勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2020年12月

    a0005_000022_m
       


    謎に包まれていた中国製ワクチンの全貌が分かってきた。ワクチン有効期間は半年で接種後もマスク着用という条件付きである。米英のワクチンから比べると、技術の劣等性は否定し難いようだ。この程度のワクチンをつくって「ワクチン外交」と称して、途上国へ売り込んでいたのだ。恐るべき強心臓である。

     

    『大紀元』(12月28日付)は、「北京、数百万人に承認前の中国製ワクチン接種を義務付け」と題する記事を掲載した。

     

    中国政府はこのほど、感染リスクの高い市民に対して、5000万回分の新型コロナウイルス・ワクチンを来年2月15日までに投与することを義務付けたと発表した。製薬会社による試験段階はまだ完了しておらず、規制当局の承認も得られていない。安全性に疑念を残している。

     

    (1)「中国の大手製薬会社・復星医薬は、ドイツの製薬会社バイオンテックと共同で開発したワクチンを1億回分発注したと発表した。バイオンテックは、ファイザーと提携して米国とEU市場向けにワクチンを供給しており、それぞれの規制当局から承認を得ている。両社は日本にも12月18日、ワクチンの製造販売承認を申請した。いっぽう、中国向けに開発されたワクチンはまだ第2相試験中だ」

     

    米国のファイザーやモデルナのワクチン製造方法は、革新技術の採用成果によるものである。ウイルスの遺伝情報の一部を接種することにより、体内でウイルスの一部が作られ、免疫ができる「mRNA(伝令RNA)」方式である。中国は、新たにファイザーと提携するドイツの製薬会社バイオンテックの技術を導入して、mRNA(伝令RNA)方式を採用する。まだ治験は第2段階であり、最終治験にまで進んでいない。この、mRNA(伝令RNA)方式が、中国の遅れたワクチン製造をテコ入れする。

     

    (2)「中国では15種類の新型ウイルスのワクチンが臨床試験に入ったという。このうち、5種は最終段階である第3相試験を行っており、有効性や副作用などを確認している。この5種は、中国医薬集団(シノファーム)傘下の中国生物技術(CNBG)の不活化ワクチン2種、北京科興中維公司の不活化ワクチン1種、軍事医学研究院と康希諾公司(カンシノ)が共同開発するアデノウイルスベクターワクチン、中国科学院微生物研究所と智飛生物公司が共同開発した組換えタンパクワクチンだ」

     

    中国では、不活化ワクチン製造法が主流である。ウイルスやウイルスの一部を、病原性をなくした上で接種して免疫をつけるものである。これが、伝統的なワクチン製造法である。

     


    (3)「中国国務院は12月19日、公式ウェブサイトで、中国製ワクチンの副作用について説明している。それによれば、副作用は主に頭痛、発熱、注射部位の発赤やしこり、咳、食欲不振、嘔吐、下痢など。通常、ワクチンを受けてから30分以内に副作用が現れるという」

     

    中国製ワクチンの副作用は、頭痛、発熱、注射部位の発赤やしこり、咳、食欲不振、嘔吐、下痢など。ファイザーやモデルナのワクチンに比べると、広範囲な副作用が現れるようだ。ファイザーやモデルナのワクチは、倦怠感と注射部位の発赤が見られるという。

     

    (4)「国務院は、ワクチンが人々を守るのは約6カ月間だけであるとの認識を明らかにしている。通知によると、「COVID-19ワクチンを接種した後も、マスクの着用、社会的距離の維持、こまめな手洗いなどを続ける必要がある。100%予防できるワクチンはない」と書かれている。ウイルス蔓延期間に海外へ働きに出た中国人労働者のなかには、中国製ワクチンを接種していても感染する例が出ている。ウガンダ、アンゴラ、セルビア各国のメディアや政府当局が伝えている」

     

    このパラグラフは重要である。ワクチンの有効期間は半年間である。ワクチン接種後も、マスクの着用、社会的距離の維持、こまめな手洗いなどを続ける必要があるという。この程度のワクチンでは、接種してもしなくても、大した違いはなさそうだ。名ばかりのワクチンである。「インチキ」という声が聞えそうである。

     

    (5)「中国国務院の共同予防制御機構は1219日の記者会見で、ウイルス・ワクチンを優先的に接種する「ハイリスクグループ」を発表した。これらは、冷温物流業社の従業員、税関国境検査官、医療・疾病の管理者、農産物の露店市場や魚介類市場の労働者、公共交通機関の従事者など。中国国家衛生委員会の曾益新副主任は、ワクチンはまだ規制当局による市場販売を承認されていないと述べた。ハイリスクグループに加え、高齢者や合併症のリスクのある人は、規制当局の承認を得た後ワクチンを接種することになると述べた」

     

    下線部のように、ハイリスクグループなどの人たちは、規制当局の承認を得たワクチン、つまり最終治験終了後のワクチンでなければ危険ということだ。

     

    a0001_001078_m
       


    ユン検察総長は、行政裁判所によって大統領の「停職2ヶ月」が覆され職場に復帰した。これに対して、与党「共に民主党」議員が大荒れである。自ら反省することなく、野党・メディア・裁判所がグルになってユン検察総長を復帰させたと騒ぎ立てているのだ。常識を疑わせるこの騒ぎに、改めて韓国民主主義の未成熟さを指摘せざるを得ない。

     

    『ハンギョレ新聞』(12月28日付)は、「韓国検察総長の復帰、文大統領が謝罪しても与党は“激昂” その背景とは」と題する記事を掲載した。

     

    韓国の裁判所は24日夜10時ごろ、ユン・ソクヨル検察総長が懲戒処分を不服として提起した執行停止申立てを認めた。文在寅(ムン・ジェイン)大統領は16時間後の25日午後2時20分、「裁判所の決定を尊重する」として判決を受け入れると共に、「混乱を招いたことに対し、国民にお詫び申し上げる」と述べ、国民に謝罪した。

     


    (1)「与党の共に民主党の反応は違った。「制度改革で検察改革を完遂する」という党の立場とは裏腹に、「ユン総長の弾劾」や「検察捜査権の完全廃止」、「判事カルテル(の解消)」など、強硬発言や主張が相次いだ。こうした反応の背景には「メディアや保守野党、検察が共に民主党を攻撃している」という認識が色濃く残っている」

     

    このパラグラフで取り上げられている言葉は、韓国人の特性を実によく表わしている。すべて、他人のせいにして自己責任を回避していることだ。自分は悪くない。悪いのは相手であるという屁理屈である。

    「判事カルテル(の解消)」

    「メディアや保守野党、検察が共に民主党を攻撃している」

    大統領と与党に不利な裁判所の決定が出ると、普通は「裁判所の決定を真摯に受け止める」と発言するところだ。それが、裁判所を含めてメディア・野党・検察と一括りして攻撃している。

     

    この民族特性は、遺伝子であるから直るはずがない。日韓問題の根底も、この「自分は悪くない。悪いのは日本」という屁理屈が隠されているのだ。

     


    (2)「与党議員たち個人の間では強硬発言が相次いでいる。キム・ドゥグァン議員は前日に続き、27日にも「弾劾と同時にユン総長とその家族に対する特検を進めたり、公捜処でユン総長個人の犯罪行為に対する捜査に着手すれば、憲法裁を説得することができる」と主張し、再び弾劾論を展開した」

     

    ユン総長を弾劾し、ユン総長の家族を特別捜査してあら探しをしようという提案である。なんとまあ、レベルの低いことを言っているのか。司法の政治的中立性という「金言」を理解するにはほど遠い低い知性レベルの発言である。

     

    (3)「イ・ヘチャン(前)代表時代に秘書室長を務めたキム・ソンファン議員は、フェイスブックに「公捜処発足を控え、検察の強い抵抗に隠れていたが、一部判事も自分たちの既得権益カルテルが壊れることを快く思っていないようだ。司法と検察の過剰な政治化が民主主義を根本的に損ねる恐れがある。これからはオンライン上で巨大な既得権益カルテルに対抗するろうそくを掲げなければならない」と書き込んだ。

     

    裁判所判事が、既得権益カルテルを結んでいるという、信じがたい発言である。判事が、カルテルを結ぶとはどういう意味か。理解不可能な発言である。

     

    (4)「キム・ビョンギ議員は、「左遷され、閑職に追いやられていたユン検事を破格的に抜擢したのが文大統領だ。ユン総長は大統領に心から感謝すべきであり、人間としての道理も尽くすべきだ」と主張した」

     

    このパラグラフに至っては、卒倒するような内容だ。文大統領に検察総長に指名された恩義を考えろという、朝鮮李朝時代の認識である。これが、進歩派を名乗っているから恐れ入る。

     

    (5)「イ・ナギョン(与党)代表もこのような反発に加わった。イ代表は「裁判所の決定を尊重する」という文大統領のメッセージが発表された直後、フェイスブックに「大韓民国が司法から過剰な支配を受けているという国民の懸念が高まっている。政治の司法化、司法の政治化が限界を超えたという嘆きも聞こえる」という書き込みを残した。裁判所が“政治的判決”をしたのではないかと、遠回しに非難したのだ」

     

    イ・ナギョン氏は、東亜日報記者出身で東京特派員経験もある。次期大統領の有力候補の一人である。下線部は、完全に狂った認識である。司法は政治的中立が保障されているのだ。その現実を忘れて、司法が政治を支配していると的違いの発言をしている。絶句するほど、浅薄な知識である。

     


    (6)「党内では今回の事案を「保守メディアと法曹、野党の『国民の力』が一丸となって動いた結果」と見る認識が広まっている。「検察は、検察-メディア-保守野党につながる強固な既得権益同盟の先鋒だ。検察を改革しなくては大韓民国の未来も民主主義の発展も大統領の安全も保障できない」というキム・ドゥグァン議員の発言は、こうした認識をよく表している。ある再選議員は「『カルテルの結果、このような判決が出た』という主張には同意しないが、『そのようなカルテルが形成されており、作動している』ことについては、私をはじめ党内で共感が広がっている」と述べた」

     

    『ハンギョレ新聞』は、文政権支持メディアである。だから、無意識のうちに文政権を庇っている。「検察は、検察-メディア-保守野党につながる強固な既得権益同盟の先鋒だ」という記事に批判的なニュアンスは感じられない。「その通り」というのであろう。なぜ、こういう「敵・味方論」でしか物を見られないのだろうか。そこには、「反省」の二字は存在しない。

     

    『ハンギョレ新聞』は、社説などで実に立派なことを主張するが、こういうドロドロした問題になると、お里が知れる記事を書く。これが、韓国進歩派の限界であろう。

    118
       

    5年前の今日(2015年12月28日)、日韓慰安婦合意がソウルで締結された。安倍首相が訪韓して、朴槿惠(パク・クネ)大統領と合意書を交換した。大統領府で行われたが、韓国側は昼食も出さない冷たい仕打ちをした。

     

    こういう経緯で交わされた日韓慰安婦合意が、文大統領によって無残に破棄された。以後、この問題について日韓は、没交渉である。日本が応じる必要のないのは当然としても、韓国は破棄したままである。

     

    『中央日報』(12月28日付)は、「5年前の慰安婦合意を霧散させて無為に歳月を送った韓国政府」と題するコラムを掲載した。筆者は、ホン・スンギ/仁荷(インハ)大法学専門大学院教授である。

     

    朴槿恵政府2015年12月の韓日慰安婦合意から28日でちょうど5年だ。満点合意ではなかったが、それでも同年韓日国交正常化50周年を迎えて成し遂げた相当な成果だった。



    (1)「当時の合意文には旧日本軍の関与を認め、日本政府の責任を明示し、日本の首相の深いお詫びが入った。日本政府の予算で慰安婦被害者の名誉と尊厳の回復および心の傷の治癒に向けた事業を進めることを確認し、これを受けて2016年7月「和解・癒やし財団」が発足した。その後、日本政府が10億円を送金し、財団は当時まで生存していたおばあさん47人中35人に1億ウォンずつ(現レートで約941万円)を、死亡慰安婦199人の遺族64人に2000万ウォンずつ支給した」

     

    元慰安婦とされる人たち47人中35人が、日本政府の送金を受領した。これは、受取り拒否を働きかける市民団体の騒ぎを無視したものだ。慰安婦問題は、当事者の意思を離れて、外野席の市民団体が騒いでいたのが真相である。

     

    (2)「韓国社会での慰安婦議論は、1990年11月に設立された挺対協(その後「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯」)が、恣(ほしいまま)にしてきた。1995年村山首相時期、「女性のためのアジア平和国民基金」が発足した。挺対協は日本「国会立法」による「国家賠償」を主張して受領拒否を求めたが、挺対協の非妥協的路線に対して故・沈美子(シム・ミジャ)さんのように強く反発する被害者もいた」

     

    韓国の市民団体は、日本に謝罪させることが目的で慰安婦問題を利用してきた。その後に露見したが、市民団体は募金を横領し自らの懐を温めた不法行為を行っていたのだ。あくどい行為である。

     

    (3)「このように政府に対する挺対協の圧力が、慰安婦問題解決を困難に陥らせた事例は多い。2011年12月、韓日首脳会談で日本の意味ある非公式提案があったが、李明博(イ・ミョンバク)政府は挺対協の注文に従って「日本国家の責任」を守って交渉が成果なく白紙に戻った」

     

    韓国では、得体の知れない市民団体という圧力集団が存在する。一見、正義を旗印にするが、国会議員に当選するための選挙運動に利用しているケースが多い。市民団体は本来、非営利・非政治が原則である。韓国では、このNPO原則が無視されているのだ。

     


    (4)「文在寅(ムン・ジェイン)政府は、韓日慰安婦合意2周年だった2017年12月27日、「朴槿恵政府の合意検討結果報告書」を出した。報告書は「被害者中心的アプローチが欠如し、秘密交渉で民主的統制を逃し、外交政策決定権限が青瓦台(チョンワデ、大統領府)に集中して主務部署である外交部が助演にとどまった」と批判した」

     

    文政権は、前政権を非難するために日韓慰安婦合意を破棄したのだ。外交交渉には秘密主義を伴うもの。外交交渉の原則を知らない素人の戯言である。外交交渉の過程を記録した文書は、何十年か後に公開される理由はこれだ。

     

    (5)「康京和(カン・ギョンファ)外交部長官は、「日本政府が拠出した10億円に相当する103億ウォンを韓国政府予算で充当する。10億円の今後処理方案に対しては日本政府と協議していく」と発表した。2019年1月21日、女性家族部が和解・癒やし財団の設立許可を取り消し、これで韓日合意は事実上廃棄された。その過程で相手国の立場は眼中になかった」

     

    下線部のように、文政権はド素人政権である。感情のままに動くので、冷静になって見ると、取り返しのつかないことをやっているのだ。外交は、ママゴト遊びではない。国家の命運を賭ける真剣勝負である。文政権は、その真剣勝負の結果を反古にしたのである。日本政府が、韓国を相手にしないのは当然である。

     


    (6)「文在寅政府は前政府の慰安婦合意を積弊扱いして散々けなしたが、いざ自分たちは過去3年間慰安婦問題を全く解決することができなかった。むしろ後退した。47人いた被害者は今や16人だけしか残っていない。文大統領は「二度と日本に負けない」と豪語した。チョ・グク氏は突拍子もなく『竹槍歌』を叫び、「挺対協を非難すれば親日派」という脅迫の言葉が飛び交った。だが、挺対協の活動を足掛かりにして国会議員になった尹美香は、結局横領・背任・詐欺など8件の容疑で起訴された。文政府は、慰安婦問題を解決しないで過去3年余りを無為に過ごした。果たして、文政府に慰安婦問題解決意志が本当にあるのか、尋ねざるをえない」

    韓国は、日韓慰安婦合意を破棄したが、日本側は破棄を認めていない。ということは、日本にとって慰安婦問題は解決済みであり、「少女像」を拒否できる権利があるのだ。こういう外交的な弱みを抱える文政権は、外交音痴と言うほかない。愚かなのだ。

    a1180_012431_m
       

    アリババ傘下の金融会社、アント・グループの実質的オーナーであるマー氏は10月下旬、講演で金融当局の監督姿勢に不満を述べた。以来、メンツを丸潰された中国当局が、アント・グループ規制に乗出したというイメージである。だが、この話はメンツという次元の低い問題でない。中国の金融構造と深く関わった問題である。

     

    アント・グループの急成長が問題というよりも、中国の金融システムをどのように構築するかという当局の構想力が不足していた結果である。歴史的に、中国の最大の弱点は、金融構造が複雑怪奇であることだ。自然発生的に任されており、日本が明治初期以来、欧州の金融システムを組織的に導入するという「知恵」も「工夫」もなかった。そういう認識欠如が、現在の「アント問題」を招いた原因であろう。

     


    『日本経済新聞 電子版』(12月27日付)は、「中国金融当局アントを聴取『企業統治が不健全』」と題する記事を掲載した。

     

    中国金融当局は12月26日、アリババ集団傘下の金融会社であるアント・グループを聴取した。人民銀の潘功勝副総裁は、「企業統治が不健全」など問題点を指摘、決済という本業への回帰を求めた。十分な資本の確保も指示した。

     

    (1)「人民銀などが27日、記者の質問に答えるという形でアント聴取に関する文書を公表した。潘副総裁はアントが抱える問題について企業統治に加え、順法意識の希薄さ、優越的な地位を利用して同業他社を排除したこと、消費者の利益を損ねた点を挙げた。アントはスマートフォン決済で5割強の市場シェアを握る。10億人規模の利用者を持つ「プラットフォーマー」の地位を生かし、銀行への融資仲介などで多額の利益を上げてきた。金融当局はアントが受け取る高額の手数料が銀行の経営体力を奪い、金融システムのリスクになり得ると問題視してきた

     

    中国当局が、この時点で「アント規制」に乗出したのは、中国金融システムが重大な危機を迎えているというシグナルであろう。アントが、すでに大手国有銀行並みの預金を持っていること自体、中国の「信用創造機能」に重大な影響を及ぼしている。ここまで、放置してきた当局に問題がある。

     

    アントは、消費者の決済機能だけ付与されていれば問題なかった。それが、預金・貸付の機能まで認められたこと自体に、今回のような問題を引き起こす素地があった。つまり、MMF(マネー・マーケット・ファンド)を認めたことが混乱の発端である。MMF解約はスマホで簡単にでき、MMFに戻された資金は再び支払いに使える。銀行預金より高い利回りで提供したため、アリペイの利用者は銀行口座から余額宝に資金を移したのでる。

     

    こうした業務が、アントによって勝手に行われたはずはあるまい。その時々に、当局は承認していたであろう。無届けで行ったとすれば、刑事罰を受けるはず。そういう話も聞かないから、当局が承認していたのだ。多分、「消費者の利便」という理由が決め手になっていたはずだ。これが積もり積もって、中国の金融システムを揺るがす事態になった。つまり、金融危機へのシグナルを引き起しているのだ。アントが「太った」分、銀行が「痩せほとる」状態に追込まれた。それが、金融システムを全般的危機に追込んだのだろう。

     


    (2)「金融当局はアントに5項目の改善要求を突きつけた。本業回帰や資本の充足に加え、「監督当局の要求に基づき、規則に反する与信と保険、資産運用業務を見直すこと」を求めた。融資業務の監督強化を念頭に、金融持ち株会社の設立も指示した。できるだけ早期に業務の改革案とスケジュールを作成するよう要求しており、アントは「すでに着手した」などとするコメントを発表した」

     

    (1)のコメントで指摘したように、本業(決済機能)回帰や、資本の充実は不可欠であろう。与信と保険、資産運用業務を見直すことも要求されている。ここまで、要求が出たのは、アントの経営自体に問題があったのだ。いずれにしても、大幅な業務縮小要求である。

     

    (3)「これらの要求はアントにとって大きな打撃になる。アントの収益源はすでにスマホ決済から、融資や運用商品、保険の仲介など金融業務にシフトしているためだ。企業統治に問題があるとの指摘も、投資会社を通じて経営権を実質的に握る馬雲(ジャック・マー)氏の退陣を暗に求めている可能性がある。アントは11月に株式公開を予定していたが、当局の監督方針の変更を理由に延期を余儀なくされた。今回の金融当局の要求でアントの収益下振れは避けられず、上場時期は一段と不透明になった」

     

    中国全体の金融システムを安定化させるためには、アントの業務縮小が不可欠である。来年の中国経済にとっては、金融システムの安定化が鍵を握る。この点は、すでに中国人民銀行総裁自らが言明していることだ。アント問題は、マクロ金融の視点で捉えなければダメであろう。

     

       

    文政権の持つ潜在的危険性を露呈

    素人集団「86世代」が権力中枢

    北朝鮮の「チュチェ思想」に固執

    韓国「ドン・キホーテ」の結末?

    権力は絶対に腐敗するという教訓

     

    現在の韓国社会は、コロナ第3波に襲われながらワクチン手当が完全に出遅れ、無力感に襲われている。文在寅(ムン・ジェイン)政権が「K防疫モデル」を喧伝していたので、国民は素直にそれを信じていたのだ。現実はそれと裏腹で、「K防疫モデル」の破綻を示している。感染者数が、増加の一途である。病室・治療スタッフの不足にも悩まされている。

     

    文政権の支持率は現在、40%台を割ったままだ。35%を割れば、文政権も歴代政権と同じレームダックが不可避となろう。その瀬戸際に追込まれている。

     

    韓国の世論調査では、ワクチン接種に積極的という比率が80%台と極めて高い。日米の60%台をはるかに上回っているのだ。それだけに国民は、英米のワクチン接種のニュースをどんな気持ちで聞いているか。十分に焦燥感が想像できる。こうした不満と不安が、ワクチンを巡る「怪情報」を生んでいる。

     

    今回のコロナ大拡散が、来年4月の補欠選挙を狙った陰謀という説だ。わざわざコロナを広めるためにだれが何をし、政府が補欠選挙に合わせて治療剤を出すだろうという、陰謀説が話題をさらっているという。与党が、4月の総選挙で系列政党を含め180議席と6割を占める大勝を勝ち取ったのも、K防疫成功という政府の自画自賛が効いた結果である。これからの連想が、種々の噂を生んでいるのであろう。政府が、再び補欠選挙に勝つために「奥の手」を出すのでないか、というのだ。

     

    文政権の持つ潜在的危険性を露呈

    文政権支持率を引下げている要因は、K防疫モデルの失敗のほかにもう一つある。ユン検察総長追放劇が、行政裁判所による「停職2ヶ月」停止の決定で白紙となったことである。文大統領裁決による「停職2ヶ月」が覆されたのだ。今年1月から始まったユン検察総長追放劇は、チュ法務部長官が政権にまつわる犯罪捜査を妨害する目的であった。「検察改革」なる機構改革は、政権の犯罪捜査を妨害する意図であったことを明白にさせた。

     

    文政権によるユン検察総長追放劇は、裁判所の決定で不発に終わったが、文政権の持つファシズムという民主主義弾圧の危険性を露呈するものだった。文政権は、進歩派を名乗っている。進歩派と言えば、欧米の常識ではリベラル(自由主義)として理解されている。韓国の進歩派は、驚くことに党利党略目的からリベラルを圧殺する危険性を示した。

     

    これは、北朝鮮へのビラ散布禁止法の成立でより明確にされた。国連や米国からは、北朝鮮の人権弾圧に手を貸す法律として、厳しい批判を浴びている。米国では、来年1月早々に超党派による議会の公聴会が開催される。韓国の同盟国である米国が、こと人権問題になると、容赦なく追及する姿勢を見せているのだ。文政権が、北朝鮮へ宥和姿勢を取り続けていること。中国への「二股外交」で、米韓同盟にひび割れをもたらすなどの危惧も重なって、文政権は米中選択を迫られる局面を迎えようとしている。

     


    韓国メディアによれば、韓国は金大中(キム・デジュン)、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権当時、人権先進国という自負心を抱くことができたという。当時、国際行事に参加すれば、多くの外国人が韓国政府の人権政策と市民社会の高い人権意識を評価した。これは、民主的な方法で軍事政権を倒したという実績があったからだ。今の韓国の人権政策は、国連と国際社会の憂慮と批判の対象になっている。文政権が、前記の金大中政権や盧武鉉政権とは変質している結果だ。同じ進歩派の看板を掲げているが、完全に「羊頭狗肉」と化している。

     

    素人集団「86世代」が権力中枢

    韓国で現在、50代の「86世代」(1960年代生まれで80年代に大学生活を送った人たち)で学生運動に携わった面々が、韓国大統領府や政府で主要ポストを占めている。市民団体の最大組織である「参与連帯」出身者が60人を超えるという。文政権の権力機関を掌握しているのはソウル大出身者ではなく、これら参与連帯出身者だと言われているのだ。

     

    派手な学生運動をやって火焔瓶を投げた武闘派には、ソウル大学という未来の出世を約束されている学生は加わらなかった。他大学出身者が武闘派のトップを占めたのだ。日本でも全共闘リーダーは、東大学生でなく他大学学生であった。韓国の「非ソウル大出身」の人たちはソウル大学を憎み、文政権になって「ソウル大学廃校論」を唱えるほどだった。こういう権力機関と無縁の層が現在、政権を握っているのである。その政策的混乱ぶりは、推して知るべしであろう。(つづく)

     

    このページのトップヘ