韓国進歩派は、意味もなく日本を叩けば拍手喝采を受けるという不思議な雰囲気に浸っている。冷静な視点で日本経済を分析し、世界に通用するような内容の論文が現れないのは、「感情8割・理性2割」という国民性がしからしめる哀しい結果であろう。
『ハンギョレ新聞』(3月23日付)は、「日本は大韓民国の反面教師」と題するコラムを掲載した。筆者は、朴露子(パク・ノジャ) ノルウェー、オスロ国立大学教授である。
(1)「1990年代初め、私は当時流行したポール・ケネディ教授の『大国の興亡』(1987年)を読んでみた。500年間の覇権政治を明るみに出した名作であることは確かだが、同時に未来に対する予測がどれほど難しいかをよく示した事例でもあった。米国の覇権の衰退をきわめて理路整然と論じたその本で、著者は米国を抜き去り覇権国家として登場するかもしれない“未来の強者”として、他でもない日本を名指しした。1980年代中盤の日本こそが「最も未来性のある資本主義のモデル」に見えた」
日本経済が、破竹の勢いで成長できた理由は二つある。生産年齢人口比率の急上昇と保護貿易である。前者は、戦後の産児制限の結果、出生率が下がり生産年齢人口(15~64歳)比率が急カーブを描いて上昇した。後者は、輸入制限による国産技術の開発で、輸出を急増させた。中国の急成長要因も、ほぼ日本と同じである。ただ一点異なるのは、国産技術の開発でなく、先進国技術の窃取である。
(2)「日本の“成長時代”は過去の神話になってしまった。国内の総需要が増えない状況で、政権がいくら量的緩和を通じて経済に資金を注いでみても、成長鈍化の傾向を免れることはできない。総需要が増えない自明な理由は、新自由主義的非正規職の量産などがもたらした大々的な“貧困化”だ。非正規職労働者が雇用労働者全体の38%も占める日本の貧困率(15%)は、米国(9%)より高く、平均賃金は米国の約75%程度にしかならない。日本の自殺率も米国を含む多くの欧米圏国家よりはるかに高い。2011年以後には高齢化と少子化による総人口減少傾向まで加わって、「日本に未来があるのか」というような質問を投げる人々の数はずっと増えていっている」
この論文の筆者は、ノルウェー在住である。最近の経済統計に明るくないという決定的な弱点を抱えて日本を批判している。所得格差を示すものは「ジニ係数」である。OECD調査(2018年)では、次のような結果だ。ジニ係数は、低いほど所得格差が少ないことを示す。米国0.39 韓国0.35 日本0.34である。日米韓3ヶ国では、日本の所得格差が最も少ない。筆者の在住するフィンランドは、0.27と低く「北欧民主主義」を実証している。
日本の平均賃金が米国より低いのは、1人当たりの名目GDPで大きな差があるからだ。IMF調査では、米国が6万5254ドル(2019年)、日本4万0256ドル(同)である。日本は米国の61%である。両国の生産性の違いと為替の円安が影響している。ちなみに、韓国の1人当たりの名目GDPは3万1846ドル(2019年)である。米国の48%だ。
日本の自殺率は、確実に低下している。OECD調査では、人口10万人当たり14.9人(2019年)で7位だ。韓国は、実に24.6人(同)で1位である。日本の1.65倍もある。
(3)「1945年以後には軍備支出を自制してきた日本の敗因は何だろうか? きわめて短い期間を除き1955年からずっと権力を独占し、いくら政策を誤っても社会の牽制を避けられた自民党という「既得権ブロック」を、過去数十年間にわたり日本が歩んできた下降曲線の主因と見る見解がある。“不動産信仰”の政治家たちが、土木開発経済を煽り立て、結局不動産バブル現象を予防できず、既得権者であるだけに再分配・格差問題に鈍感で、労働の不安化と相対的貧困化を止めようともしなかったということだ。既得権者が労働問題に無関心な反面、組織労働者の発言権があまりにも脆弱で、格差解消に全社会が失敗してしまったのだ」
このパラグラフでは、自民党政治を批判している。ただ、総選挙の結果であって、国民の選択である。野党の民主党は一時、政権を担当したが党内分裂と政策の不備で自壊した。筆者は、日本の土木開発を批判しているが、天災の多いという日本の国情からやむを得ない面もある。かつての民主党政権は、公共事業費を削減したが、天災の襲来を無視していた。
日本の労働組合組織率は、OECD調べ(2018年)によれば17.00%で18位。韓国は10.50%で30位、ちなみに米国は、10.10%で31位である。日本の労働組合組織率は、西欧(欧州全体ではない)に比べれば高いのが実態だ。ただ、異なるのは労使関係が「敵対的」でなく、話合い路線である。韓国は、イデオロギーどおりに「敵対的」路線を踏襲している。それでも、「ジニ係数」は下がらない(所得格差の是正)のだ。それは、労働組合組織率が低い結果であろう。
(4)「既得権者が追求してきた閉鎖的移民政策が、移民者の流入による人口数の維持や増加を不可能にさせ、結局人口減少を招いたという分析もある。戦後日本を“作った”と自負する巨大な自民党が、結局は日本をダメにしたという診断であるわけだ」
ノルウェーと異なり、日本は多民族文化でないという特色がある。それが、犯罪発生率を下げている側面もある、移民は理想型であるが、すぐに大きく門戸を広げられない難しさがある。日本の人口減少を招いた最大要因は、合計特殊出生率の低下である。日本は「1.3台」であるが、韓国は、「0.84」(2020年)と世界最低記録を更新している。日本を批判する前に、母国の韓国を批判すべきである。
(5)「一時は近代のモデルだった日本は、いまや韓国をはじめとする世界の反面教師だ。その失敗を他山の石とするべきで、日本がすでに陥ってしまったその落とし穴を、私たちがどのように避けるのかを考えなければならない。その落とし穴を部分的にでも避けられる時間的な余裕も、すでにほとんど残っていない」
日本経済の成長率急低下は、先進国共通の課題である。韓国は、日本以上の急落が予想されている。日本の出生率はまだ改善余地があるものの、韓国は絶望的である。反日騒ぎを起こしているゆとりはないはず。それに気付かず、騒いでいる点に深く同情するのだ。