シャーマン米国務副長官は7月26日、天津市で中国外交部の謝鋒次官と会見し、その後、王毅国務委員兼外交部長と会談した。米中高官会談は、会談結果が一切発表されなかった上、米中首脳会談の準備が示唆されることもなかった。米中ともに、相手方が譲歩する必要性を強調するばかりで、米中関係は依然として膠着状態にある。
シャーマン氏が中国を訪問したのは、米国の強い姿勢を見せることにあった。レッドラインを示して、中国の慎重な行動を求めたのであろう。その意味では、3月に行われた米中アラスカ会談と趣旨は変わっていない。「強い米国」を中国に印象づけているのだ。この意図は、中国側へ浸透しつつある。中国機の台湾海域越境件数が減っている。この件は、別掲記事で取り上げる。
『ロイター』(7月27日付)は、「米中の膠着浮き彫り、天津会談でわかった埋めがたい溝」と題する記事を掲載した。
米国のシャーマン国務副長官は天津を訪れ、中国の王毅国務委員兼外交部長らと会談した。米高官らは会談の意味について、両国の競争関係が衝突に発展することをしっかりと防ぐチャンスだったと強調した。しかし、会談から出てきたのは、けんか腰の声明だった。今年3月にアラスカで実施されたバイデン米政権下初の米中高官協議は、互いに相手方をこきおろす異例の展開となった。今回のトーンもそれと鏡映しだった。アラスカ会談ほど敵意をむき出しにはしなかったものの、双方とも具体的な交渉に踏み込まず、これまで通りの要求を列挙することに固執した。高官らは、密室会合の様子が声明よりわずかながら友好的だったと示唆している。
(1)「米政府高官は会談後、記者団に対し、気候変動やイラン、アフガニスタン、北朝鮮の問題などに触れ「米国が中国の協力を模索、懇願したという風に位置付けるのは間違いだ」と強調した。別の米政府高官は「今度は中国側が、次のステップに向けてどれくらい準備できているかを明確にすることになる」と述べた。しかし、王外相は声明で、ボールは米国側のコートにあると主張。「国際ルールの尊重ということで言えば、考え直す必要があるのは米国側だ」と述べ、中国への一方的な制裁や関税の撤廃を求めた」
中国外交は、習近平氏が一人で決めていると中国外交部トップの共産党政治局委員、楊潔篪が7月3日付の共産党機関紙、人民日報に「習近平外交思想」を礼賛する論文を発表して明らかした。これを額面通りに受け取ると、中国外交が習氏の「個人的事情」に左右されることも示唆している。来年秋に国家主席3期が決定するまで、米中関係を緊張関係に持ち込み、「国家主席は習氏の続投」という空気醸成に利用することだ。そうなれば、来年2月の北京冬季五輪で、欧米高官がボイコットすることを覚悟し、対決する姿勢を見せても不思議はあるまい。こうして、習氏の「国家主席続投」へ誘導するのだ。
(2)「中国外交部は最近、米国に協力する際は、それがどんな種類の協力であれ、条件を出す可能性を示唆した。一部のアナリストらはこの姿勢について、外交を硬化させるものであり、関係改善の見通しは暗いと言う。米ジャーマン・マーシャル財団のアジア専門家、ボニー・グレーサー氏は、天津ではフォローアップ会合や対話継続の仕組みについて合意がなかったようだと指摘。「米国の同盟国とパートナー諸国は、おそらく不安になるだろう。これらの国々は、米中関係の安定性と予見可能性が高まることを望んでいる」と述べた。グレーサー氏は、米中双方とも、相手国が最初に折れると期待すれば、失望に終わる可能性が高いと付け加えた」
下線部分は、中国が安易に米国と妥協しないという意味だ。米国が譲歩すれば、中国もそれに応じて譲歩するもの。これは、米中間で緊張関係をつくって、習氏の国家主席3選に利用する腹積もりであろう。ただ、米中対立を激化させる方向は避けるであろう。
(4)「外交サークルでは、10月にイタリアで開かれる20カ国・地域(G20)首脳会合の傍らでバイデン大統領と習近平国家主席が会談すると予想する声もある。ホワイトハウスのサキ報道官は、天津では両首脳の会談の見通しは浮上しなかったと説明しながらも、今後ある時点で接触する何らかの機会はあるだろうと述べた」
米中が、G20で何らかの接触をしないのは、余りにも不自然過ぎるだろう。儀礼的でも会談する形をとるとみられる。ただ、中身は期待薄である。
(5)「バイデン政権は当面、中国への対抗措置を拡大しつつ、対中措置に関して同盟諸国との協力を強化していく可能性がある。トランプ政権下で実施された中国製品に対する関税を撤回する意向もほとんど示していない。新型コロナウイルスの起源調査や気候変動問題について、中国の協力が得られる可能性は無いに等しい。アメリカン・エンタープライズ公共政策研究所の客員フェロー、エリック・セイヤーズ氏は「天津で明らかになったのは、外交的関与の価値と役割について、双方の見解が依然かけ離れているということだ」と語った」
下線のように7月時点で、米中がこの冷え切った関係であれば、10月のG20で大きく局面転換する会談があるとは思えない。事務当局の接触もない時点での首脳会談に期待はつなげないのだ。
(5)「戦略国際問題研究所(ワシントン)の中国専門家、スコット・ケネディー氏は、米中ともに協力姿勢を強める余地は今のところ無いと指摘。「双方にとって、簡単に協力できる問題は存在せず、協力するジェスチャーを採れば国内的にも戦略的にも大きなコストを伴うのが実情だ」と説明した。ケネディー氏は「双方が近い将来に共通点を見いだし、関係を安定させることを極力期待してはならない」と述べた」
米中双方に、まだ歩みよる必要性がない。米国は対中包囲網づくりの最中である。中国は、これをどのように突破するかという知恵比べだ。互いにまだ「結論」の出ない段階で、歩みよることは非現実的すぎよう。ただ、中国が対立をエスカレートさせる愚を避けるだろう。