勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2020年12月

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    中国が開発したコロナワクチンは、有効性について未発表である。理由は、有効性が劣るからであろう。そこで、ついに米国のファイザーやモデル両社の生産方法を後追いすることになった。

     

    中国のコロナワクチン製造方法は、伝統的方式であるウイルスやウイルスの一部を、病原性をなくした上で接種して免疫をつけるものである。この有効性が50%程度とされている。

     

    米国のファイザーやモデルナのワクチン製造方法は、革新技術の採用による成果であった。ウイルスの遺伝情報の一部を接種することにより、体内でウイルスの一部が作られ、免疫ができる「mRNA(伝令RNA)」方式である。

     

    この革新技術によって、開発時間が脅威的に短縮され、有効性も90%台という従来の常識を打ち破る成果を上げた。中国が、スパイを使って必死にこの技術窃取に力を入れようとしていた理由である。中国も後追いで、メンツを捨てて「mRNA(伝令RNA)」方式の生産を開始することになった。

     

    中国の旧来方式によるワクチンは、ブラジルで最終治験を行っている。成果は芳しくなく結果発表が延期されるほどだ。

     

    『日本経済新聞』(12月24日付)は、「ブラジル、中国ワクチンの治験結果の公表先送り」と題する記事を掲載した。

     

    ブラジルのサンパウロ州は23日、中国の製薬会社、科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)が同州で実施している新型コロナウイルス向けワクチンの臨床試験(治験)について、有効性は50%以上に上るとの見方を示した。ただ結果公表は見送り、薬事当局への申請も先送りした。

     

    (1)「シノバックのワクチン「コロナバック」については、サンパウロ州にあるブタンタン研究所で7月から治験を続けている。同州のジェアン・ゴリンシタイン保健相は、緊急使用に必要な「有効性は確認されているが、再評価が必要だ」と指摘した。当初は12月上旬にも治験結果が公表される見通しだったが、遅れている。今後15日以内で結果を公表したい考えで、ブラジル国家衛生監督庁(ANVISA)への申請を目指す」

     

    中国製ワクチンの最終治験が今後、公表されるのは世界で初めてである。これまで、断片的に報じられたが、報道陣に公開されることはなかった。当初は、12月上旬にも治験結果が公表される見通しだった。遅れているのは、有効性が芳しくないのであろう。仮に、50%見当とすれば、米国のファイザーやモデルナ両社のワクチンから著しく見劣りする。

     

    中国は、大宣伝してきた自国製ワクチンが米国製に比べて著しく見劣りすることから、米国と同じ「mRNA(伝令RNA)」方式の生産に着手することになった。

     


    『朝鮮日報』(12月22日付)は、「中国もモデルナ・ファイザー方式のワクチン工場を建設」と題する記事を掲載した。

     

    中国が、新技術のメッセンジャーRNA(mRNA、伝令RNA)方式による新型コロナウイルスワクチン製造工場を建設する。中国でmRNAコロナワクチンの工場が建設されるのは今回が初めてだ。

     

    (2)「新華社通信と中国新聞網は22日、雲南省玉渓市にmRNA方式のコロナワクチン工場を建設し、年間1億2000万回分のワクチンを製造する計画だと報じた。中国は8か月以内に工場を完成させ、来年下半期にはワクチンを出荷する予定だ。工場の起工式は前日に行われた。ワクチンは、人民解放軍軍事医学研究院、蘇州艾博生物科技、雲南沃森生物技術が共同で開発した。このワクチンは独自の知的財産権を保有し、核心原料と設備を国産化した。今年6月に国家薬品監督管理局の薬物臨床試験の承認を得ており、近く第2相臨床試験に着手する」

     

    中国が、mRNA方式のコロナワクチン工場を建設するのは、事実上の敗北宣言である。米国式の技術に転換しようというものだ。

     


    (3)「研究チームは、このワクチンが動物の体内で高い水準の中和抗体と特異的T細胞の免疫反応を誘導することができ、安全性と免疫原性が優秀だと主張した。また、2~8度の保管が可能で、安定性に優れているとアピールした。雲南沃森生物技術の李雲春会長は「mRNAワクチンには高い技術障壁がり、現在は米国とドイツの少数の会社だけが技術を保有している」と話した。mRNAワクチンは第3相臨床試験を実施しているワクチンの中で、有効性が95%で最も高い」

     

    こういう書き方は不謹慎だが、中国は米国のmRNA方式のコロナワクチン技術を窃取したのだろうか。あれだけ猛烈なスパイ活動を行っていたのだから、何らかのヒントを得たに違いない。それにしても、メンツをかなぐり捨てて米国2社に追随するのは、有効性において相当の開きがあるのだろう。


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    中国経済にとって、当面の問題は金融の安定化である。今回のパンデミックで、金融の量的な超緩和を行い経済の下支えを行った。先進国では利下げによる質的緩和も図ったが、中国では不動産バブルに火を付けることを警戒していた。その分、量的緩和が大きかったのだ。

     

    中国人民銀行(中央銀行)金融研究所長は、「中国の市場金利は自然利子率(注:貯蓄と投資の均衡利子率)を下回っており、資源の配分に歪みが生じ、モラルハザードを生み出す可能性がある」(『ロイター』(11月18日付)と指摘するほどだ。行き過ぎた量的緩和が、市場金利を異常低下させている。

     

    このように、中国経済は大規模な不動産バブルが発生しやすい状況を生んでいる。だが、アリババ集団や騰訊控股(テンセント)は金融業にも手を伸ばしており、中国の金融システムを脅かす存在になっている。中国人民銀行が金融政策を発動しても、IT企業の金融部門の肥大化で効果を減殺する恐れが強くなってきたのだ。この問題は、2~3年前から顕著であった。もはや、放置できない限界点にぶつかったと見るべきだろう。

     

    『日本経済新聞 電子版』(12月24日付)は、「中国、デジタル人民元が阻むアリババ帝国」と題する記事を掲載した。

     

    中国政府がかつて保護していた巨大IT(情報技術)企業のアリババ集団や騰訊控股(テンセント)の事業拡大の阻止に動き始めた。金融業にも手を伸ばし、既存の金融システムを脅かし出したからだ。とはいえ中国政府は影響力の大きさから全面規制はできない。こうしたなかでデジタル人民元がIT企業から決済事業を奪い、拡大に歯止めをかけるとの見方が浮上する。ITから流通、金融へと「領土」を拡大してきたアリババ帝国にも斜陽のときが訪れるのだろうか。

     

    (1)「中国の規制当局は12月24日、アリババが独占禁止法に違反した疑いで調査していると発表した。アリババ傘下の金融子会社のアント・グループも金融当局が聴取、指導する。アントはアリババのキャッシュレス電子決済サービスのアリペイを運営する。これに先立ち、中国共産党・政府は18日に閉幕した中央経済工作会議で「独占に強く反対し、無秩序な資本拡張を防ぐ」との方針を決めていた。11月にはアントの株式上場を延期させている。上海と香港に上場し、345億ドル(約3兆6000億円)を調達する計画だった」

     

    単純な独占禁止法の適用問題ではない。「無秩序な資本拡張を防ぐ」という言葉の中に、IT企業の金融部門進出を抑制する意図が覗われる。消費者が、ITで手軽に決済できるのは便利だが、そこに止まっていれば問題はなかった。預金と貸出という「疑似金融機関化」したことで、正規の金融機関から大量の預金が移動する羽目となった。

     

    この結果、金融機関では、預金減となり「信用創造」(預金の何倍もの貸出を行う)が不可能になったのである。現状は、ここまで来ており「疑似金融機関化」を阻止するのは当然のことである。当局は、アント・グループが香港と上海で予定していた新規株式公開(IPO)を急きょ中止させた。このIPOは資金調達額が史上最大の340億ドル(約3兆5460億円)程度になるとみられていた。

     

    (2)「当初、中国政府はアリババが始めたキャッシュレス決済を流通や金融を革新するテクノロジーとして保護し、都市部では現金が使われなくなるほどに浸透した。しかし電子決済のシェアはアリババのアリペイが55%、テンセントのウィーチャットペイが39%2社の寡占状況を生んだ。銀行の発行するデビットカード(銀聯カード)やクレジットカードの利用は大きく増えず、新興企業や消費者も借り入れを銀行ではなく、IT企業の金融事業に頼るようになった」

     

    中国が自慢したキャッシュレス決済が、時間の経過とともに想像以上の「鬼っ子」となって金融市場を攪乱することになった。中国の金融システムは複雑怪奇である。正規の金融機関が、個人を相手にした業務に不熱心であったという虚を、キャッシュレス決済で埋められていたのである。

     


    (3)「なかでも銀行の脅威となったのが、アリババの投資ファンドだ。アリペイ型の電子決済では銀行口座などのお金をアリペイに移して使う。アリババは利用者が使い切れなかった資金を銀行に戻さずに、アリペイから投資できる「余額宝」というMMF(マネー・マーケット・ファンド)をつくった。解約はスマホで簡単にでき、戻された資金は再び支払いに使える。銀行預金より高い利回りで提供したため、アリペイの利用者は銀行口座から余額宝に資金を移した」

     

    中国当局が、最初からしっかりした金融機構を設けずにきたことが、IT企業に金融機能を付与させるという失敗を招いた。その時々の「便利」という言葉に押し切られ、秩序ある金融機構を設計しなかった咎めである。責任は、金融当局が負うべきである。

     

    (4)「18年6月には余額宝系ファンドの資金規模が1兆8602億元(約30兆円)に上り、四大国有銀行の一角である中国銀行の個人の普通預金、1兆7986億元(17年末)を超えた。IT企業が国有銀行など既存の領域を脅かし始めると、中国政府はIT企業の金融事業に対して徐々に規制を強め、急成長していたネットを媒介とする小口融資に網をかけた。さらにアリペイやウィーチャットペイに銀行と同じように準備預金を中国人民銀行(中央銀行)へ積むことを義務付けた」

     

    MMFが、四大国有銀行の一角である中国銀行の個人の普通預金を上回る規模になったのは、明らかに当局の金融機構整備に反する事態である。そこまで放置したのは、当局の責任である。

     

    (5)「中国政府がこの状況を変えるゲームチェンジャーとして期待するのがデジタル人民元だ。姚前氏は中国人民銀行デジタル通貨研究所長の時代に「デジタル通貨の決済では仲介機能に依存しなくとも済む」と主張していた。現段階の構想では、デジタル人民元の利用者は預金口座を持つ銀行のデジタル人民元口座(デジタルウォレット)を設定し、必要な額を換えて使う。スマホに入れたウォレットからデジタル人民元を相手側に直接支払うことができる。これなら預金は銀行にとどまる」

     

    当局は、MMFの正常化策としてデジタル人民元の利用で乗り切ろうとしている。中国が、デジタル人民元に熱心な理由は、MMFの代替策であることだ。デジタル人民元は将来、基軸通貨米ドルの代わりを狙っていると説く者もいるが、そんな高尚な目的ではない。目前に迫って来た、肥大化するMMFを阻止する役割を担わせているだけである。

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    韓国の民主主義が、辛うじて生き残った。文政権によるユン検察総長「停職2ヶ月」の処分に対して、行政裁判所はこの処分を取消した。これで即時、ユン総長の職務復帰が実現する。24日のクリスマスイブは、韓国の良心派を安心させたであろう。

     

    進歩派の看板を掲げる文政権は、司法の中立性を冒すという重大な過ちを司法によって糺された。これで、文政権にまつわる疑惑が一挙に解明されるだろうが、「高位公職者犯罪捜査処」(高捜処)によって文大統領は事件もみ消しが可能である。だが、検察による疑惑捜査は可能である。起訴するかどうかは文大統領の息のかかった高捜処によって決められる。だが、国民の目を欺くことは不可能である。進歩派は、次期大統領選でその欺瞞性を批判されるだろう。

     


    『聯合ニュース』(12月24日付)は、「
    韓国検事総長が職務復帰、裁判所が懲戒処分の効力停止決定」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「韓国のソウル行政裁判所は24日、尹錫悦(ユン・ソギョル)検事総長が申し立てた停職2カ月の懲戒処分の執行停止に関する2回目の審理を開き、尹氏の訴えを認めて懲戒処分の効力を停止する決定を下した。尹氏は即座に職務に復帰する。尹氏は、秋美愛(チュ・ミエ)法務部長官の懲戒請求を受けて法務部の検事懲戒委員会が自身に対する停職2カ月の懲戒を決定したことを不服とし、17日に懲戒の取り消しを求める訴訟を起こすとともに停職の執行停止を申し立てていた」

     

    この決定は、韓国進歩派全体の敗北である。政権の犯罪捜査を中止させようという狙いは、進歩派の看板を掲げる政権の行うことでない。保守派以上の醜悪な実態を露呈した。口を開けば、「公正、平等、民主」と呪文のように唱える文在寅(ムン・ジェイン)大統領が、真逆のことをやっているのだ。文氏は、進歩・保守という区別を超えた、ただの民族主義者に過ぎない。文氏の最高の政治目的は、共産主義北朝鮮と合体することである。韓国の民主主義が滅びても、韓国は北朝鮮と一体化することで朝鮮民族は救われるという思想の持ち主である。

     


    文氏は、朝鮮民族と合体するためには、今後とも進歩派政権を継続させなければならない。そのためには、文政権の疑惑捜査を中止させる必要がある。そういう「信念」で、ユン検察総長排斥を意図したに違いない。その目論見が100%崩れたのである。韓国の民主主義が、土壇場で息を吹き返したのである。

     

    文政権支持メディアの『ハンギョレ新聞』(12月19日付)は、「停職2カ月の韓国検察総長の前に置かれた3つのシナリオ」と題する記事を掲載した。

     

    (2)「裁判所が近いうちに執行停止申立てを認容した場合、ユン総長は再び職務に復帰する。本案訴訟が確定するまでは長い時間がかかるため、来年7月までの任期を完全に全うできる。彼の復帰で懲戒が無意味になれば、これを裁可した文大統領への打撃が大きくなる。与党が反発している「月城(ウォルソン)原発1号機経済性操作」事件の捜査などにも弾みがつくものとみられる。ユン総長が強調した「生きた権力の捜査」の流れがさらに強まる可能性がある。ユン総長側が望んでいるシナリオだ」

     

    このパラグラフは、政権支持メディアならではの分析である。要約すれば、次のようになる。

    1)文大統領への打撃が大きくなる。

    2)与党の反発している疑惑事件の捜査が進展する。

    3)ユン総長による「生きた権力の捜査」がさらに強まる。

     


    文大統領の打撃は極めて大きい。自らが任命したユン検察総長に対して、「停職2ヶ月」を申し渡したのは、司法の中立性を冒したからである。文氏も弁護士出身である。司法の独立性は百も承知のはず。それが、自らの利害に関わる問題となれば、掟を破って政治介入する。これほど定見のない行動も珍しい。文大統領への打撃は大きくて当然なのだ。

     

    韓国の民主主義を守る上で、政権にまつわる犯罪を敢然と捜査する司法が存在することは、国の宝であるはずである。それを、「検察独裁」など罵って「検察改革」を行う意図が、そもそも邪悪なのだ。韓国政治が、この程度のレベルであることは、反日問題が後を絶たない理由であろう。


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    韓国は現在、ワクチン入手の遅れが大きな問題になっている。何ごとも比較対象にする日本が、具体的な接種日程を公表しているのに対して、韓国は未だに購入契約段階に止まっているからだ。

     

    韓国が、コロナワクチン購入契約で他国より遅れを取った理由は何か。ワクチン製造の新技術に関する理解が不十分であったことが原因である。新技術とは、ウイルスの遺伝情報の一部を接種することにより、体内でウイルスの一部が作られ、免疫ができるmRNA(伝令RNA)」方式である。米国のファイザーやモデルナが、この新技術でワクチン開発に成功し、今や世界的なワクチン製造技術の主流になった。

     

    ワクチン製造の新技術である「mRNA(伝令RNA)」方式は、米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』が、最初から克明に製造技術について解説しており、本欄もそれに基づき逐一取り上げてきた。韓国の情報入手には、大きな偏りがあったのだ。

     

    韓国は、伝統的なウイルスやウイルスの一部を、病原性をなくした上で接種して、免疫 をつける製造方式に固執した。韓国が、購入契約を結んだアストラゼネカのワクチン製造法は、この伝統方式によるもの。中国のワクチン製造法も伝統方式である。

     

    ワクチン確保に失敗したもう一つの理由は、国内での治療薬開発に期待を掛けすぎたことである。韓国は、感染症治療に当って多角的に臨むべき点で根本的な問題があった。余りにも、伝統方式と国産治療薬に拘ったのである。

     

    『中央日報』(12月24日付)は、「モサドも動員されたワクチン情報戦、韓国は9~10月に機会逃す」と題する記事を掲載した。

     

    韓国政府は最初からファイザーとモデルナのワクチンを導入する意志が弱かったことが分かった。両ワクチンは今回が初めてのmRNA(伝令RNA)方式であるからだ。このため伝統的な方式のアストラゼネカのワクチンに集中し、ファイザーとモデルナのワクチンの臨床試験進展事項を正確に把握できず、情報戦でも失敗したという評価が出ている。



    (1)「政府関係者は23日、「4月に新型コロナワクチンについて議論する際、専門家らは『ファイザーとモデルナのmRNAワクチンは世界で一度も成功していない方式であるため成功の可能性が低く、副作用を予想できない』と懐疑的な意見を出した」と明らかにした。続いて「ファイザーとモデルナのワクチンは国内の力量を総動員しても一日に10万人以上の接種は難しく、保管・輸送施設も十分でなく、これを消化できるほどの構造でないと判断した」と伝えた」

     

    韓国政府が、米国政府と連絡してmRNAワクチンの技術情報を入手する努力をすべきであった。

    (2)「アストラゼネカのワクチンに対しては前向きな反応を示した。この関係者は「アストラゼネカの伝達体方式ワクチンは伝統的であるため信頼性が高く、現在の薬品流通システムでも十分に供給および保管が可能だという結論を出した」とし「アストラゼネカの製品以外は事実上、代案にならないと判断した」と説明した」

     

    韓国のSKバイオサイエンスが、アストラゼネカのワクチンの委託生産を引き受けることになり、韓国政府は8月ごろ国内生産分のうち800万ドーズを受けることにし、その後の交渉で2000万ドーズに増やした。こうして一層、アストラゼネカに傾きファイザーやモデルナとの距離を広げた。



    (3)「その後、状況は大きく変わった。ファイザーは7月27日に第3相臨床試験に入り、11月9日に中間結果を発表した。モデルナも7月27日に第3相臨床試験を始め、11月16日に中間結果を公開した。政府ワクチン・治療薬TFチームに詳しい関係者は、「ファイザーとモデルナのワクチン購買にベッティングすべきだったが、そのようにできなかった」と話した」

     

    韓国政府はいったん、アストラゼネカのワクチン購入へ傾いたので、もはやファイザーやモデルナのワクチンへ購入契約を結ぶ意思をなくしていた。極めて硬直的な姿勢であった。

    (4)「ファイザーやモデルナ両ワクチンの臨床試験は、迅速に進行していた。韓国政府は、詳しい情報をまともに入手できず、11月の中・下旬にはすでに購入契約も難しい状況になっていた。情報機関のモサドまで動員したイスラエル政府とは対照的だ。モサドは海外情報網を稼働し、臨床試験の進行状況、安全性、効果などの情報を把握して対応した」

     

    韓国政府には、ワクチンが安全保障の一環という認識に欠けていた。思い込みでアストラゼネカだけに集中していた硬直性が、ワクチン入手を遅らせることになった。



    (5)「政府関係者は、「(国産)セルトリオンの抗体治療薬に対する信頼が非常に大きかった」とし、「セルトリオン抗体治療薬が世界で最初に開発される可能性が高いという報告を受け、そこに大きな期待をかけていた」と伝えた。「年末までに第3相臨床試験を終えることができると聞いた」ということだ。また「セルトリオンの技術陣を呼んで抗体治療薬の原理、成功の可能性などを多角的に確認したが、十分に根拠があると評価した」と話した。抗体治療薬への期待のためにワクチンにはそれほど大きな関心を向けなかったということだ」

    韓国政府は、国産の抗体治療薬開発に過大な期待を掛けていた。「K防疫モデル」に次いで「Kバイオ」で世界を驚かせようという政治的思惑が先行したのだ。国民の生命保護が、二の次になったことは疑いない。

     

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    EU(欧州連合)は2013年以降、中国と投資協定交渉を続けてきたが、協定締結前になって中国で拘留されている人権派弁護士らの釈放を要求した。従来であれば、「チャイナ・マネー」に目が眩んで、中国へ条件をつけるようなことは考えられなかった。それが、欧州版「マグニツキー法」によって、中国へ条件を突きつけたもの。中国が、応じなければ協定調印は難しくなるのだろう。

     

    「マグニツキー法」とは何か。

     

    ロシア人弁護士セルゲイ・マグニツキーは、モスクワで巨額横領事件を告発した。だが、1年以上も拘留され暴力を受け続け、2009年に獄中死した。米国はこの事件を受け、2012年、マグニツキー法を制定した。ロシアを対象としたマグニツキー法は、2016年に「グローバル・マグニツキー人権問責法」として新たに採用され、2017年12月より施行されている。


    2019年12月、EUがマグニツキー法に類似した法案を設定することに合意。2020年7月、英国で北朝鮮とロシアの49の個人・組織に対してマグニツキー法が発動された。新たに、香港やウイグル自治区の人権侵害が制裁の対象になるか注目されていたが、前述の通り中国へマグニツキー法を発動した。

     

    『大紀元』(12月23日付)は、「EU、高智晟弁護士らの釈放求める 中国との投資協定締結の前に」と題する記事を掲載した。

     

    年内にも中国と投資協定の締結を目指す欧州連合(EU)はこのほど、中国当局に対して、人権派弁護士や反体制活動家を直ちに釈放するよう求めた。EUは12月上旬、人権侵害者に制裁を科す欧州版「マグニツキー法」の導入を承認した。

     

    (1)「AFP通信社などによると、EUのジョセップ・ボレル外交・安全保障上級代表(外相に相当)は12月21日、著名な人権派弁護士の高智晟氏らを直ちに釈放するよう求めた。ボレル氏のスポークスマンが公開した声明では、EUは中国に国際人権法や刑事訴訟法の順守を要求した」

     

    EUが、欧州版「マグニツキー法」を導入したことは今後、中国との経済交流で人権弾圧を認めないという強い態度を示したものだ。この人権弾圧阻止の点で、米国とEUは同一歩調を取っている。それは、中国の軍事膨張に対してもドイツ、フランスの外に英国も西太平洋で米軍と行動を共にすることで一致した。

     


    英国・フランス・ドイツは、米国主導のインド太平洋戦略に参加すると宣言したのである。前記3ヶ国の戦闘艦の西太平洋派遣は、その後続措置といえる。これら3カ国は米国が構築した北大西洋条約機構(NATO)の核心国だ。欧州圏外の太平洋でも米国側に立つということを明確にしたのである。こうした背景の下に、EUは中国に対して強硬姿勢を取ることになった。中国にとっては強敵が現れたと言えよう。

    (2)「EUは年末に中国と投資協定締結を目指しているにも関わらず、人権問題で中国当局に訴えたのは異例のことだとみられる。中国当局とEUは、投資協定をめぐって2013年に交渉を始めた。協定は、相互に企業の投資保護、市場参入の規制緩和を目的にする。ボレル氏側の声明は、高智晟氏のほかに、人権派弁護士の李昱函氏や余文生氏、反体制活動家の黄琦氏、呉淦氏などの名前を挙げた」

     

    中国は、EUの人権派弁護士らの釈放要求に対して、どのように応えるのか。拒否すれば、投資協定は結ばれない。それは、中国経済にとってマイナスである。習近平体制にとって試金石となろう。

     

    (3)「高智晟氏は、2010~14年まで中国当局に「国家政権転覆罪」で拘禁され、残酷な拷問を受けた。14年8月、刑期満了で出所した。しかし、17年に再び中国当局に拘束された。これ以降、高氏は消息不明となった。一方、女性人権弁護士の李昱函氏は、15年7月の人権弁護士の一斉拘束、「709事件」で逮捕された弁護士らの弁護を請け負った。しかし、中国当局は17年10月、李氏を逮捕した。当局は李氏を遼寧省瀋陽市の留置所に3年以上拘束したにもかかわらず、裁判を行っていない。19年3月、李弁護士が拷問に抗議するため、ハンガーストライキを行ったとの情報が伝えられた」

     

    「国家政権転覆罪」などと、仰々しい犯罪名をつけているが、ごく普通の言論活動である。こうやって拷問に掛けている習近平体制は、罪深い存在である。

     


    (4)「ボレル氏は声明の中で、拘禁中の李弁護士は健康状況が悪化していると示した。声明は、「中国側に法治を充分に順守し、公正な裁判を行い、人権活動家とその家族への虐待や拷問を徹底的に調査するよう促す」とした。欧州理事会は12月10日、欧州版「マグニツキー法」を満場一致で承認した」

     

    この一件の結末は、極めて興味深いものとなろう。欧米が一体となって、中国の人権弾圧に立ち向かうことは、初めてのことだ。中国に、「内政干渉」という言葉で逃げ場所を与えてはならない。

     

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