中国は当初、ワクチン外交で世界を席巻しそうな勢いであったが、完全に米国の巻き返しにあっている。総合科学力で米国の足元にも及ばない以上、当然の結果であろう。
中国製ワクチンは、治験結果が発表されないという致命的な欠陥を持っている。これでは、中国国内では強引に接種できても、他国での接種となれば尻込みされてもやむを得ない。
『日本経済新聞』(4月30日付)は、「モデルナ、生産3倍超へ ワクチン需要増に対応 来年30億回分」と題する記事を掲載した。
(1)「米バイオ製薬モデルナは4月29日、開発する新型コロナウイルスのワクチンについて2022年の生産量が最大30億回分になる見通しを発表した。21年の生産量の3倍超にまで膨らむ見通しだ。世界的な需要増に対応し、設備投資を加速する。21年の生産見通しも従来の7億~10億回分から8億~10億回分に修正した」
モデルナのワクチンは、mRNAでコロナのタンパク質を合成するので、開発と量産に時間がかからないほか、変異株にも対応可能な「理想型ワクチン」とされている。中国は、不活化ワクチンである。ウイルスを培養して病原性をなくして投与する。ウイルス培養に時間がかかるのが難点である。
こうして、米中のワクチン製造方法には新型(米国)と旧型(中国)という大きな違いがある。中国が、必死になってモデルナのワクチン製造法をスパイしようとした理由は、新型を手に入れたかったのである。中国には、思いもよらない革新的製造法である。
(2)「ステファン・バンセル最高経営責任者(CEO)は「変異ウイルスが急速に拡大するなか、22~23年にかけて追加接種を含めた新型コロナワクチンの著しい需要は続くだろう」と述べた。モデルナは、変異ウイルスに対応する追加接種ワクチンの開発を進めている」
モデルナは、変異ウイルに対応するワクチン開発に着手している。
(3)「生産委託先なども対象に設備投資をして、米国や欧州の生産拠点を増強する。これにより、スイスの製薬大手ロンザの工場での原薬製造が2倍になるほか、スペインの委託先工場の充填や仕上げなどのペースが2倍以上になる。モデルナの米工場での原薬製造も50%拡大する。仏製薬大手サノフィも生産支援を発表しており、最大2億回分供給することで合意した。あわせてセ氏2~8度の冷蔵庫での保管期間が従来の30日間から3カ月間まで延ばせる可能性があると公表した。ワクチンが扱いやすくなれば、より小規模の接種会場などでの使用が広がる」
モデルナは、世界各地でワクチン増産体制に入っている。下線のように、「セ氏2~8度の冷蔵庫での保管期間が従来の30日間から3カ月間延長」という改善策が施される。
(4)「モデルナ製ワクチンは、日本での承認が近く見込まれる。河野太郎規制改革相は4月29日、「5月の終わりの方にモデルナが承認される。あるいはアストラゼネカが承認される」と述べた。都道府県が開設する大規模な接種会場では、モデルナ製ワクチンが接種される見通しも示している。米国で同ワクチンは、すでに1億回以上接種されている」
日本でも治験をしているが、治験者数が160人程度という。モデルナは、アジア人1600人の治験を経ており立証済みだ。それにも関わらず、日本があえて治験する意味があるのか厳しく批判されている。この期間で2ヶ月も無駄になったという。日本が独自治験をしなければ、今頃は感染状況がかなり変わっていたと思われる。日本の形式主義の失敗である。
日本は形式主義で失敗しているが、中国はその形式を無視して失敗している。
『大紀元』(4月30日付)は、「中国ワクチン外交の衰退、米国は引き続き武漢研究所流出説を調査」と題する記事を掲載した。
中国のワクチン外交が世界各地で広範囲にわたり衰えを見せていると複数の報道機関が伝えている。2021年4月6日に『ASEANポスト』に掲載された記事では、「多額の資金を注ぎ込んだ中国のワクチン開発・供与政策には大きな期待が寄せられていたにも関わらず、少なくとも東南アジア地域では予測されたほどの成果は上がっていない」と報じられた。
(5)「中国の科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)製ワクチンと中国医薬集団(シノファーム)傘下の中国生物技術(CNBG)社製のワクチンの有効性が明確に実証されておらず、後期治験データがほとんど発表されていないことに衰退の要因があると考えられる。最近の調査によると、中国製の新型コロナウイルス感染症ワクチンは、欧米製ワクチンに比べて有効性が低いことが証明されている。例えばロイター通信の報道によると、2回目の接種から2週間を経た被治験者を対象に調査を実施したブラジルの研究所は、科興控股生物技術製ワクチンの有効性は50.7%であったと発表している。ファイザー社とビオンテック社が共同開発したワクチンやモデルナ製ワクチンなどの欧米製ワクチンでは90%を超える有効性が示されている」
中国製ワクチンの有効性は50%台。欧米製ワクチンは90%台という圧倒的な差が付いている以上、中国製ワクチンを欲しがる国は少ないはず。この差は、総合的科学力の差である。
(6)「これとは対照的に、国際的なワクチン同盟を通じて2021年末までに20億投与分のワクチンを世界90ヵ国超の低中所得国に配布するという米国主導のイニシアチブが勢いを増している。米官製メディア「シェアアメリカ」によると、4月中旬までに3800万投与を超えるワクチンが同盟を通じて数十か国に配布されている」
米国主導のワクチン供与が始まっている。まだ3800万投与と少ないが、これから本格化する。バイデン米大統領は4月28日、就任後初めての施政方針演説で、「第二次世界大戦時、米国が(全世界の)民主主義の武器庫だったように、ほかの国々のためワクチン武器庫になる」と述べた。本格的なワクチン外交への宣言である。