勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2021年07月

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    中国の拙速主義による「ワクチン開発」は、世界に大きな傷跡を残している。最終治験データも公表せず、ワクチンが完成したと振れ回った結果が、大きな悲劇を生むことになった。WHO(世界保健機関)も中国製ワクチンを「正規品」として認めたから、中国と同罪の立場であろう。ただ、「なかったよりはまし」という言い訳がされている。中国の科学技術の低さがクローズアップされている。

     

    中国南京の空港で発生したクラスターがすでに5省に蔓延し、7月28日まで126人の感染が確認された。感染者のなかにワクチン接種が済んだ市民が多く、中国製ワクチンの安全性に対する疑念が再燃している。

     

    (1)「江蘇市民の凌真宝さんは26日、米『ラジオ・フリー・アジア』(RFA)とのインタビューの中で、「中国で感染がぶり返すのは、ワクチンの有効性と関係がある」と指摘した。南京の空港職員の劉さんはRFAの取材に対し、「今回、南京の感染者のほとんどは、すでに国産ワクチンの2回接種を終えている人たちばかりだ」と明かした。また、「南京での新規感染者37人のうち、36人は国産ワクチンの2回接種を終えている、詳細なリストもある。うち2人が重症化している。感染者は皆空港で仕事をしているため、ワクチン接種は早い段階ですでに終えている」と述べた」

     

    南京の感染者のほとんどが、中国製ワクチンを2回接種した人たちという。重症者も出ているのだ。中国製ワクチンの有効性は、50%台とされていた。その後、接種から時間が経てば効果が薄れるという報告も出ているので、迷惑なワクチンであったことが分かる。

     

    (2)「劉さんはさらに、「中国の専門家は、国産ワクチンの有効性が限定的だと何度も説明している」。「最初はワクチン感染を防げると言っていた。しかし後になって感染を防ぐのではなく、重症化や死亡を防ぐと言い方を変えた江蘇市民のBerryさんはRFAに対し、「南京で新規感染者が増えていることと、ワクチンとの関係は大きいはずだ。シノバック製およびシノファーム製などの中国製ワクチンを使用する5カ国では、感染者数はいずれも爆発的に増えている」と述べた」

     

    中国の防疫専門家は、中国製ワクチンに対する表現を微妙に変えたという。最近は、「重症化や死亡を防ぐ」と言い方になった。自信のないワクチンである。この程度のワクチンを臆面もなく外交戦に使った度胸はたいしたものだ。中国の科学技術の水準を熟知していた先進国は、一ヶ国もこういう「偽ワクチン」に騙されることはなかった。あの「親中」の韓国政府すら中国ワクチンを購入しなかったのだ。心底では、中国を低評価しているのだろう。中国ワクチンに騙された国は、すべて発展途上国である。


    (3)「香港大学公共衛生学院は1442人に対して研究を行った。結果、独ビオンテック製ワクチンを接種した後の抗体価が中国のシノバック製より9倍も高いことが分かった。また、ワクチン接種が最も進んでいた国の一つであるチリで行われた研究では、シノバック製ワクチンの接種から6ヶ月後に免疫力が大幅に低下する結果が得られた。チリは4月に入ると国内で感染が再び拡大し、6月には首都全域がロックダウンされた。同国で接種されているワクチンの9割が中国のシノバック製ワクチンである」

     

    独ビオンテック製ワクチン接種後の抗体価は、中国のシノバック製より9倍にも達していた。チリでの中国製ワクチンの免疫力は、6ヶ月後に大幅に低下していたという。中国製ワクチンは、「水ワクチン」と揶揄されているが、ほぼ真実と言えそうだ。

     


    (4)「中国のシノファーム製ワクチンの接種率が最も高いが、感染者が急増しているバーレーンでは、中国製ワクチンの2回接種完了した者を対象に、米ファイザー製ワクチンの追加接種を開始した。インドネシアでは中国製ワクチンを接種した医療関係者数百人が感染している。中国疾病予防コントロールセンター(CDC)トップの高福主任は20日、自身が2回の中国製ワクチンを接種後、3回目の追加接種を受けたと明らかにした。追加接種のワクチンの詳細について言及しなかった」

     

    中国製ワクチンを2回接種した者は、米ファイザー製ワクチンの追加接種によって安全性が高まるという。ワクチンの「決め球」は、ファイザー製かモデルナ製になるのだろう。中国でも3回目の追加接種が始まっている。

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    経済・外交の舵取り独り占め

    株価の暴落が示唆する脆弱性

    習政策否定の毛沢東原理主義

    中国海軍は反習派の系列下に

     

    中国国家主席の習近平氏は、今や経済から外交まですべての政策決定権を握っている。極論すれば、習近平一人が、14億の中国国民の運命を左右していることになる。かつて、チャップリン扮するヒトラーが、風船の地球儀に腰掛けている場面があった。独裁者が、地球を破滅させるという警告である。この模式によれば、習氏一人が、自らの野望を絡めて、中国国民の運命を握るという事態を迎えている。危険、この上ない話だ。

     

    経済・外交の舵取り独り占め

    中国政治では、経済政策は首相の所管であった。習氏が、国家主席に就任した2012年以降、この慣例は破られた。李首相は、15年頃から経済政策実行の下請けにさせられている。当然、李首相に不満がある。貧困対策では、それが顕著に表われた。習氏は、政治的得点を狙い昨年末に「貧困目標一掃」達成を宣言した。李首相は、今後2~3年のアフターフォロウの必要性を唱えている。現実には、貧困一掃が達成されていないことを示唆したのだ。

     


    外交政策では、習氏が基本方針を決めていることが分かった。中国
    外交トップの共産党政治局委員、楊潔篪氏は共産党機関紙『人民日報』(73日付)で、「習近平外交思想」を礼賛する論文を発表した。その中で、中国外交について習近平氏が、「自ら指揮し、自らの力で自らことをなしている」と説明したのである。

     

    この論文は、楊氏が習氏を持ち上げるために書いたのか。あるいは、真実を吐露したのか判断しにくい。ただ、楊氏はこういうことを書くことによって、著しく中国外交トップの威厳を損ねたことは言うまでもない。「楊氏は、習氏のロボットか」という疑念を抱かせるのである。それでも、こう書かざるを得なかったとすれば、中国外交が内部で相当の論争になっていることを覗わせる。

     

    習氏が、経済から外交までの森羅万象を一人で裁けるはずがない。その裏には「習側近」が存在するはずである。それは、政治局常務委員で序列5位の王滬寧氏である。元復旦大学教授を務め、独特の政治哲学によって、江沢民・胡錦濤ら国家主席の「思想」づくりを任されてきた。そして、ついに習近平氏の「側用人」にまで出世し、政治局常務委員に名を連ねている。この王氏が、習氏を動かしているのだ。

     


    王氏は、民族主義者である。米国への強い敵愾心を持っており、「米国衰退論」の筋書きを書いた張本人と見て間違いない。米国留学中、経済学の研究はせずに米国の弱点を探し回っていたと記述されている。中国共産党による「鉄の団結」が、民主主義政治の「甲論乙駁」に比べて優位にあると判断して、習氏をけしかけてきたのは疑いない。王氏の研究履歴が、それを裏付けている。

     

    王氏は、習氏と3歳違いの弟分である。人間の持つ弱さから、王氏が習氏に終身国家主席を持ちかけていることは想像に難くない。習氏が、生涯の国家主席であり続ければ、王氏もまた最側近として政治生命を長らえられるのである。人間とは、いくら美辞麗句を並べても、最後は「自分が一番可愛い」ものである。それが歴史において多くの悲喜劇を生んできた理由だ。鄧小平が、毛沢東にみる晩年の醜悪さから、最高指導者に定年制を設けた背景だ。習氏は、これに背いてまで王氏の甘言に乗せられ、「終身国家主席」を目指すようになった。

     


    株価の暴落が示唆する脆弱性

    これが、現在の中国の政策を混乱させているものと判断すべきだ。14億人もいる中国で、習近平一人が絶対的に優るとの判断はあり得ないことである。その誤解・錯覚がもたらす弊害は、中国の将来を誤らせる危険性を高めている。

     

    先ず、具体例を一つあげたい。7月26日から始まった上海と香港の株式市場が株価暴落に見舞われていることだ。

     

    中華圏(上海と香港)の株式市場が2日連続で急落した。27日の中国上海総合指数は2.49%、香港ハンセン指数は4.22%下落した。香港ハンセン指数の場合、26日に4.13%下落したのに続き27日の大幅な急落に見舞われた。上海株は、28日も下落した。

     


    株価急落の発端は、中国政府が7月24日に発表した教育事業への規制である。その内容は、次のようなものだ。

    1)教育事業は、株式公開で資金調達できないこと。

    2)教育事業は、非営利機関に転換すること。

    3)教育事業は、株式市場ですでに得た調達資金を教育事業へ投資できないこと。

     

    上記の3点は、中国でこれまで認めてきた営利による教育事業を今後は、廃止すると宣言したことである。この裏には、中国の教育費が高騰しており、出産を妨害しているという政府の認識である。確かに教育費は掛かっている。これは、35年間も続いた「一人っ子政策」による随伴現象である。一人の子どもに対して両親とその祖父母を加えれば、6人の大人が控えている。これが、教育熱を煽ったのである。

     

    35年間の「一人っ子政策」は、一世代も続いたことを意味する。こうなると、「子どもは一人」という社会共通認識ができあがってしまったのである。この一種の「刷り込み現象」を取っ払って、「子どもは三人まで」ということの実現は望むべくもない。要するに、もはや手遅れになったのである。
    (つづく)

     

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    暑さで習近平氏の判断が狂い始めたかと思わせるほど、中国政府はあらゆる面で規制を強化している。これに反応して、上海と香港の株式市場は連日の株価急落に見舞われている。海外資金の流出懸念が強まっているのだ。これを反映して、ドルや円が値上りするなど外国為替市場まで動きが広がってきた。

     

    習氏による規制強化策は、中国経済が構造的欠陥を表面化させてきたことに慌てた結果である。習氏は、中国の抱える欠陥を拡大させないように対症療法に懸命である。だが、手術という制度改革にまでは踏み込めない悩みを抱える。それは、共産主義を否定することになりかねないからだ。苦しい局面である。

     


    『韓国経済新聞』(7月28日付)は、「『中国の産業根こそぎ壊すかも』 恐怖に包まれた世界の大口投資家」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「中華圏の証券市場が2日連続で急落した。27日の中国上海総合指数は2.49%、香港ハンセン指数は4.22%下落した。香港ハンセン指数は26日に4.13%下落したのに続き27日も4.22%急落した。取引時間中には下落幅が5%を超えることもあった。米国政府が中国と香港の証券市場に上場された株式に対する投資を制限するかもしれないという根拠不明のうわさが下げ幅を拡大したとブルームバーグは報道した。一方、世界の債券市場と外国為替市場も揺れ動いた。中国の債券価格が急落しドルと円に資金が集まり、対ドルの人民元相場は4月以降で最低水準に落ちたりもした。国元証券のトレーダーは、「事実かどうか確認できないが海外資本が中国株式と債券市場から大規模に抜け出すだろうとの話が投資心理を悪化させた」と説明した」

     

    26~27日と上海と香港の株式市場が大荒れである。中国政府の規制を嫌った投げ売りが始まっているからだ。株価にとって「規制」は天敵である。中国政府が、ハイテク企業を目の敵にして規制を加えていることで、警戒感が一挙に広がっている。

     


    (2)「中華圏証券市場急落の発端は中国政府の教育企業規制だった。中国政府は24日に発表した「義務教育段階の児童の課題負担と課外教育負担減少に向けた意見」を通じ、教育企業などは企業公開を通じて資金を調達することはできないと明らかにし、非営利機関に転換して教育事業をするよう命令した。すでに上場している企業も株式市場で資金を調達して教育事業に投資することを禁止した。中国政府の規制はこれにとどまらなかった。中国国家市場監督総局は26日、「インターネットフードデリバリーサービスプラットホーム義務実践と配達員の権益守護に関する意見」を発表した。美団とアリババ系列の餓了麼などフードデリバリーサービスプラットホームで働く配達員を社会保険に加入させることが核心だ。香港に上場された美団の株価が26日に13.76%下落したのに続き27日も17.66%まで急落した背景だ」

     

    中国政府は、出生率の急低下に危機感を募らせている。この原因として、教育費の急騰を上げており、民間の教育事業がヤリ玉に上がっている。すでに上場している教育事業関連企業は、株式市場での資金調達を禁止される事態だ。こういう荒っぽい政府のやり方に、世界の資金が背を向けるのは当然だ。

     


    (3)「これまで外国人投資家は、中国政府のプラットホーム企業規制がビッグテック企業を手なずけるため程度と認識していた。しかし、教育サービス企業規制を契機に中国政府が目標を達成するために企業だけでなく産業を根こそぎ壊しかねないとの恐怖を感じることになったと分析される。専門家は「過去に市場は特定産業を対象にした正常な規制を予想したが、いまは政府の必要に応じて特定の産業全体や一部先導企業をなくすことも可能だとみる」と評価した。ブルームバーグは「数年間米国のテック企業を模倣し追撃に熱中した世界2位の経済大国がこれからは自分だけの道を進むと公式宣言した」と評価した」

     

    中国は、政府の必要に応じて産業や企業を取り潰すほどの権限を発揮し始めたている。これは正常な行為でなく、中国が「狂い」始めた一歩と見るべきだろう。私は、中国がここまで追詰められてきたことに注目したい。かねてから本欄は、中国の乱気流発生を指摘してきたが、いよいよ「点」から「面」へ広がっている。

     

    (4)「世界の投資専門家らは株価急落を安値買いの機会と考えるのは性急だと指摘する。CMBインターナショナルの投資戦略家ダニエル・ソ氏は「最大のリスクは規制当局が弾圧の領域をどこまで広げるのかだれもわからないこと。まだ安値買いに出るには早い」と警告した。中国政府が各種規制を施行しながら投資家が負う損失は全く考慮していないだけにさらに注意すべきと分析される

     

    下線部分は重要である。中国の毛沢東原理主義者が、株価上昇を忌避していることだ。毛沢東崇拝者は、習近平よりも毛沢東重視へと力点を移している。習近平にとって毛沢東崇拝者の離反は恐怖である。だから、毛沢東崇拝者が喜びそうなことを行っていると見るべきである。

     

    (5)「キャピタル・エコノミクスのオリバー・ジョーンズ氏は「最近の状況は、中国当局が広範囲な政治的目標を追求するため投資家に被害を与える意図があることを明確に見せる」と懸念する。香港紙『サウス・チャイナ・モーニング・ポスト』は26日、UBS、ブラックロックなど世界的資産運用会社が中国株に背を向けていると報道した。UBSは最近中国株の投資意見を「選好」から「中立」に下方修正した。中国当局の規制により既存株主が中国株を大規模に売却する状況が追加的に現れるかもしれないという判断だ」


    下線部では、習近平が自らの政治目標(国家主席3選)実現のために手段を選ばないことを示している。こうなると、世界的資産運用会社が中国株に背を向けるのは当然だ。習近平の野望達成が、中国経済を崩壊させるという不可思議なことを始めた。



     

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    中国は、強く対応する相手には慎重になると指摘されている。どうやら、これは本当である。4月16日の米中首脳会談の共同声明で「台湾問題」を取り上げて以来、中国軍機の台湾海峡侵犯回数が急激に減少している。

     

    米国が、中国へ強く対応することを警戒している結果と推測されている。最近、米軍機が台湾へ着陸しても沈黙している理由だ。これまでの主張では、米軍機が台湾へ着陸した瞬間に中国軍の攻撃を覚悟せよと広言してきた。そういう中国の危険行為は、まったく見られないのである。米軍の総反撃を恐れ始めてきた証拠とされる。

     


    『日本経済新聞』(7月27日付)は、「台湾周辺の中国軍機侵入、過去3カ月で半減」と題する記事を掲載した。

     

    中国軍機による台湾への威嚇行為が大幅に減っている。日本経済新聞の調べによると、過去約3カ月間(100日間)で、台湾の防空識別圏(ADIZ)に侵入した中国軍機は延べ112機にとどまり、それ以前の3カ月間と比べて半分以下に減った。足元では中国が米国への過度な刺激を控えるようになっていると専門家らは分析する。

     

    (1)「台湾の国防部(国防省)の発表からまとめた日本経済新聞の独自集計によると、中国軍機が台湾の防空識別圏に侵入した数は、4月16日の日米首脳会談を境に大きく減少した。会談後に出た共同声明では、52年ぶりに「台湾海峡の平和」が明記され、米国による台湾問題への関与の意思が明示された。そのため中国の反発も予想されたが、これまで抑制的な傾向が続いている」

     

    中国軍機による台湾の防空識別圏への侵入は、4月16日の日米首脳会談を境に大きく減少した。この結果、中国の軍事的脅迫に対しては屈することなく強く対抗すべきであることを示唆している。韓国のように、中国の脅迫に安易に屈するのは「不可解」である。

     

    (2)「これは同会談前の100日間と、会談後の100日間の侵入データを比較すると明らかだ。年明けの1月7日から4月16日までの100日間でみると、中国軍機が台湾の防空識別圏に侵入した日は、70日を数えた。10日間のうち7日間侵入するハイペースで、侵入した軍機も延べ248機を数えた。一方、4月17日から直近の7月25日までの過去100日間でみると、中国軍機が侵入した日数は30%減の49日と大きく減少した。軍機の延べ数も55%減の112機と大幅に減った」

     

    4月16日を境に、その100日前と100日後では、中国軍機の侵入日数は30%減、侵入機数は延べ55%減である。明らかに、日米共同声明の影響による。

     

    (3)「中国が、台湾問題で強気姿勢を打ち出してきた行動変化の背景に、複数の要因があると専門家らはみる。米中情勢に詳しい台湾の専門家の王智盛・中華亜太菁英交流協会秘書長は「バイデン政権発足から半年間、米中は探り合いの状態が続いたが、いまだどのように付き合えばいいのか模索している段階だ」と指摘する。そのため中国は、米国に対して最も刺激となる台湾への威嚇は控えるようになったと分析する

     

    中国は、闇雲に強硬策を取ることのリスクを計算し始めている。

     


    (4)「さらに来年2月の北京での冬季五輪まで残りわずかとなり、22年秋には5年に1度の党大会を控える。「習近平(シー・ジンピン)氏の3期目続投問題が党大会の焦点だ。中国は今後も強気なことを口では言うだろうが、習氏が再任されるまでは、実際の行動は控えめになるだろう」と分析する」

     

    このパラグラフが、習氏の「立身出世」とからむことだ。米国を刺激し過ぎてはいけないが、刺激を中止する訳にもいかない。この微妙な段階で出た結論は、回数を減らすことであろう。

     

    (5)「台湾国防部のシンクタンク、国防安全研究院の蘇紫雲所長も、中国軍機の侵入減少は、明らかに日米共同声明が影響していると指摘する。これ以上の台湾への威嚇は「米国への過度な刺激になるため、行動を抑制している」と分析する。「南シナ海での米国など各国による活動も、中国へのけん制に大きな役割を果たしている」とも語る。

     

    中国は、ようやく包囲されていることを自覚するようになっている。

     


    (6)「中国国防省も指摘するように、今年に入って米軍による南シナ海での活動は切れ目無く続いている。直近の7月12日も米駆逐艦「ベンフォールド」が西沙(英語名パラセル)諸島の近海を航行し、中国が猛反発した。2月にはフランスの攻撃型原子力潜水艦も南シナ海を航行している。英国も20」、新空母「クイーン・エリザベス」率いる打撃群が9月に日本に寄港すると発表した。南シナ海を通過する可能性がある。ドイツも今夏、フリゲート艦をアジアに派遣し南シナ海を航行させるとみられる」

     

    中国は、米国の存在を軽く見てはいけない。主要国中で米国と関係が薄いのは、中国、ロシア程度であろう。他はすべて米国と同盟、準同盟という関係である。中国が逆立ちしても勝てる相手ではないのだ。中国が、誤解して軍事行動に移れば制裁を受けるのは必至である。

     


    (7)「こうした圧力に、中国政府は連日、沿岸部で軍事演習を続け、力を誇示している。だが両岸問題に詳しい台湾の専門家は「演習の狙いは、中国が弱腰と見られないように、主に国民向けにアピールするためのものだ」と指摘する。台湾周辺や南シナ海を巡る今後の注目点の一つは、米国が計画するミサイル配備だ。中国の後手に回っていた米の配備の進捗次第では、周辺地域での軍事力のバランスは今後、大きく変化するためだ」。

     

    米国が、地球上に張り巡らした軍事基地は80ヶ国に約800もある。これは、中国の軍事力をはるかにしのぐ点と面である。米国の覇権維持には、こういう軍事力が背景の一つにある。 

     

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    韓国は、日本のしくじりを見るのが最高の喜びとする国である。その日本が、コロナ接種率35%と低いにもかかわらず、アジア各国へアストロゼネカ製ワクチンを無償供与している。供与された国々は、最高の讃辞をもって日本へ感謝しているのだ。

     

    韓国から見れば、面白いはずがない話だ。日本がアストロゼネカ製ワクチンを供与できるのは、国内で委託生産されている結果である。日本政府は、購入契約を結んでいるので代金支払い義務が生じる。ただ、同ワクチンには副作用で若干の問題が指摘されている。国内の野党からすれば、格好の政府批判材料になり得るので、海外支援に回しているのが実情である。

     

    日本の野党と言えば、海外製ワクチンについて国内での新たな治験を求めたので、約2ヶ月間の接種開始が遅れたことを明記しなければならない。予定通りに接種していたならば、ワクチン接種率「35%」という汚名を着ることもなかった。五輪も「有観客」で実施できたはずだ。野党の無定見な政府批判がもたらした余波だ。

     


    『朝鮮日報』(7月27日付)は、「接種率35%なのに外国にワクチンを提供する日本」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「7月23日、カンボジアの首都プノンペンの空港に、日本が提供した新型コロナワクチンおよそ33万回接種分を積んだ飛行機が到着した。フン・セン首相自ら出迎えて「日本のワクチン提供はウイルスと戦うための資源と能力が足りない国を助けようという温情の現れ」だとし、感謝のあいさつを伝えた。カンボジアは東南アジアでも代表的な親中傾向の国で、アジア・太平洋地域の各種懸案で中国の立場を擁護してきたが、この日は日本に対して公に感謝を示したのだ」

     

    中国製ワクチンは、「水ワクチン」と酷評されるほど無力である。感染抵抗力が接種後、時間が経つほど希薄化している結果だ。これを知らされていない国々は、接種後に安心していたら再感染して大騒ぎになっている。日本は無償提供だが、中国は「高値」で売りつけているのが実態。アジア諸国は、一様に中国へ不信の念を強めている。

     


    (2)「日本が、コロナ拡大とワクチン接種不振、東京オリンピック強行に伴う世論悪化などさまざまな悪材料の中でも「ワクチン外交」を活発に繰り広げている。この日はイランにも日本が提供したワクチン108万回接種分が到着し、翌7月24日にはバングラデシュにおよそ24万回接種分が届けられた。これに先立ち7月16日には100万回接種分がベトナムに渡った。日本が提供するワクチンはアストラゼネカ社製だ。先進国ではファイザー製などに比べあまり好まれないが、「ワクチン飢饉(ききん)」に苦しむ国々にとっては干天の慈雨となる。78日の夜、日本から航空便で送られたワクチン100万回接種分を直接出迎えるためマニラの軍事基地にやって来たフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は、ワクチン接種広報ステッカーをコンテナに張る歓迎セレモニーまで行い「苦難の時期に支援してくれた日本に心から感謝する」と語った」

     

    日本国内は、職場や大学での大規模接種が始まっている。目標とした1日100万回接種をはるかに超えて130万回にまでなった。予定を上回る接種数で、ワクチンの供給が追いつかないほどである。接種意識の向上は、日本の今後を明るくしている。

     

    海外支援は、日本にとって行うべき義務だろう。こうして得られる日本への信頼が、中国の勢力拡大を予防する上で大きな力を発揮する。

     


    (3)「
    インドネシア・タイ・マレーシアなどにも日本が支援するワクチンが入ったか、もしくは今後到着する予定だ。特にインドネシアには、既に提供したワクチン200万回接種分のほか酸素濃縮器2800台も支援することとした。先に日本は、ワクチン供給のための国際機関「COVAXファシリティー」を通して15カ国にワクチン1100万回分を支援する方針を立てた。主に東南アジア方面に集中しているワクチンの直接支援とは別に、日本は他の地域に対する医療支援にも積極的だ。日本はインドに、1480万ドル(現在のレートで約16億3000万円。以下同じ)相当の医療装備と930万ドル(約10億3000万円)相当のワクチン冷凍保管機器も支援した」

     

    日本が、アジア諸国へ支援を強化することは、韓国にとって無言の教訓を与えているはずだ。韓国は、日本へ絶えず「賠償」と「謝罪」を求めてくる。これに比べて、前記の国々は太平洋戦争の被害国であるが、賠償決着後はけっして「恨み言」を言わずにきた。それだけに、日本はこういう苦難期こそ無償の支援に出るべきだ。改めて、太平洋戦争時に与えた苦痛への無言の「謝罪」を意味するのである。

     

    (4)「現在の日本のワクチン接種率は最低1回の接種が35%、2回の接種完了が23%で、他の先進国に比べ著しく低い水準だ。こうした困難な状況でもアグレッシブに展開するワクチン外交を通して、日本は対外イメージ向上と中国けん制という一石二鳥を図っている、との分析が出ている。外交専門誌『フォーリン・ポリシー』(FP)は、最近インドネシアで起きた中国製「水ワクチン」騒動の事例を紹介し「中国のワクチン外交が揺らいでいる状況とうまく合わさって、日本のワクチン外交は推進力を得ている」と評した」

     

    (5)「日本は、中国と対立関係にある台湾にも積極的にワクチンを支援している。6月以降3次にわたって計334万回接種分を台湾へ送り、後から確定患者が急増して苦境に陥っていた台湾は、これを「友情のワクチン」と呼んで大いに喜んだ。『台湾の声』放送(RTI)は「今回の提供分は台湾住民全体の15%が恩恵を受けられる量」と伝えた。FP誌は「日本のワクチン・医療陣支援は今後のアジア地域における情勢に重大な変化をもたらすこともあり得る」とした」

     

    米国を代表する外交専門誌『フォーリン・ポリシー』は、日本によるワクチン無償支援を高く評価している。中国の「水ワクチン」騒動と比較して、日本自身もコロナ感染に苦しんでいる中で支援している姿は貴重なものに映るのであろう。現在の東京五輪と合せて、日本への親近感をさらに強めて貰えれば、日本外交は地道な一歩を記すことができよう。

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