文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、言葉巧みに相手に取り入ることの天才である。孔子は、こういう人間を「巧言令色、鮮(すくな)し仁」と喝破した。文氏は、その場限りの発言が多く、この「ラブコール」は時間が経てば、噓か誠かが自然に明らかになる。今年1月以来の言葉が今、試されようとしている。
『日本経済新聞 電子版』(2月26日付)は、「言葉のみか実行か 日韓占う3つのリトマス試験紙」と題する記事を掲載した。筆者は、編集委員の峯岸博氏である。
「マルロマン」。韓国語で「言葉だけ」「口先ばかり」を意味する。韓国の保守層が文在寅(ムン・ジェイン)大統領を批判する言葉で、最近の対日外交を評するときにも使われる。新年の記者会見で、日本企業や日本政府に賠償を命じた判決や裁判の手続きに懸念を示し日韓関係修復への意欲を力説してから40日近くたつが、目に見える新たな動きはない。迫り来る3つの関門が、文氏の覚悟を占うリトマス試験紙になる。
(1)「19日、ソウルの青瓦台(韓国大統領府)で珍しい出来事があった。韓国メディアによると、文大統領は李洛淵(イ・ナギョン)代表ら革新系与党「共に民主党」指導部と懇談した席上、旧日本軍による従軍慰安婦問題について「当事者の意見を排除し、政府同士で合意するには困難がある」と述べ、「日本による心からの謝罪にかかっている」との認識を示した。これは、1月の新年会見で述べた「政府の公式合意」「合意を土台に韓日間で解決策を協議したい」という文氏の発言から外れている」
文在寅なる人物は、「情緒人」である。そのときのムードに流されるタイプだ。冷徹であるべき政治家向きではない。悲しい映画を見ると、感情が昂ぶって泣き崩れるというのである。そういう「感性豊かな」人物が、慰安婦問題について理性的発言を貫くことは難しい。
(2)「この話には続きがある。与党指導部との懇談会から何時間もたたずに大統領府の報道官が「韓日関係正常化の努力が発言の趣旨だった」と文氏の〝真意〟をメディア側に追加説明したという。青瓦台が「日本は心から謝罪すべきだ」から一転、「韓日関係は重要」に変わった背景について、複数の外交専門家は「対日外交のスタンスを整理できず、混乱している」「内政の課題に追われ、検討が後回しになっている」と話す」
大統領府は、文氏の旧慰安婦寄り発言を訂正して、「韓日関係が重要」という、とってつけたような発表をした。文氏の心は、千々に乱れているのだろう。
(3)「漂流する文政権のリトマス試験紙がまず3月1日に控える。日本統治下の1919年に起きた最大の抗日独立運動「三・一運動」記念式典での演説だ。文氏がそこでも「心からの謝罪」を日本に求めるようなら元の木阿弥になる。意外なようだが、歴代大統領のこの日の演説は「未来」に重点を置く内容も少なくなかった。しかし、金泳三(キム・ヨンサム)、盧武鉉(ノ・ムヒョン)、李明博(イ・ミョンバク)各大統領のように、良好な滑り出しだった対日外交が次第に先鋭化していくパターンが繰り返された」
第1のカードは、3月1日にやってくる。その日は、日本統治下の1919年に起きた最大の抗日独立運動「三・一運動」記念式典日である。ここで何を演説するか。もし、「反日演説」すれば、ラブコールは噓であったことになる。
(4)「1月8日、ソウル中央地裁が日本政府に元慰安婦の女性12人への慰謝料支払いを命じた判決後、別の元慰安婦20人が日本政府に損害賠償を求めている訴訟の判決日程が1月13日から突如、延期された。その公判が3月24日、同じソウル中央地裁で弁論から再開する。これが2つ目のリトマス試験紙だ。今度こそは、主権国家は外国の裁判権に服さないとする「主権免除」の原則が認められるかが注目される。原告の主張を全面的に認める判決が続き、文氏がそれを黙認するようなことになれば、「文政権下での関係改善はもはや無理」とのムードが日本を覆うのは避けられない」
第2のカードは、3月24日から再開される別の慰安婦訴訟である。前回同様に、日本政府へ賠償を求める判決であり、文氏がそれについて沈黙していれば万事休すである。文政権下での関係改善は期待できないことになろう。
(5)「3つ目のリトマス試験紙は、与野党が激突する4月7日投開票のソウル、釜山両市長の補欠選挙だ。前評判ではソウルは接戦、釜山は保守系野党がややリードだが、首都決戦を革新系与党が制すれば、文氏の政権運営に弾みがつく。逆に2連敗するようなら文氏のレームダックが始まるというのが韓国政界の共通した見立てだ。気がかりなのは、釜山市長選で保守系野党が公約に掲げた、韓国と日本の九州を結ぶ海底トンネル構想を与党が「日本の利益になる利敵行為」と批判し、保守陣営に「親日派」のイメージをかぶせていることだ。韓国内では1990年代から検討されながらも、日本の政界ではほとんど話題になっていないにもかかわらず、だ」
第3のカードは、4月のソウル・釜山の市長選挙で与党が敗北すれば、文大統領のレームダック化が不可避となる。これによって、徴用工と慰安婦の賠償問題を解決する韓国案の審議は不可能になる。つまり、文政権は日韓関係改善を進める推進力を失うのだ。こうなれば、文氏は万事休すとなろう。
次の記事もご参考に。
2021-02-15 |
|
2021-02-22 |