中国政府は、商品価格の高騰が企業収益を圧迫していると懸念している。5月の製造業PMI(購買担当者景気指数)は、商品価格の高騰によって前月比で減少した。これで2ヶ月連続減である。
中国国家発展改革委員会や中国工業情報化省は5月23日、鉄鉱石や鋼材など資源会社を集めて、国際商品市況の高騰に合わせた価格のつり上げをやめるよう指導した。「過剰な投機が価格上昇を助長した」と強調したもの。その後の世界商品市況には、さほどの変化が起らず、中国経済の与える世界への影響力に陰りが見えるという指摘も出ている。中国経済の黄昏が始まった。
ゴールドマン・サックスでは、世界経済の起動軸が中国から米国へ戻ったと「パラダイムシフト」を明言している。世界経済は大きく転換し始めているのだ。
『日本経済新聞 電子版』(5月31日付)は、「5月の中国景況感 2カ月連続悪化 海外受注減や原材料高」と題する記事を掲載した。
(1)「中国国家統計局が31日発表した5月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は前月より0.1ポイント低い51.0となった。2カ月連続で悪化した。好不調の境目である50は上回ったが、海外受注の減少や原材料価格の上昇が企業の景況感に影を落としている。PMIは、50を上回れば前月より拡大、下回れば縮小を示す。20年3月以来、50を上回っている」
PMIは、日本で言えば「日銀短観」のようなものだ。5月のPMIは50を上回っているが、2ヶ月連続で前月を下回り、景気回復力に陰りを見せている。
(2)「柱である生産は52.7と0.5ポイント改善した。気がかりなのは2カ月連続で悪化した新規受注だ。海外からの受注に限った指数は3ヵ月ぶりに節目の50を下回った。20年6月以来の低さだ。人民元高が重荷になっている可能性がある。企業の規模別では明暗が分かれた。大企業と中堅企業はともに改善し、節目の50も上回る。対照的に零細企業は4月から2ポイント低下し、48.8となった。主要原材料の買い入れ価格を示す指数が上昇し、零細企業は価格転嫁に苦しんでいる」
下線のように、海外からの新規受注が低迷しており、5月は50を下回った。原材料価格の値上りで零細企業は価格転嫁に苦悩している。頼りの輸出が力を失っている。中国政府が、世界商品市況高騰に歯止めを掛けたいと急いでいる理由は、以上で明らかである。だが従来と異なり、世界商品市況が大きく反応しないという新たな課題が見えている。
『ブルームバーグ』(5月29日付)は、「中国は商品価格への影響力失った 介入は成功しない-ゴールドマン」と題する記事を掲載した。
中国は商品相場を思いのままに動かす能力を失い、価格の急騰を抑えようとする同国の取り組みは実を結ばない可能性が高いと、ゴールドマン・サックス・グループが指摘した。
(2)「米国を中心に先進国の景気が回復する速度を踏まえると、中国はもはや価格を決定する買い手ではなくなったことが示唆されると、ジェフ・カリー氏率いるゴールドマンのアナリストはリポートで分析。銅や大豆といった原材料は供給タイトで引き続き上向きの軌道上にあるとし、中国政府が投機に関して警告を発した後の価格下落は「明確な買いの好機」だと指摘した」
中国がこれまで、世界の商品市況を動かしてきた。だが現在は、米国がその主導権を握っていると指摘している。米国経済の世界へ与える影響力が大きくなっている結果だ。
(3)「多くの商品において最大購入国である中国は、インフレ懸念を理由に価格上昇を抑えようと努めてきた。こうした市場介入は一定の成功につながっており、同国での鉄鉱石価格は5月12日以降に20%超値下がりしている。ブルームバーグ商品スポット指数は同期間に約1%しか下がっていない」
中国政府の警告で下落した商品は鉄鉱石の2割下落だけである。ブルームバーグ商品スポット指数は、約1%の下落に止まった。中国の影響力が急速に薄まっている。
(4)「アナリストらは、「商品はもはや中国中心ではないとの兆候は増えている」と論じる。米国が市場での影響力を拡大した主因は、財政投入による経済刺激策だが、構造的な要因もあるという。中国はもはや低コストの労働力、あるいは環境問題に無関心でいることの恩恵をそれほど受けなくなり、それがパラダイムシフトを起こしていると解説した」
世界商品のリーダーは、中国でなく米国に移っているという認識がアナリストの間に広まっている。恥ずかしながら、私もそうした認識を貫いている。私のメルマガでは、構造的な分析に力点を置き、この点を強調している。ここでは世界商品の起動軸が、中国から米国へ回帰したという「パラダイムシフト」まで言っている。肝に銘じるべき言葉だろう。