勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2021年04月

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    中国が、発展途上国へ融資する際、金利は商業ベースである。厳格な貸付条件もつけている。返済不能になれば、担保を差し押さえるという高利貸し稼業に徹しているのだ。こういう融資の実態が、米国の大学調査によって明らかになった。

     

    それによると、中国から借入れた国は中国に対して不利益な行為をしないという一札を取られている。不利益という内容は不明だが、そういう行為をしたと中国が認めれば、一括返済させると脅迫している。この中国が、世界に仲間をつくれるはずがない。危ない橋を渡っている。

     


    『日本経済新聞 電子版』(4月1日付)は、「中国『債務のわな』、途上国に足かせ 米大学報告」と題する記事を掲載した。

     

    中国の政府系金融機関が途上国向けに融資する際、他国の債権者よりも優位に立つための「秘密条項」が多用されていることが、米大学の報告書で明らかとなった。中国の国益と反する行為をした場合には即時返済を求めるケースもあった。米国の敷く対中包囲網に対抗して中国は国際協調を前面に打ち出すが、不平等ともいえる融資契約による「債務のわな」が自陣営拡大に向けて障害となる可能性もある。

     

    米ウィリアム・アンド・メアリー大学に拠点を置く研究機関エイドデータが3月31日、「中国の融資のやり方」と題する報告書を公開した。過去約20年間に24カ国に向けて実施した100件の融資、のべ約366億ドル(約4兆円)分の融資契約書を入手して分析した。分析対象には2020年に債務不履行(デフォルト)に陥ったアルゼンチンやエクアドル向けの融資も含んでいる。

     

    (1)「中国は広域経済圏「一帯一路」の構想のもと、投融資をセットにしたインフラ開発を進めている。報告書によると、中国国家開発銀行や中国輸出入銀行などによる2015年以降の融資はすべて秘密条項が付いていた。中国からの融資状況をほかの債権者に秘匿することを求めていた。中国から借りた「隠れ債務」の存在を知らないまま、他国は途上国に融資していたことになり、報告書は「(中国以外の)貸し手と借り手双方の国民は、隠れ債務について政府に説明を求められない」ことを意味すると指摘している。約4分の3の契約には中国からの融資が、先進国で構成するパリクラブ(主要債権国会議)が主導する債務再編には含まれないとも明記している」

     

    中国のあくどいやり方は、表現のしようもないほどである。中国が歴史的に採用してきたものであろう。借入れ国を徹底的にしゃぶるのは、今日の国際機関の常識から見れば、想像もできない「弱者弾圧」手法である。新疆ウイグル族弾圧も、こういう無慈悲な精神で行なわれていると考えれば身震いするほどの嫌悪を覚える。

     


    (2)「中国からの隠れ負債の問題は、実際に債務再編交渉の妨げとなっている。英紙『フィナンシャル・タイムズ』(FT)によると昨年に債務不履行に陥ったザンビアを巡っては、同国が中国向け返済を優先した疑いがあるとしてザンビア国債の保有者が利払いの減免を拒否している。中国に敵対的な行為をしない旨を融資契約に盛り込む事例も判明した。中国国家開発銀行がエクアドルと10年に交わした10億ドルの融資契約では、「エクアドルのいかなる政府機関が中国の不利益になる行為」をした場合に、債務不履行とみなして貸し手が全額返済を求められると規定していた。何が中国の不利益にあたるかは明確に定義されておらず、借り手側の幅広い行為を制約する効果を持っていた」

     

    中国は、金の力によって貸付先を政治的に縛り付け、従属させる手法を押し付けている。中国の魔手に縛り付けられたら、再起不能の事態も覚悟しなければなさそうだ。

     

    (3)「対中債務の返済に窮したスリランカは17年、南部ハンバントタ港の運営権を99年にわたり中国側に貸与することを余儀なくされた。中国が融資を外交ツールの一つとして用いて途上国を影響下におく「債務のわな」に世界は警戒する。今回判明した異例ともいえる融資契約を通じて、中国が借り手への強制力を高めようとしているのは明らかだ」

     

    中国は、これはと見込んだ担保物件があれば、過剰貸付をして「債務のワナ」にはめ込んで身動きできないようにしている。蜘蛛が巣を張って獲物を捕るようなものだ。米国は、英国と協力して、中国の「一帯一路」の向こうを張る低利融資を検討すると発表した。こうした対策を取らない限り、中国の犠牲国はなくならないであろう。

     

    (4)「新型コロナウイルス感染拡大による経済打撃で、途上国の債務問題は悪化している。中国を含む主要20カ国(G20)はパリクラブや国際通貨基金(IMF)などと連携して債務問題に取り組むと昨年合意したばかりだ。合意の趣旨に反するような融資契約を中国が今後も続けるか注目される」

     

    中国に、国際的な協定を守る意思はない。絶えず抜け駆けを狙っている。こういう中国を懲らしめるには、民主国が協力する以外、道はなさそうだ。

     

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    韓国外交は、軌道を外れてしまったようである。鄭義溶(チョン・ウィヨン)外交部長官は3月31日、日韓外交が行き詰まっている原因が、日本の慰安婦合意を守らない点にあると発言した。日韓慰安婦合意は2015年12月に結ばれたが、文政権によって2017年、骨抜きにした経緯を忘れたかのような発言である。日本政府は、厳重に抗議すべきである。茂木外相は、こういう発言をしている韓国外交部長官と会見する必要はない。頭を冷やさせるべきだろう。

     

    『中央日報』(4月1日付)は、「韓国外交部長官『米中、選択要求しない 日本、慰安婦合意精神守るべき」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「鄭長官は最悪の状況に突き進んでいると評価されている韓日関係について、「対話の扉はいつでも開いているが歴史問題については日本の謝罪が先」という従来の立場を繰り返した。特に歴史問題の葛藤の核心軸である慰安婦問題に関連して「2015年韓日慰安婦合意精神により、日本が反省し、誠意ある謝罪をすれば、問題の99%は解決される。(日本が)決心するかどうかにかかっている」と話した」


    一国の外交部長官が、こういう発言をするのかと呆れるばかりだ。文政権が、「最終的にして非可逆的な合意」という日韓慰安婦合意を事実上、破棄処分にしたものである。この経緯を棚上げして、「日本が反省し、誠意ある謝罪をすれば、問題の99%は解決される」とは驚くばかりである。日本の拠出した10億円は、元慰安婦に分配されている。この拠出金を受け取ったことは、日本の行動に納得した結果であって、さらに誠意ある謝罪を要求するとは、日韓慰安婦合意の精神を忘れた言動である。

     

    茂木外相は、こういう発言をする韓国外交部長官と会見する必要はない。徹底的に干し上げて反省させるべきだ。


    (2)「これは慰安婦問題に関連した日本の誠意ある態度を要求する発言だったが、「慰安婦合意精神」に言及したことについては論争が予想される。「被害者中心主義の欠如」を理由に和解・癒やし財団を解散するなど韓日慰安婦合意を事実上無効にしたのは文在寅(ムン・ジェイン)政府だからだ。そのようにしておきながら、逆に日本側に合意を守れという趣旨で迫るのは前後が合わないという指摘だ。日本側では慰安婦合意を通じてすでに「日本総理大臣」が謝罪表明をしたが、追加で何の謝罪をしろということなのかという反発を受ける素地も残る」

     

    韓国メディアの方が、外交部長官よりも理屈が分かっている。慰安婦合意を事実上、破棄しながら、さらに謝罪せよとは度を超えた発言である。外交官とは思えないメチャクチャ発言である。



    (3)「鄭長官はその一方で、「韓日外交長官会談が早期に開催されるようになることを希望している。いかなる形態でも会う用意がある」とし、和解のジェスチャーを送った。歴史問題と懸案を分離して対応する「ツートラック」基調に従い、対話を通じて韓日両国間の協議が可能な部分から問題を解決していこうという提案だった。だが、鄭長官が就任してからすでに2カ月が過ぎようとしているが、日本側カウンターパートの茂木敏充外相との電話会談が実現していないなど、日本は対話の余地さえ与えていない」

     

    日本側が、こういう韓国外交部長官と対話を拒否しているのは当然のこと。反省のない相手に時間を割くのは無駄である。茂木外相は、相当に強気の人という評判である。剛の者である茂木氏に、韓国は神経を逆なでする発言をしたのだから、さらに対話を諦めるべきだろう。



    (4)「日本は、歴史問題に対して韓国が意味ある提案をしない限り協議は無意味で、究極的な関係改善にもつながらないとの立場だ。実際、冨田浩司駐米日本大使は3月30日、米国議会専門メディア「THE HILL」とのインタビューで「われわれ(韓日)にはいくつかの解決されなかった問題がある」として歴史問題に言及した。冨田大使はまた「これは最近、韓国の歴史問題に対する訴訟や判決に端を発している」とし「われわれの全般的な関係を害する可能性がある」と話した」

     

    日本と韓国の精神土壌には180度の食違いがある。日本人は、武士道精神の流れを組んでおり、勝敗がつけばそれで過去に区切りを付ける、というパターンである。韓国人は、日本人と真逆である。解決した問題でも、時間が経てばまたほじくり返す。これは、「契約の精神」に欠ける結果でもある。近代化の精神的土壌に欠けるのだ。

     

    武士道精神は、約束を守ることに身上がある。「武士に二言なし」はそれを象徴している。新渡戸稲造が、大正時代に外国で日本人の精神は何かと聞かれたとき、「武士道精神」と答えている。それは、西洋の「騎士道精神」でもあると説明して、納得して貰ったという。約束を守るのは、契約を守る意味である。資本主義経済の根幹である。日本の近代化が早かったのは、江戸時代の武士道精神が基盤であったと言えよう。

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    護身で検察捜査権限を縮小

    権力を私的に利用した天罰

    世論調査が示唆の政権交代

    ユン前検察総長が有力候補

     

    韓国は、公務員による不動産投機事件が発覚して上を下への騒ぎに発展している。文政権になって、25回もの不動産対策を発表しながら、住宅高騰を止められずにきた。これだけでも、世論の反発を受けて当然だが、その上さらに公務員の不祥事が発覚した。政府不信が高まっている。

     

    韓国土地住宅公社(HL)職員が、政府の住宅建設予定地を先買いして、莫大な投機利益を懐に入れた事件の表面化だ。この関係者が一人や二人でなく、100名以上の数に上がっている。公務員の綱紀が、乱れているのだ。文政権も、検察捜査から犯罪行為を隠している。公務員が、その手法を真似たのであろう。

     

    文政権は、公務員犯罪に大慌てである。4月7日に首都ソウルと第二の都市釜山で、市長補欠選挙が行なわれる。この両市の市長選は、与党出身市長が揃ってセクハラ事件を起こしての辞任(ソウルは自死)結果である。これだけでも、与党候補に不利である。そこへ、公務員による土地投機事件が重なって、選挙戦は野党候補が有利な状況の展開である。

     

    これに慌てた政権・与党は、韓国公務員137万人全体の財産登録制度をつくるという騒ぎに発展している。137万人の財産を登録するには莫大な予算と人材投入が避けられない。これだけの人数の財産を登録すれば、その家族まで含めれば、概ね600万人が政府による財産監視の影響下に入る。韓国国民は5182万人(2020年)だ。この1割強に当る国民財産が、政府機関に登録されるとは、自由主義経済を建前とする韓国で違憲の恐れが強いであろう。

     

    そういうリスクを冒してまでも、ソウル・釜山の市長選に勝たねばならない切迫感に襲われている。ソウル市長は、閣僚級の待遇で閣議に出席できる特権が与えられている。野党出身のソウル市長が誕生すれば、閣議に野党出身者が出席するという不都合な事態になる。これは、政府情報が野党へ筒抜けになるようなものだ。与党は、来年3月大統領選の「秘策」が漏れる事態を避けたいはずである。

     

    そもそも、先の公務員137万人の財産登録制は、公務員を潜在的犯罪者に見たてている。これでは、先述の通り公務員の家族を含め600万人が、野党支持に回る可能性が強まるのだ。大統領選にとって、不利であることは言うまでもない。文政権は、こうした目先の対策に追われ将来を忘れている。進歩派政権「自沈」の道を進んでいるようなものである。

     

    最高検察庁は、公職を利用して不動産投機を行った者を全員拘束し、法定最高刑(終身刑)を求刑するよう、全国の検察庁に指示した。文政権は、検察庁「虐め」で捜査権限を縮小してきただけに、検察内部では割り切れない気持ちになっているという。本来、土地登記簿に照らし合わせた捜査は、警察の管轄であろう。それをわざわざ検察庁所管にさせた狙いは、国民へのアピールである。スタンドプレイなのだ。

     


    護身で検察捜査権限を縮小

    文政権は、検察庁から高度の捜査権を取り上げ、政権の関わった犯罪捜査を妨害した。その代わりに、単純な土地投機捜査を検察にやらせる。本来、警察捜査の分野であろう。文政権は、検察を子どものように扱っている。これが、文政権の目指す検察改革の姿なのだろう。かりそめにも、進歩派を掲げる政権のやるべきことではない。

     

    英誌『エコノミスト』(2020年11月28日号)は、「文在寅(ムン・ジェイン)大統領の検察改革が正反対の効果を生んでいる」と評した。ユン検察総長の職務停止(注:後に解除)が、検察全体をユン総長の側に立たせ、文大統領は前任者(朴槿惠:パククネ)のように捜査対象になりかねないと警告を発しているのだ。

     


    文氏は、以下のような3点で大きな疑惑を抱えている。朴槿惠・前大統領による「国政壟断」と質の異なる悪質な疑惑隠しである。

     

    1)蔚山(ウルサン)市長選で、文氏の長年の友人を当選させるべく、選挙戦直前に野党候補者に無実の嫌疑を掛けて家宅捜査させた。これで野党候補者(現職)の信用を失墜させ、落選させたのである。このお膳立てをしたのが、大統領府で文大統領側近の高官である。

     

    2)文氏が大統領選で掲げた「反原発」の公約を早期に実現させる目的で、黒字操業であった月城原発を「赤字経営」にデータ改ざんして、強引に操業を止めてしまった。後に会計検査院からの査察を免れるため、深夜に所管部署へしのび込み、関連データを改ざん、あるいは削除した。

     

    3)削除されたデータの中に、北朝鮮への原発建設案があった。韓国で建設中にストップさせた原発工事を再開し、北朝鮮へ電力を送電する案が含まれていたのである。また、南北の緩衝地帯に原発を建設する案まで含まれていた。韓国では、原発は危険であるとして操業を中止させながら、北朝鮮のためなら喜々として再開させる。この「ダブルスタンダード」は何であるのか。売国的な行動であろう。(つづく)

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    日本では、41日の改正高年齢者雇用安定法の施行により、企業は希望する70歳までの社員に就労機会を設ける義務が生じる。定年制の廃止や定年の引き上げ、再雇用などから企業が方法を選ぶのだ。少子高齢化に伴う人手不足の解消や、年金など社会保障制度の支え手を増やす狙いである。

     

    中国では、日本のようにスムーズに運ばず政府が困っている。現在の定年制は男子60歳、女子55歳である。第14次5カ年計画(2021~25年)では、平均寿命が1年程度延びる見込みなので、これに見合って定年を1年延長したいというほど、慎ましい定年延長論である。それでも反対論が根強いのだ。早く年金を貰って楽をしたいという高齢層。若者は、就職難で定年延長はとんでもない、と口角泡を飛ばす状況である。

     

    日本と中国では「勤労観」が違うのだ。中国人は、できるだけ働きたくない。日本人は、「生きがい」のためにできるだけ働きたいというもの。この日中の「勤労観」の差は大きい。

     


    『日本経済新聞 電子版』(3月31日付)は、「中国市民、定年延長論に反発 子育て『家族総出で』」と題する記事を掲載した。

     

    中国政府が定年退職の延長議論を本格化させる。働き手を増やし、社会保障負担を抑えるためだ。2025年までの主要課題に据えたが、若年雇用へのしわ寄せなどが予想され抵抗は根強い。祖父母を含め家族総出で子供の面倒をみる「自助」が基本の家族観も、定年延長に反発を招く要因になっている。

     

    (1)「3月11日に閉幕した全国人民代表大会(全人代、国会に相当)でまとめた政府活動報告は、「段階的に法定の退職年齢を延ばす」。新たな5カ年計画の主要課題にこう盛り込んだ。中国では公務員や国有企業の退職年齢は原則、男性が60歳、女性幹部が55歳、女性従業員が50歳だ。建国した1949年ごろに定めた規定が、都市部の平均寿命が80歳を超す現在も残る」

     

    中国の生産年齢人口の年齢ゾーンは、国際標準よりも5年短い。つまり、15~59歳である。国際標準では15~64歳だ。この間に約10%の差が生じる。中国の生産年齢人口は国際標準よりも10%少なく計算することが大前提である。この事実は、以外に見落とされている。

     


    (2)「中期的な経済運営方針である5カ年計画に定年延長などのテーマを盛り込んだのは今回が初めてではない。前々回(11~15年)の5カ年計画では、社会保障関連の詳細計画に「弾力的な年金受け取り年齢の引き上げを研究する」と記した。16~20年の5カ年計画では「漸進的な退職年齢引き上げ政策を実施する」と明記した。研究段階から実施段階への格上げだ。ただ結果は、ほぼ手つかずであった。今回も具体的な議論はこれからだが、年に数カ月単位で引き上げる案などが浮上する。定年延長とセットで、年金支給開始年齢も徐々に引き上げる方針だ」

     

    これまで10年越しで、定年年齢の引上げを議論されてきたが、実行は見送られて来た。それだけ反対論が根強いということだ。第14次5カ年計画では、定年年齢を引上げねば、年金財政が持たなくなることや、労働力不足で経済成長に支障を来たすことが明らかになってきた。だが、国民はこういうマクロ視点の話には無関心。自分の損得で計算するから収拾がつかないのだ。

     

    (3)「ただ市民の懸念は根強い。「年配の会社員が働き続ける分、若者の雇用機会が奪われるのではないか」。北京市内の大学院に通う趙紫葉さん(24)は不安を抱く。新卒生らの就職難は新型コロナウイルス前から厳しい。出前アプリの美団の調査では、18年時点で出前配達員の約15%が大学卒業生だった。大学や高等職業学校など高等教育機関への進学率は10年の27%から20年には54%に高まった。ホワイトカラー志向の高学歴人材が増えたが、求人が追いつかない。定年延長が就職の門をさらに狭めるとの焦りを生む」

     

    中国は、基本的に就職難の社会である。出前配達員の約15%が大学卒(2018年)だったという。こういう不完全就業社会が、世界覇権を握れるはずがない。そういう認識は、習近平氏の頭に届かないのだ。

     


    (4)「中高年層の反発はより強い。「保険料の支払期間と金額だけ拡大し、年金の受取総額が減る」との疑念が消えない。政府は勤続年数に応じて年金を加算する仕組みも検討するが、理解は広がっていない。現代中国の子育てスタイルも障壁となりかねない。「規定通り55歳で仕事を辞めて、孫の面倒を見るなどして余暇を過ごしたい」。湖南省のある市政府で働く袁さん(54)は語る。「定年が延びたら、学校や塾の送り迎えなど孫の面倒を誰がみるのか」と懸念する中高年は少なくない」

     

    中国では、公立幼稚園や保育園の整備が遅れている。基本的に、「自助」を基調とする家族観が定着しているため、孫の世話をするために定年延長は困るという議論が根強い。年金財政論や経済成長には、定年延長が必要という政府の議論が、率直に受け入れられない風潮なのだ。

     

    中国の一般市民は、政治参加の意識は比較的希薄とされる。その代わり、自らの生活や経済的な利益に直結する問題は極めて敏感だ。増大する高齢者の発言力は、習近平指導部も無視できないと指摘されている。高齢化は、習氏の泣き所である。

     

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    韓国の鄭義溶(チョン・ウィヨン)外交部長官が4月2、3日に中国招請で訪問し、王毅外相と会談する。3月18日、米韓の外務・防衛の「2+2会議」を終わっているだけに、中国は会談内容を聞き出したいところであろう。鄭氏は、どこまで話すのか。日米の目が光っている。

     

    『中央日報』(3月31日付)は、「米国より先に中国を訪問する韓国外交長官、覇権競争の中で『綱渡り外交』」と題する記事を掲載した。

     

    外交部は31日の報道資料で、「鄭長官は王毅外相の招請で中国福建省廈門を実務訪問し、4月3日に韓中外相会談を開く予定」とし「韓中関係発展案を模索すると同時に、韓半島(朝鮮半島)および国際問題などについて深みのある意見を交換する機会になるだろう」と明らかにした。



    (1)「鄭長官の今回の訪中は、2月の就任後初めての海外対面外交日程という点で象徴的な意味がある。鄭長官は18日の韓米外交・国防(2プラス2)閣僚協議に続き、25日には韓露外相会談をしたが、共に相手国のカウンターパートが訪韓して実現した日程だった。さらに政府高官級の大半が新型コロナで海外への出国を自制している点を考慮すると、鄭長官が中国との関係設定を重視していることを示唆する。実際、外交部長官が米国より先に中国を訪問するのは異例だ。歴代外交部長官はほとんどが就任後、米国訪問を高官級外交の開始点とした」

     

    歴代外交部長官はほとんどが就任後、米国訪問を高官級外交の開始点としてきた。今回は3月18日に米韓外交・国防「2+2会議」を済ませたので、中国へ訪問するのだろう。その意味では、目くじら立てることもないだろう。ただ韓国は、インド太平洋戦略の「クアッド」加入で米国へその意思を示したとすれば、米国が韓国に対して取越し苦労することもあるまい。

     

    (2)「鄭長官の訪中は、2月の王毅外相の招請後、実務協議を経て実現することになった。外交筋によると、3月中旬から韓中間で会談の日時や議題をめぐる本格的な協議が進行していたという。17日に訪韓したブリンケン米国務長官を迎えた時点には、すでに韓中外相会談に関連した日程を調整していたということだ。外交筋は「王毅外相の公式招請後、鄭義溶長官が中国訪問に対する確固たる意志を見せ、会談の日程や議題の調整が加速した」と伝えた」

     

    中国の王毅外相は、日本の茂木外相にも招請状を出しているというが、日本は右顧左眄することなく訪中せずに中国批判を展開している。日韓外相の対中姿勢を見ると、日本の方がはるかに毅然としている。韓国の鄭長官は、茂木外相との早期会談を希望すると語っている。

     

    (3)「このように韓国政府が、「同時管理」外交に注力しているのは、バイデン米政権の発足以降、米中覇権競争の構図が本格化しているからだ。18日に韓米外交・国防(2プラス2)閣僚協議が韓米同盟を強化する契機だったとすれば、鄭長官の今回の訪中は韓国が米国に傾いているという中国側の憂慮をなだめるための日程と評価される」

     

    韓国が、「同時管理外交」(バランス外交)できる技倆を持っているとは思えない。日本とこれだけ対立している韓国外交は、極めて稚拙である。対中国外交では、「米つきバッタ」のように振る舞っているとしか思えない。「ご機嫌うかがい」は、外交と呼べないのである。

     


    (4)「ただ、外交関係者の間では米中覇権競争が本格化する中での鄭長官の今回の訪中に憂慮の声も出ている。「韓米同盟は我々の外交の根幹」というメッセージと、米国よりも先に中国を訪問するという事実の間隙のためだ。特に最近中国と密着しているロシアの外相と国防次官が訪韓したのに続き、鄭長官がまた訪中して外相会談をするのは、中国に対する牽制意思を明確にしているバイデン政権を刺激する余地があるという指摘だ」

     

    米同盟国の中では、韓国が最も弱い輪と見られているのだろう。中ソが相次いで、韓国へ接近しているのは、そういう認識の結果である。これは、韓国として恥に思わなければダメである。

     

    (5)「韓中外相会談が、台湾と隣接する福建省厦門で開かれる点も注目される要素だ。台湾は最近、米国と政治・軍事的協力を強化すると同時に、中国から軍事的な脅威を受けるなど米中競争の要衝地と評価されているからだ。こうした状況で韓中外相が台湾の目の前の厦門で会談するのは、それ自体で不必要な誤解を招くおそれがある。韓国が台湾問題など米中の対立する事案で中国側と密着している信号として映るからだ。特に新型コロナで対面外交が制限される状況であるうえ、昨年11月に王毅外相が訪韓してから5カ月ぶりにチャーター機で中国を訪問する点などを勘案すると、こうした憂慮はさらに深まる」

     

    中韓外相会談が、台湾の目の前の厦門で開催することに「ピン」と来なければ外交官として落第であろう。中国が、韓国を利用しているのだ。この程度の認識では、お世辞にも「同時管理外交」とは言えない。中国の策略に飲み込まれている証拠だ。

     

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