためF35A戦闘機の代わりに艦載用のF35Bを配備する計画も進めている」

     

    下線を引いた部分は、政府による国防中期計画である。その中に軽空母建造計画が盛り込まれていたのである。国防部は、この計画に沿って101億ウォンの予算を要求したが、1億ウォンに削減されたもの。これほど出鱈目な国防計画があるだろうか。当時は、「日本が憎いから負けじと軽空母を持つ」と決めた。だが、その後の外交政策で「日本依存」に切り替わった途端に、「軽空母不用」に転換したのだ。嗤うに嗤えない話である。

     

    韓国の対日姿勢は、これほど感情論に支配されている証拠である。歴史問題の蒸返しも感情論である。もっとはっきり言えば、劣等感がなせる業である。儒教では、韓国が優等国であり日本は「化外(けがい)」とされる野蛮国に位置である。こういう、根拠不明の優越感に浸っている韓国社会が、現実面では日本よりも大きく立遅れている。そのギャップが、劣等感を増幅するのであろう。韓国が常用句とする「日本より道徳的に上位」は、まさにこれであろう。

     

     

     

     

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    文在寅氏の性格について、本欄はこれまで種々の分析を重ねてきたが、生涯にわたり「学校秀才」の域を出られないようである。「1+1=2」という方程式からはみ出た回答はできないのだ。

     

    文氏は徴用工賠償問題でも、「被害者中心主義」を貫いている。これは、人権派弁護士の手法である。昨年12月、文・前国会議長が提案者になって「代位弁済」方式の解決案を議会へ提案した。この際、徴用工遺族など1万人が署名して、早期解決を申入れていた。だから、「被害者」は「代位弁済」に納得していたのである。

     

    この案を潰したのは、「反日」市民団体である。徴用工問題が解決すれば、反日活動ができなくなるという思惑であった。慰安婦支援団体は、反日を理由に募金を集め流用してきた。現在、係争中の事件である。

     

    『日本経済新聞 電子版』(12月4日付)は、「元徴用工問題、韓国側が投じた『凍結』 『弁済』案の波紋」と題する記事を掲載した。

     

    日本企業の資産の売却による現金化を2021年夏の東京五輪までは凍結(封印)する――。第2次世界大戦中に日本統治下にあった朝鮮半島出身の元徴用工訴訟をめぐり、韓国の要人が日本に投げかけた提案が波紋を広げている。

     

    (1)「『凍結』案を示したのは、韓日議員連盟の金振杓(キム・ジンピョ)会長だ。「韓日首脳が決断できれば最善だが、今できないなら東京五輪が終わるまで凍結(封印)しようと提案した」。11月中旬に来日し、菅義偉首相や日本の与党幹部らと面会した後に韓国紙・中央日報のインタビューで明かした。韓国国内では、具体的な凍結の手段として、裁判所が被告企業による不服申し立てや資産価値の確定などの手続きを遅らせる方法や、原告側は日韓政府が妥結に至るまでの延期に合意するなどの案が挙がっている」

     

    「凍結」案は、ただの時間稼ぎである。その間に、状況が好転するという淡い期待があればよいが、現実に日韓の感情的な拘りが解ける見通しはない。徴用工問題の解決主体は、韓国である。韓国に妙案を出せる自信があればともかく、ないから他力本願の「凍結」案であろう。

     


    (2)「凍結案とは別に、韓国の与野党内では、同国政府による「賠償金代位弁済」案を主張する声も多い。韓国大法院(最高裁)が日本企業に命じた賠償を韓国政府が立て替えて原告(被害者)に即時支払い、その後は原告に代わって韓国政府が日本に支払いを請求し続けていくという方式だ。次期駐日大使に内定している姜昌一(カン・チャンイル)氏は最近、日本メディアの取材に、解決法の一つとして、韓国企業などが中心となった代位弁済案を例示した」

     

    代位弁済は韓国政府が立て替えるが、最終的に日本に払えと言う魂胆ではとんでもないこと。韓国大法院の判決によって、日本企業が縛られる義務はない。すでに解決済みの問題であるからだ。「司法自制の原則」に則るべきである。

     


    (3)「凍結案、弁済案の実現には、それぞれ高いハードルがある。韓国ではもともと年明けの早い時期にも裁判所が韓国で差し押さえられた日本企業の資産売却を命令し、資産が現金化されるとの見方があった。「凍結案は、進歩(革新)勢力が朴槿恵(パク・クネ)前大統領を糾弾した手法そのものだ」と語るのは、保守系のジャーナリストだ。司法判断がときの政権の意向や民意に連動しやすいといわれる国柄で、政権与党の要人が凍結案に言及した意味は小さくない。司法側が「政権の意思」と受け止め、司法手続きに影響をもたらすとの指摘がある」

     

    韓国の日本企業の資産差押担当の裁判官は、日韓の政治情勢をみながら柔軟に対応する旨を、新聞インタビューで答えている。

     

    (4)「弁済案も簡単ではない。現金化の遅延による凍結案と同様に、当事者である原告側の同意が必要になるからだ。もし原告側で1人でも日本企業への賠償要求の旗を降ろさず、政府からの補償を受け取らなければ、「被害者中心主義」が崩れてしまうと文政権側が憂慮する可能性が大きい。原告側を弁済案で説得できる見通しは立っていない。日韓の交渉に重くのしかかるのが、「見えない原告」の存在だ。韓国政府が認めた「強制徴用動員被害者」は22万人に上る。一方、弁済案の対象としているのは大法院で判決が確定している分だけだ。日本側は全てを包含したかたちでの決着を主張している」

     

    文大統領は、人権派弁護士の感覚で「被害者中心主義」などと、格好を付けた発言をしているが、何万人にもなる人たちに、そんな夢のようなことを実現できるはずがない。こういうところが、「学校秀才」の限界である。時には、臨機応変という視点も必要になる。

     

    (5)「韓国では、「将来分に備えるには日韓基金の創設しかない」との意見があるものの、15年の日韓慰安婦合意と似た枠組みには文政権の抵抗感が強いとみられる。文政権の要人の間で、凍結案や弁済案の検討が進められているのは、従来に比べれば前進ともいえる。権力を握る青瓦台は具体案に言及していない。青瓦台事情に詳しい韓国外交筋は「文大統領は頭を抱えているようだ。『被害者中心主義』にこだわっており、在任中にリスク覚悟で決断するのは難しいのではないか」と語る」

     

    文氏は、教わったことを超えて決断できない人である。「1+1=2」から出られないのだ。日韓関係をメチャクチャにすることはできたが、修復方法について教えてくれた人がいなかったのであろう。文氏の在任中の解決は不可能であろう。

     

     

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