来年3月の韓国大統領選は、与野党の代表候補を出す前にまず予備選が行なわれる。与党「共に民主党」は9月、最大野党「国民の力」は11月である。現在は、この予備選に向けた立候補宣言があちこちで行なわれている。こうした中で、ユン前検察総長の立候補宣言が6月29日に行なわれた。
日本メディアが、最も注目しているのがユン氏の存在である。韓国世論調査で大統領選候補の人気度トップであることや、文政権と厳しく対立してついに辞任へ追込まれた過程に関心を寄せているのであろう。日本人特有の判官贔屓という面もあろう。及ばずながら、本欄もその一つである。
『ハンギョレ新聞』(7月1日付)は、「日本メディアがユン・ソクヨルの大統領選出馬にひときわ関心示す理由は」と題する記事を掲載した。
日本の諸メディアは、ユン・ソクヨル前検察総長の大統領選出馬についての内容を大きく報じ、特に韓日関係の改善に意欲を示したことに注目している。
(1)「日本最大の日刊紙である読売新聞は、ユン前総長が韓日関係について述べた「回復が不可能なほど悪化した。歴史の真相は明確にしなければならないが、未来世代のためには実用的に協力するべきだ」との発言を紹介し、韓日の「関係改善に意欲を示した」と報じた。朝日新聞は、韓日関係についてユン前総長が「理念偏向ではなく現実主義に立脚すべきだ」と文政権を批判したと報じた。毎日新聞も韓日関係について「関係改善に前向きな姿勢を示した」と評価した」
日本メディアが、日韓関係改善について関心を持つのは当然のこと。ユン氏が、「理念偏向ではなく現実主義に立脚すべきだ」とする指摘は100%正しい。
(2)「ユン前総長は29日、「政府は政権末期になって韓日関係を収拾しようとしているが、うまくいっていないようだ」と現在の状況を診断した後に「韓日関係では、歴史は歴史として我々の後の世代が歴史を正確に記憶するために真相を明確にしなければならないという問題があるが、未来は我々の後の世代のために実用的に協力すべき関係だと思う」と述べた。そして、「この政権になってめちゃくちゃになった(日本軍)『慰安婦』問題、強制徴用問題、韓日の安保協力や経済・貿易問題、これらの懸案を全部まとめて一つのテーブルに載せて『グランドバーゲン』をするようなやり方で問題にアプローチすべき」と述べた。しかし、日本政府がこれまで一貫して示してきた冷淡な姿勢を考えると、「グランドバーゲン」構想に対して直ちに好意的な反応を示すとは期待しにくい状況だ。日本は、強制動員被害者への賠償問題などの懸案で、まず韓国の方から納得できる譲歩案を示すべきとの考えを曲げていない」
日本政府が冷淡な姿勢を取ったのは、韓国が解決案を出さないからである。これでは、外交交渉は成立しない。
(3)「ユン前総長は29日、韓国政府が取るべき外交・安保政策について、「大韓民国は(世界に対して)文明国家の普遍的価値にもとづいているという明確な立場を示さなければならない」と述べた。また「国際社会は人権と法治、自由民主主義の価値を共有する国同士のみで核心先端技術と産業施設を共有する体制へと急変しつつある。外交・安保、経済、国内問題と国際関係は分離できない一つのものとなった」と述べた。韓国は「自由民主主義の価値を共有する国」との協力を強化するとともに、中国などに対しても「普遍的価値にもとづいているという明確な立場」を示し、一線を引くべきだとの立場を明らかにしたわけだ」
韓国は、米韓同盟によって普遍的価値観で結ばれている。それにも関わらず、中国へ二股外交する姿勢は、自由世界から誤解を招く行動である。韓国には、その自覚がゼロだ。
(4)「ユン前総長は、自らの立場を改めて確認するように「大韓民国がどのような国なのか、確固たるアイデンティティを示し、敵と友人、競争者と協力者すべてに予測可能性を与えるべき」と付け加えた。米国と中国の間で「戦略的均衡」を保つために苦心してきた文在寅政権とは異なり、自由民主主義的価値を共有する米日との安保協力を深めていく外交の方向性に重きを置いたものとみられる。この主張は韓国の保守主流の主張を事実上代弁するものだ」
韓国の現状は、どっちつかずの「ヌエ」的存在である。これでは、韓国外交の「予測可能性」はゼロだ。中国から不当な圧力を掛けられるのは、旗幟を鮮明にしないことが理由である。この主張は、韓国の保守主流の主張を事実上代弁するものと記事では切り捨てているが、ハンギョレ新聞の偏見である。
(5)「日本のメディアは韓日関係以外に、現政権との対立など、ユン前総長個人に対しても大きな関心を示した。読売新聞はユン前総長について「政治経験はないが、各種世論調査で次期大統領候補としてトップの支持を得ている」とし「(政府的)圧力に屈しない姿勢が国民の人気を集めた」と分析した。朝日新聞は「文在寅政権との激しい対立で注目を集めたユン氏は、野党勢力の中で世論の支持が最も高い」と紹介した。さらに、ユン前総長の知人たちの話を引用して「ユン氏は金大中(キム・デジュン)元大統領を二つの点から尊敬しているという」と報じた。金大中元大統領が民主化運動で大きな困難を受けたにもかかわらず、保守に報復をしなかったことと、1997年の通貨危機を逆手にデジタル社会を築いた手腕で、現在の新型コロナ危機の克服に通ずるという点を挙げたという」
ユン氏は、文政権から二度も懲戒措置を受けながら行政裁判所の判決で職場復帰した人物である。権力に対して立ち向かう姿勢は見事と言うほかない。ユン氏が金大中・元大統領を尊敬しているという話も日本では高評価の理由であろう。金氏を死刑判決にまで追込んだ保守に報復しなかった姿は、ユン氏に「公平性」を感じさせるのだ。