中国の王毅外相が、11月末に日韓両国を訪問した。米国に新政権登場前に、先手を打って「中国の存在をお忘れなく」というメッセージを伝えに来たのであろう。とりわけ、韓国には、米韓同盟へのくさびを打ち込むという目的が明白であった。
王毅氏は、日韓に対して日中韓3ヶ国のFTA(自由貿易協定)の締結交渉促進を持ち出してきた。この3ヶ国でFTAを結びたいという狙いは、米中デカップリング(分断)による中国の打撃を3ヶ国のFTAでカバーしようというものだ。米中デカップリングは、中国の海洋進出を防ぐ安全保障上の目的である。中国と経済圏を異にして、中国の野望を阻止するものである。
中国は、TPP(環太平洋経済連携協定)へ参加したいとも言い出している。手当たりしだい、日韓へ経済的に接近しようという狙いは、米中デカップリングの大波を少しでも鎮めようという苦肉の策であるに違いない。
韓国紙『東亜日報』(12月1日付)は、「王毅が切り出した『韓中日FTA』、まだ外交・経済リスクが大きい」と題する記事を掲載した。
最近、韓国と日本を歴訪した中国の王毅外交部長が、「韓中日間の自由貿易協定(FTA)」の推進を主張した。王部長は、康京和(カン・ギョンファ)外交部長官との会談で「韓中日間FTAを積極的に推進しよう」とし、日本外相との会談でもこれを強調した。中国の『環球時報』は、「韓中日FTAは、北東アジア地域の協力制度の不足を補うために有効だ」として、雰囲気の盛り上げに乗り出した。韓中日FTAは、期待される効果とともに、経済的、外交的リスクも大きいだけに、慎重にアプローチしなければならない。
(1)「韓中日FTAは、2013年から交渉が始まったが、重要な分野を巡る意見の食い違いと外交対立で交渉がなかなか進まなかった。世界経済の24%を占める三国が、商品やサービスの障壁を取り除けば、経済成長を促進する効果が生じる可能性があるが、その分リスクが大きい。世界的な製造業大国である3国は、半導体、自動車、鉄鋼などの主要輸出産業で重なる部分が多い。韓中FTAが2015年に発効したが、それ以上の開放は韓国産業に打撃を与える恐れがある。韓国と日本も、自国産業保護のために互いに開放を嫌う分野が多い。韓中日FTAは、これまで何度も議論されたが、それ以上進展しなかったのもこのためだ」
日中韓FTAでは、韓国にとっては致命的な打撃を受ける。日本からの工業製品が関税撤廃となればドッと入ってくるからだ。韓国の命綱の一つである自動車産業が、日本製に圧倒されれば、韓国経済が左前になるほどの影響を受ける。韓国経済は、日本経済のコピーであることを考えれば、その間の事情は明らかであろう。
(2)「政治外交的な面での含意も欠かせない。米国の政権交代を控えて、中国が地域協力と経済通商問題を切り出したのは、北東アジア地域での米国の影響力を牽制しようとする狙いが隠れている。これまで韓中日FTA交渉は、韓日が過去の歴史問題で対立し、中国が韓国の高高度ミサイル防衛システム(THAAD)を口実に中止するなど、政治外交的な影響を大きく受けた」
日中韓3ヶ国の外交関係も微妙である。日中は、尖閣諸島問題で対立関係。日韓は、歴史問題の蒸返し。中韓は、THAAD(超高高度ミサイル網)問題による中国から韓国へ経済制裁継続。三者三葉の対立要因を抱えている。「核心問題」ゆえに、解決は難しいのである。中国が、海洋進出政策を続ける限り、日中韓3ヶ国FTAは永久の検討課題に止まるであろう。
(3)「米国は、ジョー・バイデン次期大統領が「民主主義首脳会議」の開催を推進しながら、中国への牽制に乗り出した。バイデン次期大統領は、大統領選挙の過程で「世界民主国家が集まって民主主義体制を強化し、(民主主義に)逆行する国に対抗しよう」と主張したが、最近本格化の動きを見せている。米中の両方から引き寄せる力が大きくなり、韓国の「戦略的あいまいさ」は再び試験台に上がっている。米中の覇権競争で板挟みになるのか、戦略的活用で国益を高めるのかは政府のやり方次第と言える」
米国は、米中対立の中で日韓の同盟国との関係密接化を狙っている。日中韓FTAなど、とんでもない話であろう。米国が、むしろTPPへ参加して中国との遮断を急ぐ局面である。安全保障問題の視点が絡むと、経済と外交は別でなく政経は一体化する。韓国は、米中対立の中で曖昧戦略など不可能になる。韓国が、「戦略的活用で国益を高めるのかは政府のやり方次第」など、安易な夢は捨てるべきである。