勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2021年07月

    a0001_001078_m
       


    シャーマン米国務副長官は7月26日、天津市で中国外交部の謝鋒次官と会見し、その後、王毅国務委員兼外交部長と会談した。米中高官会談は、会談結果が一切発表されなかった上、米中首脳会談の準備が示唆されることもなかった。米中ともに、相手方が譲歩する必要性を強調するばかりで、米中関係は依然として膠着状態にある。

     

    シャーマン氏が中国を訪問したのは、米国の強い姿勢を見せることにあった。レッドラインを示して、中国の慎重な行動を求めたのであろう。その意味では、3月に行われた米中アラスカ会談と趣旨は変わっていない。「強い米国」を中国に印象づけているのだ。この意図は、中国側へ浸透しつつある。中国機の台湾海域越境件数が減っている。この件は、別掲記事で取り上げる。

     


    『ロイター』(7月27日付)は、「
    米中の膠着浮き彫り、天津会談でわかった埋めがたい溝」と題する記事を掲載した。

     

    米国のシャーマン国務副長官は天津を訪れ、中国の王毅国務委員兼外交部長らと会談した。米高官らは会談の意味について、両国の競争関係が衝突に発展することをしっかりと防ぐチャンスだったと強調した。しかし、会談から出てきたのは、けんか腰の声明だった。今年3月にアラスカで実施されたバイデン米政権下初の米中高官協議は、互いに相手方をこきおろす異例の展開となった。今回のトーンもそれと鏡映しだった。アラスカ会談ほど敵意をむき出しにはしなかったものの、双方とも具体的な交渉に踏み込まず、これまで通りの要求を列挙することに固執した。高官らは、密室会合の様子が声明よりわずかながら友好的だったと示唆している。

     

    (1)「米政府高官は会談後、記者団に対し、気候変動やイラン、アフガニスタン、北朝鮮の問題などに触れ「米国が中国の協力を模索、懇願したという風に位置付けるのは間違いだ」と強調した。別の米政府高官は「今度は中国側が、次のステップに向けてどれくらい準備できているかを明確にすることになる」と述べた。しかし、王外相は声明で、ボールは米国側のコートにあると主張。「国際ルールの尊重ということで言えば、考え直す必要があるのは米国側だ」と述べ、中国への一方的な制裁や関税の撤廃を求めた」

     


    中国外交は、習近平氏が一人で決めていると中国外交部トップの共産党政治局委員、楊潔篪が73日付の共産党機関紙、人民日報に「習近平外交思想」を礼賛する論文を発表して明らかした。これを額面通りに受け取ると、中国外交が習氏の「個人的事情」に左右されることも示唆している。来年秋に国家主席3期が決定するまで、米中関係を緊張関係に持ち込み、「国家主席は習氏の続投」という空気醸成に利用することだ。そうなれば、来年2月の北京冬季五輪で、欧米高官がボイコットすることを覚悟し、対決する姿勢を見せても不思議はあるまい。こうして、習氏の「国家主席続投」へ誘導するのだ。

     

    (2)「中国外交部は最近、米国に協力する際は、それがどんな種類の協力であれ、条件を出す可能性を示唆した。一部のアナリストらはこの姿勢について、外交を硬化させるものであり、関係改善の見通しは暗いと言う。米ジャーマン・マーシャル財団のアジア専門家、ボニー・グレーサー氏は、天津ではフォローアップ会合や対話継続の仕組みについて合意がなかったようだと指摘。「米国の同盟国とパートナー諸国は、おそらく不安になるだろう。これらの国々は、米中関係の安定性と予見可能性が高まることを望んでいる」と述べた。グレーサー氏は、米中双方とも、相手国が最初に折れると期待すれば、失望に終わる可能性が高いと付け加えた」

     

    下線部分は、中国が安易に米国と妥協しないという意味だ。米国が譲歩すれば、中国もそれに応じて譲歩するもの。これは、米中間で緊張関係をつくって、習氏の国家主席3選に利用する腹積もりであろう。ただ、米中対立を激化させる方向は避けるであろう。

     


    (4)「外交サークルでは、10月にイタリアで開かれる20カ国・地域(G20)首脳会合の傍らでバイデン大統領と習近平国家主席が会談すると予想する声もある。ホワイトハウスのサキ報道官は、天津では両首脳の会談の見通しは浮上しなかったと説明しながらも、今後ある時点で接触する何らかの機会はあるだろうと述べた」

     

    米中が、G20で何らかの接触をしないのは、余りにも不自然過ぎるだろう。儀礼的でも会談する形をとるとみられる。ただ、中身は期待薄である。

     

    (5)「バイデン政権は当面、中国への対抗措置を拡大しつつ、対中措置に関して同盟諸国との協力を強化していく可能性がある。トランプ政権下で実施された中国製品に対する関税を撤回する意向もほとんど示していない。新型コロナウイルスの起源調査や気候変動問題について、中国の協力が得られる可能性は無いに等しい。アメリカン・エンタープライズ公共政策研究所の客員フェロー、エリック・セイヤーズ氏は「天津で明らかになったのは、外交的関与の価値と役割について、双方の見解が依然かけ離れているということだ」と語った」

     

    下線のように7月時点で、米中がこの冷え切った関係であれば、10月のG20で大きく局面転換する会談があるとは思えない。事務当局の接触もない時点での首脳会談に期待はつなげないのだ。

     


    (5)「戦略国際問題研究所(ワシントン)の中国専門家、スコット・ケネディー氏は、米中ともに協力姿勢を強める余地は今のところ無いと指摘。「双方にとって、簡単に協力できる問題は存在せず、協力するジェスチャーを採れば国内的にも戦略的にも大きなコストを伴うのが実情だ」と説明した。ケネディー氏は「双方が近い将来に共通点を見いだし、関係を安定させることを極力期待してはならない」と述べた

     

    米中双方に、まだ歩みよる必要性がない。米国は対中包囲網づくりの最中である。中国は、これをどのように突破するかという知恵比べだ。互いにまだ「結論」の出ない段階で、歩みよることは非現実的すぎよう。ただ、中国が対立をエスカレートさせる愚を避けるだろう。

    あじさいのたまご
       

    韓国は、来年3月の大統領選挙を前に、与野党は党代表候補者選出の予備選挙を行う。与党「共に民主党」は9月、野党「国民の力」は11月である。目下、与党の予備選挙が始まったところだ。その舌戦を聞くと、人身攻撃に終始しており政策論争抜きである。韓国経済の将来を考えると、そんな無駄なことに時間を使っているゆとりはないはずである。韓国の危機は、こういう面にも現れている。

     

    『ハンギョレ新聞』(7月27日付)は、「イ・ジェミョン知事とイ・ナギョン元首相 大統領選挙で勝てるのか」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙のソン・ハニョン先任記者である。

     

    大統領選挙本選よりも党内予備選挙の方が熾烈なのは当然だ。「他人」に負けるより「味方」に負けることの方が耐え難いものだ。党内選挙で負ければ、「自分が候補にならなかったのだから、もう我が党は大統領選挙で負けるだろう」と思うようになる。神は人間の脳の構造をそのように作ったのだ。

     

    (1)「波乱万丈な予備選挙は多かった。1970年の新民党(注:進歩派)の予備選挙では金大中(キム・デジュン)候補が1次投票で2位となり、その後3位のイ・チョルスン候補の支援を受け、決選投票では金泳三(キム・ヨンサム)候補を制した。2002年の新千年民主党の予備選挙では盧武鉉(ノ・ムヒョン)候補が「光州(クァンジュ)の奇跡」で勝機をつかんだ。焦ったイ・インジェ候補は盧武鉉候補の義父の左翼活動を攻撃したが、「愛する妻を捨てろというのか」と述べた盧武鉉候補の反撃で敗北した

     

    下線部は、「浪花節の世界」である。人情論で相手を打ち負かすとは、「感情8割:理性2割」の韓国らしい風景である。

     

    (2)「2007年のハンナラ党(注:保守派)の党内選挙は、熾烈な競争と潔い承服の伝説となった。初めからそうだったわけではない。10年の間保守政権を取れなかったためか、当時の李明博(イ・ミョンバク)、朴槿惠(パク・クネ)両陣営の参謀たちの表情はハイエナのようだった。党はほぼ真っ二つに割れた。ハンナラ党には熟練の「スピンドクター」たちがいた。彼らは縄張り争いを路線闘争へと昇華させた。李明博候補の手には「実用保守」、朴槿恵候補の手には「正統保守」の旗を握らせた。「2台の機関車論」が生まれた」

     

    保守派の予備選では、人身攻撃を路線闘争に切り変えた。本来ならば、進歩派の取るべき道を保守派が採用している。韓国の進歩派は、世界に通用する革新派ではない。民族主義グループであり、超保守的思考である。だから、人身攻撃をやっていても嫌悪感に陥ることがないのであろう。

     


    (3)「最近、共に民主党の予備選挙がどんどん混乱してきている。「イ・ジェミョン(李在明知事1強」構図から「イ・ジェミョン-イ・ナギョン(李洛淵元首相)2強」構図へと変化したのは良いことだ。党内選挙の結果の不確実性が高まるので、党内選挙の興行効果が高まる可能性がある。だが、その争いはあまりにも幼稚だ。路線闘争は姿を消し、相手候補の人身攻撃に没頭している。今、17年前の盧武鉉大統領弾劾でどちらに投票したのかを問うことに、何の意味があるというのか。慶尚道と全羅道の地域対立を党内予備選挙に利用しようとする意図には、失望するにとどまらず怒りすら感じる」

     

    現在、繰り広げられている与党内の予備選では、李在明知事と李洛淵元首相の二人の争いとなってきた。李在明知事が、17年前の盧武鉉大統領弾劾の際に、反対投票したかしなかったかを聞いて騒ぎを起したもの。この裏には、韓国の伝統的な地域対立を利用しようという策略が潜んでいる。韓国は、宗族社会の流れを今なお引継いでおり、政治対立を煽る「古代」風が吹いている。

     

    (4)「イ・ジェミョン京畿道知事もイ・ナギョン元首相(共に民主党前代表)も、その程度の政治家だったのだろうか。2017年の大統領選候補を選ぶ党内選挙に出馬した、経験に裏打ちされた首都圏の知事の実力はどこに行ったのか。当選5回の国会議員、首相、党代表の能力はどこに行ったのだろうか。イ・サンミン選挙管理委員長は「退行的で自害的」と警告した。本当にそうだ。2007年のハンナラ党よりもはるかに劣る。両者を支持する議員も同様だ。各議員らが激しい争いを繰り広げている。いったい誰が誰の味方なのか当ててみてほしい。政治部の記者たちにもよく分からない」

     

    「朱に交われば赤くなる」で、低レベルの話になれば引き込まれるという適例であろう。李元首相もこういう馬鹿馬鹿しい話に陥ってしまうのだ。韓国のポピュリズムの恐ろしさはここにある。反日問題になれば、一斉に低レベルの話が受ける社会である。高尚な議論は通じないという虚しさが伴う。

     


    (5)「2007年の李明博候補対朴槿惠候補の予備選挙が激烈だったのは、大統領の地位がすぐ目の前にあったからだ。実際にハンナラ党の候補になれば、次の大統領への当選は間違いないと考えるに値する状況だった。今、イ・ジェミョン知事とイ・ナギョン元首相は、共に民主党の候補になりさえすれば、来年の大統領選挙で勝てると考えているようだということが気になる。本当にそうだろうか。世論調査では、文在寅大統領の職務肯定評価が若干上がった。新型コロナウイルス感染症の第4波の効果と見るべきだ。政権維持論よりも政権交代論の方が依然として強い。勘違いしてはならない。予備選挙で勝ったとしよう。その次は一体どうするつもりなのだろうか。大統領選候補は官職ではない。大統領選挙で負ければ何者でもない」

     

    韓国の合計特殊出生率が急減している。世界最低水準の「0.84」(2020年)まで低下しているのだ。この危機的な状況をどのように打開するのか。そういう議論を聞いたことがない。韓国は、反日になると目の色を変える。それより重大なのは、韓国の基盤が崩れ落ちようとしている現実を認識することだ。 

     

     

     

     

    a1180_012431_m
       

    習近平氏は、東京五輪が開催できてほっとしているのでないかと見られている。仮に、東京五輪が開催できなければ、北京冬季五輪も不開催への圧力が高まったであろうと見られるからだ。北京冬季五輪開催で、欧米による政府高官のボイコットが現実化すると、習氏の対外イメージの低下は避けられなくなる。そこで、欧米との対立に手を打てるかが関心を呼んでいる。

     

    『日本経済新聞 電子版』(7月21日付)は、「ニクソン・ショック50年、冬の北京五輪が握る米中の運命」と題する記事を掲載した。筆者は、同紙の中沢克二編集委員である。

     

    国際政治の駆け引きは、早くも2022年2月の北京冬季五輪に移っている。なかでも米中外交の焦点は、北京冬季五輪の閉幕時の情勢である。その日になれば、国家主席の習近平(シー・ジンピン)が意識する偉大な領袖、毛沢東の歴史的決断をどう扱うのかはっきりする。その日とは、北京に降り立った当時の米大統領、ニクソンと、毛沢東が中南海で握手してからちょうど50年となる22年2月21日を指す。この記念日は、北京冬季五輪閉幕の翌日なのだ。

     

    (1)「前哨戦は熾烈(しれつ)を極めている。北京冬季五輪を巡っては、米上院が6月、米政府当局者の出席のための連邦予算支出を禁じる内容を盛り込んだ法案を可決し、米下院議長のペロシは「外交的ボイコット」を各国に呼びかけた。欧州議会も78日、新疆ウイグル自治区の人権問題が検証可能な形で改善されない限り、加盟各国や欧州委員会に政府代表や外交官の招待を断るよう求める決議を採択。続いて英下院が同15日、五輪開閉会式などに政府代表を派遣しないよう政府に求める決議をしている。ソ連に対抗する目的で一致した米中の歴史的な決断から50年。崩壊したソ連を引き継ぐロシアのトップが早々に北京冬季五輪への出席を約束して習近平に貸しを作る構図は興味深い。半世紀を経た中ロの再接近にも注目したい」

     

    50年間で米中ロをめぐる国際情勢は大きく変わった。50年前は、米中が接近してソ連と対抗した。50年後に、中ロが接近して米国と対立する構図である。この三ヶ国の組み合わせが全く変わったのだ。

     

    (2)「外交的な視点からみれば、中国は本来、北京冬季五輪の閉幕とともにやってくるニクソン訪中50年までに、対米関係を何とか安定させたい。現在の米中関係の基礎は72年のニクソン訪中時に発表された共同コミュニケに遡る。歴代の米政権は、中国本土と台湾は不可分だという中国の立場に異を唱えない一方、台湾の安全保障にもしっかり関与する「一つの中国」政策を取ってきた。これが揺らげば米中関係は半世紀前に逆戻りしかねない。兆しはある。最近、連続で米軍の輸送機が台北の空港に着陸している。6月6日には米議員らを乗せたC17輸送機、7月15日にはC146輸送機である。米側が台湾防衛にかつてなく力を入れはじめた目に見える証左だ。そこには武力統一を辞さない姿勢の習近平政権を強くけん制する狙いがある。習自身が7月1日の共産党結党100年の演説で「台湾統一は中国共産党の歴史的な任務」と強調した以上、十分な備えが必要という判断だ」

     

    中国が、50年前の米中蜜月を再現するには、台湾問題の解決が前提である。中国が、仮に台湾統合を断念すれば、米中関係は緩和に向かうだろう。だが、先の習近平氏の演説によれば、それはあり得ない話だ。となれば、米中が50年前に戻ることはあり得ない。

     


    (3)「問題は複雑だ。外交トップの共産党政治局委員、楊潔篪(ヤン・ジエチー)は73日付の共産党機関紙、人民日報に「習近平外交思想」を礼賛する論文を発表。偉大な成果を挙げた中国外交について、習近平が「自ら指揮し、自らの力で自らことをなしている」と説明した。外交の責任者がここまであけすけに語るのは異例だ。それなら、長く続く中国の「戦狼(せんろう)外交」や、3月に米アラスカで米外交トップを前に啖呵(たんか)を切ったのも習自らの指示に従った、という理屈になる」

     

    中国外交は、習近平氏が一人で決めているという。極めて危険である。民族主義者の習氏が、一時的な激昂で「開戦指令」を出せば、中国の運命もそこまでとなる。習氏に、「一人外交」の危機意識のないことが、間違った判断を下すリスクを抱えさせている。

     

    (4)「習近平外交を持ち上げているようにみえて、責任の所在は自分にはないという含みもある」。中国政治を観察してきた関係者の見方である。楊潔篪自身は大方針の執行者にすぎず、最近、米中関係など対外政策が行き詰まっている責任も自分にはない。そんな予防線を張ったようにもみえる。裏を返せば共産党100年でも示された強硬な対外姿勢を修正する重大な決断は、習近平にしかできない。しかし、それは意外に難しい。習とすれば、自らのメンツが潰れるような方向転換は簡単にはできないのだ。22年秋の共産党大会で長期政権をめざすなら、米中関係が一定の範囲で緊張しているほうが有利という場合さえありうる。「この難局を乗り切るには、あなたしかいない」。党内からそんな声が湧き出るようなら一気に勝負は決まる。全ては内政もにらんだ微妙な判断になる

     

    このパラグラフでは、習氏が一人で中国外交を決めているという前提だが、肝心の米国の動きを忘れている。正確に言えば、米中関係の管理は米欧の手に移っている。習近平氏は、その冷戦を「熱戦」にする決定権を握っているのだ。これは、明確に区別すべきである。米欧は、決して開戦の引き金を引かない。ただ、中国には誤った判断で引き金を引く危険性が残っている。それを回避するには、米国と同盟国が一歩も引かない強い態度を取り続けることにある。米欧は、中国に絶対負けないという不敗の体制を構築して見せつけるべきである。


    a1320_000159_m
       


    中国外交が洗練されず泥臭いのは、歴史的な影響を受けている。広大な国土と厖大な人口を抱えて、清国の中期までは世界でも有数の裕福な国であった。この結果、外国との交流を必要としない閉鎖社会を形成した。こうして極端に海外から目を逸らしてきたことで、「お山の大将」的気質をつくったのだ。この後遺症が現在、中国外交を混乱させている。海外から大きな反感を買っている理由である。

     

    『中央日報』(7月26日付)は、「中国の目に韓国は『成金』なのか」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙のユ・サンチョル記者である。

     

    今月14日に中国北京で開かれた出版行事を兼ねたあるセミナーが目を引いた。2つの点においてだ。一つは「中国を困らせれば頭が割れて血を流すことになる」というような、世の中を驚かせる中国指導者の乱暴な言葉がなぜ出てくるのかに対する中国の自己診断だ。もう一つはこのような中国セミナーで、中国がどのように韓国を見ているか、本音が表れた点だ。

     


    (1)「現在、中国で起きている出来事の大部分は習近平中国国家主席と関連がある。今回の行事も習主席が今年5月末、政治局の集団学習で「外宣(対外宣伝)」の重要性を強調したことが契機になった。「国際コミュニケーション業務を強化し、真実かつ立体的であり、全面的な姿の中国を伝えよ」という習主席の要求に合わせ、セミナーは中国がどのように国際社会で談論を主導するかに焦点を合わせた。この中で関心を引いたのはCCGの特別招待研究員である中国国際関係学院の儲殷教授の発表だ」

     

    中国は儒教社会である。年齢の高さと所有財産の多さが、社会における発言権を保証する。こういう上下関係の社会では、平等を旨とする市民社会に必携のコミュニケーション能力を必要としない。現在の中国外交の混乱の原因はここにある。上下関係の中国社会に、言論・人権弾圧の共産主義が根を張っている以上、コミュニケーションの成立は絶望的である。

     

    (2)「儲氏は現在、中国の国際的なコミュニケーション方法が「外宣的内宣化(対外宣伝の対内宣伝化)」という奇怪な現象を生んでいると指摘した。外国に対して行うべき宣伝が中国国内用に書かれているということだ。これによって3つの問題が発生した。第一は宣伝対象の混乱だ。対外宣伝のターゲットは外国人だ。ところが最近、中国の外交官や学者、専門家の言葉はいったい誰に対して発せられているのか分からないということだ。さらに外交舞台で話す言葉も、これが外国人に対するものなのか分かりにくいという指摘だ」

     

    戦狼外交が典型的な混乱ぶりを示している。国内向けに強気発言をしているのに、それが間違って海外に向けられているのだ。国内に対する虚勢が海外へ向けられれば、海外から「中国が何を吠えているのか」と、反感と軽蔑を受けるのは当然である。

     


    (3)「第二は、このように対外宣伝の対象が外国人でなく国内中国人に対するものになっていて、その表現が洗練化されずにアマチュア的に流れている。中国共産党創党100周年を記念する席で、習主席が述べた「頭が割れて血が流れる」などの激しい表現がそのようなケースと見られる。全世界の人々が注目する行事なのに、友人の間でしか使わないような言葉が出てきてしまった。第三はインターネットの発達により1人メディア時代が到来し、対外宣伝がポピュリズムの影響を受け始めたということだ。クリック数を高めようとすれば表現がますます刺激的に変わっていくということだ」

     

    下線部分の「対外宣伝がポピュリズムの影響を受け始めた」のは、国内に向けた諜報宣伝が、海外へ向けられているという矛楯に起因する。こうなれば、ポピュリズムの傾向を強めるはずだ。この弊害は、海外の大使館でも共通している。任地の大使館が、当該国の政治を批判するという国連条約に違反した行為をさせているのだ。これは、内政干渉として忌避されているもの。私が、中国外交について「田舎外交」を称するのは、こういう背景があるからだ。

     

    (4)「中国は、どのように対外宣伝の効果を高めるだろうか。儲氏は「中国外交官の外国語能力は向上したが話をする能力や共感を引き出す能力は退歩し、中国の国際的なイメージが墜落した」と指摘する。儲氏は国際社会で反中勢力を説得することはできないという。代わりに中国と反中勢力が舌戦を繰り広げるとき、これを見る第三者に中国の立場が説得力を持って伝われば、中国が勝つ道だという。第三者の共感はどのように引き出すのだろうか。儲氏は自分の気持ちを一旦横に置き、相手の立場を慮る方法を使おうと主張する

     

    外交官に必要なことは、人間性を磨くことである。その意味で、中国の王毅外相は最も不適格な人物と見る。傲慢そのもので「歩く共産主義宣伝マン」に映るのだ。周恩来(元首相)をひな形にすれば、王外相は足元にも及ばない。



    (5)「儲氏は、一つの例を使った。「あるエジプト人が民族の誇りを声高に語るなら、私は受け入れることができる。なぜならエジプトは非常に落伍しているため、大声を張り上げること以外にすることがないため」という。「しかし韓国人が自国を誇張するのは受け入れ難い。韓国人がエジプト人よりもホラ吹きだからではない」という。儲氏は、「なぜエジプト人のホラは受け入れることができて、韓国人のホラは受け入れ難いか」について「韓国人はお金がある。裕福になり始めて数年も経っていない。彼らがホラを吹くのを聞くと、『成金』を見ているようだ」という。「だから反感を持つ」というのだ」

     

    中国でも成金を嫌うとは、初めて聞くことである。中国人自身が、成金趣味に陥っているからだ。中国人は無意識のうちに、「歴史・国土・人口」を鼻にかけて傲慢な姿勢を見せている。南シナ海の窃取はその典型例だ。こういう中国政府が、海外からすんなりと受入れられるはずがない。ましてや、中国人の海外での言動は一層のチェックを受けるだろう。

     

    何ごとも、孔子の説くように振る舞うことである。頭を低くしていれば、自ずと周辺が中国を尊敬するようになる。「俺が、俺が」という我を張る姿は、中国への反感を強めるだけであろう。軍事力拡大への暴走が、中国包囲網をつくらせているのだ。

     

     



    a0960_008567_m
       

    気位だけは人一倍高い韓国が今、大統領選の候補者間で互いに足の引っ張り合いを行っている。肝心の韓国経済は、合計特殊出生率の急減で世界一の低レベルに落込んでいる。こういう危機的な状態にもかかわらず、互いに過去を穿り返して泥水の掛け合いをやって喜々としているのだ。

     

    日本から見た韓国は、危なっかしい存在に映る。反日をやる一方で、日本に対して「ホワイト国」(輸出手続き優遇)への復帰を求めるという甘えを見せている。反日をやるならば一切、日本へ頼らないという決意を見せるのでなく、「困った時は助けてね」と日本依存を断ち切れないのだ。そうであるならば、過去の解決済み問題を穿り返さずに、未来志向で対処すべきである。それができず、絶えず過去問題で対立する。大統領選でも同じことを繰返している。

     


    『中央日報』(7月26日付)は、「水準以下の大統領候補を審判する未来世代の反乱」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙の李夏慶(イ・ハギョン)主筆兼副社長である。

     

    (1)「最近の若者は地獄のような就職の関門を通過した後、住宅費に挫折する。このため恋愛と結婚を恐れる。昨年の合計特殊出生率は世界最低の0.84だ。ピーターソン国際経済研究所は、「生産人口の減少が韓国経済に新型コロナの余波より大きな衝撃を与えるかもしれない」という見方を示した」

     

    韓国の最大の危機は、合計特殊出生率の急減による生産年齢人口比率の低下である。韓国は、確実に「亡国」の淵を歩いている。だが、その危機感はゼロ。過去に拘り「反日」に勢を出している。はっきり言えば正気の沙汰でない。将来、日本を一番頼る先にするはず。それが、見通せない国である。

     


    (2)「与野党の有力大統領候補は「今とは違う未来」を築くことに関心がない。「過去」は泥仕合をするのに慣れた舞台であり、票があふれるところだからだ。与党では李在明(イ・ジェミョン)京畿道(キョンギド)知事が突然「2004年に盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領が国会で弾劾される当時、李洛淵(イ・ナギョン)前代表は賛成した」と攻撃した。李前代表は「反対票を投じた」と反論した。すると丁世均(チョン・セギュン)前首相は「私は弾劾を防ぐために議長の席を守った」と述べた。17年前の政治状況は今とは完全に違う。今になって誰が誰を「裏切り者」と審判しているのか」

     

    現在、進行中の大統領予備選では、醜い泥水の掛け合いをしている。もっとましな議論はできないのか。低級である。



    (3)「文在寅(ムン・ジェイン)大統領の「腹心」の金慶洙(キム・ギョンス)慶尚南道(キョンサンナムド)知事が4年前の「ドルイドキング書き込み世論操作」事件に関して大法院(最高裁)で有罪判決を受けた。世論操作は公論の場を崩壊させ、選挙の過程では民主主義システムをかく乱する犯罪だ。しかし文大統領は謝罪せず、与党走者は金知事をかばった。「真実はついに探せなくなった」(李在明知事側)、「不法方式を動員する理由も意思も全くなかった選挙」(李洛淵前代表)、「証拠優先主義の法の原則に背く」(丁世均前首相)と言った。自己省察と批判を利敵行為と見なして敵にすべての責任を転嫁する「包囲された要塞」症候群にとらわれている。常識と理性が拒否されたところに未来は開かれない」

     

    文大統領最側近の実刑判決は、与党へ厳しい反省を迫っているが「上の空」である。他人事なのだ。およそ反省のない国民性なのだろう。

     


    (4)「野党の有力候補も未来に向けたメッセージを発信しない。ただ文政権の「過去」を叩いている。支持率トップの尹錫悦(ユン・ソクヨル)前検察総長は、大邱(テグ)で朴槿恵(パク・クネ)前大統領の捜査について「申し訳ない点もなくはない」と述べた。野党支持層の反文情緒を意識した。「弾劾は正当だった」と述べた李俊錫(イ・ジュンソク)国民の力代表が困惑した。李代表は「弾劾の川に入ろうという趣旨の発言」と批判した。過去に留まる時間が長いほど未来は遠ざかる」

     

    野党側も褒められた動きでない。「目糞鼻くそ」の類いのレベルである。いよいよ以て、韓国経済の将来に関して絶望的にならざるを得ない。



    (5)「年金改革をせずに、このまま2057年を迎えれば、年金制度を破産させる。また、所得の30%を年金維持用税金として納めなければならない。国民が負担する総税金が60%へ増える。ユン・ソクミョン韓国年金学会長は「国が滅びる」と述べた。盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領は2007年、「年金を少なく受ける構造」に国民年金を改革した。朴槿恵(パク・クネ)前大統領は2015年に「雪だるま」式赤字となる公務員年金を「より多く出してより少なく受ける構造」に改革した。半面、文大統領は「より多く与える」という時代逆行の公約をした。歴史は誰が共同体の未来を守ろうと努力したかを評価するだろう」

    韓国の年金改革は待ったなしである。だが、文政権にその気持ちはない。年金改革をせずに、このまま2057年になれば年金制度が破産する。あと36年先である。今の30代が退職年齢になるとき苦境を迎える。今の無責任政権は、これ以上続けさせてはならないが、さてどうなるのか。



    (6)「金大中元大統領は41年前に死刑宣告を受けた後、監獄でアルビン・トフラーの『第三の波』を読んで情報化を構想した。執権後に韓国をインターネット普及率世界1位の情報化強国にした。恥ずかしくはないのか。次期大統領候補らはうんざりする泥仕合をやめて、各自が準備した共同体の未来を開くことを望む。

    金大中氏には、強い信仰心があった。大統領になったとき、自分を過去に暗殺しようとした勢力に報復することはなかった。文大統領は、これと反対に保守派を根こそぎ退治すべく「親日勢力排除」を実施した。同じ進歩派でも金大中氏と文在寅氏では、人間の器がこれだけ違うのだ。

     

     

    このページのトップヘ